仔猫狂想曲







2月15日


キラは朝から宇宙港へと、兄’sの命令でお使いに走った。
月に長期出張している長兄ハイネへ、お手製のチョコと手紙を宅配便で送る為だ。

無事、彼女が窓口に荷物を出したその時。

「うひゃああああああ!!」

足首をしっとり生暖かな何かに貼り付かれ、キラはその場にへたり込んだ。

「嫌だ〜、……虫? 蛇?」

気色悪さに涙目で右足を見ると、彼女の足にへばりついていたのは、両手で掬えるぐらい小さな灰色の猫。
気持ち悪い爬虫類とかじゃなくてホッとしたが、やせ細った小さな体で、脇目もふらずに熱心にキラの足を抱え、ソックスの途切れた上の肌を嘗めている姿は疑問だ。


「……ねえ、君何やっているの……?」
「あら、また入って来ちゃったのね」

受付してくれた20代後半ぐらいのお姉さんが、カウンター越しに、しゃがみこんでしまったキラを見下ろしている。

「この猫ちゃん、ここの子ですか?」
「いいえ、初めて見た顔よ」
「でも、今、『また』って……」

「宇宙港には野良猫が一杯いるのよ。多分、貨物船で飼われていたのに、はぐれたか何かの事情で置いていかれちゃった子ね。こんなに人懐っこいのなら、まだ捨てられて3〜4日って所かしら」
「じゃあ、待っていれば、そのうち飼い主さんが探しに来ますよね?」

キラの期待に、受付嬢は気まずげに首を横に振った。

「ほぼ来ないわ。もしこのコロニーに次に来る事があっても、数ヶ月も先かもしれないじゃない。第一、その子とても待てると思えないし」

キラはじっと仔猫を見た。
背を撫でるまでもなく、骨が判るぐらいに輪郭がごつごつしていて痩せている。
きっと縄張り争いに負け、はぐれてから全く餌が捕れなかったのだ。
猫が人間の足を嘗めたがるのは、母猫のような匂いがするからだと、どっかで聞いた覚えがある。

頭を撫でると、目を細めて気持ちよさげに喉を鳴らす。
肌の暖かさを求めてか、すりすり体をこすり付け、キラの足に纏わりつく姿が哀れだ。
この猫は、今までずっと心細かったのだろうか。

「ゴメンね、僕君を飼えないんだよ」

気の毒だが、キラにはどうする事もできない。
自分だってヴェステンフルス家に飼われている身、なのにペットを連れ帰るなんて絶対無理だ。

「う〜ん、誰か貰い手いないかな?」
「一々同情していたらキリがないわよ」
「……うう……」

そう判っていても、手の平に収まるぐらい小さく、力弱くキラを嘗める無力な仔を、どうして見捨てる事ができよう?
もし、今キラが手を離したら、この子はきっと生きていけない。

キラは荷物の送り状の控えを受け取ると、結局猫を抱き上げ、そっと懐に忍ばせた。
その後無人エレカに乗り込むと、まっしぐらにスーパーマーケットに行き、大量の猫缶とバスタオル、それからキャットフードと首輪と鎖とミルクと皿とトイレ砂、そして巨大バスケットを購入する。

そのままエレカの中で首輪をつけて餌を与え、喰い膨れた猫がタオルケットに包まって眠ってしまったのを見計らい、布ごとバスケットに押し込んだ。
そしてアスランにチョコを届ける為に学校へ向かうと、ついでに生徒会室に寄り、そのバスケットをキラの机の下に隠したのだ。

机の上に、『皆にお願いです。僕が兄さまを説得するまで、チビ猫を預かってください  byキラ』と、一方的な置手紙を残して。


☆☆☆


それから10日後。



「お〜ラス、すげえ顔だな」

スカイブルーのエレカから降りたミゲルは、ド派手なオレンジ色のスポーツカータイプのエレカを見つけると、大きく手を振った。
マンションの地下駐車場で、ばったり一緒なんて珍しい。
だが、目の下に大きなクマを作った弟は、余程眠いのか、すでに瞼が落ちかけている。
となれば、勿論ミゲルはほってはおけない。

「おーい、お前大丈夫か?」

今日は2人が通っている、カレッジの学年末試験の最終日である。
学部は違うが学年は同じ。
留年が確定しているミゲルと異なり、ラスティは崖っぷちギリギリだが、試験の結果次第で進級できる可能性が残っている。

眠たそうな彼に肩を貸そうと腕を手に取るが、いきなり振り払われた。

「何だ、元気じゃん」

ラスティは後ろめたそうに彼を見上げている。

「俺何かしたか?」
「だって普通嫌だろ。学校同じなのに、弟の後輩になるかもしれないなんて」
「あん?」
「俺が試験頑張ったら、ミゲル…いたたまれないかな……って」
「はぁ?」

兄貴肌で面倒見が良く、気遣い抜群のミゲルだが、自分の事に関しては『人は人、自分は自分』を貫く奴である。

世間が煩く言う程、弟に学年を抜かれる事なんか全く気にしていないが、日頃生意気ばかり言うやんちゃなラスティが、気まずげに視線を反らす姿は笑える。
ミゲルは可愛い弟の頭を、盛大にぐしゃぐしゃと掻き撫でた。

「ば〜か、進級できそうなら堂々と喜べよ。ホントお前妙な所で気遣いしいだから♪」
「うるせーミゲル、子供扱いすんな」
「はいはい怒りっぽいな。お前完徹?」
「ああ」
「だったら早く寝ろよ」

明日からお互い、仕事メインの日々に戻る。
社会人と学生の掛け持ちは、自分達の首を絞めると判っている。
だが、お互いどれだけ仕事が多忙になっても、カレッジに執着して通い続けるのは、気楽に仲間達と戯れられる学生生活を惜しんでの事だ。

ハイネを見れば良く判る。
たった20でヴェステンフルス財団の総帥になった彼に、私の時間なんて殆ど無い。
ただのハイネでいられる時間なんて、自宅に戻った時だけだろう。

満喫できる自由時間なんて、一生のうち本当に僅かだ。
それを、自分から投げ捨てるのは勿体無い。

エレベーターがマンションの最上階に辿り着き、2人は揃ってエントランスを潜る。
途端、ドアが勝手に開き、愛しい妹が満面の笑みを浮かべて飛びついてきた。

「お帰りなさい、ミゲ兄〜♪ラスにぃ〜♪ にゃ〜ん♪」

なんと、キラが自発的に猫耳カチューシャと首に鈴……と、猫のコスプレでお出迎えだ。
膝上ひらひらの白のパニエを翻せば、長い尻尾がゆらゆらと揺れる。
胸元は白のチューブトップのみで、細い腰にお臍も丸出しでかなり扇情的だ。

「にゃんにゃんにゃ〜ん♪」

そう猫のように甘えてじゃれついてくれば、ミゲルを押しのけ、ラスティが狂喜乱舞でキラを抱きしめた。

「お前最高に可愛い♪ 俺にオネダリか? もう俺、今日は何でも聞いてやるぜ♪」
「ほんと♪ 嬉しいラス兄さま♪」

はしゃいだキラが、熱烈なキスをラスティに贈る。
でれでれと相好を崩した彼は、彼女の髪をくしゃくしゃと掻き撫でた。

「そうだよな〜、お前、試験最中寂しい一人寝ばっかりだったもんな〜。今からたっぷりと可愛がってやるからな♪」
「え?」

キラ猫の顔はみるみる青ざめたが、すでに遅し。
そのままラスティに小脇に抱えられ、居間に飛び込んだかと思うと、即行ソファに投げられ押いかぶされる。

「にゃ? ふぇ? 兄さま…ちょっと? 僕、そっちのおねだりじゃなくて……」

戸惑い、猫耳を揺らし、ぱたぱた可愛く抵抗しているが、今日は同情の余地なくキラが悪い。

男は疲労が溜まると女が欲しくなる。
くたばる前に自分の遺伝子を残そうとする、生存本能に基づく習性だ。
完全に徹夜状態で疲労困憊中のラスの前に、可愛い猫耳メイドで現れれば、喰ってくれと言っているようなもの。

ミゲルもこの所、ずっと窮屈な試験三昧だったので、今日はキラを抱っこし、ゆったりDVDでも見て癒されたかったが、ラスのようにえっちしたい気分ではなかった。
かといって、日も暮れないうちから、好き放題キラが犯されるのを眺めるのも腹が立つ。この分では、ラスティも満足するまでキラを手放すまい。

「ラス、盛るのは勝手だが、キラの部屋でやれ」

衣装を纏めて収納してあるクローゼット室に、ラスティと自分のコートを置きにいくと、ドアが少し開いていた
しかもにゃーにゃーと鳴き声が聞こえる。
居間のキラと明らかに声が違うし、かさこそと生き物の気配もする。


いぶかしみつつ扉を開けば、つぶらなブルーと碧の目をした、手の平に乗るサイズの仔猫がひょこひょこと楽しげに跳ねている。
良く見ると、獣は先日月経由でハイネに送って貰った、一度も袖を通していない2万ドルのアルマーニのスーツに爪を立ててじゃれ付き、びろびろのボロ雑巾に変えていた

「チビの癖に目利きだな、お前」

探せば色んな被害が見つかりそうだ。
ミゲルは猫の首を引っつかむと、むっすり唇を引っつかみ、弟妹が戯れる居間へと戻った。

「………こいつを持ち込んだのはキラだな? 言い分があるのなら聞いてやるから、俺の前に座れ………」




☆☆☆



翌日の放課後、キラは項垂れながらルナと一緒に『里親募集』の張り紙を剥がして回った。

「あれキラさん、貰い手見つかったんですか?」

中等部の校舎で、3年生のニコルに声をかけられた途端、キラの大きなアメジスト色の瞳に、みるみると涙が溢れた。

「ふえ〜〜ん、ニコル〜〜!!」
「どうしたんですか?」
「昨日チビが、とうとうミゲルさんとラスティ先輩にバレたんですって」
「僕、今まで見つからなかった方が不思議です」
「カレッジは試験中だったし、お2人は仕事もそれぞれ抱えていて多忙だから。ああもう泣かないでキラ、あんたはよく頑張ったわよ」

ルナがよしよしと頭を撫でてくれる。

「……ゴメンねニコル君、みんなも協力してくれたのに……」

キラが無責任にも生徒会に置いて行った猫は、ルナが3日も家に連れ帰ってくれた。
特にルナの母が猫好きで、大層懐っこいチビを気に入ってくれたのだが、『服に獣の毛がつくから近づけないで』とメイリンに嫌がられ、結局ホーク家で飼われる事はなかった。

自宅に連れて帰り、学校の掲示板に『里親募集中』の張り紙してみたが、一週間経っても貰い手はとうとう見つからなかった。

「で、チビちゃんは今何処に?」
「…あんた、それは聞いちゃ駄目でしょ?……もう、メイリンめ……、絶対暫く口聞かないんだから……」

ルナも辛そうに俯いてしまった。

昨夜、キラは散々ミゲルにお尻をぶたれ、二度と生物は持ち込まないと誓わされた。
その上チビは今朝、バスケットに押し込められ連れて行かれてしまったのだ。

爪を立て、バスケットの籠から出ようともがき、キラに助けを求める悲痛なチビの泣き声が今でも耳を離れない。

「…チビ、ゴメンね……。僕が無力だったばかりに……」

キラは張り紙の写真を見下ろし、しゃくりあげて泣くのを堪えた。

手頃なペットロボが氾濫している昨今、誰が手のかかる生きた猫を欲しいと思うだろう?
それに生きた猫を飼えば、余分な空気消費量分、課税されるのがプラントだ。
宇宙にぽっかり浮いている人工物だから、些細な事でも世知辛い。

しかもチビは雑種だった。
ノラ猫の引き取り先など、もう保健所しかありえない。


「そう言えば、さっきアスランが生徒会室で、猫のマイクロユニットの図面を引っ張っていましたよ。キラさんにプレゼントするつもりらしいです」
「もう、あのヘタレは。いつもどっかずれているのよね、後で絶対殴ってやる!!」
「ルナってばやめてよ」

皆それぞれ方向は違うが、キラを想ってくれている。
優しい皆にこれ以上心配をかけたくない。
キラは急いで目を擦った。

だが――――――

「ヴェステンフルスさん!! 猫ちゃんを私に譲ってください!!」
「は?」
「俺に譲ってくれ」
「え?」
「いいえ、私に譲って。誰より大事にするから!!」
「何ずうずうしい事言ってるのよ、あんた散々キラさんの事虐めてたじゃない!!」
「そっちこそ、影で色々嫌がらせやっていた癖に!!」

生徒会室前の廊下は、集団ヒステリーと化した生徒で溢れていた。
数は総勢30人程で、正に殴り合いでも始まるのではないかという殺気に、キラは目をまん丸にして立ち尽くす。

また遠くから集団で、キラの回収しそびれた張り紙を手にした中等部の生徒が、血走った目で駆け寄ってきた。
若く勢いのある少女達は、高等部の生徒を押しのけてキラの前に転がり出た。

「先輩は、ミゲル・アイマンの妹なんですか?」
「う……、うん、そうだけど……」
「じゃ、やっぱりホントなんだ!! きゃあああああ!!」
「はぁ?」

次々沸き起こる少女達の歓声に、もう、何がなんだか訳が判らない。

「ねえ、一体君達何事なの?」
「あんた達、キラに話があるのならアスランを通してからにして。今呼んで来るから、あたし達を其処の部屋に通して」

冷静なルナが、キラの手を引き部屋に入ると、満面の笑みを浮かべたアスランが、ちょいちょいとキラを手招きしている。

「ねえアスラン、あの子達って一体何?」
「その前に……キラってば、携帯を鞄に置いて行っただろ。さっきミゲル兄さんから連絡があって、伝言預かっているよ『俺のサイトを今すぐ見ろ』ってさ」

首を傾げつつ、アスランのノートパソコンを覗き込む。
画面は、ミゲル・アイマンの公式サイト『ZIPS』を開いていた。
その特集記事の欄のトップに、デカデカと『チビ』の写真が載っていたのだ。


上半身、白のドレスシャツを一枚だけ羽織ったミゲルが、愛しそうにキスしている仔猫は、正しくキラのチビだった。
セピア色の動く画面の中、良く通るハイテノールの声で、優しいバラードを歌いながら仔猫と遊び、戯れている姿はシンプルながら格好いい。
いつも見慣れている筈の兄なのに、キラですら画面に釘付けだ。


【今回の俺のプロモに出演した仔猫を貰ってやってください】


条件はちゃんと飼える人。
どれだけ自分が猫の飼い主に相応しいか、推薦文をメールで送ってくれ。

4大特典

マリア・ブランシュホテルのスイートルーム宿泊券10日分進呈
ラスティ・マッケンジーの春のコーディネート一式プレゼント(1万ドル相当)
猫が亡くなるまで、月1回ミゲルと直で生映像とメール交換
猫が亡くなるまで、毎年ライブチケットをペアで贈呈(勿論アリーナ一列目)


おいしすぎるオプションの数々に加え、月一回とはいえ本人と動画メールが交換ができるなんて、ファンなら是非とも欲しい権利である。
応募者が殺到するのは当たり前だ。



「流石兄さん、キラの事を本当に良く考えてくれているね」
「うん、良かった……、良かったチビぃ……」


保健所送りになってないと知り、嬉し涙がぽろぽろとこぼれたけど、アスランとルナがそれぞれ優しく拭ってくれた上、頭を撫でてくれた。


明後日の20時、ミゲルが司会を務めるTV番組で、飼い主が発表されるという。

「その時間、俺、キラの家にお邪魔するから一緒に見ような。ミゲル兄さんがキラの夕飯を食っていけって誘ってくれたんだ」

喜びは皆で分かち合うものだ……楽しいイベントは大勢で盛り上がりたがる、ミゲルらしい気配りだ。

「じゃあ僕、アスランの好きなロールキャベツ作るね♪」
「でもさ、ラスティが居ないから、条件がルナも一緒に……なんだけど。 勿論、帰りは俺が責任持ってエレカで家まで送るから、頼めるか?」
「はいはい、お付き合いするわよ。キラのデザート美味しいもん♪」
「ありがとう、2人とも大好き♪♪」





そして2日後の20時。
厳選な選考の結果、選ばれたのは―――

TV画面の向こう、チビを抱きかかえたミゲルが、高らかに少女の名前を読み上げた。

「メイリン・ホークさんです、おめでとう!!」

その途端、ルナは飲んでいたオレンジジュースを盛大に噴出し、キラもアスランも目をまん丸に見開いて固まった。

スタジオの観客席で、両手を頬に当て飛び跳ねて喜んでいるツインテールの少女は、どっからどう見てもルナマリアの妹だ。
スタッフやゲスト、それにミゲルからも拍手で迎えられた彼女は、小さな灰色の仔猫を手渡された上、ミゲルからほっぺにキスまで貰ったのだ。
スタジオ内はその瞬間、きゃあああああと少女達の悲鳴が殺到した。

『大切に可愛がってくれよな』
『勿論です!!』

仔猫にほお擦りをし、抱きしめる彼女は、本当に気付いているのだろうか?
自分が宣言した言葉の意味を。


TV生中継で、ミゲルにキスまで貰ったのだ。
これで、仔猫に無体なマネをすれば最後、ミゲルのファンにメイリン自身がリンチに合うだろう。

だが、こっちのルナもかんかんだ。

「あの子ったらぁぁぁ!! 毛がつくから自分にチビを近づけるなとか言ってたの、あんたでしょうがぁぁぁ!!」
「ルナ、気持ちは判るけど落ち着いて!!」


キラがまあまあと宥めても、今夜、ホーク家では姉妹喧嘩が勃発する事は確定した。


☆☆☆


その夜、ミゲルが帰宅したのは22時だった。
珍しく2人っきりの夜だが、まったり2人でお風呂に入り、キラはココア、ミゲルはコーヒーで、のんびりとソファで寄り添って寛ぐ。

「選考はミゲル兄さま?」
「ああ、決め手はこれだ。読むか?」

彼がぴらりと取り出した、1枚の用紙を覗き込む。

『私はキラさんの親友、ルナマリア・ホークの妹です。もしチビちゃんがうちに来れば、キラさんと何時でも遊べます!!』

「僕の所にもね、早速ルナから一杯メールが来ているの」

キラも嬉しげに、自分のオレンジの携帯を開き、画面をミゲルに見せた。


チビが家に来て、母親が大層喜んだ事。
早速猫にトイレを躾け、お風呂に入れてざぶざぶ洗ったら、ずぶ濡れのまま大脱走をかました事。
≪メイリンは気まぐれに可愛がるだけだから、結局ルナと母で面倒を見る事になるんだろうけど、やんちゃな妹ができたと諦めるわ≫

ぶうたれながらも、次々と送り込まれた写真メールと動画は愛しげで、キラは目を細めた。


「う〜ん、メイリンちゃんに渡したの、まずかったか?」
「ううん、なんのかんの言っても、ルナは面倒見がいいから大丈夫。彼女なら安心だよ」

ルナなら姐御肌だし、きっとチビを一生大事にしてくれる筈。

たった1週間しか一緒に居られなかったけど、灰色の暖かでまんまるな仔猫は、本当に可愛い子だった。

叶うならキラが飼いたかったけど、サンプル・キティの平均寿命は22歳。
何時、自分は廃棄処分で薬殺されるか判らない。
猫の寿命がいくら短くても、きっとあの子はキラより先に逝く事はあるまい。

キラは2ヵ月後に17歳になる。
3兄弟の『妹』でいられるのも後数年だ。
自分の身すらどうなるか判らないのに、猫の一生に責任なんて、取れっこないのは判りきっている。

諦める事は慣れているけれど、本当に手放すのが辛かった。
でも、チビはこれで安心して暮らせるのだ。


「……チビ、幸せになるんだよ……」
「お前も幸せになるんだ」

ミゲルがそっとキラの肩を抱き寄せ、頬にキスをくれた。

「もう、十分だよ」
「ば〜か、全然たりねーよ。俺、絶対お前を手放さねーから。いつか俺の為にウエディングドレス着てくれ、な?」
「うふふ、兄さまったら」

笑って返事をはぐらかせば、猫のように喉を擽られる。
ミゲルの大きな手が気持ち良い。

「ミゲル兄さま、今日は本当にありがとう」

飼い猫の幸せは、飼い主次第。
チビの一生が、幸せでありますように。
そう願いつつ、キラはミゲルの唇にお礼のキスを贈った。


Fin

08.03.17



狂想曲シリーズ(?シリーズだったんかΣ( ̄ロ ̄lll) ガビーン)、結構ミゲルが美味しい所取りしている気がするのは、ミカルの気のせいでしょうか?

チビちゃんのモデルは、みずたまさまのプログで見かけた可愛い猫ちゃん達です。
愛情満載で、見てるだけで微笑ましい。

ミカルは猫を飼った事ありませんが、お隣さんにはいます。
尻尾でワンコを挑発したりとか、擦り寄ってくる所とか、仕種がメッチャ可愛いですよね♪



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