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第六章
魔龍王3![]()
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一方、日にちをさかのぼるがラシードから逃げ出すように去ったアーシアは次の日。
ラシードを探していたが見つけることが出来ないでいた。代わりにラカンを見つけ話かけた。
「ラカン、ラシードはどこに行ったの? 見かけないけど・・・・」
「ああ、天龍都の自分の家に行ったよ」
「天龍都?あそこは危険でしょ。そんなに気安く行って大丈夫なの?」
「まあ、ラシードの奴、顔がばれてないし、表の顔があるから問題は無いよ。なんか用事?」
アーシアは、心配そうに顔をしかめ、返事はしなかったが、彼女の様子を不信に思いながらラカンは、続けて話した。
「ラシードは、父親と決着つけるとか言っていたよ」
「お父様との決着って、あの話かしら?」
「たぶん、そうだと思うよ。出生の秘密・・・」
「ラシードのところに行ってあげないと・・・・」
意外な言葉を呟いたアーシアに、ラカンは驚いた。
「どうして?」
「だって、ラシードきっと悲しんでいる――真実は、どんな結果だとしても傷つかない訳はないもの。
私に何が出来るというわけでもないけれど、話しを聞いてあげるだけでもきっと良いと思うのよ。
いつも彼は一人で抱え込むから・・・そんなことさせられないわ」
必死に訴えるアーシアを見つめながらラカンは思った。
(ラシード、まだまだお前は嫌われてないみたいだぞ!)
「そうだな!ラシードの奴きっとベソかいているぞ〜よし、ちょっくら行ってみようか」
アーシアは、ぱあっと表情を明るくして、ラカンに抱きついた。
「ありがとう!どうせ近いうちに行く予定だっだのだから私、行ってもいいか、カサルアに訊いてくるわ!」
「そうだね、ラシードのところは俺の家の近くだから直ぐ行けるし心配しなくていいよ!」
アーシアはもう一度、礼を言うと走り去っていった。
現在状況は予想通り中立を決めていた州もそれぞれ態度を決めて参戦し、
カサルア達の陣営は三分の二を押さえていてかなり有利に進んでいた。
各州は、州に配置されていたゼノアの龍軍との戦いに力を注ぎ天龍都から独立していく。
その中心となるものはカサルアの下に集った者達と、震龍州や離龍州の州公のように州公自ら組みするものもいれば、
ゼノア派の州公を斃して掌握する場合もあった。
そして本拠地の天龍都には、カサルアの本隊が攻略の手筈を整えていたのだ。
青天城を守る龍軍と四大龍の二人、そして魔龍王・ゼノアが最終目的となる。
しかし、青天城は地上からも上空からも攻めるのは容易では無かった。
結界の守りも強く、籠城されればどうする事もできないのだ。しかも天にも届くかと思うような尖塔から
〈力〉で狙い撃ちされる。いかに彼らを城の外へ誘きだすのかが最大の問題となっていた。
特にゼノアさえ斃せれば戦局は一気に終息する。
カサルアは迷っていた。ゼノアを誘い出すのは容易い。なぜなら、アーシアを出せば必ず姿を現すのだろうから。
奴はたぶん世界などもどうでもいいと思っている。アーシアは別として・・・・・・
そこまで執着できるものがあって逆に、幸せな奴だとも思うのだが。
(どうするべきか・・・・アーシアを使うべきか)
そう悩んでいると、アーシアが入室して来た。室内は自分とイザヤにルカドだけだった。
「ちょっと、いいかしら?」
「ああ、もちろんいいよ」
卓上に散乱する天龍都や、青天城の資料にアーシアは視線を向けた。
「相談なんだけど・・・私、もう天龍都に行ってもいいかしら?」
アーシアはラシードの件ももちろんだが、自分も手伝いたいのになかなか天龍都に連れて行ってくれない兄に催促した。
「それは・・・・」
はっきりしない兄の思いに察するものはある。
アーシアは大きく息を吐いて、ぴしゃりと言った。
「なにを迷っているの!私をさっさと餌になさい!使わない手は無いでしょ?」
三人とも、驚きに眼を見張った。
「あと少しじゃないの。ゼノアを斃せば全てが終わるのよ!戦いが長引けば長引く程、みんな不幸になるわ。
にいさま、知っているでしょう? 私は死など恐れない。出来る事をしない事を恐れるわ!」
そう言うアーシアから輝く光が見えるようだった。
カサルアは、くすりと笑うとイザヤに目くばせした。イザヤは瞑目した。
「そうだね。アーシアの言う通りだ。存分に利用させてもらおう」
「あたりまえよ。それと用事があるから、ラカンと先に行っていい?」
「用事? 何の?」
アーシアは、言おうかどうか迷ったが言った。
「ちょっと・・・ラシードに用事があるの」
「ラシードに?」
カサルアは怪訝に思ったが、事情を知らない彼は皆目検討つかなかった。
いずれにしても行くのに反対する理由もなく、ラカンやラシードと一緒なら問題は無いと判断して許可をした。
イザヤだけ、アーシアの様子に不安を抱いていた。
ラシードとの関係に以前から、かなり懸念を抱いていたが、最近ではもっと危険に感じていた。
ラシードの変わりように―――しかし、アーシアが相手していない感があったのだが・・・・・・
先日カサルアがそれらしい事を言っていた。アーシアがラシードを意識しているらしいと。しかも半ば嬉しそうに。
(考えられない・・・本当にこの人は、他に脅威を感じることは無いのだろうか?)
イザヤはカサルアを見つめながら、ひとり心配するのだった。
天龍都に到着したアーシアとラカンは早速、ラシードのもとに向かった。
ラカンは、勝手に邸宅に入るとすたすた進んでいる。
「ちょ、ちょっと、ラカン勝手に入って大丈夫なの?」
「え、平気、平気。広いんだから分かんないって。あ、こっちからラシードの気配がする!」
おかまいなく進んで行くラカンに、呆れながらもアーシアもついて行った。
ラシードがいるらしい扉の前で、低くて聞き取り難かったが驚く言葉が聞こえた。
「確かにお前の本当の父はゼノア様―――」
ラカンもアーシアも扉の前で固まってしまった。先に動いたのはラカンだった。
咄嗟にアーシアの手をつかんで元来た廊下を、気配を消して戻った。下の階まで戻った時、足を止めた。
アーシアは、されるがままだったが、まだ、驚きから立ち直っていなかった。
ラカンの表情はいつになく真剣で、アーシアに問いかけた。
「アーシア、アーシア!今の話しを訊いてあいつの事をどう思う?答えて!」
アーシアはラカンの呼びかけに我にかえったが、信じられなかった。
(ラシードがゼノアの血族だなんて・・・)
火の龍、その〈力〉は絶大。確かにその血は証明しているようだった。あの魔王ゼノアに・・・・背筋が寒くなる。
当惑するアーシアにラカンは、更に声を低くして続けた。
「アーシア、あいつに流れるゼノアの血を許せないと思うなら、今日はこのまま帰ろう。
そして、二度とあいつに関わらないでくれ。同情や中途半端な気持ちで関わって欲しくないんだ!
そんなことあいつには辛すぎる――辛すぎるんだよ・・・・ちきしょう!」
アーシアは今の言葉が胸の中で渦巻く―――二度とあいつに関わらないでくれ!
(関わらないなんて、それは嫌!)
ラシードの孤独な真紅の瞳を思い出した。それが自分に向けて優しい色を灯すのを―――
微笑まない彼が自分にだけ微笑みかけるのを―――
アーシアの瞳には迷いは無かった。突き上げる思いに必死に頭を振って言った。
「血なんて関係ないわ!ラシードはラシードよ。あんな魔龍と全然違うわ!そうでしょう?
その事で誰か何か言うというなら、その人達の方こそ私は許せない!」
ラカンはほっと安堵した顔になった。
「良かった。もちろん俺もそう思うよ。あいつは君に嫌われるのが一番怖いからな。あのラシードがだぜ!
ほんと、俺びっくりさ。だからこれは俺たちの胸にしまっておこう」
アーシアも頷き、また再び先程の部屋を目指した。
事情が事情なだけに今回はアーシアだけに任せたほうがいいと思い、ラカンは行かなかった。
ラシードは父と二人押し黙っていた。
自分の思いに囚われ全く周りに気付いていない。
父がふと扉に眼を向けたかと思うと、それは静かに開いた。
廊下の降り注ぐ陽光を背に受けて現れた姿に、二人とも瞳を見張った。
柔らかな春の日差しを模ったような、光りに満ちた姿が入ってきたのだ。
ラシードは、驚きに声を上ずらせて呟いた。
「・・・・アーシア・・・・」
アーシアは首を軽く横に傾げて、花のように微笑んだ。
「ラシード、私を呼んだでしょ?」
自分に向かって歩いてくるアーシアを、ラシードは夢でも見ているかのように眺めた。
すぐ近くまで来た時、思わす手を伸ばしかけたが拒絶を恐れて自分の腕をつかんだ。
しかしアーシアは軽い足取りで駆け寄り、自分からラシードの胸に飛び込んだ。
そして、くすりと笑い、悪戯ぽく彼を見上げて言った。
「泣いてない?ラカンがベソかいているぞ〜って言っていたわ!」
「・・・・・・・アーシア」
「なあに?」
「アーシア・・・・・」
ラシードは、込み上げてくる思いに耐えられなくアーシアを抱きしめた。
どうしてここにいるのか? 何故? など今はどうでもいい・・・・・
(彼女は知らない。私の出自を・・・・今だけ、今だけでいいこのまま・・・)
このまま、時が止まってくれれば・・・・・・と思う。
その時だった! 一瞬、室内が炎に包まれたかのように見えた。
爆音とともに廊下ごと扉がとばされてたかと思うと、うねる炎は二人を包んで消えうせたのだ。
父は叫んだ!
「ゼノア様!」
アーシアの考えは甘かったのだ。今まで、アーシアの封印が解けているなど思ってもいなかったゼノアと違うのだ。
今は些細な気配でも逃す筈もなかった。それも、ゼノアのいる天龍都では―――