とある世界の輝かしい夜  中編






「……うううう、レイってば、綺麗な顔が台無しだよ〜!!……」


キラは真っ黒くなったレイウサギの首根っこを取っ捕まえると、服をひん剥いて毛布を被せ、暖かいお湯で絞ったほかほかタオルで彼を力一杯擦った。
お風呂に叩き込んでしまえば楽だったのだが、入浴中にキラが居なくなってしまうのが嫌だとごねられれば仕方がない。
煤でくしゃくしゃに縺れた髪も丁寧に拭っていると、ハイネがいい子で座ってるレイにメモ用紙とインクと羽ペンを差し出した。

「靴下の中にはな、前もって欲しいものを書いたメモを入れておくんだぞ。それが消えたら、サンタさんの元に無事お願いが届いたって事になるんだからな〜♪」

出た、ペテン師。
ハイネは、真顔で嘘つける男だ。
しかも自信たっぷりに力強く言うから、初対面やあまり親しくない者は直ぐに騙され、彼に慣れ親しんでいる癖ありまくりなアマルフィ隊の面々すら引っかかる。

だがいつも騙されているレイは、胡散臭げに糸目になった。

「ハイネの言う事は、キラかラウが保証しないと信じない」
「ちっ、学習したな」
「キラ、そうなのか?」

あどけなく小首を傾け、上目づかいに見上げてくる。
レイのあまりの愛らしさに、思わずキラはぎゅっと抱きしめてほお擦りをかました。

「もちろん♪」

嘘に決まっているが、あえて言葉を濁して言わなかった。
彼と自分の好みは違うし、折角の初クリスマスだ。ならレイが喜んでくれるプレゼントを準備したい。

レイは安心して羽ペンを手に取ると、暫く考え込んでいたが、やがてペン先をインク壺に突っ込んだ。
キラが真剣に見守る中、彼が書いた願いはたった一つ。

「何それ? 記号?」

ハイネが小首を傾げている中、レイがさっそく大切そうにメモを小さく折りたたみ、毛布に包まったままてけてけと靴下に入れに走って行く。そんな彼を見送りながら、キラの目頭は熱くなった。


「今のね、オーブの公用語だよ。日本語の漢字で≪母≫って文字。レイは僕が……、お母さんが欲しいんだって」



☆☆




「えーっと、僕が使っているのとお揃いのエプロンでしょ、クッション、マグカップ、シャツ、それから寝巻き♪」

ソファにゆったりと足を投げ出して座っているロイの隣にちょこんと腰掛け、キラは彼の肩にもたれながら、サンタ定番の白い大きな袋の中にプレゼントを詰め込んだ。
これは皆、明日ロイに持ってきて貰うもの。
2メートル以上ある巨大な靴下なら、かさばるものだって沢山詰めることが出来る。

「君の弟は変態か?」
「失礼なこというと、いくらロイさんでも絶交しますよ」

ぷっくりほっぺを膨らませ、軽く上目で睨む。

「それだけレイは僕を慕ってくれているんです」
≪そうだキラちゃん、その気持ち俺には判るぞ!!≫

黒電話の受話器から、賑やかなマース・ヒューズ中佐の声が響く。
彼の声は大きく、会話も楽しいので、自宅に電話がかかってくると、キラはいつもロイに寄り添って参加している。

≪うちのエリシアちゃんが、もし『パパと同じものが欲しい♪』なんて言ってくれたら……、俺だってもう何でも準備しちゃうからなぁ♪ なあキラちゃん、レイ君は今いくつだ?……≫

「14ですが、心はまだ3歳児かなぁ」

自分が口に出した言葉に切なくなる。

「僕、彼の母親がわりになるって約束したのに、あんな小さい子を置いてきちゃうなんて。ゴメンねレイ。せめて僕が成人するまで、後2年一緒にいてあげたかったのに……」

あの≪母≫と書かれたメモを思い出す度、目頭が熱くなる。
項垂れていると、ロイが片手で頭を撫でてくれるが、むっすり口を引き結び、気まずげにそっぽを向いている。

≪……そうだよなぁ、3歳じゃ心配だよなぁ……子供のお母さんを、浚って強引に結婚なんてこのケダモノが。キラちゃんの兄弟や小舅連中が、『返せ』って怒るのも無理ないぞ……≫

「ヒューズ、貴様本当に私の親友か?」

≪それとこれとは別だ!! 考えてみろ、エリシアちゃんからグレイシアを取り上げるようなもんだぞ? それにもし将来うちの娘に同じマネする男がいたら、俺は誓ってぶっ殺す!! お前がキラちゃんと恋人同士でなかったらなぁ、絶対今頃縁切っているぜ≫

「だがなヒューズ、キラの国の慣わしでは、女性は最初に体を開いた男と結婚するんだぞ。たとえキラの意にそぐわなくても、夜這いでも略奪でも強姦でも奪ったものが勝ちで結婚が合法になると知り、私が焦らないでいられると思うか!!」

≪げ、それマジか!!≫
キラとて初耳である。

「誰がロイさんにそんな嘘教えたんですか!!」
「銀髪のコケシ君と、君のもう1人の弟……緑の髪をした腹黒綿飴頭君とかいう子だが………、違うのか?」
「当たり前です。確かに僕の遠い先祖はそういう風習ありましたけど……、千年以上昔の話です!!」
「……だが、『髭黒の少将』という、貴族の男が……」
「それ、平安時代に書かれた『源氏物語』の登場人物です、物語ですよ〜!!」
「そ、そうなのか?」

確かに髭黒の少将という、お顔があまり美しくない男がいた。
主人公の光源氏が養女に迎え可愛がっていた姫に懸想し、妻になってくれと手紙を出すが、面食いの姫にしっかりと断られた。
また女に節操がなかった光源氏も、美しく成長した養女が惜しくなり、このまま己の妻の一員にしてしまおうかと良からぬ事を思いつく。
だが、髭黒の少将は、想いを消す事ができず、買収した女房に手引きさせ、深夜こっそり姫の寝所に忍び込み、むりやり強姦してしまうのだ。

源氏の家で、この狼藉。
家主が食べてしまおうと虎視眈々と狙っていた姫が、別の男に奪われた。
普通なら殺してやりたいほど憎い男だろう。
なのに事件発覚後、髭男は直ぐに婿に迎えられた。
数日後、牛車で宮廷に呼ばれた姫が外出し、その帰宅途中に車を襲い従者と女房を蹴散らして、姫だけ自宅に連れ浚ってしまうのだが、それも世の慣わしだと源氏は泣く泣く諦めるのだが…。

現在同じ事をすれば、誘拐である。
嫌、寝所に勝手に侵入した時点で、家宅侵入の痴漢としてブタ箱へ直行だ。

「もう、それロイさん勘違い〜〜!!」
≪……ロイ、お前って実は馬鹿だろ?……≫

愛妻と親友から,悲鳴交じりの罵声を浴び、ロイの顔から血の気が引く。

イザークは民俗学者を目指している。ニコルもキラを本当に慕ってくれていて、ヤマト家の最後の姫っていうのを誇りに思ってくれている子だ。
きっと『僕のキラはそれだけ由緒ある血筋なんです。だから大事にしてください』って言いたくて、話題を持ってきたのだろうが、物語を真に受けるなんて。


「それで僕に薬嗅がせて拉致って犯して、勝手に婚姻届提出しちゃうなんて、いい大人が信じられない!! 常識で考えてくださいよ〜!!」

未だ義弟の本性を知らないキラは、本当におめでたい。
多分ニコルは、クルーゼ、ハイネ、レイの三人が、鉄壁のガードでキラを守ると信じ、ロイの嫉妬心と焦りを掻き立てるべく、の悪意ある嫌がらせでこの話題を振ったのだ。

なのに3人のガードは発動する間もなく、行動力あるロイに掻っ攫われ、キラは美味しく食べられてしまった。
全て裏目に出て自爆した今、彼は己とそれ以上にロイを呪詛し、臍を噛んでいるだろう。

≪……ロイ……、お前それホントか……? まんま強姦犯じゃないか……!?≫
「み……見損なうな、ちゃんと合意だ!!」
「は? 僕、初体験もロイさんが僕の薬指に指輪嵌めてくれた時も、起きていましたっけ?」

キラに恨みがましく睨まれれば、疚しさ満載の男も怯む。

「……まぁ、かなり強引だったのは認めるが……」
「一生に一度の事なのに、あんまりだ……」
「う…、それは否定できないが……、だがそれだけ……私は君を……」
「ん、僕をなぁに?」

ワクワクと耳をダンボにしてその先を促すが、ロイは顔を赤らめて沈黙の後、本当にむっすり膨れてそっぽ向いてしまった。
そんな彼がおかしくて、キラは満足げに喉を鳴らして笑い、ロイの首にすりっと抱きついた。

「ロイさんって、可愛いから大好き♪」

彼は必要に駆られれば、ハイネ並に女性を喜ばせる口説き文句がすらすら出るのに、キラにだけは愛の囁きを面と向かって言えないのだという。
なんでも照れくさいらしい。

≪キラちゃんぐらいなもんだぞ。焔の錬金術師を捕まえて、可愛いなんて≫
「でもねヒューズさん、ロイさんもう一生僕だけしか抱かないって約束してくれたんですよ♪」

胸ぺったんの貧相な体は、ロイの妻になりたかった女達に嘲笑われなくっても自分が一番自覚している。
キラと結婚したせいで、ロイが軍部で『ロリコン』と陰口を叩かれているのも知っている。
未だに、彼がどうして自分に執着してくれるか判らないけれど、女癖が悪いという評判を払拭し、見せてくれた誠意が嬉しい。

膝の上によじ登り、首の後ろに両手を回して抱きつけば、彼は無言でぽしぽしと頭を撫でてくれる。
髪を弄られる気持ちよさにうっとりと目を細めた時、甘い時間の中断を告げる使者が来た。
床をコロコロ転がりながら近寄ってくる緑のミニハロの目が、ちかちかと赤黒く点滅している。

「はい、ロイさんあーん♪ 僕のクッキー美味しい?」

キラはありもしないお菓子の代わりに、口元に人差し指を1本立てて押し当て、手の平に納まるサイズのハロを指で示す。

『今、盗聴中』のサインに、ロイの目も眇められる。

「ああ、最高だとも。キラは料理上手だからな。私は本当に果報者だ♪ 君は私の宝物、この世で一番の妻だよ」
≪こらロイ、最高なのはうちのグレイシアだ!≫
「可愛らしさは勝てまい。私のキラは我々より12も年下だぞ」
「あん、きゃう」

耳朶を噛まれて、条件反射の甘い声がこぼれる。
頬にもわざわざ大きな音を立ててキスを落とされるが、横目で彼を見れば、彼の目はひんやりと尖っている。
ロイが人前でのろける事はない。
だからヒューズにキラ自慢したり、ワザと軽く愛撫を仕掛ける時は、『盗聴されている』と、向こうの彼に伝えるサインである。
早速静かにパソコンを引き寄せ、音を極力立てないように、打ち込みを開始する。

ここは、キラの世界でいう19世紀ぐらいのレトロな時代だ。
なので、彼女が知るコズミック・イラの進んだ文明知識と、セイランの勧めで、ユーリ・アマルフィとアスランがこの星に大量に仕掛けていったキラー衛星の群は最高の武器となる。
イーストシティに張り巡らせてある電話網ぐらい、簡単にキラの手元のパソ一台で霍乱できるからありがたい。

≪ふふ〜ん、うちの天使はもう1人いるんだぞ。悔しかったらエリシアちゃんみたいな子供作ってみろ!!≫
「そうだな、私はキラ似の女の子が欲しいな」
「……そしたら、その子は将来レイのお嫁さんだね……」
「……なんだと?……」


キラは本気で機嫌が急降下したロイに気がつかず、話しに適当に加わりながら、予め設定してあるプログラムに回線をアクセスした。

≪男だったらエリシアの婿にどうだ?≫
≪冗談じゃない、うちの子は絶対嫁に出さん!!≫
≪私と親戚になるのも楽しいではないか?≫
≪許さん許さん許さ〜ん!! ぶっ殺す!!≫
≪もう、お二方ってば、生まれてもいない子で何喧嘩しているんですか♪≫

パソコンが、勝手にロイとヒューズの嫁自慢の会話を捏造しだす。
その音声を流しつつ、キラはこの星周辺をくるくる回っている衛星に信号を送り、衛星と中佐の護衛に置いてあるミニハロを媒介に使い、ヒューズ中佐の受話器にもう一本ラインを繋げる。

「いいですよ、ロイさん」

もう、甘い雰囲気は何処にも無い。

「位置の測定はできたか?」
「はい、セントラルの電話交換局です。国営施設で盗聴なんて、堂々とやってくれますね」
「軍事政権国家では仕方あるまい、ヒューズ、お前今何を調べている?」
≪俺っちゅーより、絶対お前がらみだ。ほれキラちゃんの兄貴、ラウ・ル・クルーゼ。先月偶然酒の買い付けで居合わせたからって、リオールに侵攻してきた3万の他国軍を、たった1人で一瞬のうちに消滅させちまっただろ。今までノーマークの錬金術師だったしな、それがお前の義兄だったなんて警戒するだろが。キラちゃんの前じゃ言いたくないが、現状化け物扱いだぜ≫

キラは初耳だったが、ラウならやりかねない。
なんと言っても、あっちでは1人で世界を滅ぼそうと画策した人だ。彼なら1人で楽々持ち込んだプロビデンス・ガンダムでこの国を焦土に変えられる。

「ラウ兄さまは普段は温厚だけど、根は苛烈だから、くれぐれも軍でちょっかいかけないで下さいね。僕達は静かに暮らしたくてこの世界に来たんです。あの人がもし本当に怒っちゃったら、いくら僕でも止めるのきっと命がけですから」

≪キラちゃんの涙でも駄目か〜、はっはっは、そりゃ怖いなロイ?≫
「その時はキラ抱えて国外にでも逃げるか」

2人は冗談だと思っているが、とんでもない。
キラは本当の世界で、ラウを1人殺している。
レイの悲しさを知り、ラウの慟哭を理解し、現在は兄と慕っている存在だが、人一人と世界を天秤にかければ、キラはきっと泣きながら兄を撃つ道を選ぶ筈。
大好きな彼とフリーダムで一騎打ちなんて、もう二度とやりたくない。


≪それにハイネ・ヴェステンフルスもヤバイだろ。あんな優男面なのに企業買収には容赦ねーし、やつの急成長ぶりは軍部と財界で戦々恐々としている≫

ハイネは最初、ハクロ将軍を誑かして彼の庇護下にいたが、今では立場は逆転し、将軍がハイネの傀儡になって動かされているらしい。

そんな不気味な男二人が溺愛する妹とロイが結婚したものだから、軍もロイに対する警戒を強めるのは当たり前。

「私の最大の弱みも『キラ』だからな。苦労をかける」
「ううん、気にしないで。お互い様だから」

キラを狙えば焔の錬金術師だけでなく、ラウ、ハイネ、レイが暴れる。
そう印象付けても身の程を弁えない馬鹿は何処にでもいるもので、キラを狙う不埒な輩は後を絶たない。

≪キラちゃんは生身のか弱い女の子なんだから、気をつけるんだぞ?≫

「はい判ってます。僕、人質に取られたら、ロイや兄さまの弱点になるんでしょ。嫌ですもん♪」
「すまない」
「謝らないで下さい。ロイさんだって、一杯大変なんですから」

キラを溺愛しているラウとハイネから、虐められ、嫌がらせをされても、ロイは黙って耐え忍んでくれている。それに新年そうそう遊びに来る事になっているあちらの世界の義父母に義弟、それにアスラン達友人達からの怒り狂った鉄拳制裁も、甘んじて受けてくれるという。

キラが薬で眠っているうちに、初体験も入籍も終わっていたなんて、彼女を大切に想ってくれる皆が激怒するのも当然だし、しかも結婚を心から受諾するまで監禁なんて、まっとうな恋人がやる事ではなかった。
キラだってその時は『最低男、大っ嫌い!!』と泣き喚いてロイを罵ったのも認めよう。
だが、今とても自分は幸せなのだから、皆も彼を認めて欲しい。
自分の好きな人が、自分の仲間に嫌われ憎まれるなんて、悲しすぎる。

≪中央の奴ら、お前とハイネが手を組んだと思ってるし≫
「いいさ、ほっておけ」

あれも焔の気性だ。
プライドが高いから、面と向かってロイを糾弾して、自分の負け犬ぶりを披露しないだけで、ハイネがにこやかな愛想の良い顔の下で、どれだけキラを盗られた怒りを燻らせているか、同じ属性の自分には判る。
あの男も、キラにだけ執着していた。
ロイが卑怯な振る舞いで、愛しい少女を掻っ攫わずにいられない程、あの男には恐怖を感じていた。
ハイネと持ちつ持たれつの共存関係なんて、この先一生築く事はないだろう。
だが世間が勝手にそう誤解するのなら、利用できるうちば利用はする。
自分もあの男もそういう質だ。

≪まあ、明日はレイちゃんと可愛い奥さんの為に頑張れよ。来年、お前が昇進して無事夫婦でセントラルに来ることになったら、俺ん家でもクリスマスってのをやろうかな♪ エリシアちゃんイベント大好きだし、喜ぶだろうな〜♪≫
「そうだな、楽しみにしている」

ロイは来年の明るい願望を胸に、電話の受話器を置いた。
それを見届けたキラは、早速キーボードをかたかたと鳴らし、ダミーの方でも会話を適当に終わらせるように指示を出す。

「…きゃう!!…」

そんなキラを膝の上に乗せていた大佐の手が、スカートの裾を捲くって侵入し始めた。

「もうロイさんってば、何しているんですか?」

真っ赤になってぱたぱた身を捩るが、悪戯な男の手が、キラの頬をがっちりと掴む。

「君も聞いていただろう。ヒューズが悔しかったら早く子供を作れってな?」
「駄目ですってば。僕、明日のお弁当の下ごしらえだって、まだ……うふぅ……」

覆いかぶさってきたロイの肉厚の舌が、キラの意志を無視して口腔に差し込まれ、蹂躙を開始する。
女を脱がし慣れている彼の手つきは鮮やかで、あっという間にキラのエプロンは剥ぎ取られ、シャツのボタンも外され、ブラの紐も解かれた。

慌ててささやかな胸の膨らみをシャツの身頃をかきあわせて隠し、嫌々と首を横に振る。

「それに僕、明日はファルマン准尉に頼まれて、朝からアルバイトに行く約束があるんです」
「急病という事にしておく。義兄殿が君を迎えに来るまで寝ていなさい」

それはもしかしなくても、足腰立たなくなるまでお相手を求められているという事?
キラの背筋は総毛立った。

「待って、まだ戸締りが……セキュリティも……」
「ハロ君、最強レベルで家の防犯を頼む。なあに、不審人物は殺しても大丈夫。私が骨まで残さず焼き尽くしてやる」
≪了解シマシタ♪≫

用事を言い付かったミニハロは、無情にもキラを見捨ててコロコロ転がって消えていった。
最後の抵抗にぱたぱたと手足を動かして暴れてみるが、キラを抱き上げるロイの腕はビクともしない。

「そうそう、キラ似の女の子が生まれたら、早速雛人形を飾らねばな。誰もしまえぬようにトラップを散々しかけて、私の目の黒いうちは嫁には出さん」

にやっと悪魔の微笑みに見下ろされ、キラはこくりと喉を鳴らした。
どうやら地雷キィワードは、『レイのお嫁さん』だったらしい。
雛人形を出しっぱなしにしておけば、その家の娘は行き遅れるという言い伝えはあるが、生まれてもいない空想上の娘を、今から心配してどうするのだ、この馬鹿男は?

「それにどうせ明日、私は君の兄にたっぷりいたぶられるのだ。その分君が哀れな私を前払いで慰めてくれたまえ♪ 3ラウンドぐらい持ちこたえてくれるのを期待する♪」

いくらコーディネーターでも、日々身体を鍛えている軍人と専業主婦では、根本的に体力が違う。しかも今年で30代にめでたく仲間入りするこの男は、女性経験がかなり豊富だ。
キラのようなえっちビギナーなど、手加減無しなロイに付き合えば、確実に抱き潰される。

「冗談やめて、ねぇ……ロイさん。ロイ……ひぃぃぃぃぃ!!」

キラの散々な夜はスタートした。


その頃。

≪アイマン隊長、アイマン隊長、『アナザー』から通信が入っています。至急ブリッジまでお越し下さい!!≫

「定期連絡以外なんて、珍しいな♪」

黒の軍服を身に纏い、ガモフの格納庫で自分のグフと戯れていたミゲルは、軽い足取りで通路に飛んだ。

戦争が終結し、アマルフィ隊はメンバーごとキラを支えたミゲルに譲られ、所属していたパイロットは皆客寄せパンダとして、世界平和の親善大使の役目を担っていた。
その任務もこれがラスト。今から行くオーブ訪問が無事終われば、ミゲルを含めて1人残らず退役が決まっている。

奇人変人揃いの個性的な戦友達と別れるのは寂しいが、ミゲルは本業の歌手に戻り、アスランはカレッジに、ニコルはピアニスト、ラスティはデザイナー、イザークとディアッカは一年ぐらいアナザーの世界に旅行に行く予定だ。
皆それぞれ戦争で中断していた道を歩むのだ。
掴み取った平和の重みを肌で感じ、未来に胸を弾ませ、希望に輝いている彼らの顔は清々しい。


「相手は先輩? 隊長? それともレイ?」

うきうきとブリッジの扉をスライドして開ければ、CIC席には既にアスラン以下赤服5人組が勢揃いしており、勝手にヘッドホンの争奪戦を始めている。

「おいテメエら、それ俺に来た通信だろう、寄越せ」

隊長になっても、彼の立場はアクの強い最高評議会議員のボンボン達のお守りだ。
力づくでヘッドホンを取り上げ、耳に押し当てるが、通信のノイズが酷くて聞き取れない。

「すいません、よく聞こえないんですが!!」

ボイストレーニングで鍛え上げた美声を張り上げて怒鳴ると、直ぐに暗号メールが送られてきた。
自動解読で処理し、ディスプレイに開いてみると。


≪塩を詰めてくれ≫


ミゲルは無言で小首を傾げた。

「……先輩達何がしたいんだ?……アスラン、お前判る?」
「さあ、これはキラからのメールじゃない。あいつだったら語尾にハートとか音符とか、無意味な飾り文字をつけるか署名をきちんとする」

流石キラ馬鹿アスラン。たった一行で判断できるなんて、ある意味凄い。

「確か、ハイネはあっちの世界でカフェと酒場チェーン店を展開していましたよね」
「じゃ、調味料足りないの?」
「ああ、あっちの国って海なかったっけ」

現実的なニコル、ディアッカ、ラスティが、冷静に暗号メールの意味を分析する。

「なら胡椒も詰めてやれ、明後日には俺達もオーブに着くし、足りなければそこで仕入れればいい。もし違っても、飛行機も飛んでないような時代なら、スパイス系は稀少価値、高値で売れるし、いくらあっても困る事なかろう」
「キラは甘いものが好きだから、ココアと砂糖もいいな」
「姉さま和食大好きですし、お米とかお醤油とか味噌も一杯積みたいですね」

「じゃあ、脱出用ポッドを一機、事故で喪失したことにすればいいな。もしもし先輩、俺達調味料詰めてゲートに放ればいいの? それとも誰かMSで直接そっちに届けますか?」

声を張り上げミゲルがマイクに怒鳴れば、残りの面々も再び手を伸ばす。

「ハイネ、食料の他にいるものは無いのか? キラに暖かい寝具とか衣類とか、色々突っ込んでもまだスペースに余裕がある」
「おーいハイネ、男の夜のおかずはいるか? 俺、新作のハードなアダルトディスク、結構仕入れてきたから分けてやるぜ?」
「俺もグラビアとか色々あるぜ。けど間違えてもキラとレイにバレるなよ〜♪ 愛想つかされるぞ」
「俺は真面目な話をしているんだ!!」
「下品な話題は慎んでください!!」

アスランとニコルに肘鉄を食らっても、ディアッカとラスティはゲラゲラ笑って身をかわす。


だが。

≪……ふはははははは………≫

ぐにゃりと撓んだ空間の裂け目から、亀の甲羅を背負ったような灰色の機体がのっそりと現れる。
その周辺には、何故かファンネルがぶんぶん飛び交っていた。

「げっ、クルーゼ隊長じゃねーか!!」
「待って、撃たないで!! 僕達友軍です!!」


ミゲルが通信回線を開き画面をオンにすれば、コックピットに納まっているのは仮面を脱ぎ捨てた凛々しい金髪の青年だ。
その椅子の陰には窮屈そうに身を屈めた、燃えるように鮮やかなオレンジの髪の青年がにこやかに手を振っている。

≪やあ諸君、実は明日の夜、レイの為に急遽キラと家族でクリスマスパーティを行う事になったのだが、手伝って欲しい事ができてな≫
臨戦態勢から一転、和やかなお願いに、一堂は拍子抜けをする。

「一体我々に何を?」
≪ロイ・マスタングに派手な嫌がらせをやったろーってな。あいつなら別にくたばってくれても一向に構わないし≫

ハイネの口から憎い男の名が飛び出した途端、隊員全員の双眸がぎらぎらと憎しみに輝きだす。

≪すまないが、協力してくれるかね?≫
「勿論です」

珍しく、ミゲルはボンボン連中を差し置き、先頭切ってきっぱりと言い切り、指をぱきりと鳴らした。
自分が尽くして尽くして尽くしまくった妹分なキラが、自分の知らぬ間に一回りも年上の男に拉致監禁された上に、情に絆され結婚してしまったと聞いたのはつい先日の通信だ。
新年が明けたら即行男をぼこりに行き、この世界に連れ戻す気満々だったが、制裁の前倒しなら願ったりだ。

「俺に出来る事なら、何でも」
「姉さまにばれないのなら、喜んで」
にったり笑うアスランとニコルも黒い。

「俺としては正々堂々と一対一の決闘を申し込みたかったが」
「イザ、強姦男にそんな価値はねぇ」
「そうそう、フライングかましてキラ拉致った抜け駆け野郎なんざ、リンチ上等」

イザーク、ディアッカ、ラスティも、不敵に笑いながら殺る気満々である。


「…あの、君達……、我々はオーブに親善大使として……その……」


「「「「「「「「ロイ・マスタング、明日こそ貴様の命日だ!!」」」」」」」」


標的にとってはいい迷惑だが、ゼルマンの静止など全く聞く耳持たず、8人の心は一つになった。


07.11.21




ロイが、ラウとハイネに憎まれている理由でした♪
腹黒ニコルが、天然イザークを巻き込んで仕掛けた罠に嵌っちゃったとはいえ…勝手に薬盛って、ぱっくり食べちゃいかんだろ(* ̄∇ ̄*)
行動力ありすぎる男なのも問題です。

皆、頑張れよ〜♪(鬼)


07.12.04訂正
髭黒の少将、間違っていました(汗)
 
姫君は宮廷帰りに拉致されます( ̄― ̄)θ☆( ++) 
ゴメンm(__)m


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