とある世界の輝かしい夜  後編 4







「僕の恋人の目の前で殺し合いなんていい度胸だ。2人纏めて捨てられたい?」

肩に掛かった青紫の髪をゆうるりと手で払い、これみよがしにぱちりと指を鳴らせば、暗碧色の石が砕け、彼の右手に禍々しい空間の亀裂が生まれる。
かぐろい闇の向こうに広がるのは星々が瞬く宇宙空間で、生身で投げ出されれば瞬時にハイネは凍り、文字通りの瞬殺だ。

セイランの恋人は、彼の気遣いなんて知らないまま眠りこけたままだ。
何が起こっても気がつかないのは明白で、ハイネは『無駄死にじゃねーか』という虚しい突っ込みを飲み込み、ぶんぶんと首を横に振りたくった。

「辞退する、こいつと心中なんて冗談じゃない」
「それは私の台詞だ」
「なら、判っているだろうね?」


冷ややかに睨まれ、ハイネはいつものポーカーフェイスで戦意を隠したのだが、どっかりソファに身を投げ出して座り、溜息混じりに髪を掻きあげたその横で、憎たらしい恋敵がすかさずキラを抱えようと身を屈めたのを見つけてしまった。
どさくさ紛れの男に今にも殴りかかりたいのを堪えたまさにその時、魔人がもう一回ぱちりと指を鳴らす。

トラブルメーカーのブレスレットから、暗碧色の石が纏めて5つも粉々に砕け、蝶の羽が落とす燐粉のように禍々しい粒子が大気に舞う。
その輝きが消えると同時に、彼らの頭上に大量に漂っていた亡霊達の姿も見えなくなった。

「おい、何しやがるセイラン!!」

そんな事をすれば、彼の魔力で止まっていた人々の時間も動き出すではないか。
ハイネの制止声の直後、たちまちここのカフェ周辺の家々で、煌々とランプや照明がつき、人々の驚愕と絶望の叫び声が木霊しだす。

コロコロと床を転がってきたオレンジハロが口を開け、携帯を差し出した。
触れずとも勝手にオープンになった回線から、耳慣れた電話のベル音が鳴り響く。


≪大佐、豪雪の為、古い民家があちこちで倒壊し、軍に出動要請が来ております。至急お戻り下さい!!≫

セイランはリザ・ホークアイ中尉の焦燥混じりの声を涼しい顔で聞き流し、もう一つぱちりと指を鳴らした。
たちまち、彼らの周辺の空間にいくつもの鏡が浮かび、各々が現在の惨状を映し出す。

イーストシティ中央からシェル街に向かう15キロの道のりは、かぼちゃ大の霰が大量に降り落ち、大パニックだった。
壊れていたのは家屋だけではない。
街灯、街路樹、橋、公共施設等、見るも無残に瓦解していて、無事だったものを見つける方が難しいだろう。
ここのローズカフェだけはセイランがちゃっかり守っていた為無事だが、被害にあった人々は、この豪雪から身を守る家屋を壊されたのだ。
早急に救援に動かねば、人命に危険が及ぶ。

「貴様!! 加減という言葉を知らんのか!!」

ロイに怒鳴られても、関係無いセイランは平然としている。

「僕じゃないよ」
「言い逃れするな!!」

セイランは嘘を言っていない。
それどころか人命が1つも損なわれないように、力を貸してくれた功労者だ。
本来なら、この街の平和を守る立場のロイは、彼に感謝を捧げねばならない筈だが、日頃の行いが悪すぎるセイランの言葉を、彼は信用できなかった。


「忠告しておくよ。今回ハイネが無茶をやらかしたのだって、『君憎し』の気持ちからだろう。恨むのなら、きちんと友情を育めなかった自分自身にしてくれ」
「余計なお世話だ、誰が恋敵となど!!」

思い込みとは素晴らしい。
ハイネは異世界からやってきた人間だが、錬金術師の才能はない。
単なる人間が天候を左右する力を持たないという一般常識に加え、セイランが言う『ハイネの無茶』を、キラに手を出したことと解釈したロイは、今日の惨事の真相を彼らが暴露しない限り、気付かないだろう。
勿論、ハイネはわざわざ自分から自分に不利になる事を言う人間ではないので、口を割るつもりはない。

「おっさん、こんな所で油売ってないで、とっとと軍本部に帰れよ」

かつて自分も、≪ZAFT≫に所属していた身だから、軍人達組織の命令系統は熟知している。

「司令官が不在じゃ現場はどう動いていいかわかんないだろ。リザさん困っているみたいだし、早く行った方がいいんじゃないの。俺のグフで良かったら指令本部に送ってやるから、救援活動第一に考えろ、な」
「MSなんか持ってこなくてもいいよ。帰るついでに、この男は僕が飛ばしておく」

セイランの腕の中でくったり眠っていたアンジェは、いつの間にか恋人の手で暖かそうな毛皮のコートに包まれていた。
慈しむように優しくお姫様のように抱えられた彼女は、このまま化け物の住処な虚空城へと運ばれるのだろう。
果たして、アンジェが起きていたら素直にセイランに連れて行かれたか疑問に思うが、ここで変なジョークを飛ばし、彼の機嫌を損ねるのは怖い。

「嫌に親切じゃん、サンキュ♪」
「150日の御礼だ。クリスマスプレゼントの貰いっぱなしは気が引けるし」
「ちゃんと期日までにロザリア姐さんに返せよ。俺の信用が無くなると、お前の逢引の手段が一つ減るんだからさ、頼むな」
「はいはい」

パチリと彼が指を鳴らせば、空間に亀裂が走り、人が潜りやすいように一枚の扉が出現する。
次元回廊だ。
セイランがとんと重厚な木の扉を押し開ければ、向こう側はいつも見慣れたロイの執務室が広がっていた。

「大佐!!」

指示を仰ぐべき上官の姿を見つけ、ホッと緊張が緩んだリザの顔が見える。
また親を見失った子供のように、情けない面持ちをしていた他の幕僚たちも、顔が一瞬のうちに輝いた。

大した信頼だ。

急ぎ足で部下達の元に進みかけたロイは、途中忘れ物に気づいて振り返った。
「キラ!!」
そんな男の広い背中に、ハイネは思いっきり足蹴をかました。

「何ぼやっとしてんだ、トロトロしてないでとっとといきやがれ!!」
「お前は信用できない、キラは連れて行く!!」
「あのなぁ、多忙を極める軍の司令部にさ、善良な市民を連れ込むんじゃねーって。キラの居心地が悪いだろう」
「私の妻だ!!」
「俺の話聞いてんの? お前の都合は関係ないだろが」

自分が指摘した通り、『キラを一番に考えられない男』を実地でやる野郎に、この状況下で誰が渡せる?
酔いが覚めたキラなら、率先してロイの手伝いに駆けずり回るだろう。
彼女にはそれだけの能力があるし、奥の手のフリーダムがある。
けれどキラには二度と軍に関わらせたくない。

セイランが消え、防波堤が何もない今、再び取っ組み合いの喧嘩になりかけた二人だが、ラウがロイの襟首をひっつかんで手繰り寄せた。
普段静かな男が暴挙に走れば迫力である。


「どうせ君は暫く本部に缶詰だろう。ゴタゴタが片付くまで、キラは兄である私が預かる。異存はあるまいな」

淡々と言葉を紡ぐラウの薄氷を思わせる瞳が、侮蔑に尖っていると思うのは、ハイネの気のせいではない筈だ。

「キラの性格は判っていよう。困っている人間が目の前にいれば、自分の身を投げても助けに走る。そんな無謀な献身を捧げる愚か者を、救援活動に励む軍部に連れて行って、貴様はキラの行動を制御できるのか? できないのなら置いていけ」

「…だが、それがキラの『意志』なら仕方があるまい…」
「彼女が動くように差し向けるのがか? 卑怯な大人の言い訳だな」

今の暴言で、ラウの秀麗な面持ちが悪魔のように歪んだ。

「やはり、私は当分貴様を『義弟』とは呼べぬな。今後私の愛しい妹が、貴様のせいで危険に晒される時は、この国の最後だと思え。この世界一つ焼き払う事など、私のプロビデンス1機で事足りる。ただの脅しと思うのなら、実行に移すがいい」

その言葉と共に、ラウが黒髪の錬金術師を次元回廊めがけてぶん投げ、扉はロイを飲み込むと、何事も無かったように忽然と姿を消した。

ハイネがソファに寝そべるキラの様子を伺えば、彼女は相変わらずに健やかに眠っている。その髪を撫ででていると、ラウは暖炉の火かき棒を掴み、新たな薪をくべ、ロイに散らされた火を大きく育てた。
ぱちぱちと木が爆ぜる音を聞きつつ、煌々と赤い焔に炙られた彼の美麗な顔は暗い。
眺めていると、ラウが口元を歪ませて笑った。

「どうした、私の顔に何かついているのか?」
「嫌、俺が言うのもなんだがさ、ほんと男にしておくのが惜しい美貌だよな」
「お前も似たようなものだろう」
「ありがとさん、で、ついでに何悩んでるのかなって聞いちゃったら愚問?」
「お前には判っているのだろう?」
「移住失敗したって思っている。でも、キラの事があるから今更帰れない……って?」
「早々に別れてくれれば、話は早いのだがな。だが、もしもこの国で戦争が始まったら、キラが泣こうが喚こうが、私は彼女を抱えてプラントに戻ろうと思っている」
「ラウは後ろ向きだな。今の俺達なら、ここの軍人達が戦争始めようが身を守れる」


はらはらと舞う雪。
それと同じぐらい、真っ白な髪。
どんな色にも染まる色を纏った筈の少女は、簡単に手に入りそうなのに頑固だ。


「いっそ滅茶苦茶に壊して、俺好みに作り変えられればなぁ……、楽なんだけど」
「ほう、何か含みがあるとは思っていたが、今回の目的は【それ】か」
「あ、バレた? 流石クルーゼ隊長は鋭い♪」
「ったく、あまり人をペテンにかけるものではない。いつか足元を掬われるぞ」
「はい、お兄さま。肝に銘じておきます♪」

白銀一色に塗り替えられた夜、ハイネは新たなグラスにワインとブランデー注ぎ、グラスを一つラウに差し出す。
キラの寝顔を魚に、2人だけの静かな酒宴が始まった。









携帯用の薪ストーブにくべられた木材が、炎に炙られ乾いて割れた。
木が音をたてて燃える香ばしい匂いと暖かい毛布、キラはそんな気持ちのよい眠りと別れ、のっそり眠い目を擦った。
何故か頭がズキズキ痛む。
二日酔いみたいな痛みに首を傾げると、コロリと転がった頭が何か筋張った固いものにグリグリ当たった。

「……ほえ?……」

しかも自分の腰にしっかりと絡みつく硬い腕に眉を顰める。

「ほよ?……うぎゃぁ!!」
「……あ、……ぉはよ……」

何故狭いベッドに、ハイネが潜り込んでいるのだろう?
しかも、自分は彼の腕枕で眠っていた。

「あわわわわわ……」

じわり涙目で自分の衣服を見下ろせば、ちゃんと昨日着てきた白いワンピースのままだ。
着衣の乱れは全く無く、ほっと胸を撫で下ろせば、反対側で寝ていたパジャマ姿のレイが、心配そうに見上げている。

「………キラ、どうした……?」
「あ、ううん、何でもない。オハヨ、レイ♪」

ちゅっと頬にキスを落とせば、途端レイの顔は輝き、何故かべったりとキラに甘えて抱きついてくる。

「どうしたの? 怖い夢でも見た?」
「……違う、幸せを噛み締めている。サンタさんが、ちゃんと俺にプレゼントをくれた。いい子にしていて良かった……」
「え?」

レイは何を勘違いしているのだろう?
だが、身体一杯使って喜びを表現しているレイに、惨い現実を突きつけるのは躊躇われる。
涙目で縋るようにハイネを見れば、彼は口元に笑みを浮かべ、大きな欠伸をしながら体を伸ばし、むくりと起き上がった。

「おはよ、レイ♪ 俺にも朝のキス頂戴♪」
「狭い、酒臭い、あっちへ行け」
「あ、可愛くねぇ事言うのはどの口だ。2人纏めて熱烈なキスをおみまいするぞ♪」
「蹴るぞ痴漢。キラ起きて。起きないとハイネに襲われる」
「うわっ、酷ぇ弟だぜ。誰がキラをここに運んで来てやったと思ってるんだよ」
「ここは俺のベッドだ」

ハイネは口を尖らせ、くしゃくしゃとレイの髪を掻き撫でた後、チシャ猫のように含みありげな笑みを浮かべた。

「キラじゃねーよ」
「は?」
「プレゼントは、靴下の中に入っているんだろ? ここに居るって事は、違うくない?」

レイはじと目でハイネを睨みあげた後、途方にくれたような情けない目でキラを見た。

「えーっと、僕もそう思う。ね、一緒にプレゼント見に行こう♪」

不満そうに黙り込むレイの手を繋ぎ、キラはバネのようにベッドから飛び降りた。
レイはブルーのパジャマ姿だったが、姉に促されれば素直に従う。
一緒に階段を降りれば、店の広い厨房から、ポトフの良い香りとガーリック・トーストの香ばしい匂いが漂ってくる。
中をひょいと覗けば、長い髪を後に一つに結わえたラウが、戸棚から背の高いグラスを2つ取り出した。

「お早う、キラ、レイ。昨夜はぐっすり眠れたかな? 朝食がもう直ぐできるから、ジュースでも飲んでいなさい」
「あ、兄さま、僕も仕度手伝います」
「なら、サラダとドレッシングを任せていいかな?」
「はい♪」

と言い終わった途端、キラは先に確かめねばならないレイの用事を思い出した。
ラウがカウンターにオレンジジュースを置いてくれたが、レイはグラスに目もくれず、兄の手を引っ掴む。

「どうした? ああ、朝のキスを忘れていたな」
「ラウ、サンタさんはちゃんと来てくれた?」

笑ってぽしぽしとレイの頭を撫でていた、ラウの動きがぴたりと止まった。

「ラウ兄さま、まさかサンタさん来なかったの?」

キラの声も冷ややかに尖る。
あれだけ念を押しておいたのに、ロイは来られなかったのだろうか。
東方司令部を預かっている身だし、急な用事が入る事だってありうるが、だったら前もって連絡が欲しかった。
レイを喜ばせておきながら裏切るのは、可哀想すぎる。

「ラウ、俺はいい子ではなかったのか?」
「ううん、そんな事ない。レイがどんなに素晴らしくて優しくて善良な子だって事は、僕がちゃんと知っている。もしサンタさんが来るのを忘れていたら、誓って僕が叩いてやるから!!」

昨日の夜、御礼の前払いと称してロイにベッドでのサービスを強いられたのだ。
指も上がらないぐらいへとへとになるまで頑張ったのに、報酬の踏み倒しなんてしやがったら許さない。

「……嫌、昨夜ちゃんとサンタはやってきたよ。イイコのレイに、プレゼントをくれた………かは、保証できないが……」

冷や汗をタラタラ流しながら、ラウが苦しい言い訳をする。
キラは油の切れたブリキ人形のように、ぎこちない動きでクリスマス・ツリーへと振り返った。
だが、レイが吊るしておいた靴下はこんもり大きく膨らんでいる。

「ほらほら、ちゃんとサンタさんはレイをいい子だって認めてくれたよ♪ なんか重そうだね♪ 何が入ってるんだろ? 僕も降ろすの手伝うね♪」

一転、胸を撫で下ろして朗らかに笑うキラに釣られ、レイの口元にも笑みが広がった。
2人手を繋いでツリーに駆け寄ると、キラは脚立を延ばして梯子に変えた。
レイが階段を昇り、靴下を結んでいた紐をナイフで切り落とす。

2メートル以上ある大きな靴下は、重みで勢い良く落下した。

『……痛ぇ!!……』

床に追突した途端、靴下の中から野太い男の呻き声が聞こえた。
予想外の出来事に、レイがキラを背に庇い、持っていたナイフをいつでも突き立てれるように構え、蠢く赤と白のしましま模様の布を凝視する。


だが、中からもぞもぞと寝ぼけ眼で這い出してきたのは、軍服姿のハボックだった。

「ああああ、いってぇ……、身体のあちこちが軋むぜ」

寝ぼけ眼でぼやくハボックを押しのけ、キラは目を吊り上げて靴下を引っつかみ、逆さまにひっくり返して勢い良く振った。

だが、ぽーんと空に飛んで出てきたのは、軍部支給の黒いブーツ片方のみ。
明らかに、ハボックの脱げた右側部分である。
自分がロイに持たせた筈の、お揃いのパジャマもエプロンもカップもクッションもパジャマも何にも無い。

「嘘!! 信じられない〜〜!!」
(ロイさん、どういう事なのぉぉぉぉぉぉ!!)

キラの絶叫に、レイの大きな蒼い瞳も、涙がこんもりと溜まりだす。

「何故、キラじゃない? 俺はこんなの欲しくない」
「そりゃ、お前とねんねしてたからじゃねーの?」

頭をガリガリ掻きながら、眠そうなハイネがペタペタと階段を降りてくる。

「サンタは爺さんだしさ、耄碌してたのかも」
「そうだね、お年寄りじゃ仕方ないよね」

ハイネのフォローに、キラは慌てて飛び乗った。

「返品って利くのか?」
「ネット・ショッピングじゃあるまいし、無理だろ」
「そうか、ならば仕方がない」

項垂れたレイは靴下を拾うと、勢い良くハボックに被せた。

≪待て弟!!≫

もがくハボックに手刀で首に1発当身を食らわせ、昏倒した彼をきちんと納めるときゅっと口を縛る。
そのままずるずる引きずって、ゴミと同じように外に捨てに行こうとする彼の背に、キラは涙目で飛び掛った。

「止めてレイ、ジャンさんが凍え死ぬよ〜!!」
「ああ大丈夫。1階のドアはもう使えないから」


窓を見てみると、ぎっしり雪がつまっている。
キラの目が点になった。

「ねえ、どれだけ雪が降ったの?」
「んー、2階の窓から出入りができるぐらい……、だよなラウ」
「イーストシティ始まって以来の豪雪だそうだ」

このカフェは、外観はお洒落で華奢な作りになっているが、実はコンクリートを流し込んだ煉瓦に、防弾ガラスが標準仕様の強固さだ。
倒壊の恐れはまずないが、シェル街の家々は古い昔ながらの木造が、まだ多く残っている。
街の人はどうなったのだろう?
それにロイは?

「そう不安気な顔にならなくてもいい。昨夜ロイ殿と話し合った結果、彼の仕事が片付いて迎えが来るまで、君はここに住むことになった」
「え?」
「大雪災害の後始末で、暫く軍本部に篭るそうだ。1人で広い家にいるのは不安だろう?」
「あ、なら僕、お仕事のお手伝いに…」
「だが、キラがあまり深く仕事場にしゃしゃり出ると、ロイ殿の管理が疑われるのだよ。君が善意で入り浸っているのは判っているが、軍人の妻になったのなら、もう少し公私混同に気をつけねばならないのではないか。彼の友人、ヒューズ中佐の夫人をご覧。彼女は夫の職場に来る事はあるのかね?」

キラはふるふると首を横に振った。

「ロイ殿はキラに甘い。ならばこそ、君も察してあげなければな。判るか?」
「うん、ラウ兄さま。本当にそうだね。僕、調子にのってたかも」
「なら、ロイ殿が来るまで、ここでおとなしく待つと誓えるか?」
「勿論だよ兄さま」

意気込んで言い放った途端、レイが目を輝かせてキラに飛びついてきた。

「キラ、サンタさんは俺にプレゼントくれた♪」
「え? でも、空っぽだったよ」
「ううん、キラと過ごす時間を沢山くれた。俺はとても嬉しい♪」

プレゼントとは、自分の欲しいもの。
嫁いだキラと何日も一緒に過ごせる事など、滅多に無い機会だろう。

やがてキラはこっくり頷き、きゅっと幼子を抱きしめた。

「そうだね、この雪はきっと、レイがいい子にしていたご褒美なんだよ♪」
「うん、サンタさんありがとう♪」

窓辺により、レイが見えないサンタに向かって大きく手を振ると、キラも一緒に笑った。



「……キラっち、絶対子供の教育を間違えている……」


靴下に押し込められたまま床に転がったハボックが、ぶつぶつ何かぼやいているようだが、レイの喜びに水をささないよう、さっくり聞き流した。

「んじゃ、俺が少尉を送ってくよ。これから俺達も忙しくなるし、キラも家事手伝いきっちり頼むな」
「任せてハイネ♪ 僕、ウエイトレスは得意だよ」
「嫌、キラが頑張るのは別の事。こき使うかもしれないけどさ、レイと一緒に頑張ってくれ」

ペテン師ハイネが、何か含んでいるように思えるのは、気のせいではない筈だ。
嫌な予感が頭を過ぎたが、レイと一緒ならばと、キラは無理矢理自分を納得させた。


――後日談――


ハイネの指示でミゲル達が撒き散らした大雪は、イーストシティの機能を完全に麻痺させた。

電気も通らず、電話も通じず、大雪で押しつぶされた家屋も続出し、日常生活を送れない避難民のケアで、只でさえ少ない軍人は対応に追われた。

真冬でしかも年の瀬では、満足な救援は中々行き届かない。
だがシェル街には、民間の切り札があった。

キラとレイのMSがコンテナを抱えて空を飛び、アメストリス全土に展開しているローズ・カフェ各店経由で食材と防寒具を次々と輸送した。


ハイネは店を開放して食料の無償提供に励み、同時に兼ねてからの予定通り、シェル街の大改革の計画をスタートさせた。
雹の災害で古い家屋は軒並み潰れ、街は壊滅的な状況に陥っているのだ。
倒壊した家屋を錬金術で直そうとしても、部分部分なら兎も角、一戸建てを内装品諸共従来通りになど、一体誰にできるという。
一番の難題だった地上げ問題も一瞬で片付き、また無償の慈善活動に励んだ彼の、推し進める計画を阻む者は、街の敵だ。


またレイもとても忙しかったが、キラとじっくり過ごす事ができた彼は、来年のクリスマスプレゼントに、今度こそキラママが欲しいと胸に期待を膨らませた。

クリスマスが終わり、ツリーを撤去しようとしたハイネの手を止め、このまま後一年残して欲しいと懇願した。
そして靴下の中に怪しげなボケ防止の薬草をたんまり詰め込み、他の飾りと一緒に木に吊るしておく。
「今度こそ、キラママを頼む」
レイの意気込みは凄かったが、靴下からメモと薬草が消える事はなかった。


そして、ゴタゴタが片付き、やつれたロイが妻を迎えに来たのは1ヵ月後。
律儀に連絡を寄越したばかりに、彼の到着にあわせてアマルフィの家族やアイマン隊の面々が集結してしまった。
散々皆に虐められたロイの童顔な面貌が、その日を境に年相応に老け込んだのは言うまでもない。



Fin

08.01.08




江戸時代、首都には100万を越す人が住んでおりました。
けれど長屋が多く、貧民を一掃し、街の整備を行いたかった幕府は、なんと江戸の大火を仕掛けで街の2/3を焼いてしまったという説があります。(なので付け火は17歳で病死した『お袖』の呪いではなく、江戸幕府の仕業?)

確かに焼けてしまえば、お役人は大層楽ですよね(鬼)。

ハイネは今回、レイのクリスマスプレゼントにかこつけて、自分の地上げを邪魔しているシェル街の悪い店をぶっ潰したという事で。
天災を捏造して住民を大量に亡くすのは、創作的には正しいんでしょうが…ミカルが虐殺を書きたくなかったので、人命救助にセイランに出動願いました。

ミカル的にハイネは怖い男です。
人好きする表の顔の裏で、大事なものとそうでないものの区別をきっちりつけ、要らなかったり自分の邪魔する者は、非情に容赦なく排除します。

しかもやっとここで20歳!!

大佐、ぽやや〜んキラに付き合って、頭に花を咲かせていたら、いつか愛妻をハイネに奪われてしまうかもしれません(笑)

ロイキラENDといいつつ、ロイVSハイネとなってしまいました。大佐、ゴメンね。
でもロイキラENDにした場合、アメストリスの内戦が邪魔して、二人はいつまでも戦いの渦中にいて幸せになれない気がするのはミカルだけでしょうか?
(いっそロイがCE世界にトリップENDなら…そこでも小舅が多そうですが( ̄_ ̄|||)どよ〜ん )

雹と霰と積乱雲、調べてくれた月猫姉さま感謝♪
アイデア思いついても、科学的根拠を調べるのが苦手なミカルです。理数系の姉さまには、いつも本当にお世話になっております♪
今後も宜しくね♪(* ̄∇ ̄*)

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