背中の翼
男の子の背中には、羽が生えていると思う。
どんなしがらみも、どんな嫌な事でも、その羽で飛び越えてしまうの。
そしてその羽で行ける遠くを、見ている。
彼は、今まであったどんな男の子とも違っていた。
ううん、男の子なんて言ってはいけないのかもしれない。だって、彼は世界に9人しかいない守護聖の一人で。器用さを司る、鋼の守護聖。
最初は、なんて嫌な人なんだろうって、思った。折角の女王試験だっていうのに、興味はないって言うし、守護聖になんてなりたくはないって言ってるし。優しく色々な事を教えてくださったルヴァ様に迷惑ばかりかけてるし、お菓子をご馳走してくれたマルセル様を良く苛めてるように見えたし、元気づけてくれたランディ様と喧嘩ばかりしてるし、とにかく、どうしてあんな態度ばかり取っているんだろうって、そう思ってた。
でも、ゼフェル様が反抗的な態度を取っている訳を聞いて・・・・・・私は、ショックだったし、そんな事を知らなくってひどい事を言ってしまった事を、反省した。
そして、思い切って謝ったら・・・・・・
「別に、そんなコトいちいち気にしてるわけねーだろ」
そうぶっきらぼうに言った。
その横顔が、良く見るとほんのり赤くなっていて・・・・・・器用さを司る守護聖なのに、なんて不器用な人なんだろう。そう思ったの。
それから、私はゼフェル様と色々なお話をした。
そうすると、今までとは全く違うゼフェル様の姿が見えて来た。
乱暴な態度も、いじっぱりな態度も、全部好意を素直に表に出せないだけで、本当はとても優しい人なんだって。
不思議だった。
守護聖であるということが、彼をがんじがらめに縛りつけている。守護聖として過ごしている間は、普通の生活を送れない。下界と聖地は時の流れも違っていて、私と年が変わらないように見えるゼフェル様も、年下にしか見えないマルセル様も、私が生まれる前からもう守護聖で。
だから、ゼフェル様は、自分よりも遥かに年上なのに、少年のようにしか見えなかった。時折その紅玉の瞳に浮かぶ辛そうな光さえ除けば。
だからなんだろうか。
ゼフェル様は守護聖という鎖で聖地に縛りつけられている。それはとても強い鎖で、とても重い筈なのに。
好きな機械の話をしている時や、ゼフェル様の作ったロボットを見せてもらっている時は、その鎖が全然見えない。
ゼフェル様の翼は、そんな鎖すらかなわないほど強く羽ばたけるんだろうか。
でも、辛そうにしている時は、その鎖がとても強いように見える。
どっちなんだろう。
ゼフェル様の翼は、強いんだろうか。
それとも弱いんだろうか。
ぼんやりとそんな事を、私はゼフェル様を見ながら考えていた。
こもれ日がゼフェル様の髪の毛を照らしていて、銀色に光ってとても綺麗。
「なに見てんだよ」
私の視線に気が付いて、ゼフェル様がちょっと怒ったように言う。でも、私はもう知っている。本当に怒っている訳ではないという事を。
「ゼフェル様の髪の毛」
そう素直に答ると、ゼフェル様はふいと横を向いた。
「そんなもん、今さら見なくったってかまわねーだろーが」
その頬が、ほんのり染まっている。
「大体、そんだけでぼーっとしてたのか?」
ぼーっとしていた訳ではないのだけれど、私はゼフェル様に考えていた事を話して見た。以外にも、ゼフェル様は私の話を笑わずに真剣に聞いてくれた。
「羽ねぇ・・・・・・」
そう言って、ゼフェル様はじっと私を見つめる。
「オレには、おめーの背中の方に羽があると思うぜ」
私?
私は、そんな事考えてみたことがなかった。
「真っ白できれーな・・・・・・だから、オレはおめーが女王になるんだと、そう思った。守護聖なんてって思ってたけど、おめーが女王になるんだったら、オレもなんかしないといけねーって、そう思った」
初めて聞く言葉。
最近、ゼフェル様が鋼のサクリアをエリューシオンに贈ってくれていたのは、そういう訳だったんだ。
でも・・・・・・
「私、そんなだいそれた人間じゃないですよ。ロザリアと違って普通の女子高生だし」
そう言うと、ゼフェル様は私の頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でた。
「おめーのどこがふつーなんだよ。このオレにやる気を出させたってだけで、すごいじゃねーかよ」
なんか違う。
そう思ったのが表情に出てたんだろうか。ゼフェル様の手が更に動いて、髪の毛をくしゃくしゃにする。
「それでも、オレにはおめーの背中の方に羽があると思うぜ。オレが、守護聖という鎖に縛られていないように見える時があるとしたら、きっとおめーの翼のおかげだ」
そんな事、考えて見たこともなかったけれど、もしゼフェル様が本心からそう言っているのなら。
「それじゃあ、私、少しはゼフェル様の役に立ててますか?」
そう言うと、ゼフェル様は突然手を引っ込めた。そしていきなり私に背を向けてしまう。
「ゼフェル様?」
拒絶されたようで哀しくて声をかけると、後ろを向いたままゼフェル様が応えた。
「そんなコト、言うんじゃねー。くそッ、決心が鈍るだろーが」
「決心?」
何の事だかちっとも分からない。
「だから、オレはおめーが女王になるべきだって、そう思ってんだよ」
ゼフェル様の買いかぶりに違いないと思うけれど、それはさっきゼフェル様に聞いた。でも、それと決心がどう関係あるのかがちっとも分からない。
「けど・・・・・・そんなコト言われちまったら、おめーを女王になんてしたくなくなるじゃねーか」
女王にしたくない?
それは、私がやっぱり女王に相応しくないっていう事なんだろうか。
私は思わずそう口に出してしまっていたらしい。
「そうじゃねー」
そう言って、ゼフェル様が振り向いた。
真っ赤な、顔。
「だから、オレは、おめーのコトが好きだって、そう言ってんだよ」
叫ぶように言われた言葉が、頭をぐるぐると駆け回る。
ぜふぇる様ガ、私ヲ好キ?
「え、ええ〜〜〜〜〜!?」
思わず、私はそう叫んでいた。
「ええ〜〜!? っておめー、嫌だとかぬかすんじゃねーだろーな」
流石に不機嫌そうなゼフェル様の声。
でも、私には全然それにかまえる余裕はなかった。
「だって、だって・・・・・・」
「だって、なんだってんだよ」
「絶対、私の片思いだとばっかり思ってたのに!」
私の言葉に、ゼフェル様の険しかった表情がふと緩んだ。
「・・・・・・そんじゃ、そんなまぎらわしい言い方すんじゃねーっ」
後でこの時を思い出すと、ゼフェル様の言った事は至極もっともなことだと思う。でも、私は本当にそんな余裕はなかったから。
「だって、びっくりしたんですもん」
そう、言い返してしまった。
すると、ゼフェル様は呆れたように大袈裟に息を吐いた。
「ま、いーけどよ」
そう言って、柔らかな草の茂みに腰をおろした。
「おめーが試験降りるって、報告考えねーとな」
そしてまだ立ったままの私を、何故か眩しそうに見て、
「ま、いざとなったらおめーの羽で逃げ出すか」
と言った。
だから、私は笑って言い返した。
「ゼフェル様の羽で逃げるっていう手もありますね」
そして、二人でそのまましばらく笑っていた。
もしかしたら、皆背中に翼が生えているのかもしれない。
でもその翼は一人では飛べなくて。
一緒に飛べる人を、探すのかもしれない。
FIN.
姫様から、セイラン様の代わりにほのぼのしているゼ〜様を頂いてしまいました♪♪
嬉しい〜!!(感涙) どうしたらこんな可愛いお話が書けるのでしょう!!
照れ屋なゼ〜様がもう悦〜。半分ずつの翼が、二人揃って一人分ですか!!
メチャツボな設定ですvv
姫様のゼ〜様は、ミカルの理想です。
ありがとうございました〜(* ̄∇ ̄*)
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