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紅とアーシア12![]()
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「ラシードはお前なんかと手を組まない!」
「そんな愚かな男だったのなら私が刺し違えてでも憂いを取り除いている」
ラシードとセイカの間にラカンとイザヤが立ちはだかり彼女を退けた。
そして眩しい光のようなカサルアもその場に割り込んで来た。
「カサルア!」「天龍王!」「兄様!」
「やあ、みんな、お待たせ。楽しそうな会話をしているね。お嬢さん、私が困るから私の大事な四大龍を誘惑しないでくれないか?」
「天龍王・・・そう・・・お前が・・・これまた美味しそうね。じゃあ、あなたで良いわよ。民衆の命と引き換えにあなたを貰う。どうかしら?」
セイカは舌なめずりしながらカサルアに魅入っていた。鮮烈な龍力は二人のセイカを虜にするには十分だった。
「手段が無ければそうするだろうが・・・今は遠慮する。イザヤ!ラカン!レンの代わりに民衆の防御を!ルガドとアデルが扉の向こうで待機している!私はレンを手伝って浄化する!ラシードとアーシアは包囲結界を維持!浄化が終わり次第、妖樹を消滅させるんだ!」
「やはりそれしか方法は無かったのですね」
イザヤの問にカサルアは頷いた。
詳細が判明するまでの時間を惜しんだイザヤとラカンはカサルアを残し、先行してやって来た。残っていたカサルアは結局有効な手段が見つからず、力任せの手段に踏み切るしかなかった。それこそ防御と浄化を一度にする方法だが、時間がかかり過ぎると人体が持たない。最大限の力で一気に決着を付けるしかないのだ。広範囲に及ばせるその手段はそれこそ膨大な力を要する事となる。
だから全て終わる頃には皆、力を使い果たした状態になるだろう。
ラシードとアーシアの力はカサルアを上回る・・・
もしもの場合の余力とする考えだった。
ラカンとイザヤの力がそれぞれの宝珠アデルとルカドの力で増幅され兌龍州全土を走った。それと同時にレンとサードの力とカサルアの力がそれを追い掛けるように放出された。人々は何が起きたのか分からないまま昏倒し浄化されていった。
その進行状態はセイカの表情で確認できた。彼女は見る間に青ざめ、そして怒気をのぼらせ始めた。自分の力が及ばなくなったのが分かるのだろう。
「あ、あんた達!許さないわよ!ただの食糧の癖に!いつも、いつも!私の邪魔をして!」
セイカが見えない壁を叩きながらラシードに向かって噛みつくように言った。
その怒り具合と焦り具合から見れば、ほぼ力を失ってしまったのだろう。
「アーシア」
ラシードが真紅の龍紋を刻む右手をアーシアに差し出した。
その真紅に輝く龍紋を見るだけで宝珠としてのアーシアの胸は熱くなり跳ね上がる。
力を重ね合わせる時は身体を重ねる感覚ととても似ていた。宝珠にとって龍は何よりも勝る存在なのだから身体を重ねる悦び以上の満足を与えられるからだ。
だから契約した宝珠は自分の龍以外に恋人は持たない。親密な肉体関係を持っても龍以上の存在にならないからだった。
アーシアは金色に輝く珠紋を刻む左手で、そっとラシードの右手に触れた。
指先が触れただけで全身が雷に打たれたかのような痺れが走る。
「あ・・・っ・・・」
ビクリと震わせた指先はラシードの長い指に絡めとられた。全身が真紅の龍に巻かれるような感覚・・・思わず悦びの声を上げそうになるのをアーシアは、グッと抑えた。
久しぶりの感覚で身体中が震えてしまう。
「アーシア?どうした?赤い顔をしてそんなに震えて?」
「な、何でも無いわ!こ、この部屋が、あ、暑いのよ!だから早く終わらせましょうよ!」
ラシードは、ふっと微笑んでアーシアを抱き寄せると彼女の耳元で囁いた。
「じゃあ、早く終わらせて誰もいない湖畔で沐浴しよう」
「ラ、ラシード!」
アーシアは、もっと顔を赤く染めるとラシードを叩こうとした。
その手を止めたラシードはアーシアの両手を捉えたまま微笑んだ。
「さあ、アーシア。私に力を・・・」
ラシードの滅多に見られない微笑みに、ぼうっとなってしまったアーシアはただ頷いてその力を解放した。
至上最強と云われる宝珠の力を受けたラシードは大地を一瞬のうちに焦土化してしまうという力をセイカへ集中させた。それと同時にその灼熱の影響が周りに出ないようにと包囲結界を強めた。
その結果・・・不可思議な力で皆を震撼させた妖樹は悲鳴を上げる間もなく焼き尽くされ消滅したのだった―――
吸血樹事件の事後処理が終わり、いよいよレンとクレアの婚礼が行われた。
その日、アーシアは事後処理で忙しかったラシードとは久しぶりに会ったような状態だった。だからアーシアのお願いはまだ言っていない。
直ぐにでも言いたかったが今はレン達を祝う気持ちで心はいっぱいだった。
そして華やかな一日は終わり、ラシードはまた忙しく出かけて行ってしまった。
〜翌日〜
『アーシア、君はどんな玉がいい?』
ラシードが目眩しそうな微笑みを浮かべてそう言った。
うっとりするような微笑に目を奪われている間に問われたものだ―――
「ねぇ?ラカン、それってどう言う意味だと思う?」
翌朝、一人だけ暇そうなラカンを捉まえて自室に連れ込んだアーシアはそう尋ねた。
「なんで、それを俺に聞く訳?」
「だって、ラシードの一番の親友じゃない!彼が何を考えているか分かるでしょう?」
「何をって・・・言われても・・・その時、聞き返さなかったのかい?」
「だって・・・どういう事??と思っている間に話すきっかけを逃して・・・」
アーシアはラシードがそんな事をどうして言ったのか分からなかった。レンとクレアの結婚式に参列した時、アーシアは花嫁が腰に下げていた玉を素敵だと褒めた。それは婚礼の朝に花婿から贈られる帯飾りで婚礼衣装を何よりも引き立てる一品だった。
その玉を話題にしている最中にラシードからどんなものが良いかと聞かれたのだ。
「それって・・・普通なら・・・ううん、やっぱり意味は無いかも・・・いつも色々贈ってくれるものと一緒でただ玉飾りを贈ろうか?と言っただけかな?ねえ、どう思う?」
ラカンは直ぐに答えられなかった。
アーシアが言いよどむ気持ちは分かる。普通ならそんな言動は結婚を考えているようなものだ。しかし、ラカンもアーシアもラシードが結婚を匂わせる思わせぶりな態度をする筈がないと思っている。
(ラシードの奴・・・いったいどういうつもりで言ったんだ?)
兌龍州でラシード本人を焚きつけて見たもののあれからどう思っているのか?ラカンも分からなかった。自分が色々言っても根が深い分、その複雑な心理状態は直ぐに改善するものではないとラカンは思っていた。
「ああ〜ラシード早く帰って来ないかしら・・・だいたい兄様はラシードに仕事を押し付け過ぎよ!ラカンなんか何時も暇そうにしているのに!ラカン!もっと働きなさいよね!」
「ひっでぇ〜アーシア、それはないだろう?俺だって忙しいんだよ」
「どこが?」
アーシアの皮肉にラカンは大げさに嘆いて見せた。
そして笑い合う二人は背後で大きな溜息を聞いた。
「夜通しで用件を済ませて急ぎ戻れば・・・恋人と親友が仲良くじゃれ合っている姿を見るとはね」
「ラシード!」「げっ!」
アーシアは、ぱぁ〜っと微笑んだがラカンは、ぞっとした顔をした。
(めちゃめちゃ機嫌悪い?うげぇ〜)
ラシードは、チラッとラカンを一瞥するとアーシアに両手を広げた。
二人の様子を見たアーシアは、クスクス笑った。
「ラシード、焼きもちは駄目よ。ラカンなんだし」
「ラカン?どこに?まだ居るのか?」
ワザとらしく周りを見回すラシードにラカンは大げさな溜息をついた。
「ハイハイ、邪魔者は消えますよ。どうぞ、ごゆっくり」
手を振りながら去って行こうとするラカンにラシードは、そっと耳打ちした。
「なっ!どういう・・・」
驚いて瞳を見開くラカンにラシードは更に耳打ちした。
「な、ななな・・・」
「では、タニア殿に宜しく」
「よ、宜しくって・・・おい、ちょっと!それは無いだろうがっ!」
ラカンの喚き声を聞く様子も無いラシードはさっさと背中を向けてしまった。
「なぁに?何を言ったの?」
「後で教える。それよりもアーシア、今から私の屋敷に行かないか?」
「屋敷?部屋じゃなくて?珍しいわね。良いわよ」
ラシードが個人で所有する屋敷は青天城からそんなに遠く無い位置にあった。
しかしラシードは便利の良い城内に貰い受けた居室を利用してその屋敷には滅多に足を運ばなかった。誰も住んでいないような屋敷は閑散として暗い雰囲気だった。
「相変わらず殺風景ね。管理人はいるのでしょう?お花を植えるとか・・・あっ!でもこんなに広いから実のなる木でも良いわね。お花が咲いた後は色んな果物が生るなんて楽しそうじゃない?レンやサードにお願いしたら直ぐ立派な果樹園が出来るわよ!ねっ、ラシード!」
楽しそうにベラベラと喋っていたアーシアは、はっと我に返って口を噤んだ。
「ごめんなさい、ラシード・・・あなたの屋敷なのに勝手な事言って・・・」
「構わない。私のものは君のものだ。この庭も好きにしていい」
「本当!嬉しい!あ・・・でも滅多に来ないから・・・」
「私は今度から此処に住むつもりだ」
「えっ?ここに?そう・・・なのね・・・じゃあ今までみたいに直ぐ会いに行けなくなるのね。でも!城ではずっと一緒なんだし!私は寂しく無いんだから・・・平気なんだから・・・」
少しだけ離れた場所に移るというだけなのにアーシアは取り残されたような気持ちになって鼻の奥がツンと痛くなって来た。泣くようなことじゃ無いのにそんな気分だ。
「アーシア、会いに来る必要なんか無い。一緒に住むんだ」
「えっ?でも・・・それは・・・兄様が許さないもの」
「それは結婚すれば反対されない」
「け、結婚!!」
アーシアは驚いて声がひっくり返った。
「ラシード!あ、あなた・・・私と結婚するつもり!」
「するつもりかって?もしかして嫌・・・だとか?」
アーシアは大きく首を横に振った。
「そ、そんなこと無い!だって!急にそんなこと言うから・・・それに本当に良いの?」
少しの沈黙の後、ラシードが重く口を開いた。
「正直な気持ち・・・結婚は考えていなかった。強い絆で結ばれている私達の間でそんな形が必要だと思っていなかった・・・それよりも一番の原因は・・・私の呪われた血は私で終わらせたいと思っていた・・・」
アーシアは薄々感じていた事だがラシードはその話題を口にする事が無かった・・・
唯一、二人の関係に影を落としていたものが今・・・表に出たのだ。
「呪われてなんかいないわ!ラシードはとっても素敵だもの!今なら私!ゼノアに感謝したいくらいよ!あなたをこの世に誕生させてくれてありがとうって!私を封印してくれてありがとうって!あなたに会えて私は・・・私は・・・私、もう!上手く言えない!何言っているの!私は、私はね・・・」
アーシアは興奮して涙が溢れてきた。言葉に詰まる・・・言いたいことの半分も言えない事が悔しくてもっと涙が出てしまう。
「アーシア・・・君はレンが贈った花嫁の帯飾りを褒めていただろう?溜息ついて・・・その時、本当に・・・自然に・・・君にどんな玉がいいかと聞いてしまった。口に出した後、正直自分でも驚いていた。しかし・・・お節介な奴が言った通り心に正直に生きるのも悪くないと直ぐに思った―――それにゼノアの血も悪くない。今回は役に立ったし、もしこの血が後々狂った者を生んだとしても全力で止めてくれる馬鹿な奴らもいる。アーシア・・・長い間待たせてすまなかった。アーシア、結婚しよう」
「ラシード・・・もう、嫌いよ・・・涙が止まらないじゃない・・・もうっ・・・馬鹿」
アーシアの溢れる涙をラシードが優しく唇で拭った。
瞼に触れる唇から、チロチロと出入りする熱い舌が涙を受けていた。舌が優しく動く度にアーシアの官能に火を点すようだった。彼女の自然と揺らす腰に気が付いたラシードは微笑むとアーシアを抱き上げ屋敷の中へと入って行った。
ベッドへ降ろされたアーシアは息を呑んだ。
そして二人とも言葉が出なかった―――自然と顔を寄せ合い唇が重なる。
唇が触れ合った瞬間、舌が滑り込んで来た。お互いの舌を絡め取るように舌を差し出し解け合うように深く合わせる。唇の隙間から漏れる吐息は熱く、クチュクチュと湿った音が聞こえだした。
息が上がる頃には二人共、邪魔な衣は床の上だった。
曲線を描くアーシアの白い肌をラシードの手が愛おしげに撫で回し始め、その手が柔らかな胸のふくらみに辿り着き包み込んだ。
「あっ・・・んんっ・・・」
ラシードの手の動きに唇を離しかけたアーシアだったがそれは許されなかった。
グッと更に深く唇を合わせられ、容赦なく攻め立てられた。口腔を優しく蹂躙されながら敏感になった胸の尖端をこね回される。アーシアを知り尽くしているラシードは彼女の感じ易い場所ばかりを責めて来るのだ。
「あっ・・・ラ・・・あん・・・ラシード・・・あ、あ、ああ」
ここまではいつもの事だ。ラシードの手管で何が何だか分からないまま快感を与えられて終わる・・・しかし今回は違っていた。いつも余裕たっぷりのラシードが全く余裕無しだったのだ。アーシアを性急に求め少し乱暴なくらいだった。
「アーシア・・・」
ラシードの掠れた声が否応無しにアーシアを高みへと誘って行くようだった。
「ラシード・・・ラシード・・・お願いよ・・・」
これもいつも発せられる言葉だ。何の願かは言わない・・・頬を上気させ、潤んだ瞳で懇願するアーシアはいつもそれ以上言わないのだ。しかし今回はラシードに願いを叶えて貰うと約束を交わしていた。今、その続きを言う時だ!
「ラシード・・・お願い――」
アーシアの願い事はラシードの呻き声で遮られた。
「アーシア・・・そんな顔で煽るな・・・もう限界だ・・・」
ラシードから耳元で囁かれ、その低音に腰が砕かれた瞬間、両足を抱え上げられ熱い塊を蜜溢れる花芯に宛がわれた。
「!・・・あ・・・っ、あ、ああ・・・入って・・・」
グッと先端を突き入れられ押し入って来た熱い猛りにアーシアは仰け反って喘いだ。
「は・・・あっ、あ、あ、あ・・・んっ」
ねじ込むように進んで来たものはアーシアの反応に合わせて一瞬止まった。しかし抱え込まれた下肢をより大きく開かれ熱い塊は更に質量を増し、一気に最奥へと進んだ。
「ああっ、あっ、あっ、あ・・・」
「っ・・・アーシア・・・全部入った・・・きついか?でも・・・もう止められない・・・」
「ん・・・ラ・・・ラシード・・・はっ、あっ、ああん・・・」
深く埋め込んだまま抉るように腰を動かすラシードにアーシアは仰け反って喘ぐしか無かった。繰り返される力強い律動に合わせアーシアは激しく揺さぶられ続けた。
「ひっ、あっん・・・だ、だめ・・・んん」
激しく揺さぶられていた身体がその快感に慣れ始めた時、いきなり止まって強く突き入れられた。
「んっ!・・・っ・・・」
奥まで深く埋め込まれては引き抜かれる動きの連続で与えられる快感に震えるアーシアは、ラシードにしがみつき声が枯れるまで喘ぎ続けた。そしてラシードの突き上げが最高潮に達した瞬間、彼女の中で熱いものが爆ぜ迸った。
「あぁっ・・・ああ・・っ・・・」
アーシアは全身に広がる快感に震え体内に脈打つラシードの昂ぶりを感じた。
そして今まで味わった事の無い幸福感に包まれた・・・それから何度も、何度もラシードは今までの猛る想いをアーシアに沈めたのだった。
〜エピローグ〜
「ねぇ、ラシード。そう言えば・・・ラカンに先日何を言っていたの?」
「気になるのか?」
「だって・・・ラカン変じゃない?心ここに在らずって感じ?」
「婚礼が延期になるからだろう」
「えっ!延期するの?レン達の後にするって言っていたじゃない?それでなくても延び延びなのにどうして?」
「私達が先にすると言った」
アーシアは飲んでいたお茶を吹き出しそうになって咳き込んだ。
「私達が?それは悪いわよ。準備だってあんなに進んでいるのに。それをまさかあの時、言ったの?」
アーシアが呆れて訊くとラシードは当然だというように微笑んだ。
「ああ、ラカンに言った。アーシアのお腹が大きくなる前に花嫁衣裳を着せたいから先にするからお前は後にしろと」
「お、お腹!」
アーシアは持っていたカップを、ガチャンと落としてしまった。
「大丈夫か!アーシア!」
アーシアは驚き過ぎて固まってしまった。そして恐る恐る口を開いた。
「ラシード・・・それって赤ちゃんのこと?」
「もちろんそうだ。そうなるような事を毎日しているんだから急がないと。花嫁衣裳も装飾品も手配済みだし場所はラカンが快く譲ってくれた」
「快くって・・・それ脅した、の間違いでしょう?」
「さあ」
「もうっ、ラシードったら!気が早すぎよ!ビックリしたじゃない」
「早くない。予感だが絶対にいる」
ラシードがアーシアのお腹に頬を寄せて優しく微笑んだ。
「兄様達だってまだなのよ。イザヤのところで先日やっと懐妊の知らせでしょう?そんなに直ぐ出来るものじゃ無いわよ」
「じゃあ、賭けようか?」
「嫌よ!こんなこと賭けるものじゃないわ!」
プンと怒ったアーシアにラシードは唇を盗むような口づけをした。
「私の言った事が正しかったら毎日君から口づけして貰おう」
「ま、毎日しているじゃない!」
「私がね。君からは滅多に無い」
「そ、そんな約束しませんからね!」
アーシアは真っ赤な顔をして突っぱねたが、ラシードは笑っただけだった。
そして勝手な賭けの結果は・・・ラシードの勝利で終わったらしい・・・
―終―
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