第七章無二の誓い

 
 
 戦いの終結後、新たなる体制つくりに皆、奔走していた。
 ラシードの父も新体制に協力して、政務を行っていた者達の粛清に尽力した後、田舎に隠居した。

カサルアは彼の手腕を惜しみ、引き止めたが「自分の償いがあるので」と言って辞退したのだ。

ザーンは世の動乱の犠牲になり孤児になった子供達を、以前から田舎に密かに集めて育てていたのだった。

これで償えるとは思えないが、せめて自分の出来ることをしたいという事らしい。
  
 各州にも皆、飛び回る毎日でアーシアもみんなと逢えない日々が続いていた。

ラシードとも逢えないというか、彼が避けている感じがする・・・・様子がおかしいのだ。

 アーシアは大きな溜息をついて鏡を見た。  

豪華に着飾った自分が映る・・・・ラシードから贈られた宝珠飾りが煌いていた。
 今日は新しい体制の最後の仕上げとも言うべき、カサルアの新王即位式と四大龍の拝命式の祭典が行われるのだ。

天龍都中のお祭り騒ぎのような賑わいが、青天城まで届いてくる。

城では各州の州公も集まり、新しい時代の幕開けを象徴するように盛大な祭典が執り行われたのだった。
 カサルアは新たな称号で『天龍王』となり、『紅の龍』に、ラシード・ザーン。『碧の龍』に、ラカン・ネイダ。

『銀の龍』に、イザヤ・ラナ。『翠の龍』に、レン・リアターナが、それぞれ四大龍の称号を拝命した。
式典が終わり、続いて行われる祝賀会の準備で城中大騒ぎだった。  
 ラシードとラカンはその合間を抜けて、静かな庭を歩いていた。

その庭には懐かしい、震龍州の砦の噴水と似た噴水が勢いよく水を舞い上がらせていた。

 ラシードはふと立ち止まり、舞う水と幾重にもかかる虹を眺めた。
今、式典で見たカサルアとアーシアを思い出していた・・・・・

カサルアの側に立つ彼女は、まるで太陽と月のように引き合って輝いていた。

こんな呪われた血を持つ自分より、最もふさわしいと思ってしまう―――

 ゼノアの狂気は自分の中にもあるのを実感していた。

自分も彼女に遇わなければ彼のように、何もかにもに絶望し孤独の中に狂っていたに違いないと思うのだ。

彼のやり方は間違ってはいたが、ああなる前にアーシアと出逢っていれば・・・彼女はきっと

ゼノアの心を癒しただろうと思う。
(私がそうだったように・・・・)                                     
 また、二人の仲睦ましい様子が脳裏にちらつく。
「ふたりは似合いだ―――」
 ラシードは溜息まじりに呟いたのを、ラカンが訊き咎めた。
「なに?誰が似合いだって?」
「アーシアとカサルアがさ」
 ラシードも自傷気味に答える。
「ああ〜お前また、暗いこと考えているんじゃないだろうな!」
「・・・光りの宝珠は、天龍王の(かたわ)らが最もふさわしい。この私と違って・・・」
「そんなことないぞ!お前だって十分いけている!城中の女達を熱〜い視線独り占めしといてよ!

それに、アーシアはお前が好きなんだからな。彼女の気持ちはどうするんだよ」
「・・・気持ちか、真実を知ったらその気持ちなど、消えて無くなる・・・結局変わらない想いなど無い。

アーシアはカサルアと公私ともに結ばれるのが彼女の幸せだろう・・・・」
 そう淡々と答えるラシードの声とは裏腹に、その顔は苦渋にゆがめている。  
 ラカンはラシードが思い悩んでいる事に察しがついた。
(やっぱ、ゼノアのこと気にしてんだろうなぁ〜あっ! あぁ―――っ!)
 それと大事なことを言うのも忘れていた。
「ラシード、俺、すっかり忙しくって、言うの忘れていたけどさ!アーシアとカサルアって兄妹だったんだよ!

だから二人が恋人同士になんてありえないんだ!」
               
「!」
 ラシードは驚いた。ラカンが、手振り身振りしながら、詳しく説明する。
「いや〜俺も訊いた時、驚いたのなんのって。だけど思い出したら滑稽だよな?

お前、めちゃめちゃカサルアに嫉妬していたよな。はははは」
 ラカンに笑われても、根本的な自分の問題の解決にはならなのだから、ラシードは笑うことは出来なかった。
 ラカンは笑いに涙を浮かべながら、気軽に言った。
「それにさぁ〜アーシアと俺、知っているよ。お前の本当の父親のこと」
「なっ!」
 ラシードは、眼を剥いてラカンに掴みかかったが、ラカンはあくまでも気楽な話し方のままだった。
「おやじさんと話していた時、偶然聞こえたんだよね〜」
 それは、まるでなんでも無いような口調だった。
 ラシードは掴みかかった手をだらりとたらした。          
「知っていただと・・・アーシアも?」
「そうだよ。知っている。アーシアは言ったよ。関係ない、ラシードはラシードだってさ!俺、感動しちゃった」
 ラシードは呆然と立ち尽くした。彼女はあのとき、全部知っていて、自分を愛していると言ってくれたのだ。

それなのに今日までの彼女に対する自分の態度はなんだ!

戸惑いながら悲しそうな瞳をしていたアーシアが思い浮かんできた。愚かなのは自分だ―――
(アーシアに逢わなければ!)
 くるりと踵をかえすラシードに、慌ててラカンが声をかけた。
「おい!どこ行くんだよ!」
「もちろん、アーシアの所だ!」
 ラカンは本当に世話の焼ける奴だ、と悪態をつきながらラシードの後姿を見送った。
 ラシードはアーシアを探してまわった。城中が祝賀会の騒ぎで、力を使っても彼女を見つけるのは困難だった。

その時、カサルアと遭遇した。彼も喧騒を離れて息抜きをしているようで、側にはイザヤだけだった。

 駆け回って息があがっているラシードの様子に、驚いたカサルアは声をかけた。
「どうしたんだ、珍しいな。お前がそんなに取り乱しているなど」
 ラシードはカサルアに気が付くなり、さっと臣下の礼をとって(ひざまず)いた。
「私達の間で、そんな礼はいらないよ」
 ラシードは跪いたまま、(こうべ)をあげる。
「いいえ、他に話しがありますので」
「何?(かしこ)まって。本当に珍しいな」
「アーシアを、あなたの妹君を、いただきます」
「ふ〜ん、いただけませんか?  でなくていただきます な訳だ―――」
 カサルアは一度言葉を途切らせてラシードを見ると、彼は畏まって頭を垂れている。
「それは許さない」
 ラシードとイザヤが、はっ、とカサルアを見た。

 しかし、その顔は拒絶の言葉とは反対に、にっこりと微笑んでいた。
「まだ、駄目だ。折角、ゆっくり出来るのに、アーシアを独り占めするなど許さないからな。

私も今まで苦労させた分、妹を甘やかしたいのだからね。と、言う訳でしばらく待ちなさい。

まあ、申し込みぐらいまでなら許す。では、祝賀会に遅れるなよ」
 呆れる許可に苦笑しながらラシードは再び一礼をした。
 カサルアは軽快に笑いながら去って行く。その後ろを追いながらイザヤが声をかけていた。
「宜しいのですか?あのように許して」
「ああ、イザヤは本当に心配性だな。どうせラシードがアーシアを手に入れたらその力が巨大になるから

懸念しているのだろう?お前も言っていただろう。この世は力で支配するのではないと。忘れた訳じゃないだろう?

私達は力で支配しない世界を目指してたのじゃなかったのかな?それにラシードは変わったよ、アーシアと出逢ってね・・・・

イザヤそれよりも、アーシアを正式に妹として紹介できるように、悪知恵でも考えていてくれよ」
「はあ〜あなたと言う人は。本当に困ったかたですね」
 カサルアは、ああ、と思い出したように振り返えると、その場を去ろうとしていたラシードに遠くから叫んだ。
「ラシード!探しものはアーシアだろう?それなら噴水のある庭の方に、歩いて行っていたよ!」
 ラシードは、立礼すると、すぐさま走りだした。
 アーシアは噴水の縁に腰かけて空を眺めていた。

空は遠く、天空に届くと云われる城の尖塔が浮かんでいるようだ。

白い小鳥が尖塔の周りを回っているのをぼんやりと眺めながら、ラシードを思う。
任命式の彼は、一段と素敵で胸が高鳴った。漆黒の髪と真紅の瞳に、とても良く映える黒の衣を纏い、

進み出でると、緋色の肩衣をなびかせて典雅に礼をとる時には、周りの女性達はうっとりと見つめて、

溜息をもらしていたくらいだった。アーシアも負けずにラシードを見つめた。
(でも・・・一度も私を見てくれなかった・・・・・)
 想いに耽っていると、急に視界が暗くなった。
「何をしている?アーシア?」
「きゃっ!」
 ラシードが急に現れて、声をかけてきたのだ。まるであの時のように―――   
 驚いたアーシアを、今回はラシードがしっかり支えて立ち上がらせた。
「今日は、さすがに二人とも水遊びしている暇はないな」
 ラシードは優しく微笑んでいる。彼女にしか見せない微笑で―――
「・・・・・ラシード」                 
「なに?」
 しらっと答えるラシードに、アーシアは今までの憤懣をぶつけた。
「あなたって本当に意地悪ね!大嫌い!」
 ラシードは途端に笑いだした。
「はははは、アーシア。私は、君のこと大好きだけどね。直ぐ怒るところも、           

お転婆なところも全部好きだ・・・君を愛しているよ。愛している・・・・」


 急な愛の告白にアーシアは驚いて言葉が出なかった。   
 ラシードは黙って、アーシアを見つめた。

その誰もが憧れた真紅の瞳にアーシアが映っている―――

 そして、彼女の前に
(ひざまず)き、最礼の礼をとると、彼女の衣の裾に口づけをした。
彼は跪いたまま、アーシアの瞳をとらえて、ゆっくりと話だした。
「私、紅の龍・ラシード・ザーンは、〈龍力〉のすべてをアーシア、君に捧げよう。

そして、あなたの〈龍〉と、なることを乞い願う」
 それは、〈龍〉が〈宝珠〉に契約の申し入れをする正式な言葉だった。
 アーシアは、ルカドの言葉を思いだした。  

 ―――心がね動かされるんだよ―――
(本当ね!動かされっぱなしだったわ!)
 もうアーシアは〈龍〉だとか、契約が嫌だとか、どうでもよかった。心とは宝珠の力そのものなのだ。

ただ、ラシードに心の全てを捧げたい気持ちでいっぱいだった。
(契約した宝珠達はみんな、こんな気持ちだったのね。この龍の為だけに生きて、一生ついて行きたいって!)
 少し緊張しながら答えを待つラシードの真紅の瞳を見つめ返すと、晴れやかに答えた。
「ラシード、私も大好きよ!意地悪なところも、強引なところも全部。愛している!」
 アーシアは左手をラシードの右肩にそっと置くと、今度は厳かに喋りだした。
「紅の龍・ラシード・ザーン、あなたを私の〈龍〉となることを許します。   

私の命尽きるまで
(珠力〉の全てを永久(とこしえ)に、あなただけに捧げることを誓います」
 そして、花のように微笑んだ。  
 二人を祝福するかように、祝賀会の始まりを知らせる空砲が、鳴り響く。

 ラカンが、向こうからいつものように騒ぎながら、二人を迎えに向かって来ていた。

 二人は、お互いに肩をすくませて笑いあった。
「さあ、行こうか?」  
 頷きながら微笑むアーシアの肩を優しく抱き寄せて、二人は歩きだした。
 天龍王時代、史上最強と謳われた〈龍〉と〈宝珠〉の始まりの日だった。







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