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紅とアーシア3![]()
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「それで?」
鮮やかな朱金の長い髪を鏡の前でゆっくり櫛つけていたイザヤの妻サーラが言った。
話し相手はイザヤだ。二人の寝室でサーラは寝仕度中だった。
「ああ、それで――」
「それで?何?」
イザヤは軽く溜息をついた。
「この私からすんなり話を聞き出せるのはお前ぐらいだな、サーラ」
「人の秘密を沢山知っている貴方から聞きだせる情報は貴重よね?」
「サーラ!もう話さないからな」
「あら?そう?じゃあ、話し易くしてあげましょうか?」
サーラは、クスクス笑うと櫛を置いて立ち上がった。そして軽く前を合わせていただけの室内着の紐を解きながら寝台に腰掛けているイザヤの前まで進んだ。
「サーラ・・・」
いつも冷たいイザヤの声は少し熱を帯びていた。
サーラが彼の前でその室内着をパラリと脱いだのだ。もちろんその中は何も着ていなかった。
湯上りしたばかりの肌は淡く薔薇色に染まったままで、豊かな胸はツンと上を向き、曲線を描く身体は見るだけで欲情をそそるものだった。
見慣れたイザヤでも誘いかけるようなこの仕草に思わず魅入ってしまった。
「続きを教えて・・・ねぇ、イザヤ・・・」
サーラは指でイザヤの唇をなぞり、そのまま顎を伝って喉元に円を描くと肌蹴ている胸板を撫でた。
そしてイザヤの唇の端を舌で突き、そっと触れるか触れないかのような感じで口づけした。
唸るイザヤを無視したサーラは次に身体傾けると、尖り出した自分の乳首でイザヤの乳首を弄るように小突いた。ゆらゆらと官能的に乳房が揺れイザヤを甘く刺激する・・・
「っ・・・サーラ・・・いい加減にしろ」
「あら?いいじゃない。別に今は秘密でも無いでしょう?興味あるものラシードの偽者なんて。教えてくれないのなら今日は別の部屋で寝るわ。そうねぇ〜今度会えるのは・・・一週間後ぐらいかしら?」
サーラは身体を離し、指折数えてそう言った。忙しい二人がゆっくり夜を過ごせる時間は貴重だった。
「全く・・・最近、忙しそうだったからとこっちは遠慮していたのに・・・素直に誘ったらどうだ。そういうつもりなら情報に見合うだけの事をするから覚悟して貰おう」
「素直じゃないのは貴方もよ。此処をこんな風にして我慢しているなんてらしく無いわよ」
サーラはお揃いの室内着に隠れているイザヤの下半身を指差した。そこは下から布を持ち上げるものが隠れているようだった。
サーラは、クスクス笑いながら勝手にイザヤの腰紐を解き、その邪魔な布を横に押しやった。
すると、グンと屹立したイザヤの昂ぶりが現れた。それをサーラが伸ばした長い爪の先で軽く掻いた。
「っ・・・・・」
イザヤは堪らず声を洩らし、女王のような(実際州公なのだからそれに等しいが・・・)サーラの腕を掴むと自分が座っていた寝台へ引き倒した。形勢逆転かと思ったがサーラは、クスリと笑ってイザヤの首に抱きつき、唇を塞いできた。口づけは直ぐに激しさを増し、深く舌を絡めては強く吸った。
「ふぅ・・・んっ・・・んぁ・・・」
甘い吐息がサーラの唇から漏れた。イザヤはそれらを呑みながら唇を離すと、愛撫を求めて震えているような乳房へ舌を押し当てて音を出しながら大きく舐めた。
「あっ・・・ぁぁ・・・イザ・・・ヤ・・・もっと・・・」
サーラは堪らず、もっと、もっとと腰をくねらせてせがんだ。尖った胸の頂がイザヤの愛撫を待っている。その乳首をイザヤから、ギュっと指で押し潰ぶされサーラは仰け反った。更に千切れてしまいそうなくらい捏ねられ引っ張られた。
「ひっ!ああ、あっ、あっん・・・い、痛い・・・イ・・・ザヤ・・・」
「これくらいが好きだろう?」
「い、痛いのは嫌よ!」
「この私の前で嘘が通ると思うのか?いつもより興奮しているじゃないか」
「そ、それは!ひっ、あぁっ、あっ、ああっ―――」
サーラは次に乳首を甘噛みされて悲鳴のような喘ぎ声を上げた。執拗な責めは乳首が赤く熟れたように染まるまで続けられた。そして乳房には花びらを散らしたような赤い口づけの痕だらけだ。
「もう!いい加減にして!」
「いい加減に欲しい?」
「そうじゃなくて話しをしてちょうだい!」
「自棄に冷静になったな。話しを聞くような状態じゃ無かったのに?」
珍しく上機嫌な様子のイザヤにサーラは少し心ときめかせながらも、少し流され過ぎた自分を叱咤した。それに今度は自分が主導権を握る番だとサーラはイザヤの猛々しくそそりたった肉塊を一瞥して微笑んだ。
「早く、イザヤ。そうしないと辛いのは貴方よ」
「さあ、どうだろう。私はいつでも話しは出来る。聞くだけの余裕がお前にあるかどうかなだけだ」
不敵に微笑んだ何においても常勝の男イザヤはサーラの片足を吊り上げるように持ち上げると、露になった蜜が溢れる花芯に己の昂ぶりの先端を挿し込んだ。
サーラはいきなり押し入って来た熱く硬い猛りに仰け反って喘いだ。
「ああっん・・・あっ・・・ん」
サーラの中でもっと質量を増したそれは、グイグイと奥へ侵入して来た。そして一気に根元まで埋め込まれた。サーラの温かく絡みつく何とも言えないその感覚を愉しむようにイザヤは動かなかった。
「サーラ、続きの話しをしよう」
「こ、この状態で?」
サーラはこの意地悪な夫に呆れたが負けを認めたく無い。平気な素振りでイザヤの話しに耳を傾けた。
イザヤの登場にラシードの顔はもっと不機嫌になり、ラカンはうろたえてカサルアは天を仰いだ。
その様子を見渡したイザヤが口を開いた。
「私に聞かせたく無い様子ですね」
シンと静まり返っている中で、カサルアが溜息をついて答えた。
「そうじゃないが・・・お前が出て来るような案件じゃないから・・・」
「天龍王が出て首を突っ込む用件なのに?ですか?」
「い、いや、私は少し気になる事があって・・・でも半分只の興味本位で・・・」
カサルアはその迂闊な答えにラシードとアーシアから睨まれて口を噤んだ。
「イザヤ、お前が出て来る必要の無いものだ。出て行って貰おう」
ラシードは他人を寄せ付けない冷たい壁のような何時もの言い方でイザヤに退室を促した。
しかし、イザヤはそれに動じること無く話し出した。
「これはラシード個人の問題に留まらないことが発覚したから私が来た」
「どういう事だ?イザヤ」
カサルアは顔を引き締めて聞き返した。
四大龍達がそれぞれ負っている仕事は様々だ。その中でも王を補佐する銀の龍イザヤが動くものとなればかなり重要なものだった。
「兌龍州 に謀反の兆しがあります」
「兌龍州だって!嘘だろう?」
ラカンが一番に叫んだ。
兌龍州はイザヤの妻、サーラと関わりが深い。
以前、サーラと兌龍州の第二公子とは婚約した仲だったがイザヤがそれを壊したようなものだった。
それに伴って起きた問題でイザヤとも何かと関わりが出ていた。今では第一公子の急逝でそのタジリが州公となっているが彼は良くも悪くも無い。善良で平凡なのが取り得と言われるくらいとにかく目立たない州公だ。それは周知のことでラカンがそれで驚いたのだ。
「だ、兌・・・龍州?あっ、あっあ、あ、・・・そ、そんな・・・タ、タジリが・・・そんな筈・・・ないわ・・・あっ、・・・あっ、んっん」
元婚約者の名を呼んだサーラにイザヤは己を深く埋め込んだまま、抉るように腰を動かした。
何年も前の話しなのに名前を彼女の口から聞くだけで不愉快のようだ。
何度も激しく突き上げられる動きにサーラは大きく仰け反り髪を振り乱した。
「はぁっ・・・あ、あっ、あぁ・・・いいっ、あっ」
「続きはどうする?」
「ば、馬鹿!続きを話しなさいよ!」
「続きとは話しの事では無いのだが・・・」
サーラの片足だけ持ち上げていた手を下したイザヤは、昂ぶりを抜く事無く彼女をひっくり返して寝台にうつ伏せさせた。そして背中に覆いかぶさると、ゆっくり腰を蠢かせてサーラの耳元で話しの続きをし出した。
「兌龍州が?タジリも関わっているのか?」
カサルアも少し驚いた様子で訊き返した。
「それを調査中です。ラシードの噂は兌龍州を拠点として出ていた。それこそどうでも良いと思われるものばかりでした。しかしその中に密かに隠された重要なものが幾つかありました」
「重要なもの?」
「はい。ラシードは兌龍州で出没しているラシードは確かに偽者でしょう。しかし、皆は偽者と思っていないのです」
「そりゃ、そうさ。だからこんな騒ぎになったんだろう?」
ラカンが茶化すように言うと話しを邪魔されたイザヤが睨んだ。
「おっとっと・・・怖い、怖い。どうぞ、イザヤ」
「ラカンの言う通り、彼らはラシードが本物と思っている。だから、ラシードの謀反も本物と――」
「謀反!ラシードが!」
ラカンが驚いて叫んだが、ラシードも流石に目を見開いていた。
「ラカン、静かに。それで、イザヤ。その偽者は謀反を計画していると言うのだな?」
カサルアの冷静な質問にイザヤは頷いた。
「偽者が起した数々の乱行は紅の龍としての名誉を失墜させるのでは無く英雄だった」
「英雄って・・・そりゃラシードの女遊びは英雄伝説みたいなものだけどさ」
ラカンは思わず口を挟んだがラシードに睨まれると、モゴモゴ言いながら引っ込んだ。
「ここまで届いている噂はごく一部にしか過ぎない。女性関係だけでは無く、殺人まで起きているとは知らないだろう?」
「誰かが死んだと言うの?」
アーシアが真っ青な顔をして言った。
「アーシア」
ラシードは優しく彼女の名を呼び、安心させるように抱き寄せた。
「ラシード・・・何だか怖いわ。胸の奥でザワザワする感じ・・・」
「大丈夫だ。何でも無い。直ぐに解決する―――イザヤ、結論を言え」
ラシードのいつもとはいえ相変わらず改めようとしない高圧的な言い方にイザヤは腹立ちを覚えたが、アーシアの不安な様子に不快さを呑みこんだ。
「噂が出始めた頃、その信憑性を確かめる為に調査をした。信用のある州だったせいもあるが此方から調査員を派遣せず現地の者を使った。そして報告されたのはラシードもラカンも知っている内容だ。しかし、その中で気に掛かるものが幾つかあって再調査を内密に出した。これは王も引っかかっていた筈です。何故州公が何も言わないのか?そしてその報告が先程届きました。魔龍王の再来かと思うような悪行を興じる紅の龍を兌龍州の州公は匿い好き放題にさせているらしいと・・・」
「興じるって・・・まさか・・・」
アーシアの顔が更に青ざめてきた。
「罰を与えられたのですよ。そうでございましょう?紅の龍さま。貴方さまは正しい。税金も払わないような貧民に生きる価値などありませんものね?あんなのは兌龍州の恥ですよ」
「そうよ。きれいに町ごと焼いて下さったから汚らしい子供がうろつかなくなって良かったと皆が言っているわ。姉のことは別にしてもそれはお礼を言います」
親子が口々に恐ろしい事をさらりと口にした。
「お、お前達・・・何を言っているんだ?」
ラカンは仰天し過ぎて怒るのを通り越していた。さっきまで妊娠させられた肉親の抗議に来た者達とは思えないものだった。
「州公に相談しなかった理由は?」
イザヤが静まり返った空気を切り裂くように言った。
「州公さまはお気に入りの女人と部屋に篭もられて滅多に出て来られませんもの。それを待っているよりは直接来た方が良いと思っただけですのよ」
「成程、もう一つ訊く。ご主人は州城では要職に就いているのか?」
「ええ、州公さまのお側に仕えている要人の一人ですわ」
女は自慢げに胸を反らして言った。
「成程・・・それで命拾いした訳か・・・」
「はっん・・・ど・・・言うこと?・・・あっ、んん」
「くっ・・・ふっ、んぅ・・・質問出来るとは余裕だな・・・足りないと言う訳か」
イザヤは膝を立て少し起き上がるとサーラの腰に手を掛け引き上げた。そうなればサーラは自然と膝をつき、尻を突き出した感じになってしまった。体位を変えられたサーラは顔をシーツに埋めた状態だ。それを抗議する間も無くイザヤの熱い楔が深々と打ち込まれた。
「あっ、あぁ・・・あっ・・イザ、ヤ・・・うっ、ん」
イザヤの動きは性急なものへと変わった。
突き上げる間隔が短くなりサーラもそれに合わせて揺さぶられた。
「あっ・・・も・・・だめ・・・イザヤ・・・口づけ・・・して・・・」
後から突き上げていたイザヤはまた身体を入れ替え、サーラを下にして口づけした。深く合わせた唇からクチュクチュと湿った音が聞こえてくる。律動はまた緩やかになったが力強く根元まで穿っては、乳房を愛撫された。
「サーラ・・・」
長い口づけを解いたイザヤは息が上がり、声が強い欲望でかすれていた。
「イザヤ・・・もう良いわよ・・・」
サーラに許可を貰うものでは無いと言いたいところだが余裕が無くなっているのは自分だった。
根元まで埋め込んだものを、ギリギリまで抜きかかり一気に突き上げた。
「あぅっ・・・んん、あっ・・・」
サーラの中で熱の塊がまた質量を増しその形を感じた。時間をかけて何度も貫き続けたと言うのにサーラのそこはイザヤの昂ぶりを締め付けてきた。またそれに答えるようにイザヤは彼女に圧し掛かるように深く挿し入れると激しく揺さぶった。
その快感に耐えられないと言うようにサーラが悲鳴のような喘ぎ声を上げた。
「サ・・・ラ・・・くっ・・・」
射精しそうになったイザヤは抜きに掛かったがサーラの手に阻まれてしまった。
「駄目っ・・・・そのまま・・・」
「サーラ・・・しかし・・・」
「いいの。イザヤ、もう少し、もう少し後で・・・とか言っていたら何時になるか分からないでしょう?私、決めたの」
「いつ決めた?」
「たった今」
「今?」
「そう、今」
イザヤは珍しく、フッと笑った。
「乾龍州の州公は決断が早いので有名だが・・・」
「悪い?」
「悪く無い。最近の中で一番良いだろう」
「煩い銀の龍に褒めて貰って嬉しいわ」
二人は見つめ合い、軽く口づけを交わした。そして再び興奮の波に呑まれた。
再開した抽送は力強く、突き入れられる動きに合わせてサーラも腰を揺すった。喘ぎ声を上げればイザヤの口づけに呑みこまれ、舌が絡みつき息ごと吸いあげられた。
「んっ・・・ふっ、んん・・・」
イザヤの動きが激しさを増しサーラを支える指に力が入った。突き入れられた腰が自然にせり上がる。サーラは全身が痙攣したように震えた。
「くっ・・・っ・・・サーラ・・・」
サーラは自分の中で熱が爆ぜて滾ったものが吐き出されるのを感じた。開放感に乱れた息遣いをするイザヤが愛おしくて堪らなかった。
(こんな素敵な顔が見られるのならもっと早くすれば良かったわ)
サーラは仕事の為に出来たら子供はまだ作りたくないと、イザヤに言っていた。
だからと言ってラシードのように挿入無しの完全な避妊方法とは言えないが、イザヤはそれを理解し外での射精を協力していたらしい。
「それでイザヤ、話しの続きは?」
全身に広がる快感に酔っていたイザヤは苦笑した。萎えてもまだ硬さを保つ昂ぶりは彼女の中にあると言うのに続きをせがむのは話しだから呆れた。
「この続きの方が良くないか?」
イザヤがグイッと腰を蠢かした。すると、グチャリと粘着音が響き淫靡な空気が漂った。
「あ、んっ・・・もちろん、しながら聞くわよ」
「そうか?本当にそう出来るかな」
イザヤは再び硬度を増しだした武器でサーラを攻めに掛かった。もちろん閨話しは先程の続き・・・
兌龍州は誰もが気付かないうちに閉鎖状態だった。
州への出入り・・・特に出て行く者がいなかった。年中温暖な気候で保養地として人気は高く他州から訪れる者は多い。しかし保養目的者は長期滞在が常で出入りは多くない。
だからそれが異常に少ないと感じるに至らなかったのが事実だ。
それでも商人達は州を渡り歩く者は沢山いる筈だった。しかし、彼らも州から州に渡る仕事だから少々連絡が途絶えたとしても不審に思われなかった為に発覚が遅れた。
いわゆる兌龍州に入る事は出来ても出ることが難しいのだ。
イザヤの部下もこの情報を持ち帰る為、かなり危険な目にあった。広い州をこれだけ厳重に包囲するとなるとその州の統治者が指令しているとしか思えなかった。
「出られないのに何故噂が漏れる?」
カサルアの質問は妥当だった。
「それはこれを計画した者が浅慮で甘かったと言うだけです。全てを一律に押さえ込む事は出来なかったのでしょう。この親子のように手を出せないものや、行方不明になると支障が出るものはいます」
「そうか・・・イザヤ、お前だったらそんなヘマはしないだろうな」
「―――褒め言葉として伺っておきます」
カサルアの軽口にイザヤは頭を下げて受け答えた。
そりゃそうだ、とラカンはぞっとしながら思ったが肝心の話しがまだだ。
そしてイザヤの話しは続いた。
「この親子に違和感を覚えませんか?」
皆が一斉に兌龍州からやってきた母娘を見た。ごく普通の者達に見える。
確かに聞き捨て出来ない事を言っていたが・・・
「兌龍州の住民の殆どがこんな感じだそうです。偽者ラシードの残虐な行為は何故か正当化され英雄視されていて判を押したように皆が皆、口を揃えてそう言うらしいのです。善良な感覚がまるで麻痺しているようなと表現したら良いような感じだとか・・・しかし謎は多く・・・偽者の結婚を餌にした女人への陳腐な乱行と残虐な一面は余りにも極端過ぎて筋書きが見えません。そして州城の内情は内偵が出来ず、タジリが何を考えているのか不明です」
州城にいる筈のイザヤとサーラが後見している宝珠シアンと、彼が無二の誓いを立てているタジリの妹マリカが今、どういう状況なのかも分からなかった。
「それで謀反だと?」
カサルアの金の瞳が真っ直ぐにイザヤを捉えて言った。
「その兆しです。しかし敵はタジリでは無いと・・・多分そう思います」
「多分?断定しない言い方は珍しいな」
「申し訳ございません。タジリは自分の力を過大評価するような者では無いのは確かです。ラシードの偽者・・・この者を調べるには容易で無かったようで判断つきませんが・・・この偽者が黒幕なのか・・・もしくは・・・」
「・・・他に彼らを操っているものがいる可能性もあると言うのだな?」
「はい。彼らと住民らを扇動している者の影が見えます」
「筋書きとしては紅の龍が私に反旗を翻し、兌龍州がその後ろ盾という感じか?」
「はい。それでもっと詳しくこの親子を調べさせて頂きますが、私が現地に飛び内偵して参ります」
分かった、と頷きかけたカサルアにラシードがそれを遮るように前に進み出た。
「私が行く。私の名を使われているのなら本人が出向いた方が一番いいだろう?」
イザヤは珍しく口を挟まなかった。自分も最初はラシードの派遣を考えていたからだ。
しかし情報を統べる者としての失態に近いこの状況を、自分自身で挽回したいという気持ちがあったのは否めず沈黙してしまった。
「では、イザヤとラシードに――」
と両名を指名しかけたカサルアを今度はラカンが止めた。
「ちょっとまった!カサルア!この二人だけで行かせたら原因の追究どころか角突き合わせて大変になる!俺も行かせてくれ!」
確かに潜入調査となれば長時間を共にする訳で・・・ラカンの言うような状態になるだろう。しかし三人とも現地に派遣するとなると何かと支障も出る。些細な支障よりこの件が重要だとしても迷うところだ。
「では、私が残ります。潜入はラカンが適任でしょう。私は周りの呼応する不穏分子を見張ります」
意外にもイザヤがあっさりと辞退してしまった。今は名誉挽回など二の次だと思い直したのだ。
「久し振りで腕が鳴るなぁ〜なっ、ラシード?」
「そうね、本当!」
アーシアが嬉しそうにラシードの代わりに答えると皆が、ぎょとして彼女を見た。
「アーシア、君は連れていかない」
眉間に皺を寄せたラシードが直ぐに言ったが、アーシアは首を振った。
「嫌よ!絶対に行くから!」
「アーシア!駄目だ!」
「怒鳴っても駄目なんだから。連れて行かないのなら勝手に行くわよ」
龍達は困って顔を見合わせた。
皆、アーシアには昔から甘く、彼女の我が儘には逆らえ無いのが現実だ。
結局、アーシアも同行する事になり、三人は兌龍州へと向かったのだった―――