大・迷・惑!! 3





養父のおどろおどろしい怒声が響く中、シンは乗り込んだエレカの扉を閉めた。
と同時に、ほっと息をつく暇もなく、車は急発進する。

「どぅわぁ!!」

シートベルトを締める間もなかったシンは、前のめりに転び、顔面をしたたか助手席の背もたれにぶち当てた。

「キラ、逃げて大丈夫なのか?」

ちゃっかり自分だけベルトを着用していた冷静なレイの突っ込みに、心持ち顔色が青ざめているキラはこくこくと頷く。

「切れたイザには何を言っても無駄だから。今さえ凌げば僕らは当分会わないでしょ。時間があけば彼も冷静になるよ。なだめ役にディアッカもいるし……」

(やっぱり悲惨だ、ディアッカさん……)

シンの脳裏に、イザークの八つ当たりで人間サンドバックとなる、頼もしくも情けない兄貴な彼の勇姿が横切る。
だが、ディアッカが捨て身でフォローしてくれるからこそ、イザークの暴走が食い止められるのだ。ジュール一家とザフトにとって、彼はなくてはならない貴重な存在である。

「さあ、気をとりなおしてお寿司いこう、ね♪」
「だな、時間がないし」
「そうそう」


マイペースなレイはともかく、現実逃避に走った二人のテンションは異様に高い。
キラなど半分自棄になりながら、鼻歌を歌いだしてるし。
そんな時、キラのバッグから賑やかに編曲されたラクスの歌が流れ出す。
耳に残るアップテンポのメロディーは、先日の伝説となった『ジュール隊、踊る隊長機事件』の時にも使われたものだ。
シンの好みとはかけ離れているけれど、キラは随分とお気に入りらしい。


「あ、ミリィからだ。シン、僕の携帯取って」

オート運転に切り替えて、回線をオープンにする。

「はい。僕だけれど、なんかあった?」

≪大ありよ!!キラ!!≫

ディアッカ同様、姉御肌で闊達なミリアリアらしからぬ切羽詰った声が飛ぶ。シンの脳裏に嫌な予感が横切り、キラの笑顔も引きつっていく。

≪イザークの馬鹿が、私達のエレカを強奪したわ!!≫
≪ゲホッ……スマン、キラ……≫

苦しげなディアッカの声から推測すると、ボディーブローを食らったと予想がつく。
ディアッカの巨躯で止められなかったなら、イザークはかなり暴走している筈。
もう、阻んでくれる防波堤はどこにもない。

≪私たちも直ぐに無人エレカ(タクシー)で追いかけるから、頑張って逃げてよ。あああもう、あのおかっぱ。私達のAIに変な癖つけたら承知しないんだから!!≫

「ミリィ、僕達の心配は?」
≪ああ、してないわよそんなもの。あいつ、あれでマザコンのフェミニストだから、キラは大丈夫でしょ。レイとシンは一応軍人になるんだし、自分の身ぐらい自分で守れるわよ、ね?≫

「…ミリアリアさん、酷くないか?」
「彼女らしい良い推理だと思うが」
「お前、キラさえ無事なら構わないとか思ってない?」
「いいや。ジュール隊長から逃げればいいだけだろう。相手は一人、俺たちは2人、しかもキラという、どう動くか解らないイレギュラーがいる。互いが上手く連係がとれなくとも、逃げ延びられる確率は高い」

流れるようなレイの言葉に、ついうっかり納得しそうになる。
だが、こいつの王子様な風貌に騙されてはいけない。

「冷静な分析だけどさ、連係失敗したらレイ、俺見捨てて逃げる気だろ?」
「お前と俺、どちらに飛び掛ってくるか、確率は二分の一だが」
「何処が確率半分だよ!! 殴りたい養子と知人が目の前にいたら、絶対養子に向かってくるだろが!!」


「…それって、やっぱり捕まったらシンがイザにボコられるってことぉ……?」

今まで弱々しかったキラの目が、急に眇められた。

「自分が悪いくせに、子供に手を挙げるなんてサイテーじゃないか!!」
「嫌、キラママ、俺が殴られるなんて、今決め付けるのはよくないと思うけど……」
「絶対許さない!! イザーク!! シンを叩くなんて、絶対許さない!!」


一応養父を弁護してみたが、思い込みの激しいキラは聞いちゃいない。


「絶対逃げ切ってやる!! シン、安心してママに任せて!!」

キラは早速、得意の簡易パソコンをエレカに繋げた。シンが彼女の背後から画面をそっと覗き込んで見れば、街中のマップが映し出されている。
網の目のように複雑な一方通行の道ばかりを選び、しかもビルや建物の陰に隠れるように細かくえげつなく意気揚々と命令を組み込んでいる。

「キラ、つかぬ事を聞くが、AIを載せたエレカは黒塗りのガンダニウム車か?」
「そうだけれど」
「ふむ。ならば追いつかれるのは時間の問題か」
「え!?」

レイが平然と後ろを振り返っている横で、シンも恐る恐る振り向く。
三人の乗ったエレカを追いかけ、道路交通規制のスピードを全く無視して猪突猛進に突き進んでくる車が目に飛び込む。

シンの発達した動体視力は、易々と運転席にいる者を捕らえた。
おかっぱな銀の髪を振り乱し、ハンドルを握っているのは紛れもなく養父だった。

☆ ☆



「キラママ!! キラママ!! もう投降しよう!!

シンは段々と乏しくなっていく手榴弾を背後に投げながら、一応提案を試みる。

「やだ!! だって僕、間違ってないもん!! 今日は絶対イザが悪い!!」
「こんなので怪我したら、キラママだってつまらないだろ? な、良い子だから……」
「だからって、僕、悪くないのに折れるなんてやだ!!」

義母は、可愛い顔に似合わず鉄の意志だった。いやいやと涙交じりで首を振り、かたくなに逃げ続ける。

キラは過去、ザフトの新型モビルスーツをラクスの手引きで強奪し、単身サイクロプスが仕掛けられていたアラスカに舞い降り、友人達をきっちり助けるという奇跡的な無茶をやり遂げた人だから、彼女の決意を翻すのは、並大抵の苦労ではないだろう。

だが、イザークもしつこい粘着質な男である。

キラママを巡ってどんな確執があったかは知らないが、アスランがオーブに亡命して一年たった今でも、「俺の一生の敵は腰抜けの大馬鹿者だ。今度あったら撃ち殺してやる」と公言するほど執念深い。

こんな二人が意地を張り合い続ければ、いつまでたっても平行線なのは当たり前。
シンだって、気分的にはキラの味方だけれど、二人が意地を張れば張るほど、被害は確実に広がるだろう。
なんせ、すでに街中で手榴弾をばら撒いているのだ。常識のなさは実証済みである!!


「キラママ、もう手榴弾が5つしかない。潮時だよ」

もう諦めてと言いかけたシンだったが、彼はキラを見るなりそのまま固まった。

「キラママ、一体何やってんの!?」
「ハッキング」

シンの知らぬ間に、エレカの運転はオートのまま、目つきが怪しく据わったキラは、自らの膝にノート型パソコンを置き、流れるような速さでキーボードを駆使している。

「イザが乗っている車はAI車だろ。だったら人工知能に直接命令すれば、車は止まる」
「……成る程、流石だキラ」
この車から、今怒り狂っているイザークの運転する車にハッキング????
「どうやって?」

スパンッと、レイの鉄拳が気持ちよくシンの後頭部に炸裂した。

「いってぇなぁ!! 何すんだよレイ!!」
「今後もキラの義息を名乗る気なら、OSをよく学べ」

親友は、制裁を加えてきた後でも冷静だった。

「プラントのエレカは、一律どこの指示で道を走るんだ? 狭いコロニーの中、渋滞をなるべく起こさないように、どの車も強制的にラインが繋がっているところがあるだろ?」
「道路管制塔」
「そうだ。だったら管制塔にもぐりこみ、そこからAI車に停止命令を出させれば?」
「あ、絶対に止まる」

っていうか、止まらなければ、強制停止させられる。

「流石キラママ」

思わず口から賞賛の言葉が零れたが、ハッキングに忙しいキラはそれどころではない。

「解ったら、キラの援護だ。ジュール隊長を足止めするぞ」

(でもレイ、手榴弾…後5個なんですけれど……?)


たとえプラントでも1、2を争う程優秀なプログラマーな彼女でも、プラントのマザーコンピューター並みのセキュリティがかけられている道路管制塔にもぐりこむのは大変だろう。キラに限ってないとは思うが、もし道路管制塔へのハッキングが見つかりでもしたら……禁固10年もしくは100万ギザイン(十億円)の罰金の上プラント追放である。

手榴弾の残りを瞬く間に使い果たし、シンは何か他に武器になるものがないか、エレカの中を物色した。
そんな攻撃の手が緩んだ瞬間を、イザーク・ジュールが見落とす筈がなかったのだ。

背後の車は、一気に加速し、そして………。


ぼこっ

車内に衝撃が走る。
AI車が突っ込んできやがったのだ!!


「何考えてやがる、あのカッパ!!」


今度はシートベルトに助けられたシンだが、無茶苦茶やる義父に怒りが爆発する。
だが、そんなシンの怒りもなんのその……。容赦のないイザークは、再びエレカを体当たりさせてくる。

所詮キラ愛用の一般エレカと、手榴弾でもびくともしなかったガンダニウム合金仕様の黒塗りエレカでは、ボディの強度がまったく違う。
小さく追突される度、後部が段々と狭くなってくる。キラのいる運転席に危害を加えたくないとする、養父の仕打ちが憎らしい。

「くそっ!! ムチ打ちになったらどうすんだよ、こらぁ!!」

だが、本当の問題はこれからだった。
キラが膝に抱いていたノート方のパソコンから、甲高いエラー音が響き渡る。

「ばかぁ……、いざーくのあほぉぉぉ」

呆けたキラは、ののしる声までか細かった。
シンの嫌な予感は瞬時に最大レベルとなる。

「キラママ、まさか…?」

「うん、ごめん」

キラの紫の目には、うっすらと涙が溜まっていた。

「最初のショックで手が滑ったみたい」

パソコンからは連続で警告音が鳴り続ける。

「ハッキングばれちゃった……、どうしよう?」

(どうしようじゃねーだろぉ、こらぁ!!)

シンの顔からも、みるみる血の気が引いていく。

(てか、俺達こんなことで犯罪者ですかぁ????)

禁固10年……、もしくは100万ギザインの罰金の上プラント追放……、どっちにしろ強制的に士官学校クビ……?

シン自身、絶望に目の前が真っ暗になった。





06.02.08






ひ…、久々の更新です。月猫にお尻叩かれて頑張ったけれど、終らない〜グスグス (><。)。。
明日は帰宅が深夜なので、最終話は金曜日予定です( ̄― ̄)θ☆( ++) 


02.11←気に入らなくて書き直し( ̄― ̄)θ☆( ++) 
こんなことばっかりやってるから、すすまなぃグスグス (><。)。。

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