第二章光石の街

 
 ほぼ同じくしてレンも帰り、状況を話し始めた。
「かなり深刻です。患者は城外の診療所で一堂に集められていましたから色々診ましたが、皆目原因が分かりません。

昏倒して全く食物をとらないのですから衰弱するのはあたりまえですが、話しに訊いていたよりも衰弱の仕方が

速いのです。目の前で見る間に枯れ木のようになっていく者もいました・・・治癒してもまるで乾いた砂に

水を注ぐようなもので・・・無駄に終わってしまうのです」
「衰弱が速い・・・それも治癒さえも吸い取られる?もしかして・・・」
 アーシアは一瞬思いあたる事があったが・・・ありえないと頭を振った。
「アーシア?」
「レン!その患者さん達すぐにでも私に診せてくれないかしら?ちょっと気になることがあるの・・・」
「ええそれは・・・城で謁見するわけじゃないので大丈夫ですが・・・」
「じゃあ、直ぐいきましょう!」
 三人は急ぎ、診療所へ向かった。診療所内は患者を隔離した状態だった。

原因が分からないため伝染を恐れて集められているが、患者は次から次へと増える一方のようだった。
「こんなに沢山・・・・」
 かなり広い場所だが足の踏み場の無いぐらい何十人いるか分からない程だった。

次から次と患者は増えるがその分、亡くなる人も同じく出ていた。

みんな眠るように静かで物音一つしない―――死の影だけが刻一刻と刻まれているだけだった。
 アーシアは今にも死にそうに干からびた患者の側に(ひざまず)きレンを呼んだ。
「レン、お願い!この人のお腹を念視して見て。とても小さいのだけれど種みたいのが見えないかしら?

見落とすくらい小さなものなんだけど・・・」
「種ですか?分かりました」
 念視をするレンの側らでアーシアは心配そうに、彼の答えを待った。
「確かに――小さなものがありましたが、ただ消化されてないだけでは?これが何か?」
 アーシアは、やっぱりと言う表情で大きく息を吐き出した。
「消化不良じゃないのよ。でもどうしてこんな場所で・・・その植物は北の方にしか生息しないものなのよ。

氷点下の場所にしかね。こんな温暖な気候ではありえないのだけれど・・・」
 アーシアは説明し始めた。
「この植物は北でも奥地にしか生息しなくて、胞子を飛ばして動物に寄生させるの。

寄生すると精気を養分として吸い取り、死んだ骸を糧に発芽するわ。

胞子は寄生するまで熱に弱いから火を使って食事をする北方地方の人間にはほとんど無害に等しくって、

あまり知られていないのだけれど一度だけ僻地で人間に寄生したことがあって、その時この植物の事を初めて聞いたわ。

親樹がどこかにある筈だけど・・・その追及は後にするとして。原因はその胞子のついた食物を食べたからだと思うわ。

ここは生で食することが多いからでしょうね。もちろん全部が全部根付くのではないのだけれど・・・

それに亡くなったら火葬するから全く原因は分からなかったのも頷けるわ・・・」
 レンも初めて訊く事例に驚きを隠せなかった。  
「治療方法は?」
「無いわ。胞子は身体に根付いているから取ることは出来ないのよ。でもレンなら出来るかも・・・

私も手伝えば・・・どうにかなるかしら?」
「どうすればいいのですか?」                               
 アーシアは少し言い(にく)そうだった。
「胞子に許容範囲以上の精気を与えるのよ。そうしたら胞子が枯れるの・・・だけどその許容範囲と言うのが

とても〈力〉を使うのよ――大変なことよ」
 さすがのレンも黙ってしまった。それは瀕死の状態の者を生き返らせる以上の力がいる筈だからだ。

見渡す限りの患者の数に思わず視線を向けたが、その整った優しげな貌を厳しく引き締めて言った。
「ここで躊躇(ちゅうちょ)している時間はありません!こうしている間にも命が失われていくのですから。

どこま
で出来るかわかりませんが、この〈力〉尽きるまでやりましょう」
「分かったわ。ではレン、私に〈力〉を下さい。あなたの望みのままに私の力を注ぎましょう・・・

一人でも多く救えるようにレンの心のままに・・・」
 アーシアはにっこり微笑んで、左手を差し出した。

左手―――そこには〈宝珠〉の象徴である光を
(かたど)ったかのような金の紋様が浮かぶ。
その手をレンは右手で受けた。右手―――そこには〈地の龍〉の象徴である翡翠の(りゅう)(もん)が浮かんでいた―――
 ラシードは、眼を見張った。考えられない〈力〉が二人から立ち昇ったかと思うと室内に満ち溢れ、

眩むような光りが弾けたのだ。
「・・・・・・・」                       
 信じられない事に全ての人々が、次々と目覚め始めていった。
「良かった・・・レンあなたの治癒力は本当に素晴らしいわ」
 アーシアはそう言うと目眩をおこしてよろめいた。
 レンは、ぐっとアーシアを支えると、感嘆しながら優しく微笑んだ。
「素晴らしいのはあなたの方です。正直、私がここまで力を出せるとは思いませんでした。本当に素晴らしい珠力です」
 アーシアは目眩も治まってにっこりと微笑んだ。                            
「そんな事は無いわ。私は龍の望みを叶えるだけだもの。レンに従っただけよ」
 ラシードは表情にはでなかったが、ここでも少し驚いていた。
 多分、史上最高の〈珠力〉を持つ宝珠の謙虚さに―――
(本当に変わった宝珠だ・・・・)   
 アーシアは早速、原因の大元でもある親樹の聞き取り調査を目覚めた患者達にしていた。

それによると光石を採掘されつくした小さな山があって、その中が空洞で氷室のようになっている所があるらしい。

それもかなり中は寒いとの事だ。
 外はすっかり陽も落ちて星が煌き始める頃だったが、三人は構わずその氷室に向かった。
 月あかりだけで様子が分からないが、光石を採掘されつくした山肌は、灰色の岩だらけで無残な感じだった。

その一角に洞穴があった。その中に入ってみると氷点下とまで言わないが、かなり温度が低いのは確かだった。

 そして行き着いた先にその樹はあった。
空洞全体に根を張り、ほのかな光を放っている。

優しい光りだ。誰もそんな恐ろしい樹なんて思わないだろう。胞子も柔らかな綿毛がついていて

ふわふわ浮かんでは、湧き出ている水に落ちていた。この湧き水は外を流れる小川に流れついているようだった。

低い水温に守られて人々に害を与えたようだった―――
   
「これが・・・この樹の擬態なのよね。寒いところで見るとつい、ふらふらと寄ってみたくなるらしいわ」
「で、これは焼けばいいのか?」
「ええ、熱に弱いから樹はそれでいいけど。問題はこの山かしら・・・出来たらこれ壊さないといけないわ。

だいたいこの樹を見つけたら、その周辺を焼きつくさないといけないといわれているの。根が張っているからそこから

又、芽吹くらしいわ。まあ、ここはたまたま条件が揃ってこんな事になったのでしょうから――氷室となっている山さえ

無くせば心配はないと思うわ。だから山は後でもいいけど、取りあえず樹を先に焼いてもらえるかしら?」
 アーシアは先程かなり力を消耗し、山を砕く程の力は出せそうも無かったので消極的に言った。
 しかし、ラシードは事も無げに淡々と答えた。
「炎で焼いて山を砕けばいいのだろう。分かった」
「えっ!」                           
 アーシアは反論する間もなくレンに洞穴から連れ出されてしまった。
「私、手伝わないと!」
「大丈夫ですよ。ラシードならあれぐらい簡単な事ですから」
 レンの言った通りだった。小さいとはいえ山が紅蓮の炎に包まれたかと思うと、

見る間にまるで砂で作った山のように崩れていった。
 カサルアが以前言っていた―――ラシードは〈火の龍〉の中で一番強いと―――  
(・・・強いと言ってもこれは、四大龍以上じゃないかしら?)                            
  感嘆して見ていたアーシアをよそに、彼は〈龍力〉をさっと引くと、二人を無視して

振り向くことなく
飄々(ひょうひょう)と去り始めたのだ。
(ちょ、ちょと・・・本当に!なんて人!)
 アーシアは相変わらずのラシードの態度に呆れながら、慌てて追いかけて行った。
 州公に感謝されながら今回の一件は無事解決することが出来た。残念ながらカサルアの親睦を深めなさい作戦

アーシア的には平行線のまま終わったが、ラシード的には少し角度が変わってきたような感じだった――――





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