大・迷・惑!! 4
プラントのコロニーにとって、全てを管理するマザーコンピューターは、人で例えるのなら脳髄と心臓だろう。
ここが悪意ある人間に制圧されれば最後、コロニーの住人は命の危険に曝される。なんせボタン一つでコロニーは自爆することもできるし、空気を全て抜いてしまうこともできるのだから。
そして、コロニー内部を隅から隅まで網の目のように張り巡らされている道を管理する道路管制塔はというと、例えるのなら血液になるのだろう。
ここも悪意ある人間に制圧されれば最後、道路は偽の情報が飛び交うこととなる。例えばテロを満載したエレカがコロニーに侵入して街を駆け抜けても、管制塔は正常だと思い込まされ、野放しになることも可能なのだ。
今までオーブのオノゴロで暮らしていたシンは、最初外壁の向こうは宇宙の深淵だという感覚がわからなかった。だがたった一発のミサイルで、ユニウス7の住人は全滅した事実を見れば、どれぐらい宇宙コロニーで暮らすことが、危険と隣り合わせかわかるだろう。
よって、プラントの法律は、この二つにハッキングをかけるものにとても厳しい。
見つかれば禁固10年、もしくは罰金100ギザインを支払わされた後、見せしめのようにプラントから追放となる。
この法律が施行されて以来、遊びや腕試し気分で仕掛ける馬鹿は絶滅した。
なのにキラは、こんなことを日常茶飯事でやっていたのだ。
今回、その油断が命取りになった。
☆☆☆
≪そこのエレカ、無駄な抵抗はやめて止まりなさい!!≫
キラのパソコンから甲高い警告音は鳴り続け、道路管制塔からエレカに繋がれた回線からは、繰り返し停止命令が下される。
「…うううう、いざぁーくのあほぉぉぉぉ」
キラは半べそをかきながら、必死でエレカの回線をいじくっている。泣きながらでも、キーボードを操る手は神業のように早い。だが、いくらOS構築が天才的なジュール博士でも、肝心要の機械が故障してしまえば、どうすることもできない。
イザークに追突されつづけたエレカは、オート操縦のまま壊れてしまった。
よって、道路管制塔からいくら停止指令がくだろうが、キラ自身が手動に切り替えようとしても、エレカ自身が最初のキラの命令を遂行し続け、以後の干渉を全て撥ね退けているのだ。
≪そこのエレカ、無駄な抵抗はやめて止まりなさい!!≫
≪そこのエレカ、無駄な抵抗はやめて止まりなさい!!≫
≪そこのエレカ、無駄な抵抗はやめて止まりなさい!!≫
「俺たちだって止まりたいよ、馬鹿野郎!!」
シンはイライラと頭を掻き毟った。
無情な機械音声に、怒鳴り散らしても無駄だ。解っちゃいるけどむかつく。
延々と高層ビルの合間を縫って逃げ続けるエレカを追いかけ、上空からは緑色のモビルスーツが旋回している。
また、キラを追いかけるエレカは、もはやイザークだけではない。
群れの先頭は相変わらずイザークだったが、ザフト軍のコロニー警備隊の車両が十数台、ぞくぞくと合流し続けている。
このまま通達を無視して走り続ければ、そのうち上空を飛んでいるザクが、バルカン砲で威嚇射撃をしてくるだろう。それすら無視すれば、きっと最後には撃ち殺される。
半泣きなキラは、今、わたわたとハンドルを引っ張っている。
「キラ、貴方は何がしたいんだ?」
「エレカのケーブルを2〜3本引っこ抜けば、止まってくれるかなぁって…」
「素手で取れるようなものではない」
レイに窘められた後、必死でなんとかエレカの主導権を握ろうと、反応のないボタンを押し捲っていた。
そんな時だった。
ピロロ〜ンと、間の抜けた笛の音が鳴る。キラの携帯だ。
「イザだ!!」
半泣きだった彼女は、慌てて電話を引っつかむ。
≪おい、キラ!! 貴様一体何をしでかした!!≫
養父の怒声も大音量だったが、キラも負けていない。
「いざぁぁぁぁ、シンをお願い!!」
キラは叫んだ途端、ぽろぽろと勢いよく涙をこぼした。
「僕さ、10年牢屋に入ってくるから、シンのことほんとうにお願い!! 男手一つで一人前にするって大変だろうけれど、僕、イザならやり遂げられるって信じてるよ。それから、10年たったら絶対帰ってくるから、それまで浮気しちゃ嫌だからね!!」
≪貴様、さっきから何をたわごとほざいている!!≫
「もう、僕には時間がないんだから聞いてよ!! 27歳の僕って、きっと大人びた美女になっていると思うから、とにかく10年待ってて!!」
≪馬鹿者!! 俺は貴様に説明しろと言っている!!≫
「他に女作っちゃいやだぁぁぁぁ!!」
短気な人間と、錯乱して泣きじゃくっている人間との会話に、意思疎通など図れるはずもない。
身を乗り出したレイが、さっさとキラから携帯をひったくり、回線をオープンにする。
「ジュール隊長、レイ・ザ・バレルです。現状に至るまでの過程を報告いたします。キラが道路管制塔にハッキングをしかけ、貴方の運転するエレカに干渉し停止命令をしようとしたところ、逆に発見されたためこの騒ぎとなりました」
≪………なるほどな……≫
「こめん…イザ、僕、だから牢屋行くの。プラント追放だけは嫌だから……、ごめん……」
しばしの沈黙の後、イザークは冷静さを取り戻したようだ。
≪……運転しているのはキラだな、ならばとりあえず止まれ。後は俺がなんとかしてやる。これでも最高評議会の一員だったんだ。お前の夫を見くびるな……≫
「いえ、止まりたいのはやまやまですが、このエレカは今、手動に切り替えができず、暴走しております」
≪…ちっ、まずいな……≫
気まずい沈黙な時間が流れ、その間中、キラがえくえくとすすり泣く声が車内を満たす。
≪貴様達、手榴弾はまだあるのか?≫
「ありません、使いきりました」
≪よし、ならば内部爆発はないな。二人とも、今すぐキラを抱えて後部座席の足元にうずくまれ。俺がそのエレカを必ず止めてやる≫
養父は何か作戦を思いついたようだ。ハキハキとした命令口調が頼もしい。
暗かった目の前に、一筋の希望の光が差し、自然背筋がピンと延びる。
≪シン、ジュール家の子供なら、絶対に自分の母親を守れ。いいな!!≫
「はい!!」
これを最後にプツリと通信が切れた。いつも養父には反発ばかりしていたが、今回は心から素直に返事ができた。
「さ、キラママ、こっちへ」
シンが両腕を差し伸べると、運転席にいた涙目のキラはこくこくと頷き、よじよじ座席を乗り越えて後ろへとやってくる。座席のシートをなるだけ前方に押し上げ、足元の狭い場所に三人で蹲る。
大切な養母をしっかりと腕に抱きかかえ、シンはこくりと息を呑んだ。
一体、自分の養父は何をするつもりなのだろう?
突如、甲高い急ブレーキの音に驚き、好奇心旺盛なキラともども立ち上がって見れば、イザークが乗ったAI車が後ろを走っているエレカの群れにお構いなく、右に進路を変えたところだった。
「無茶苦茶やるよ、あの人!!」
ガンダニウム合金製の頑丈なエレカの行く手に塞がったコロニー警備隊のエレカは、哀れにも弾き飛ばされて回転した。
次々と急ブレーキを踏むエレカが、事故ったエレカに突っ込んでいく。
当たり前のように玉突き事故だ。
「…死人、いねーよな。なぁキラママ?」
「……う、うん、そう思いたい……」
轟音を上げて燃え始める車両の山は、養父のしでかした行動の惨事の代償だ。
空耳で、≪これぐらいよけられないのか馬鹿者が!!≫ という、養父の罵声が聞こえた気がして身震いもする。
イザークは本当に軍人に対しては容赦がない。
「きっと、イザは死んで欲しくないから厳しいんだね」
「は?」
「戦場で死なれたくないから、訓練では厳しいんだ。いくら恨まれても憎まれても、今自分のそばにいる人が生き残れるように、厳しく鍛えているんだ」
ヤキンを生き抜いた英雄の持論は立派だと思う。だが、これがイザークの愛の鞭だとしたら、そのイザークの扱きに耐えられず、脱落したものはどれぐらいの数にのぼるだろうか?
五体満足で生きていればいいが、確率が低そうな気がするのは何故だろう?
ジュール隊が今ザフト軍の最精鋭で、作戦成功率が桁違いに高い理由はこれだったのかと、理由を目の当たりにしたシンは、将来養父の隊にだけは配属されたくないと切実に思った。
「シン、隊長の命令は、『身をかがめていろ』だった筈だ」
目が釘付けだったシンは、レイに腕を引っ張られて現実にもどった。
キラを改めて腕に抱きなおし、もぞもぞと狭い空間に身を屈める。
「イザークさん、何をする気だろう?」
「さあな。だが、今の俺たちにはあの人の作戦にかけるしかない」
そんな時だった。
凄まじく甲高い音を立て、エレカの動力音が鳴り響く。
120度車体を傾け、左側を浮かせて、映画顔負けのアクロバットな操縦で、黒塗りのエレカは高架橋の欄干を走っていたのだ。
橋は、ビルの合間を縫って走っている、キラ達の頭上を多々交差している。
「まさか!!」
シンは、嫌な予感に冷や汗をダラダラ流した。
そのシンの予想通り、養父の操縦するエレカは勢いよく、橋を乗り越えて飛んだ。
大きな影がシンの頭上を遮った。
「うわぁぁぁ!!」
キラに覆いかぶさって身を硬くした直後、凄まじい轟音と衝撃が襲った。
イザークの車が、キラのエレカを押しつぶしたのだ。
06.02.12
キラ子が、日に日にぽやや〜んになっていく。
おかしい。何故終わらない?( ̄― ̄)θ☆( ++) 。
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