狂花の実たち 1
刻限 1
「ムウ・ラ・フラガ、覚悟!!」
開け放たれた扉から、ハウメア神殿直属の兵士達が、抜き身の剣を携え押し寄せてくる。
結婚式をあげたばかりの夜、初床を共にするために夜着に着替えたムウは当然丸腰で、彼は咄嗟に花嫁となった主君の姫君を背に庇った。
「うわっ、来るなバカ!! 風精、あいつら飛ばして!!」
キラは咄嗟に、両手を掲げて風の精霊たちを呼んだ。寝室の入り口で、小さな竜巻が兵をなぎ倒し、次々と気絶させていく。
「さあムウ!! 今のうちに逃げるよ!!」
キラは、花婿の腕を引っつかみ、ベッドから飛び降りるつもりだった。なのに、肝心の婿は即座にキラの手を振り払い、逆にキラの襟首を引っつかみ、手繰り寄せる。
「おい、お前は誰だ?」
「はぁ?」
「だからお前、カガリ様の雇われ魔術師か何かか? まぁ、どうでもいいけれどさぁ。傷つくじゃねーか、花嫁が替え玉で、挙句に、殺されそうになった俺としちゃ、さ」
ムウは、呆れ混じりの顔で、まじまじと自分を見下ろしている。
キラは、風にたなびき、舞っている自分の髪を眺めた。何時の間にか輝く金色だった長い髪は、明るいチョコレート色のしっとりとした癖の無いものに変わっている。
(うわっ、やっばい!!)
キラは思わずぺちぺちと頬を叩いた。髪だけなんてありえないから、きっと顔も自分の本来のものに変化しているだろう。
「で、俺はどうなるわけ? このまま始末か?」
ムウはキラの両肩をがしっと掴み、がくがくにゆさぶり始めた。
「ちょっと待ってよムウ!! 貴方、今の状況がわかっているんですか!!」
敵は、二人が仲間割れしてると思い、これを好機とばかりに、次々気絶した仲間を踏みつけて迫って来ているというのに!!
「だってさ、お前もグルなんだろ?」
「違います。僕は貴方達を助けに来たんです。カガリ姫と貴方が殺されそうになってたのを見てて……、守護竜の指示で……」
途端、ムウは血相を変え、無謀にもキラをベットに残して飛び出した。
「カガリ様!! カガリ様は何処だ? 何処にいらっしゃる!?」
「危ない!!駄目!!」
キラの叫び声は間に合わず、兵士の長槍が、深々とムウの左肩を貫いた。
「もう、何をやってんですか貴方は!! 風精!! ムウを守って、他を切り裂け!!」
キラの怒声に同調し、目に見えぬ精霊が、無数の刃となって兵士達に襲い掛かる。焼いた煉瓦造りの城の床は、彼らの手により粉々に粉砕され、多数の兵士を巻き込んで階下に落ちていった。
部屋の入り口に、巨大な穴ができてしまった以上、この部屋に入るには、長いはしごか渡り板を架けるしかない。神殿の兵士達は、足場を確保できるものを探して大騒動だ。
その隙に、キラはムウを抱き起こして、彼の肩から槍を引きぬいた。
「水精、ムウの血を止めて。風精、担ぐよ」
血止めの呪文を唱え、風の力を助けに、ムウの重い体を肩に担いだ。
(カガリ姫の部屋には……確か……)
アスランの水鏡で見た時のままなら、衣装部屋の奥に抜け口があった筈だ。キラは、うろ覚えの記憶を頼りに、吊るしてある色とりどりのドレスを掻き分け、奥へと進む。
果たして、煉瓦作りの壁に混じり、ムウの背と同じ高さの鉄の扉があった。
錆びついた鉄扉をこじ開けるのは、土精の力を借りた。
ムウを担いで中に入った途端、淀んだかび臭い匂いが鼻についたが、この際贅沢は言っていられない。
「土精、扉を縛して」
キラが命じると、涼やかな金属音が鳴り、鉄扉に封印がしっかりとかかった。
「凄いな、お嬢ちゃん」
「当たり前です。竜は、地水風火全ての精霊を使役できる神獣なんですよ」
キラはそんな竜の加護を一身に受けている。だから、精霊達はキラのお願いを快く聞いてくれるのだ。
扉が開かない事を確認した後、彼女は小指の爪ぐらいの、小さな光を召還した。
暗い石造りの通路にも、困らない程度の薄暗い明かりが灯る。
でも、先は真っ暗で、何も見えない。
(うっうっ……酷い湿気!!)
でも、もう後戻りはできない。ムウを逃がす為、彼女はひたすら進むしかない。
ムウの重たい体を肩に担ぎながら、キラは必死で緩やかな階段を駆け上がる。
(どうしてこんなことになったんだろう?)
自問自答しても、答えは解りきっている。
キラをこんな窮地に追い込んだのは、全てアスランのせいだった。
「アスラぁぁン〜!帰ったら、覚えてろぉぉぉぉ!」
あの馬鹿竜!!
(誓って、青銀の鱗を毟り取ってやるぅぅぅ!!)
06.03.14
5年前、別ジャンルで書いたお話を、月猫がSEEDキャラで打ち直してくれました( ̄ ̄▽ ̄ ̄) ニコッ
でも、古いお話だけあって、文章が変だったので、随分と変えました。
更新が途絶えた時に、ちょっとずつUPしていきますね。
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