第四章砂漠の街

 

 今回の策は第一に、魔龍王ゼノアの腹心である四大龍の二龍を葬り去り、ゼノアの力を
()ぐこと。

 第二に駐屯するゼノア配下の〈龍軍〉を制圧し州の解放を行う。

 これらの段取りとしては四大龍らが来る予定の日にちの前から、州城で催される宴にアーシア達三人が数度出席し、

たまたま(、、、、)
訪れた四大龍らがいる宴にも三人は偶然出席しているという筋書きで、宴内で四大龍らを彼らが引きつける。

 もちろん、州公はラシードとラカンの表の顔しか知らない。

 四大龍らが宴で興じている間に、駐屯地に軽い攻撃をかけて彼らをそこへ誘い込んだのち

包囲結界で一網打尽とする奇襲作戦だ。包囲結界とは一歩そこへ入れば出ることが出来ない代物で、

大軍を相手する場合、敵を逃がすことなく最小限の被害で抑える事ができる。

 だが前もって包囲する土地に細工をしなければならない為、カサルアは州公の押さえと共に、

この結界を担当していた。しかし、この効率的な結界には欠点があって完成させるのに時間がかかり、

四大龍ぐらいの〈力〉があればこの結界の波動を感じてしまうのだ。
 そこでラシードとラカンらが引きつけるとは、この結界波動の妨害なのだが万が一、

露見した場合はその場で戦闘突入になる予定だ。
 早速、アーシア達は第一段階の州城の宴に向かう準備をしていた。

 今日の宴は陽光の中での「水の宴」らしく、城の敷地に造られた湖での舟遊びだとか―――
アーシアは離龍州風の衣は好きになれそうにもなかった。

 なんというか〈龍〉の衣もそうだったが露出度が高いのだ。

上半身は背中と肩、腕を露出した型で下半身は長く、つま先まであるのだが横に大きく切れ目が入っているので

歩くたびに脚が見える。アーシアは覚悟を決めて今回は、鮮やかな
黄緑(こうりょく)と金色の衣に着替えた。

 そして、じゃらじゃらと飾りを付け終えた時、ラシードとラカンが出迎えにやって来た。
 ラカンはその姿を一目見るなりヒューと口笛を吹いた。
「なかなか似合うじゃん!なあラシード?」
 ラシードもふっ、と珍しく口元で微笑んで頷くと低く囁いた。
「白い肌がいっそう美しく輝いている・・・綺麗だ」
 アーシアは、真っ赤になって胸元を両手で押さえて声が出せない。         

昨日から続くラシードの急変ぶりに、ただ、たじろぐばかりだ。
ラカンは、アーシアが気の毒になって助け船を出す事にした。
「ははは、おいおいラシード!もう気分だしているのか?アーシア、ラシードのこんな台詞なんかで

真っ赤になっていたら大変だぜ!本領発揮した放蕩息子のラシード様は、女タラシなんだからさ」
 ラシードはラカンをさっと睨んだが、アーシアは、安心したように微笑んだ。
「なんだ、もう放蕩息子ごっこしていたのね。ひとりで慌てて恥ずかしいったら。

自意識過剰で馬鹿みたいだったでしょう?」
 ラシードは、ほらみたことかと一層ラカンを睨んだが、ラカンは気にする様子もなく、おどけて答えた。
「ええ〜自意識過剰て、ことないよ。アーシアぐらいの宝珠だったら何時もさぁ〜言われ慣れているんじゃないの?

逆にこっちがビックリだよ!反応が初々しいからさ、ついつい楽しんで構ってしまいたくなるんだよね、ラシード?」
「私、言い寄る龍って苦手で嫌いなのよね。だからだいたい無視して逃げるのよ」
 ラカンは、ぽかんとするとラシードをチラリと見て笑いだした。
「ははははは、そりゃいいわ!アーシアぐらいになると寄ってくる龍も山のようにいただろうから大変だっただろうな!

こりゃ傑作だ、はははは、それで龍嫌いになった訳?」
「もう、ラカン笑い過ぎよ!だってみんな目の色変えて〈力〉を是非て、言うのよ! 

私が例えどんな不細工で、性格悪くても彼らは気にしないような感じだったもの。

もう、うんざりするぐらい力、力ってね!特に力がある龍なんか最悪!横柄で傲慢で、

自分が選ばれるのが当然と思っているのよ!」
 アーシアは今までの事を思い出して可憐な顔を歪ませた。
 ラカンは、今度はラシードに同情する。
(ラシードはアーシアの嫌いな典型だなぁ〜やっぱ、前途多難て訳だ)
友を同情の眼差しで見ると、以外にラシードは余裕の表情。

 女性達がひと目見るなり
(とりこ)になると言われる、真紅の瞳でアーシアを見つめると、気にする事なく喋りだした。
「宝珠の力を欲しがるそんな奴らは所詮、自分の力に自信の無い小者の龍だったということだ。私には必要とは思えない」
 アーシアは瞳を見開き、ラシードを見つめ返した。
(すごい自信家。だけど・・・初めてね面と向かって要らないと言われるのも・・・それはそれでなんかちょっと気分悪いけど)
「でた!ラシードの宝珠不要宣言!まあ俺ら十分貴石の力で補えるもんな」
 アーシアは自分が必要ないと言われているような気分になって腹が立ってきた。
「あら?じゃあ私は来なくて良かったかしら?でも、しっかり働くわよ!

絶対そんな貴石より良かったって言わせますからね!」
 アーシアはふたりの右腕にしている〈力〉増幅の貴石飾りをそれぞれ指差して、声だかに宣言した。

 ラシードとラカンは瞳を見開いた。そしてお互いアーシアに向かって一礼すると、

ラシードはニヤリと微笑
みながら、ラカンは笑いを堪えながらそれぞれ言った。
「私は初めて宝珠を使わせてもらいますから、宜しくご指導を」
「俺は最初っから当てにしてっから、頑張ってくれよ!」
「もう!と〜ぜん、頑張ります!」
「ははは、じゃあ出かけるけど大丈夫?そうそう、これを左に付けてね」
 ラカンは指輪を出した。貴石をはめ込んだ特に特徴のないものだった。                 
「これは、〈力〉制御装置だってさ。俺らは、ほら、右にしている」
 ラカンは右手をひらひらさせて見せた。

 二人とも指は何本も飾りを付けているから、どれなのか判断できないけど使用しているらしい。
「さすがに四大龍相手だと誤魔化すのが難しいだろうからって、カサルアが作ってくれたんだ。

カサルアは、ほんと得意だよな〜こんなの。小さな結界のようなものだと言っていた。

内面の〈力〉を悟らせないようにするらしいから俺らは今、普通の感じだろ?」
「・・・・そういえばそうね?龍の魅力ぜ〜んぜん感じないわ」
「が〜ん。そりゃないよ」
 アーシアとラカンはお互い笑いあった。   
 しかし〈龍力〉を封じられているというのにアーシアにとって影響力の変わらないラシードは、

薄い衣を取り出したかと思うとアーシアの頭にかけて飾り止めを付けた。
「仕上げだ。ここの州では、宝珠は薄衣で頭を隠すからな」
 薄い衣が背中までかかる。アーシアの髪の色を隠し、気になる上半身の露出部分も少しはましになったようだった。

 更に、ラシードは念押した。
                                      
「この(かぶ)りものは人前で取らないように。君の髪は特徴あるから例の州公にでも目を付けられたら困るからな。

それか
君に似た宝珠を集めているゼノアに献上されてしまうぞ」
 ゼノアと聞いてアーシアはぞっとして、絶対取りませんと約束した。
 三人は州城に到着した。

 敷地の一角には周りが砂漠と思えないような
長閑(のどか)な湖水が色とりどりの水鳥を浮かべて広がっていた。

その岸辺には枝を横に広く張った大きな木々が点在している。それは強烈な日差しを遮り涼しい木陰を作っていた。

木陰に様々な食事や飲み物、楽隊などが用意されてあり、人々はそれぞれ歓談したり舟遊びしたりと楽しんでいた。
 ラシードとラカン達が会場に現れるとちょっとした騒ぎになった。多くの女性達に取り囲まれたのだ。
「まあ、ラカン様、今こちらにいらっしゃっていましたの?」
「ええ、こちらの宝玉でも買おうかと思ってね」
「ラシード様もお久しぶりですわ。いつまでこちらに?」
「あなたの良いとおっしゃる日まで」
 口々に声をかけるご婦人とご令嬢らにラカンは明るく答え、

ラシードは次の言葉をだせないような殺し文句で答えながら移動して行く。

 〈龍力〉が常人並みでも容姿、財力、権力が有り余る彼らには十分の魅力があり、社交界では有名人だった。

その彼らが女性を同行しているのは珍しく無いのだが、〈宝珠〉を連れているのは珍しかった。

そこで尋ねようとした時、向かい側から彼らとは逆に男性陣の取巻きを連れた美貌の貴婦人が、声をかけてきた。
「ラシード、何時(いつ)こちらへ?わたくしは少し離龍州に戻ると言っただけなのに?」
 ラシードとラカンは一瞬ちらっ、と()を交わした。

 ラシードの瞳は笑っていないが顔は微笑んで答えた。 

「やあ、リラ。もちろん君を驚かせようと思ってね
 それからリラを抱き寄せて耳朶(じだ)に口づけをしながら、低く冷たく囁いた。   
「邪魔をするな」
 ラシードから抱き寄せてくれた事に気を良くしていたリラは、今の言葉を訊いて一瞬、動きが止まったが、

それでもラシードの顔を引き寄せ唇を重ねてきた。
 周りはどよめき、それからひそひそと囁きあっていた。                          
「リラ様がラシード様の新しい恋人と言う噂は本当でしたのね」
「リラ様が相手では、かないませんわ」
 リラはこの州の名家の出身で社交界の華だ。

 
迂闊(うかつ)だった。ラシード自身、全く気にしてもいなかったので、ラカンも彼女とラシードが

そういう関係になっていたことをすっかり忘れていた。
当然リラは、今回の策は知らない。

 他のご婦人方と同じく瞳を見開いて二人を見ているアーシアにラカンは耳打ちした。
「アーシア出番!ラシードを助けて」
「何?」
 アーシアは、はっと我にかえって小さく訊き返した。
「ラシードだよ。リラに捕まってしまった。今回の俺らの筋書きは覚えている?」
「放蕩息子と、ご執心の宝珠でしょ?」
「ほらね!よろしくお願いします。宝珠さま」                   
 アーシアは熱烈に口づけを交わす二人に、水をさす役割を引き受けなければならない事に嫌な気分を覚えた。

また先程からのラシードの軟派な様子にも、なんだかいい気持ちはしなかったところに極めつけが公衆の面前でのこれだ。

 アーシアは大きく息を吸うと、本心から不機嫌な口調で言った。
「ラシード!私は退屈だから先に行くわ。ラカン行きましょう」
 皆、先程から気になっていた〈宝珠〉に注目した。

衣から見え隠れする肌は、この州では見かけない透き通るような白さで、
憤懣(ふんまん)

輝く大きな瞳は澄んだ淡い緑の清楚で可憐な美しい〈宝珠〉この三人の関係はいったい?・・・・・と、囁きあった。
 ラシードはリラを手荒く振りほどくと、横を通り過ぎるアーシアの腕をとらえた。
「ご機嫌ななめだね」
 ラシードはそう言うと愉快そうに微笑み、アーシアを振り向かせて彼女の左手に口づけしようとした。

 アーシアはその手をぴしゃりと払いのけると高飛車に言った。
「他の女性の紅が付いた口で、私に触れることは許さないわ!さあ、ラカン行きましょう。どうぞ、お二人でごゆっくり」
「ばっかだなぁ〜ラシード。今日は俺様が独り占めだな、じゃあな」
 ラカンはラシードの肩を叩くと笑いながらアーシアの後を追った。

 ラシードもすぐ口を手の甲で
(ぬぐ)うと、リラに一瞥もする事なく追いかけた。

 残されたリラは、いい恥さらしだった。

 しかし、これで二人にはご執心の〈宝珠〉がいて三角関係らしいと言う噂は、瞬く間に広がることだろう。






                   
TOP   もくじ   BACK   NEXT    あとがき