大・迷・惑!! 2
射撃は苦手ではない。寧ろ得意科目だ。
もし後一ポイント獲得できていればよかったのに、成績は無情にもD-(ディーマイナス)。
ギリギリで追試を喰らい、自分でも無茶苦茶悔しかっただけに、尊敬する養父の言葉がずくずく胸に突き刺さる。
「追試だと!! 貴様一体何をやっていたぁ!!」
ぐっと胸倉を捕まれ、椅子から引きずりおろされて引きずられる。テーブルから離れたのは養父もキラに遠慮したためなのだろうが、振り上げられたイザークの拳は、確実に自分の顔を狙っている。その腕にコアラのごとく、必死の形相で追いかけてきたキラがしがみついた。
「ちょっと、乱暴は止めて!!」
「どけっ、キラ!!」
「いいじゃん、追試ぐらい。次頑張れば」
「馬鹿者!! 戦場で撃たれたら死ぬ。なのに貴様は死人に次頑張ればいいなど、言えるのか!!」
(試験に落ちたぐらいじゃ死なないと思うんデスガ……)
シンは激しく突っ込みたかったが、これ以上養父の理性がブッチ切れ、キラを間違って殴ってしまったら大変なので、ぐっと我慢する。
「もう、なんでイザークはそう極端なの〜〜〜。シンは学んでいる最中の学生なんだから、今はどんな成績でもいいの」
「よくない!! 貴様は甘すぎる!!」
自分をネタに喧嘩を始める二人の姿に、シンは唖然とした。
いつも冷静な親友に目で助けを求めるが、レイは一人食卓についたまま、黙々とキラお手製の茶碗蒸しを食べている。
(こいつ、使えねぇ)
「いいかシン、そんな成績はジュール家の恥だ。追試など受ける必要はない。とっとと学校など辞めてしまえ」
「イザーク!!」
流石にシンの顔からザッと血の気が引く。
士官学校に入学したからこそ、施行された養子縁組法の適用を受け、シンはジュール家に迎え入れられたのだ。
なのにザフトの軍人にもならず、ましてや仕官学校を辞めるならば、養子縁組は解消される。
つまり、シンは再び手に入れることができた家族をまた失うのだ。
「……あんたは俺に、この家から出て行けって?……」
発した途端、視界が絶望に真っ暗に染まり、体ががくがくに震えてきた。喉がひりつき言葉もうまく紡げない。
キラが首をぶんぶん横に振りながら、シンに抱きついてくる。
「違うって。誰も僕たちの大切な息子をこの家から追い出そうなんて思ってないよ。イザークは口が悪いんだ。君にハッパをかけるつもりで、自爆しちゃったの」
ぎゅっと胸に抱きしめられ、髪もぐちゃぐちゃに掻き撫でられる。
「ごめんねごめんねシン。傷つけちゃってごめん!!」
【家族を失う】こと。これが今のシンにとって、最大のNGワードだ。
オノゴロで家族を殺され、ただ一人生き残ってしまった彼は、オーブを恨むことで自我の崩壊を食い止めていた。
そんな彼の心は荒みきっており、自分の気に入らないものには噛み付き、邪魔をするものには腕にものを言わせ力づくで排除してきた。
軍人に心の脆さは危険だ。将来赤を纏える可能性のある彼に対し、カウンセラーは、保護法によって家族を与え、彼の精神の安定を求めたのだ。そして彼のために選び出された居場所は、たった三つ年上の父親と、二つ年上の母親だった。
勿論シンの性格上反発したし、逆らったし、家に近寄らなかったし、イザークとキラに力づくで拉致られれば逃げ出した。
彼は何度も何度も普通なら愛想を付かされる悪さを仕掛け、二人に見捨てられる真似ばかりしてきたのに、二人はちゃんとシンの葛藤を知り、いつも体をはってぶつかってきた。
―――僕達は君の親になるって決めたんだ。だから、君がどんなに悪いことしたって、犯罪者になったって、人殺しになったって、世界中の誰もが君を見離したって、僕達だけは君を見捨てない―――――
軍から押し付けられたお荷物ではなく、大切な家族として自分を迎え入れたのだと……口先だけだと思ったから試したのに、二人は絶対にシンを裏切らなかった。今後も自分を裏切らないかも知れない。そう納得できたから、シンはイザークとキラを親と認めた。
そうやって信じたイザークに、また捨てられるのかもと思ったから、シンの体は恐怖に身が竦んだのだ。
「イザーク、シンに謝れ」
「なっ!!」
自分を抱きしめたまま、養父を睨み付けるキラの眼光は冷たかった。いつも優しくほえほえとした紫水晶の瞳が、ナイフのように尖っている。
「シンの事情も聞かずに一方的に怒鳴った挙句、この子に誤解させて傷つけた。謝れ」
切れたキラは絶対に自分の意志を曲げない。彼女もイザークに負けず劣らぬ頑固者だ。
今度はイザークが屈辱でガタガタ全身を振るわせている。
「何故俺がこいつに謝らねばならない?」
「君は父親だ。子供の信頼を傷つけてごまかせると思うな。口先だけでなく、心の底から謝罪しろ」
「だが、そもそもこいつが追試なんか受けるというから……」
「誰だって受けたくて受ける訳ないじゃん。シンの理由も聞かずにいきなり怒鳴り散らして。シンだって一人の人間なんだから、いくら我が子でも、イザークの考えを押し付けるのはどうかと思うよ」
「試験前日、彼はヨウラン達と校庭でストリート・バスケットをして突き指したのですが、実は骨折で……、彼は無謀にも知らずに痛みを堪えて銃を握りました」
遠くから今更なレイの援護が入る。
「ほら、ちゃんと理由があった」
「言い訳などいらん。いいか、戦場では命取りだと言っただろう。殺されたら申し開きはできないんだ馬鹿者が!!」
「イザーク!!」
ばっとシンから離れると、彼女はシンの手を取りほっぺをぷっくり膨らませ、スタスタ棚に向かい、エレカの鍵をポケットに入れた。
いそいそ春用コートを着込みだした彼女に、イザークの表情がますます不機嫌になる。
「おい、何処に行く?」
「おこりんぼの居ない所」
「まだ話は終わってない………」
「へぇ話? 今のが話? 僕、話って会話のキャッチボールだと思っていたけれど、やっぱり君は違うんだね」
キラは棚に置いてあった写真立てを一つ掴むと、イザークに向かってぽんと放り投げた。
「君の一方的な独りよがりを、怒鳴り散らされて聞かされる僕達が不愉快だ。どうせ人の意見なんて聞く気ないのなら、写真で十分足りるよね。一人で好きなだけ遊んでろ。行くよ、シン、レイ!!」
「ハイ」
「っておい、ちょっと!!」
いつの間にかコートを着込んでいた親友にも反対側の手を取られ、シンはキラとレイに挟まれたまま、問答無用でマンションの外へつれ出される。
「キラ!!」
慌てて追いかけてきたイザークは哀れ……、キラ自らの手により鼻先でぴしゃりとドアを閉められた。
養母はそのまま手提げ鞄から電子手帳サイズのパソコンを取り出し、ドアの電子ロックにアクセスした。
そして、流れるような手さばきで、怪しいトラップを次々と仕掛けだす。
流石のシンも、段々と心配になってきた。
「キラママ、いいの?」
「ふん。折角のホームパーティ、邪魔したイザが悪い」
(……そりゃ、怒り出したのはイザークさんが先だけれど……、後怖くねーか?)
分厚い金属の扉の向こう側から、イザークの喚き散らしている声と扉を蹴りたくっている音が鳴り響くが、キラのトラップが簡単に解ける筈もない。
だが、そんなイザークを残し、キラはやっぱりシンの手を握ったまま、スタスタとマンションの地下駐車場へ向かった。
自分が喧嘩の原因になった訳だし、シンはほんのちょっぴり罪悪感をイザークに感じてしまう。
「さぁ、仕切りなおししよ。また君達とは当分会えないんだし、僕奢るから。この前ミリィと見つけたオーブっぽい寿司バーがあるの。そこで食べよう♪」
「キラ、ミリアリアさんとディアッカさんはどうする? 二人とも、キラのAI車でこちらに向かっているのだろう?」
「あ、そうだね。ありがとレイ」
キラは鞄を開け、青色の携帯を取り出した。
イザークの愛機と同じ色に、わざわざペイントを施しているところがキラらしい。
「あ、ミリィ。今何処?」
≪もう直ぐ着くわよ。もうお腹ぺこぺこ♪≫
「あは、沢山食べてね。それから悪いんだけれど、イザ任せていい?」
≪え、何かあった?≫
「うん、ちょっと喧嘩して…今部屋にイザを閉じ込めてきちゃった」
≪……了解♪ 宥めておくから、4時までに帰ってきて♪……≫
「ハーイ♪ 感謝v ミリィvvv」
電話口の向こうで、にっこり笑っているミリアリアの姿が目に浮かぶ。
信頼しているキラには悪いが、委任された彼女がイザークに対し、まっとうなフォローをするとはとても思えない。となると、切れたイザークに、煽るミリアリアのなだめ役は、きっとあの人だろう。
(……悲惨だ、ディアッカさん……)
そして、シン達がキラに促され、彼女の愛車に乗り込んだ時だった。
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
破壊された扉が吹っ飛び、凄まじい振動で建物が揺れた後。
「きぃぃぃらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
地獄の底から搾り出すような、養父の怒声が響き渡った。
06.01.14
おかしい。終わらない( ̄― ̄)θ☆( ++)
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