とある世界の輝かしい夜  後編 2







MSも殺戮以外の目的で、雲の上に6機でフヨフヨと漂えば、けっこうメルヘンである。
しかも今から行うイベントを、≪楽しいね♪ 嬉しいね♪ 幸せだね♪≫と一番喜びそうなほのぼのした人は、悔しい事に自分達の元から居なくなってしまった。

「がっかりです。イーストシティの上空まで来ていながら、キラ姉さまにお会いする事ができないなんて」
≪嘆くなニコル。思いは同じだ≫
≪その悲しみも憎しみに変え、あいつに食らわせてやろう≫

アスランとイザークの慰めに、ニコルは改めてブリッツの操縦桿を強く握り締めた。

最愛の姉が、ニコルの知らないうちに異世界に吹っ飛び、自分を保護してくれた12も年上の男と恋に落ちたと聞いた時、正直目の前が暗くなった。
一途で単純なキラが、終戦後にどんな行動を取るのか、楽に予測がついたから。

≪僕、ロイさんの役に立ちたいんだ≫

がむしゃらに戦いプラント独立をもぎ取った直後、キラから自分達の世界を離れると告げられた時、覚悟はできていたけれど寂しかった。
彼女の鉄の意志を覆すのは誰にもできない。
ならばせめて良い弟のままでいたかったから、彼女の幸せを祈ってアメストリスへの移住に協力もした。

ロイという人とは一度しか会っていないが、誰も知らない異世界で姉を支えてくれた人。どんな若作りの軍人だろうと、ニコルの心の折り合いがつくまで、ネチネチ嫌味は言うかもしれないけど、いずれは【義兄さま】と呼び慕うつもりだったのに!!

「ふざけやがって、ロイ・マスタングぅぅぅぅぅぅ!!」

ニコルの大切な宝物だったヤマト家最後の姫を、拉致監禁の上親族に無断でゴールインしたなんて、男の風上にもおけない。
そんな野郎にどうして祝福なんてくれてやれる?

姉を大事に思う自分の嘆きと恨みを、何としてでもあの男に食らわさずにいられない。


≪まず、アスラン、イザーク、ディアッカで、20キロ四方に満遍なく散布だ≫

ミゲルの淡々とした指示に、3機のMSは各々、下界のキラにばれないよう銃音があまり立たない武器を選び、雲上の大気に向かい、放物線を描いてクラスター爆弾を撃ち込んだ。
拡散する弾に仕込まれているのは総て、細かなドライアイスだった。

この、MSの下方に広がる、厚みある雪雲の名前は積乱雲という。

水蒸気がこの雲の中で凝縮すると雪の結晶になる。
ならば自分達がここに雪が作られる核(コア)のようなものをばら撒けば、人工的に雪を降らせる事が可能となる。

だが現在、雲の上部の温度を計ってみると、ちょっきり0度だった。
最低氷点下15度まで下げないと、いくら雲に材料を投下しても、単なる雨にしかならない。
雲を裂かないようムラ無く冷やすのも結構骨だが、MS6機も揃っていれば東方司令部からシェル地区一帯までなら、何とかなる。

≪よっし。次、ニコル、ラスティ、まずは隊長へのプレゼントだ♪≫

「はい♪ メリークリスマス、キラ姉さま♪」

愛しい姉の喜ぶ顔を思い浮かべつつ、ニコルがブリッツの引き金を引けば、弾に込められたパウダー状の塩が大気に爆ぜて雲の上にと舞い落ちる。
塩の細かな粒が冷えた雲内に入れば、中で水滴と結合し、冷やされ凝縮し雪になるのだ。

ハイネが言っていたが、比較的暖かなイーストシティに、雪がたっぷり降り積もるのは珍しいそうだ。
キラは幼少期を月で過ごし、その後はヘリオポリスで暮らしていたから、銀色の美しい雪景色は感動物だろう。

雪だるま作りや雪合戦など、大はしゃぎで笑っている彼女を直ぐに想い描く事ができ、ニコルの心もほっこり温まる。
自分も遊びに加われないのがちょっぴり寂しいけれど、今日の聖なる夜に美しいホワイトクリスマスを贈る事ができたのなら満足である。

≪よし、これで雪の準備は終了だ。アスラン達3機はドライアイスをもっと散布して、雲の上部温度を徹底的に下げろ。ニコルとラスティは衛星にモニターを繋いでおけ。『敵』ロイ・マスタングの行動を待って次の作戦に移行する!!≫

デュエルとバスターとジャスティスが、せっせとミサイルを撃ち込みだす最中、ニコルはブリッツの四角いモニターに地図を映し出した。
東方司令部の建物内部に、宿敵を示す赤い光点が禍々しく輝いている。

ペテン師ハイネが準備した衣装を、律儀に受け取り使用するなんて愚かすぎる。
サンタの帽子に仕掛けられた発信機の存在は、レトロな時代で暮らすロイでは気づけなくても仕方がないが、教えてやる義理も無い。
恨むなら自分達旧アマルフィ隊の反感を買った自分自身を呪うがいい。

(天災なら、例え何があっても『事故』ですからね)

ニコルは口角を吊り上げた。


だが、この時点でイーストシティには、雪が大量に降り積もっている銀世界だった。
衛星からMSモニターに送られてくる平面マップに、地上の詳細画像は無く、先程の雲の上層温度もデタラメだ。


6人全員、既にペテン師ハイネに嵌められているという事に、誰一人気付いていなかった。



☆☆


視界を奪う猛吹雪に、ロイは眉間に深く皺を寄せた。
夜闇の暗さのせいだけでなく、3メートル先も判らない。
後部座席から車のフロントガラスを覗けば、ワイパーが雪に絡め取られて重くなっていた。

今イーストシティを襲っている降雪はすでに70センチもあり、観測史上最高記録を塗り替えるのは目に見えている。
こんな日に出歩く愚か者はいない。
人通りがないのは幸いだったが、自分はなんでこんな無駄な事をしているのだろうと、別な意味で虚しくなる。

「……寒いっすね……」

この世界の車に、エアコンの機能はない。
何層も防寒具を着込んでも、たかだか窓ガラス1枚で遮断できる冷気はたかが知れていて、キラがもし見たら『十二単?』と小首を傾げる程着膨れしたハボックは、悴(かじか)む手に息を吹きかけながら、ハンドルを握っていた。

「ハボック、もう少しスピードは出せないのか? 止まったら動けなくなるぞ?」
「無茶言わないで下さい。

片道15キロ道程でも、歩行者よりマシ程度の鈍いスピードでの徐行は辛い。
キラが気を利かせ『これ湯たんぽもどきね♪ お尻の下に敷いておくと暖かいから使って♪』と、軍用の金属製水筒4つに水を詰め、柔らかなタオルで包んだものを二つずつ準備してくれたのだが、正にこれが命綱になった。
500ミリリットルの水を温めるぐらい、焔の錬金術師な自分には朝飯前だ。
単純な作りの水筒は、低音火傷が心配なぐらい熱々で、防寒の役目を立派に果たしている。

キラの心遣いで凍え死ぬ心配はないが、狭い車中にただ座っていると、手と足の先の血の循環は悪い。
身体の芯は暖かくても、ロイの手足も震えが止まらなかった。

「…大佐、ハンドルで手が冷たいんですけれど、これも錬金術で何とかなりませんか?」
「タバコの表面温度は900℃から1200℃だ。押し付けろ」
「ったく、絶好調で機嫌悪いっすね。まあ、そんな格好じゃ無理ないっすけど」


バックミラー越しに、ちらりとロイの顔を覗き込んだハボックが、笑いをかみ殺して肩を震わせる。

暗い窓に映った己は、趣味の悪い真っ赤な服を纏い、もじゃもじゃの白い付け髭を下あごに取り付け、頭にはボンボンのついた三角の帽子を被っている。
こんな仮装、ヒューズが見たらさぞかし涙を流しながら豪快に笑ってくれるだろう。

「大丈夫っす。キラっちなら目を輝かせて喜んでくれますよ」

確かに彼女なら、この格好で煙突から這い出してきた自分に抱きついて褒めてくれるだろう。
実は、ロイも託された3つの白袋の他に、自分で真っ赤な大きな靴下を二つ用意している。
これは、レイとキラへのプレゼントだ。

ロイは正直、レイの事をなんとも思っていない。
誰だって、自分に懐かない子供を可愛いとは思わないだろうし、彼にはラウやハイネという頼れる保護者もいる。
ロイ的に、同い年の身寄りのないエルリック兄弟に比べたら、よっぽど恵まれた存在で、キラが気にかける必要も感じない。

……などと口にしたら本当に離婚されるから、絶対に言えないが。

「とっとと荷物を置いて、キラを回収して帰ろう」

溜息を一つついた時、ジープのフロントガラスに何かがこつりと当たった。
時おかずして、金属でできた車の天井を激しく打ち鳴らす、軽快な高音の群れに嫌な予感が頭を過ぎる。

「悪夢だ」

窓を僅かに開け外に手の平を上に向けると、掴んだのは紛れもなく5ミリから2センチの氷の塊だ。
イーストシティに霰(あられ)が降るなど、初めてではないのだろうか?


「ラウとハイネの呪いでもかかっているのか」
「大佐、火でなんとかしてください」
「無理を言うな、一錬金術師が自然に勝てるか!!」


叫んだ瞬間、車に鈍い衝撃が走った。
上下に激しく揺れ、頭をしたたか天井に打ちつける。

「……っ痛ぅ……」

傷みに頭を抱えて蹲る。
だが、いつの間にか車も止まっていた。

「何事だ? 事故か?」
「……天災です……」

蒼い顔のハボックが指し示す前方を見ると、ボンネットが大きくひしゃげていた。
中央にはまるでかぼちゃ丸ごと1個大の氷の塊がめり込んでいる。
ロイはこくりと息を呑んだ。
あれがもし頭上に落ちていたら、生きてはいまい。
間一髪で助かった強運に感謝を捧げるが、車はボンネットを突き破られ、エンジンが破壊されている。
こんな雹が降っている最中、往来に立ち往生なんて自殺行為だ。

「……どうしましょう?………」

ハボックがぼやいている間に、車の天井を突き破り、左側面の助手席に人間の頭大の塊が落下した。

「降りろ!! 建物の軒下に行け!!」
「はい!!」

ドアを蹴り開け、2人脱兎で5メートル先のレンガ造りの民家の影に隠れた。
途端、背後に一際鈍い破壊音が集中して轟いた。

背筋に冷たいものが走ったが、現実逃避しても意味は無い。
意を決して背後に振り向けば、二人が乗ってきた車は、見事に幾多の巨大な雹(ヒョウ)の塊に潰されていた。



「……大佐ぁぁ!!………もしかして、今日がこの世の終わりですか…?」

ハボックが泣きごとを吼える最中、ロイはきつく目を眇めて周囲を見回した。
鉄の車もスクラップに変える、激しい雹(ひょう)の雨が降っているにも関わらず、氷が家にぶつかって壊しても、街は誰一人パニックを起こす者無く静まりかえっている。
怯えているにしても、悲鳴一つ聞こえないのはおかしすぎる。
嫌、あの車の壊れ具合から言って、今ロイ自身が生きているのだってありえない。

この世界に、天候を操作できるような錬金術師はいない。
だがこの世界には、天候どころかこの星丸ごと干渉できる異世界の化け物を『友人』と呼ぶ男が1人存在している。
その男とタッグを組めば、人を1人も殺さず、天変地異を起こすのも可能な筈。

(……ハイネ・ヴェステンフルスとセイランの仕業か!!……)

「大佐、危険です!!」
「心配いらん。私の予想では、氷は絶対人には当たらない!! ついて来い!!」

ロイはハボックの静止を振り切り、邪魔な付け髭と帽子をかなぐり捨てると、全速力で残りの道を駆け抜けるべく突っ走った。


07.12.24



ロイさん外れてます( ̄― ̄)θ☆( ++) 
余裕を持ってのクリスマス創作だったのに、終わってない

サン ハイッ!(ノ^-^)ノ ̄ w(°0°)w オォー w(°0°)w オォー

21時からラシエルと一緒に、童話王国で仮装パーティなので、できてる所までUPです。
ゴメンなさい======@@@@@ \( > <)/ニゲロー

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