大・迷・惑!! 1
シンは、エレカなのにゆさゆさとゆさぶられ、ともすると転がっていきそうな己の体をしっかりとシートベルトで固定した。
「シン、レイ、早く投げて!!」
運転に必死のキラが、後部座席の二人に布製ナップサックを放って寄越す。
シンは慌てて腕を伸ばしたが、体にベルトを巻きつけたことが裏目に出た。手が届かず受け止め損ねてさかさまになった袋は口が開いていたらしい。
足元に勢いよく転がってきたのは、大量の野球ボールサイズの手榴弾だ。シンは一つを手にとって、まじまじと瞠目した。
オモチャではなく本物だった。
自分の養母は、これを本当に投げろといっているのだろうか?
姉と慕っているキラの言葉に反論一つせず、黙々と従うレイは人間として間違っているのではないかと思う。自分が親友と認めた男でこれならば、もしかして自分の周りにはまともな奴はいないかもしれない。
レイのおかげで窓の外は景気のよい爆発音が次々と挙がっている。彼の横で、一つ目の手榴弾のピンを口に咥えつつ、やはり投げるのを躊躇い固まったシンの、眦に熱いものがこみ上げてきた。
(父さん……、母さん……、マユ……、なんで俺を残して逝った?)
キラが乱暴に運転するエレカの真後ろには、手榴弾ごときの攻撃などびくともせず、ガンダニウム合金製の黒塗り高級エレカが、ぴっちり後を追いかけてくる。
防弾ガラスの運転席には、肩できっちりと揃えた銀髪おかっぱを振り乱し、般若と化した養父イザークの姿があった。
「きぃぃぃぃさぁぁぁぁまぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
怖い。怖すぎる!!
捕まったら、何をされるかわからない!!
(俺、キラママもイザークさんも好きだけれど……、たまに、まともな家の養子になりたかったと思う……)
☆☆☆
士官学校の、歴代トップ5は以下の通りである。
筆頭は、ザフト伝説のエースと化したアスラン・ザラ。続いてヤキンの英雄イザーク・ジュール、その副官ディアッカ・エルスマン、故ニコル・アマルフィー、故ラスティ・マッケンジー。
終戦から約一年、ザフトレッドの質が落ちたといわれる昨今、このトップ5の記録を抜ける者はいまだ存在しない。
「実に嘆かわしいことだ」
イザークは己の隊に入る新人赤服の成績表に目を通し愁眉している。その対面の席についたシンは、養父の独り言をさっくり無視し、すきっ腹を抱えながら、レイと一緒にキラ特製の≪ちらし寿司≫を前に、じりじりと最後の客…ミリアリアとディアッカを待っていた。
約束の時間は12時だが、現在既に30分遅刻である。
(おせぇ……)
先日ザフトに復隊し、即日ジュール隊を任されることになったイザークは、その日から殆ど旗艦ヴォルテールで寝起きして、滅多に家に帰ってこない。
キラもOS構築とプログラミングの才能を買われ、『ジュール博士』としてザフトに技術協力しており、やはり多忙だ。
シンは士官学校の生徒なので、普段はディセンベル市の寮生活である。
よって、今日のような日曜日、家族全員の休みが合い、アプリリウス市のマンションに集合するなど、シンが養子に来て初めてのことだった。
「あまりにも嬉しかったから、プチパーティね♪」
三人それぞれの一番の親友を呼び、昼食会をやろう♪とはしゃいで提案するのがキラらしい。彼女は特殊な事情から、こういったなんでもない日常でも、まるで記念日のように喜ぶのだ。
そして、言い出しただけあり、キラははりきって料理したのだろう。
8人は余裕で座れる大きなテーブルの上には、所狭しと料理が並べられている。料理を全く作らないシンが、ざっと名前のわかるものだけでも凄い。
手の込んだちらし寿司に、新鮮なさしみの盛り合わせ、茶碗豆腐、お茶入りの冷たい手打ちそば、自家製の塩辛や漬物、もずくの酢の物などの箸休めに、さりげなく二重餅で作ったうさぎ型のつぶあん入り和菓子、淡雪寒天、栗きんとんもなかもある。
プラントでは殆ど見ることのなく、またオーブでも滅多に並ばない和風の民族料理は、シンにとって懐かしい味であり、イザークにとっても本でしか読んだことの無い珍しいものである筈だった。
キラの家庭料理をじっくり味わって食べたいが、シン達学生が自由に寮から外出を許される週末でも門限は夕方5時なので、最悪3時にはここのアプリリウス市をシャトルで発たねばならない。
(うううう、俺にはあんまり時間がないっつーのに!!)
エプロン姿のキラが、携帯電話片手にひょっこりと帰ってきた。
「あ、今ミリアリアから連絡あって、ディアッカと二人、ちょっと遅れるから先に食べててって♪」
「だぁぁぁ、早く言えよ!!」
日頃美味しくない寮の食事を食べている育ち盛りの少年にとって、おあずけ30分は長い拷問だ。
シンは嬉々として小皿に大きくちらし寿司を盛ると、猛然と口に頬張りだした。
ふわふわの錦糸玉子と醤油がかったほかほかご飯が口に広がる。
懐かしいオーブの風味に、シンの目が細くなった。
「美味いvv キラママ最高vv」
「えへv 沢山食べてねシン♪」
褒められたキラはご満悦だ。
「レイ、君お箸は使える?」
「ああ。ありがとう、キラ」
キラが気を利かせてフォークとナイフを持ってきたが、それをやんわり辞退したレイは、シンよりも綺麗な箸使いで、マグロの刺身を器用につまんだ。
「うっ、レイ、お前いつ習ったんだ?」
これだけは勝てると信じていただけに、結構ショックである。
「ギルは美食家だからな。それよりもキラ、ミリアリアさんとディアッカさん、何かあったのか?」
「うん。あのね、僕が開発している人工知能(AI)を高級エレカに搭載してみたんだ。今度、最高評議会議員専用カー選びのプレゼンがあって、出すことを決めたの。で、僕、この昼食会の後、そのエレカの最終チェックする予定だったからミリィに乗ってきて貰ったんだけれど……、思わぬ渋滞で、AIがパニック起こして止まっちゃったんだって」
「キラママ、迎えに行かなくていいの?」
「うん、ディアッカがいるから。どうせOS再起動は30分とかからないし、彼女もプチデートを邪魔するなって笑ってた♪ いい友達でしょ♪」
それはキラに、久々の家族と過ごせる時間を削る真似はさせないとする、ミリアリアの配慮だろう。勿論キラだって二人があんまり遅くなったら迎えにいくだろうが、ミリアリアの好意を無にする気はないらしい。
「さあ、食べて食べて♪ って、イザーク、何やってるの?」
「見てわからんか? 部下の把握は上司の務めだ。全く、こんな奴らでは、使い物になるまでしごくのは大変だぞ」
途端、キラのほっぺはハムスターの頬袋並みに大きく膨らんだ。
キラにとって、おそらく一番食べて欲しかった人物はイザークだろう。
なのに彼は、キラにもシンにもレイにもずっと無視されたことですっかりとへそを曲げてしまったらしい。これ見よがしに新入隊員の履歴書とにらめっこし、食事のことをすっかりと忘れてしまったふりをしている。
他人の気持ちにあまり敏感でないシンにだって、素直なキラの機嫌が急降下していることぐらいピンときた。
(イザークさん、子供っぽく無視し返してないで、早く食べてやれよ〜)
きっと、シンとは違いプラント出身であるイザークには、キラがどれほど苦労してこの食材をかき集め、料理したかなどはわからないのだろう。
彼女はむすっと口元を引き結び、皆の取り皿の横にすまし汁を置き終わると、イザークの手からやんわりと書類を取り上げる。
「おい、キラ!!」
「もう戦争のない時代を目指していくんだから。軍備はどんどん縮小していくんでしょ? 士官学校の生徒が、全体的に成績が下落したのはきっと、がむしゃらに戦いの技術を学ぶ必要はなくなったってことだよ」
何でも良い方に考えようとする養母と裏腹に、養父イザークはますます口を尖らせた。
「だがこの程度で赤服だぞ!! 見るがいい、爆弾処理がB+。射撃A-。俺達の頃なら、ベスト20にも入れるものか」
口調とは裏腹に、やっと話を聞いてもらえて養父は嬉々としだす。だが、キラの反応はイザークに同調するものではない。
「平和になった証拠だね♪ ね、シン、レイ♪」
キラはぽしぽしと二人の頭を撫でた。
「僕、シンやレイを戦場に送りたくないもん。このままずっと、こんな生活が続くといいね♪……」
これが別の奴なら子供扱いするなと怒鳴っている所だが、キラママだと素直に嬉しいから不思議だ。
キラの優しい手にうっとりと目を細めていると、イザークが睨んでいた。
自分がキラにとって一番でないと気がすまない、その気持ちはわかるけれど……。
(俺に嫉妬しても仕方ないだろが!!)
養父はようやく作戦を変更したらしい。
これみよがしに料理を数点口に放り込んだ後、「ふん、まあまあ旨いぞ」と、天邪鬼なコメントを吐き、後は無言でガツガツ食べだした。
現金なもので、イザークの旺盛な食欲を見て、キラの顔はみるみる輝きだす。
となるとシンも、養父に食い負けじと箸を握り、あっちこっちの皿をつつく。
しばらくはそんな感じでほのぼのとした時間を過ごすことができたのだけれど、爆弾は、思わぬ時に破裂するものだ。
そのきっかけは、キラだった。
「あ、そうだ。ねぇ二人とも、来月の14日って暇? 」
「ふご?」
シンは、口に詰まった食べ物を飲み込もうと、あわてて緑茶をすすった。
「僕とイザ、お休みなんだvv お弁当頑張るから、皆でピクニック行かない? 」
キラは期待でわくわくしている。もし、彼女に尻尾があったのなら、ちぎれんばかりにふりたくっているだろう。
「僕さ、今まで一回も家族でピクニックしたことないの。満開の桜の木の下で、ピクニックシート敷いて、まったりと日なたぼっこして……、鳩やリスとかうさぎに餌なんかやったりして、えへへへ♪ 馬とか鹿、牛とか熊とかと遊んで…、そうそう、僕、パンダとじゃれたいvv」
鳩、リス、うさぎや馬ならともかく、
鹿? 牛?? 熊??
ぱんだぁ!?
「ピクニックにパンダは無理だろ、いくらなんでも夢見すぎ……」
そうシンが一般常識を言っている端から、
「ふむ、二週間あれば大丈夫か」
「ええ、もし問題があるようでしたら、ギルにお願いしてみます。あれでも今は一応プラント最高権力者ですから、何とかなるでしょう」
「それは頼もしい。なんせ俺の市には子パンダがいなくてな」
「大人ではまずいのですか?」
「生後1年でも体重が30キロある。でかすぎると、どんくさいキラが潰される」
「なるほど。調達をお願いしてみましょう」
(ちょっと待て、このキラ馬鹿ども)
キラの喜ぶ顔を見る為なら、それこそ大型動物園を丸ごと貸切りにして、放し飼いでもやりそうなイザークとレイが、早速自分の携帯電話を取り出している。
「ただ、俺は構わないのですが、シンがちょっと……」
「?」
レイがじっと自分を見ている。
物を言いたげな彼の視線に、シンは首を傾げた。
「覚えてないのか?」
「何が?」
「……お前、留年が、かかっているだろ……」
「ゲッ!!」
嫌なことを思い出し、シンはたらりと冷や汗を流した。
何もわかっていないキラはこっくり首を傾げ、何かを察した養父の目が眇められる。
(このタイミングで俺、暴露するのかよ!!)
イザークが怖い。怖いが笑ってごまかせる相手ではない。
シンはこくりと息を呑んだ。
逃げていても物事は何も解決しない。それにどうせ後でばれるのだ。だったら今ここで自首した方が、きっと罪は軽くなる。
彼は意を決して、ぎゅっと目を瞑った。
「……スイマセン。俺、その日、射撃が追試です………」
「なんだと貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
途端、室内は氷点下のブリザードが吹き荒れた。
06.01.13
ごめん〜グスグス (><。)。。後半は明日〜vv
06.02.05 ちょっと書き直し( ̄― ̄)θ☆( ++)
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