紅とアーシア10



 そこで目にしたものは美麗な顔を苦悶で歪めて横たわるレンの上に、嬉々として跨っているセイカの姿だった。彼女は全裸で乳房を揺らしながら強制的に屹立させたレンの昂ぶりを咥えていた。
セイカの口から出入りするレンの硬く張りつめたそれは蔓が根元に巻きついたままの状態だった。
先走りとセイカの唾液で濡れそぼった先端は、解放を求めて、パクパクと鈴口を開閉させていた。
彼女の体液は強烈な媚薬だ。
レンは込み上げてくる射精感を仰け反って耐えていた。

「くっ・・・うぁっ・・・く・・・うう・・・」
セイカの与える耐え難い刺激にレンはどうしようもなく喘ぎ声が漏れ、腰を震わせ大きく跳ねては全身で悶えていた。

「レンから離れろ!」
アーシアは絶句してしまったがラシードは怒気を上らせ叫んだ。

その声にセイカの動きが止まった。

「ふっ・・・く・・・ラ・・・ラシ・・・ド・・・んっ、く・・・」
レンの朦朧とする視界にラシードが逆さまに映っていた。
吸血され意識が混濁し、もう自分が何処にいるのか何をしているのかレンには分からなかった。
全身が異様に敏感になって引き裂かれた衣が肌に触れるだけでも感じ、狂ってしまいそうだった。

「ラシード?今、ラシードと言ったの?」
セイカは正気を保てていないレンのいきり立ったものを、グッと握って聞いたが喘ぐ声が漏れただけで答えは無かった。セイカは享楽を邪魔した男をもちろん見知っている。それは捕縛か抵抗するなら殺せと命令していた事業家の兄弟の一人だ。

「―――お前は何者?」
ラシードは変装用の眼鏡を取って投げ捨てると龍力の制御装置を外した。
ラシードから立ち昇る龍力は真紅の瞳を更に紅く輝かせるようだった。
宝珠だったというセイカは妖樹に支配され、その能力は抑え込まれていたがラシードの宝珠を魅了する強い龍力に忘れて
いた本能が疼いた。
「紅の龍―――ラシードだ」
「本物の・・・紅・・・」
予想していなかったものにセイカは驚いたが・・・直ぐに、ニタリと微笑んだ。

「あなたがねぇ・・・それでその娘は妹じゃ無くてあの有名な宝珠?」
セイカの手足のような根がラシードとアーシアの周りで蠢いた。
アーシアも珠力の制御を外した。
有名な宝珠―――
もちろんセイカは紅の龍の宝珠が伝説の宝珠だと知っているが二人に一度も会った事も見た事も無かった。力の強い龍に宝珠が惹かれるのはどうしようも無い性分だが・・・最初にレンを見て夢中になっていたせいで他が一切目に入らなかったと言う方が正しいだろう。

「レンを解放しろ」
「嫌よ。どうしてそんなことしなければならないの?意味が分からないわ」
狂人に何を言っても話しは通じない。それに宝珠としてレンに狙いを定めているなら易々と手放しはしないだろう。
ラシードはアーシアに耳打ちした。

「アーシア、すまない。今から君が嫌な事をする・・・でも許して欲しい」
「何をするの?ラシード?無茶はしないで」
ラシードはアーシアに優しく微笑むとセイカと向き合った。
彼女は愉快そうに腰を小刻みに揺らしながら薄ら笑いを浮かべていた。セイカはレンの屹立したものに腰を沈めようとしているのだ。その下でレンは額に汗を浮べながら彼女の沈める花芯の場所を定める動きに、ビクビクと身を跳ねさせ呻いていた。

ラシードは真紅の瞳を細めると、傲慢に微笑んだ。

「お前は吸血樹らしいな。私の血も味見してみないか?その間だけでもレンを開放してくれ。頑丈な龍でも少し休ませないと死んでしまう」
セイカの動きがまた止まった。

「随分な言い様ね?紅の龍。何様のつもり?自分が今、どんな立場なのか分かって無いようね?レン様は分かったから今、こうしているの。余計な口出しは無用よ。さぁ・・・レン様、お仕置きはお終りにしましょうね・・・今から気持ち良くしてあげますよ」
全く聞き耳持たないセイカの態度にラシードは動じる様子も無く傲慢に微笑んだまま悠然と歩を進めた。

セイカは、はっとして叫んだ。

「止まりなさい!止まりなさいったら!」
アーシアはラシードから立ち昇るものを以前見た事があった。この独特な雰囲気・・・暗く
深い・・・深い・・深淵の水底を覗いたような・・・
(あっ・・・ゼノア・・・)
闇の者はより暗い闇に魅了されると云う―――
ラシードは自分が最も忌み嫌って恐れている内なる闇を解放したようだった。
それは正しくゼノアと同質のもの・・・

セイカは口では拒絶していたが近付くラシードに魅入っていた。
宝珠のセイカが駄目でも妖樹のセイカに及ぼす影響は大きかった。ラシードは自分を見上げるセイカの唇に触れた。その指は彼女の歯列をゆっくりとなぞり、牙のように尖った歯で止めた。

「さあ、噛め」
セイカは言われるままラシードの指を噛んだ。
そして滲み出た血を、ピチャピチャと啜って舐めた。レンとは違う・・・それこそ媚薬のような甘美な味にセイカは夢中に貪り付いた。しかし指先では幾ら啜っても量は少ない。

「レンと比べてどうだ?」
「―――悪く無いわね」
ようやくセイカがレンの上から立ち上がった。

「さあ、こっちだ・・・」
ラシードは一歩、一歩、後退してセイカをレンから引き離した。
フラフラと付いて行くセイカの瞳は真っ赤に充血していた。今は宝珠だったセイカの意識より妖樹の意識の方が強い感じだ。そしてその本能がラシードに喰らいついた。
首筋を庇ったラシードの左腕にセイカの牙が食い込んだ。

「っ・・・そうがっつくな。逃げはしない」
ラシードはそう言いながらセイカを引き剥がすと血塗れた唇に口づけした。

アーシアは息を呑み込んだが、直ぐにラシードの意図を察した。貪るような口づけを交わしながらラシードがアーシアに合図を送って来たのだ。
アーシアは頷き、未だに身悶えているレンにそっと近付いた。

「レン、しっかりして、レン」
アーシアがレンを揺さぶろうとすると、レンの瞳が薄っすらと開いた。

「ア・・・アーシア・・・私に触れてはいけ・・・ません・・・媚薬に侵されてい・・るから・・・貴女を見境無く・・・くっ・・・うぅ・・襲ってしまいそうです・・・から・・・はっ、うう・・・」
アーシアは屹立したままヒクついているものを、チラリと見た。
アーシアは少し躊躇したものの覚悟してレンの右腕を左手で掴んだ。
レンは、ビクリと大きく身体を揺らしたがアーシアのその手には金色の珠紋浮んでいた。

「レン、自分を治癒して。力を貸すから」
それはラシードの指示だった。契約の龍の意思なら宝珠は他の龍に力を与える事が出来るのだ。
弱りきったレンでもアーシアの力が加われば直ぐに治る。

レンはアーシアに襲い掛かりたい衝動を懸命に抑えて力を放出した。
襲い掛かるのが先か?緩和するのが先か?の瀬戸際だった。しかし、レンの精神力がどうにか勝り、吸血された傷を塞ぎ青ざめた肌に血の気が戻った。そして全身を侵していた媚薬の効果も薄れたようだった。今にも爆ぜそうに反り返っていたものが萎え、絡み付いていた蔓は目的を失って緩み抜け落ちた。
レンは苦痛に解放された長い息を吐くと身なりを整えた。

「アーシア・・・ありがとうございました」
アーシアは首を振った。今はレンの代わりになりそうなラシードが心配で堪らなかった。
恋人としてどこまで耐えられるのか・・・アーシアは駄目だと叫びたい気分だった。セイカの気をそらす為とは言ってもラシードから彼女に口づけした・・・仕方が無いことだとしてもとても嫌だった。
ラシードが嫌な事をすると言った通りだ。ラシードはセイカを籠絡しようとしているのだ。
アーシアは、きゅっと唇を噛み締めた。

セイカが嬌声を上げていた。

「知ってる?お前達が呼ぶ吸血樹って本当は淫魔の属性なのよ。そして相性の良い人に寄生出来る。血が一番香って美味しく感じるのは性交の最中よ。手に入れた人の身体で餌をもっと良い味にするの。淫らに乱れれば乱れるほど美味しい・・・そして私の力も倍増する」
レンは途中までだったがラシードは今からだ。早速ラシードの胸を弄り出したセイカが上機嫌で、ベラベラと饒舌に喋り出したところだった。

「私の偽者も吸血樹なのか?」
「あははっ・・・あれはたまたま通りかかった男を襲ったら死なずに吸血樹化してしまったのよね。しかも人の姿のまま。余り無い例だけど私も飢餓状態が長かったから種を残す成分が働いたみたい。でも、あの男、処女の破瓜した時の血しか力に出来ない欠陥者。しかも私のように体液が媚薬とかじゃないから血の味と効力を高めるのにも一苦労。ただ強姦しても力は半減するみたいだし馬鹿みたいに女のご機嫌とって、あんなの仲間でもなんでも無い出来損ないの下僕よ。まだタジリの方が使い勝手が良かったわ。人の社会は面白いわよねぇ〜権力と言うの?あれで私が何もしなくても従わせる事が出来るのだものね」
嗤うセイカの瞳は充血した色が中心に集まり真紅になっていた。吸血樹の瞳の色は本来真紅なのだろう。そしてラシードの偽者が次から次へと娘達を騙して毒牙にかけていた理由も分かった。

(全く馬鹿らしい・・・そんな陳腐な化物に名前を騙られ迷惑な話だ)
話しを頭の中で整理していたラシードだったが余りにも平然としている様子にセイカの
手が止まった。
「どうして私の媚薬が効いてないの?」
唾液を絡ませ貪るような口づけを交わしたのだから効いて当然なのに・・・
ラシードは顔色一つ変えず息さえ乱していない。セイカは再びラシードの首に絡みつき押し倒すと揺れる胸をすりつけ噛み付くような口づけをした。淫らな舌が蠢き唾液を絡ませる。
一方的な口づけはたっぷりと媚薬を注ぐには十分だった。
しかしセイカからの口づけはいつの何かラシードが主導権を握っていた。

「アーシア・・・見ない方が・・・」
レンの気遣いにアーシアは小さく首を振った。

「大丈夫・・・ラシードのあれ・・・人外でも効くのかしらね?もしそうなら凄いって実感だわ。私が足腰立たなくなるのも当たり前って感じ?」
努めて明るく言うアーシアだったが嫌で堪らなかった。ラシードは自分のものだと叫んで引き剥がしたい衝動に駆られていた。

(でも・・・ラシードの方がもっと嫌な筈だもの・・・私が傷ついた素振りをしたら・・・ラシードがもっと傷付いて悲しむから平気な顔をしていよう・・・私は大丈夫!昔の私達じゃないのだから!)
アーシアはラシードとすれ違っていた悲しく辛かった日々を思い出した。それに比べたらこんな事は何でも無いと思ったのだ。

そんな風に心を揺らしているアーシアの前で、主導権を握ったラシードは身体の位置も逆転させ、深い口づけを続行していた。お互いの舌は激しく出入りを繰り返し解け合うように絡み合う。
その舌が、クチュクチュと音を立てて呑み込みきれない唾液を唇の端から溢れさせていた。

「あふっ・・・あっんん・・・すご・・・い・・・うっ、んん」
ラシードの口づけだけでセイカは淫らに腰を揺らし花芯は蜜で溢れていた。
しかし、ラシードの表情は恐ろしく冷淡で真紅の瞳はその色から一般的に感じるものとは正反対で冷たく凍るようだった。セイカがもしもそれを正視していたならその身を引いていただろう。

ラシードはいきなり口づけを解いて酷薄に微笑んだ。

「媚薬?これが?こんなもので私は感じない。この私を酔わせる事が出来るのはたった一人だけだ」
ラシードはそう言うとアーシアに向かって微笑んだ。
アーシアは突然贈られた極上の笑みに頬を赤らめた。今の今まで沈みかけていた心が一気に上昇してしまった。それはいつも彼女にだけ贈られる愛情溢れる微笑みだからだ。

それを間近で見たセイカは怒気を上らせて叫んだ。

「レン様を盗んだあの女と一緒ね!お前も八つ裂きにしてやる!」
アーシアに飛びかかろうと踵を返したセイカの髪をラシードが掴み上げた。

「誰に向かってそんな事を言っている?彼女に手を出してみろ・・・お前の好きなようにさせないぞ・・・」
ラシードの声は淡々としていたが凍るように冷たく魔性のセイカでさえも首を竦ませた。
しかしセイカは直ぐにラシードに切り替えした。

「好きなようにさせないって?お前こそ何様のつもり?私は大勢の命を握っているのよ。私に逆らえば殺すわよ」
これで形勢は逆転したとばかりにセイカは高笑いすると髪の毛を掴むラシードの手を払った。
しかしその手は宙で浮いたまま止まってしまった。ラシードが冷たく微笑んだからだ。

「な、何よ!何がおかしいのよ!」
「私はレンのように優しくなんか無い。誰が死のうと私には関係無いことだ。彼女さえいれば他はどうでも良いことだからな」
「う、嘘!あ、あなたはレン様と同じ四大龍でしょう?昔と違って今の四大龍は民衆の味方で正義を尊ぶのでしょう!そんな嘘を言っても騙されないわよ!」
「正義?今、喋っているのは宝珠の方か?まぁ・・・どちらだろうと関係無いが・・・私はもうその正義ごっこに飽き飽きしているんだ。最初は愉しかった。反旗を翻して魔龍王を斃すという最高の娯楽。それを味わった後の平穏な日々の味気なさ・・・もうそんな世界がどうなろうと私は何も執着しない。私が唯一、執着するのは彼女だけなのだから・・・」
「なっ・・・う、嘘・・・」
「あ・・・そうだ。一つ、面白い事を教えてやろう―――私には魔龍王ゼノアの血が流れている。吸血樹のお前なら分かっただろう?その血を分けた親を滅ぼすのに手を貸し、そして奴の宝物だった彼女を手に入れた・・・奴も彼女さえいれば何も要らなかったらしい。私も全く同じだ」
「伝説の宝珠・・・魔龍王の血・・・」
宝珠ならば誰でも知っている伝説の宝珠に執着した魔龍王の話・・・
そして血統による潜在能力は一般的に知られているが血は誰が見ても・・・例えそれを口にしても見分けがつかないものだ。だが吸血樹にとって血液は力の源であり、その優劣は瞬時にして分かるものだった。だからセイカはレンを欲した。
たぶん能力が高い者程、その血は妖樹にとって美味なのかもしれない―――

 ラシードの育て親ザーンは趣味で多くの古書や文献を蔵書していた。
ラシードもそれに興味を覚え端から読んだものだった。その中でやはり吸血樹の記述があった。
それは研究書のようなもので吸血樹の生態記録だった。その中で印象深かったのが血の優劣による妖樹の好みだったのだ。だからラシードはサードからセイカの異様な様子を聞き直ぐにその事を思い出し、自分を餌にレンから引き離す事を思いついたのだった。

(この身に流れる忌まわしいゼノアの血・・・奴はカサルアと同等の力を持っていた・・・しかも魔性の強いこの血ならば滅多に味わえない貴重なものだろう?)
ラシードの思惑通りにセイカはその餌に食らい付いた。
サードにはザーンの蔵書の事も伝えている。あの書物にはまだ色々詳しく記されていたような気がするのだ。
今はとにかく時間を稼ぐ―――それだけだ。


妖樹のセイカは魔龍王と呼ばれた男を知っている。
彼女が長い眠りに付く原因となったのがゼノアだったからだ―――

妖樹の存在を知ったゼノアが物見遊山で現れると、近くの村で捕らえた人間を彼女らに与え血を吸わせて興じていた。その当時はまだ何本か吸血樹は存在していたのだが・・・
その後、意外とつまらないと言ったゼノアが吸血樹もろともその一帯を焼いてしまったのだ。
その帰り際、ゼノアが炎で弾けた石で手に傷を負った。その傷から一滴落ちた血がセイカを救ったようなものだった。魔龍王の一滴の血は紅蓮の炎の中で彼女の命を繋ぐ程の力があったのだ。
しかし命があるだけの状態では長い眠りにつくしか無かった。

「・・・私の仲間を殺した男の息子・・・」
ラシードは平然としていたがアーシアとレンは顔色を変えた。
二人はラシードが自ら忌み嫌うゼノアの血統を誇示してまで自分にセイカの興味を惹き付けようとしていることに驚いていた。そこまでしたのに・・・それが逆にあだとなるのか?

「レ、レン、ラシードが危ないわ!」
「アーシア、大丈夫ですよ。ラシードを見てごらんなさい」
アーシアはレンに言われてラシードを見た。ラシードは余裕たっぷりで傲慢に微笑んで愉快そうに言った。

「私を独り占め出来て良かったな」
セイカは値踏みするようにラシードを見ていたが、ニッと嗤った。

「本当にそうだわ。長い間生きていてこんなに美味な血を味わったこと無いもの・・・思い存分吸い尽くしたい・・・」
「意地汚いな・・・お前の好きにはさせないと言っただろう?私が欲しければ私の言う事を聞くんだ」
恍惚とした顔をしていたセイカは頷きかけたが、宝珠のセイカがそれを止めた。

「皆がどうなっても良いと言うのに何故レン様を助けたの?あなたの言っている事としている事が違う!それに私はレン様の方が良いのよ!」
妖樹のセイカがラシードに心奪われている隙に、レンに未練が残る宝珠のセイカが本体の意識を支配したようだった。しかし妖樹のセイカは目の前の極上の血に目が眩んでいたからそれを黙っていなかった。今までお互いに協力しあっていたが、一つの器の中で二つの意識が表に出ようと争い始めた。ラシードを欲するセイカとレンを欲するセイカ・・・妖樹が勝つかと思ったが意外と宝珠も意思は強かった。

決着が付かずセイカが悶え苦しむ間にレンが動いた。
此方へ向かって来るレンにラシードは来るな、と視線を投げた。
しかし、レンは首を振って微笑むとラシードの横に立った。

「私は貴方を犠牲にしてまで助かるつもりはありませんよ」
「・・・勘違いするな。私はお前の為にしているつもりはない。単なる時間稼ぎだ。あのままお前に任せていたら精気も血も抜かれて屍になるまでそんなに時間はかからなかっただろうし・・・お前が死んでも構わないがそれでは時間を稼ぐ目的にはならないからだ」
「まあ・・・そうですね。そういう事にしておきましょう。不覚を取ったのは事実ですからね。でも・・・ラシードもそろそろ限界でしょう?浄化が必要では?」
レンが、にっこり微笑んでそう言うと、ラシードの剥き出しの腕に触れた。
ラシードは、ビクリと身体を震わせレンを睨んだ。
レンは小さく、クスリと笑うとラシードに治癒の力を注ぎ込み出した。

「直ぐに終ります。それにしても流石と言うか・・・強靭な精神力ですね。ここまであの麻薬のような彼女の媚薬に耐えるとは・・・」
ラシードはセイカの媚薬が効いていないのでは無く精神力で抑えていただけだった。
レンの言うように限界まで来ていた。もう一度、彼女から触れられたらどうなっていたか・・・
しかし例え意思に反して肉塊が昂ぶってもセイカの中へ沈める事は無かっただろう。
どんなにアーシアと一つになりたくても・・・彼女の中にこの昂ぶりを沈めたくても耐えて来たラシードにとってそんな衝動を抑えるのは簡単なことだった。

「・・・こんなもので私は動かせない。そう・・・これは性欲増進剤のようなもので人を操るに至らない」
「そうです。強い快楽で思考が麻痺するだけのもの。もちろんより以上の強い快楽と刺激を求めて彼女の言うなりになる者もいるかもしれませんが・・・言動から行動まで自由に動かすようなものではありません。だからあの母娘の血液に見られたような成分と一致しないでしょう・・・」
ラシードもセイカを誘導して色々喋らせたが肝心のことを聞き出せずにいた。後、少しの所で宝珠のセイカが顔を出してしまったからだ。

「だから手伝いますよ。時間稼ぎになるのか・・・それとも口を割らせる結果となるのか分かりませんけれどね。さあ、終りました」
レンが再び微笑んでラシードの腕から手を離した。
ラシードは無言で何も言わなかったがほんの少し顔が和らいでいるようだった。

そして決着が付かず頭を狂ったように掻き毟るセイカの前で、ラシードとレンが同時に彼女の名を呼んで腕を広げたのだった―――



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