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紅 の 龍 8![]()
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「シャロン見たかい?あんたに用があるって言ったお嬢ちゃんを」
ジーナはその黒髪の宝珠をそう呼んだ。アーシアの勘は当たっていたようだった。情報どころか本人がこの店に匿われていたのだ。
「ええ、母さん。彼女は私の敵・・・でもゼノア様が誰よりも何よりも欲した宝珠・・・伝説の宝珠アーシアだわ」
「そうかい。只者では無いと思っていたけど成程ねえ。しかし何の用かね?あんたが喜ぶこととか言っていたけど・・・」
シャロンはアーシアが自分を探す理由が分からなかった。
それよりも今、自分に起きている奇怪な現象の方が気になっていた。
それに彼女なら知っているかもしれないのだ。
愛しいあの方の行方・・・最終的にゼノアの宝珠はシャロンだけだった。
入れ替わりの多い中、力が強かったせいもあるが彼女は一番長く彼に仕えていた。
シャロンはゼノアの死を感じ、青天城から身を投げたのだが低い位置からで助かってしまったのだった。しかも瀕死の彼女をジーナが戦闘のどさくさに紛れ運び出した。
命が助かったとしても直ぐに後を追うつもりだった。
ところが宝珠としてゼノアを感じたのだ。本当に生きているのかどうかが分からない。
でも確信出来る事が起こり始めた。だから信じて探した。
しかし今また不安にもなっていたのだった。アーシアはシャロンを探しているのだ。お尋ね者とは言っても契約の宝珠が主を失って生きている確率は無いに等しい・・・普通は生きていないのだ。
それが生きているという事は主が存在しているという確証にも繋がる。
彼女は主の場所を知っていて自分を探しているのか?それとも生存の確認だけ出来ていて何かの罠を仕掛けたいのか?
(あの子は何も知らない感じだった・・・・)
自分が先日、話をした人物を思い浮かべた。
その人物がゼノアの生存を知らないとは考えられなかった。
情報が少なすぎてシャロンはまだ決心がつかない。
「母さん、もう少し様子を見させてくれる?」
「そうだね。用心するに越したことはないからね」
ジーナも覚悟を決めた。魔龍王が良かったなんか思ってはいない。今の天龍王の方がどれだけ良いか分かっている。しかし養い子のシャロンの事となれば別だった。彼女の幸せを祈るばかりだ。
アーシアは衣装箱をひっくり返して溜息をついていた。
「どうした?」
リストは怪訝な顔をして聞いた。
「衣・・・衣が全部子供っぽくって・・・」
アーシアは今まで自分の見かけを気にしたことが無かった。好みは派手じゃないものだったし、何を着ても変わらないと思っていた。
ジーナからの忠告を聞けば私を見なさい≠ニ堂々と言えるようなものが見つからない。
しかしカサルアやラシードから贈られた盛装はまさしくそんな感じのものだった。
「これとかあれなんか良いじゃないのか?」
リストが指をさしたのはそれらだ。
「はぁーやっぱり?さすがと言うか・・・兄様にしてもラシードにしてもちゃんと分かっているのね・・・私はこんなのと思っていたけれど。リスト、それは盛装だから普段着じゃないのよ。そんなの着てうろついていると何事かと思われるわ」
「女の服は面倒なんだな」
「私もそう思うわ・・・あっ、そうだ!イリス義姉 様に相談しよう」
早速アーシアはイリスの居室へと向った。しかしそこにはカサルアの姿もあったのだった。
「兄様、何さぼっているの?イザヤに言いつけるわよ」
「いきなり入って来てそれは無いだろうアーシア。なあーイリス」
イリスはクスリと笑った。
「だから申しましたでしょう?次はイザヤ様が迎えに来てしまいますよ」
「そうよ、兄様。早く行ったらどう?」
「お前こそ私のイリスに何の用だ?」
アーシアが呆れた顔をした。
「サードじゃあるまいし私にまで焼もちやくのは止めてよね!」
サードとはレンを追い掛けて回している宝珠だが、彼はレンに近づく者は男でも女でも関係なく物凄く焼もちをやくのだ。
カサルアは、むうとした顔をして出て行きかけたがまた戻って来た。
「そうそう、忘れもの、忘れもの」
そう言ってイリスに口づけをした。
「いってきます」
「いってらっしゃいませ」
イリスはまたクスリと笑いながら答えた。
満足そうなカサルアは呆れるアーシアにも向って言った。
「アーシア、夜遊びは程ほどに。お前は狙われているんだからね」
「に、兄様、まさかつけてたの!」
「つける?つけられて悪い事でもしているのか?」
「そ、そんなんじゃないけど・・・秘密なの!秘密の習い事をしているの!だから見ちゃ駄目!もしつけたり、つけさせたりしたら絶好よ!」
カサルアは情けない顔をした。
「絶好って・・・アーシア。心配なんだよ。しかも城外だなんて」
「城の中だって攫われたのだから一緒じゃない!リストが一緒だから平気、大丈夫よ!それに今度ちゃんと話すから心配しないで」
言い出したらきかないアーシアにカサルアは負けるしかない。
「分かったよ。じゃあリスト、アーシアをしっかり守ってくれ」
カサルアは溜息をつきながら去って行った。
リストはその後ろ姿を見ながら驚いた顔をしていた。
「天龍王って意外と・・・」
「馬鹿でしょう?」
透かさずアーシアがそう言った。
「馬鹿って・・・王様にそれは無いだろう?迫力あって近寄れねぇ感じだったけど、意外と気さくだなぁと思ったんだよ」
「そうそれは良かった。印象壊したかもと思って心配したわ。一応王様だし・・・ねぇ姉様?」
「アーシア、あまり彼を苛めないであげて。凄く落ち込むのよ」
「あー、落ち込んでべたべた甘えるのでしょう?分かったわ、気をつけるわ」
イリスはクスクス笑った。
「ところでアーシアのご用は?」
アーシアは掻い摘んで衣の相談をした。イリスは綺麗で品良く色気もありアーシアには理想なのだ。
「――それでね、姉様。男の人ってやっぱり胸がガバーとか脚がスラーとか出ている方が好きなのかしら?」
アーシアはそう言いながら今日のイリスの衣を見た。
「それは男性に聞くのが一番だけど・・・リストさん、どう思われますか?」
いきなり話をふられたリストは驚いた。
それでなくても綺麗な二人だと眺めていたのに二人が自分を見たのだ。
「えっと・・・それは好みもあるけど。一般的に好きかもな・・・」
「ふ〜ん。やらしーいんだ」
「やらしいって・・・俺はそんな・・・」
「アーシア、そう思っていたらそんな衣は着られないわよ。カサルア様もどちらかと言うと好きかしら。だから私も自然にそういうのを選ぶけれど、要するに自分に自信を持って人に見せなくては駄目よ」
アーシアは驚いた。ジーナと同じような事を言ったからだ。
それに考えてみれば昨日のあの格好に比べれば何でも着れそうだった。
「私、頑張るわ!そしてリラからラシードを奪い返してやるんだから!」
アーシアは本音を言っているのも忘れて闘志に燃えていた。
イリスはそういうことかと納得した。ラシードの噂は聞いていた。カサルアも静観しているが最近ではかなり目に余るようだと愚痴を言っていたのだった。
「じゃあ、アーシア。一緒に今からそれを揃えに行きましょうか?」
「本当!嬉しい!私、憧れていたの。姉様がいたら良いのにって!兄様と行ったら自分の意見を通すばかりで言うこと聞いてくれないんだもの」
アーシアにかかればカサルアも形無しだった。その後彼女らは買い物を楽しみアーシアのお色気作戦の準備は整ったようだった。
そして数日、城ではアーシアの話題でもちきりになっていた。
その魅力の変化に龍達が色めきたったのだ。
もちろんラシードの不仲説もこれに拍車をかけているようだった。
「ちょっとアーシア、どうしたんだよ?最近」
ラカンがアーシアと城の中で出会った途端喚いた。
「どうしたって?何が?」
「何がって・・・その・・・」
ラカンが顔を少し赤らめながらアーシアをチラチラ見た。
今までお堅いイメージだった衣装が解放的なものとなっているからだった。
イリスからのアドバイスで小ぶりな胸はコルセットで高く持ち上げ丸く整え、元々細いウエストは更に細くくびれていた。それだけでも十分魅惑的な様相だ。
そして教え通りに堂々と魅力を振り撒く。素材がいいのだから完璧だった。
夜の店でも評判は上々でジーナも大喜びだ。ジーナが言うには好色な金持ちのひひ爺も、アーシアの前ではその微笑を貰いたい為だけに大人しく座っているらしい。高潔でいて妖しい感じの危うい雰囲気がうけているらしいのだ。
「ねえ〜ラカン、今の私とならどうにかなりたいと思う?」
「ど、ど、どうにかなるって!そ、そりゃ・・・で、でもラシードからぶっ殺される!」
アーシアはむっとした。そのラシードを振向かせたいのにやっぱり無視なのだ。
「・・・私ってやっぱりそんなに魅力が無いと思う?ねえラカン?」
上目遣いの甘えるような視線を送られたラカンはもう頭が沸騰しそうだった。
「わ――っ!アーシアそうやって誘惑するのやめてくれ――っ!俺もう行く」
バタバタと走って行ってしまったラカンにアーシアは溜息をついた。
ラカンぐらいには通じるが、肝心のラシードにはまだまだだと思ったのだった。