紅とアーシア11



 セイカは同時に呼ぶラシードとレンを見た。
そしてその呼ぶ彼らに足を進めようとしたが動けなかった。彼らが左右に分かれて呼ぶからだ。
ラシードに行きたいセイカとレンの方へ行きたいセイカ・・・身体は一つだからそうなってしまう。

「どうしたセイカ、私が欲しく無いのか?私が欲しいのなら私の言うことを聞け」
「くっ・・・うううっ・・・」
「セイカさん、駄目ですよ。貴女は誇り高い宝珠ではありませんか?そんな人殺しの妖樹に力を貸しては駄目です」
「レ・・・うっうう・・・」
本体を持つ宝珠セイカと妖力を持つ吸血樹のセイカの力関係は本当に拮抗している感じだった。
自我崩壊寸前までなっていたセイカが急に大人しくなってしまった。そして、ニタリと微笑んだ。

「そうよ。どちらか一つ選ぶ必要なんか無いわ。二人共、私達のものよ。ねえ、セイカ?」
ラシードとレンは顔を見合わせた。

「早々思うようにいかないな・・・お互いの利害がまた一致したようだ」
「そのようですね・・・」
上手く行けば自我崩壊に追い込めるかと思っていた二人だった。何れにしても思惑通りにならないのなら我欲の強い彼女達は遅かれ早かれそうなると予想はしていた。

「ねぇ〜レン様、私の言うことを聞かないのなら人を殺すって知っているでしょう?だから紅の龍にも私の言う事を聞くように言ってちょうだい。もしも言っても駄目なのなら力ずくでお願いするわ」
セイカは人質が有効なレンでラシードを抑え込む手段を考え付いたようだった。
もちろん彼女に逆らえないレンは言う通りにするしか無いのだが・・・

「ラシード、すみません。皆の命がかかっています。覚悟して下さい」
レンの穏やかな翡翠色の瞳が鋭く光ると右腕に龍紋が浮んだ。
彼の繰り出す力にラシードは龍紋が紅く刻まれた右腕を挙げその力を相殺した。

「レン、お前が私を抑える事が出来るか?」
「やってみなければ分かりませんよ。私が上なのか?それとも貴方なのか?そうでしょう?ラシード」
「ラシード!レン!」
アーシアは驚いて二人を止めようと駆け寄り始めると、ラシードとレンから同時に怒鳴られた。

「アーシア、来るな!」「アーシア、下がっていて下さい!」
ピタリと足を止めたアーシアは、あっと声を呑み込んだ。

(二人共・・・力をかなり抑えている?・・・じゃあ・・・)
二人の力を良く知っているアーシアは彼らが本気でやり合っていないと気がついた。
力は拮抗し時間だけが過ぎた―――
セイカは中々決着のつかない事に苛立ち始めた。

「何をやっているの!早く!その男を私の前で跪かせなさい!グズグズしないように何人か殺した方が良いみたいね!」
(・・・ここまでのようだな、レン。どうだ?)
ラシードとレンは交差する合間、密かに会話した。

(もう少し・・・と言う感じでしょうか・・・)
(そうか・・・分かった)
ラシードの龍紋が真紅に輝きレンの力を圧倒した。

「レン様!」
ガクリと倒れこむレンに背を向けたラシードはセイカに向き合った。

「な、な何よ!レ、レン様を傷付けて!許さないわよ!」
「私は誰の指図も受けない。私をどうかしようと思うな。お前が私の言う事を聞くのならレンを少し貸してやってもいい」
「貸す?レン様は私のものよ!それこそお前から借りる必要なんか無いわ!」
「お前のもの?レンが?これは傑作だ!妄想も度が過ぎると嗤えるな。仮にそうだとして何故レンの側にいないで、この州で好き放題している?」
ラシード達が疑問に思っているものを遠回しで聞いた。
レンを手に入れる方法として紅の龍の偽者を立て謀反を企てようとした〜
浅はかで考えの甘い愚か者と片付けるには納得出来ないものだった。レンを手に入れたいのならこんな回りくどい方法は必要無いと思ったからだ。人を操る不思議な力があれば直接天龍都に仕掛けても・・・
レンの周囲のみで仕掛けても構わなかった筈だ。
ラシードはその違和感に彼女の力の秘密が隠されているような気がした。

「此処が良いのよ!此処が良いってセイカが言っているの!この選ばれた土地が全州の中心になってレン様が王になる。これは私からの贈物・・・ふふふっ、はあぁ〜〜何て素敵・・・」
やはりこの土地にこだわりがあるのだとラシードは感じた。

(もしかして・・・この土地以外に出られないのか?)
ラシードがもっと詳しく訊きだそうと口を開けかけた時、偽の紅の龍が怒気を上らせ入って来た。

「おいっ!セイカ!話しが違うじゃないかっ!俺を王にするって言っただろう!」
城内では突然次々と自殺者が出て大混乱になっていた。もちろんこの偽者はそれがセイカの所業だと知っている。力関係は彼女が上でも仲間だと思っている男にしたら何も知らされないことに腹が立ったようだった。そして彼女に文句の一つでも言おうと来て見れば、レンを王にすると言う・・・

「お前にもう用は無いわ。偽者なんかもう要らない」
「な、なな!何だと!」
セイカは馬鹿にしたように鼻で嗤った。

「少々手間取るけれど本物の方が良いもの」
「本物?」
男はセイカ以外眼中に無かったがその言葉を聞き、ふと周りを見た。

「捕まえた男と――なっ!真紅の―――」
チラリと振り向いたラシードを見た男は絶句してしまった。
真紅の瞳もだが漲る火龍の力に圧倒された。男は吸血樹化する前は一応、火の龍だった。龍でも下の下・・・火龍の首座であるラシードに目通りするだけでも恐れ多いと思うような下級。それがセイカのおかげで妖力を得て龍力もどきの力で偽者が出来上がっていたのだ。男は有頂天だった。羨望し続けていた紅の龍と同等になれたのだと・・・
しかし・・・本物は想像を遥かに超えていた。
腰を抜かす男を一瞥しただけで無視したラシードはセイカに視線を戻した。

「私を手に入れる?どうやって?私にはレンのような人質は効かない。お前の誘惑も媚薬も効かない。どうするつもりだ?」
シアンからの情報ではセイカに反抗するものは投獄されていたとの事だった。操る力があるのならその力を使えば良いだろう。それをしないのは操れない何かがあるのだ。媚薬だけでは思うように操れないのだからその方法が分かれば対処方法が見えて来る筈だ。

「今からよ・・・私はお前を大事にしてやるわ。私にその血を与え続けて貰う為にね。もちろんあの宝珠が必要なら一緒に飼ってあげても良いわ。私は寛大なのよ。それにお前はさっき言ったじゃない?あの女さえいれば後はどうでも良いってね。二人だけで牢獄に繋いであげるわ。どう?素敵な提案でしょう?」
「―――私的には素晴らしい提案だな。そう・・・彼女は私だけ見ていてくれたら良いし、私にだけ微笑んでくれたら良い・・・誰の邪魔も入らず私と彼女だけの世界・・・そんな狂気染みた独占欲は認めるところだ。だが・・・そんな環境では彼女は彼女らしさを損ねてしまうだろう。アーシアは私と違って、ごく普通なのだからそんな提案は承知出来ない」
(ラシード・・・)
アーシアはラシードの今の言葉がセイカを黙らせる言い回しだとは思えなかった。
本心から出た言葉なのだろうと思った。ラシードの独占欲と嫉妬はいつも大げさだった。
それは自分が愛されているのだという心地良い束縛感だったが・・・
アーシアも気持ちは一緒だ。ラシードを独占したくて堪らなかった。
あれこれと仕事を言い付ける兄はもちろん、仲の良いラカンにも、相手にされないのに諦めず熱い視線を送る女達・・・嫉妬する要素は数限りない。
でもそれを全部言っていたら切りが無いから言わないだけだ。

(ラシード・・・自分だけそう思っているなんて馬鹿よ。本当にこればかりは昔から変らないわね・・・私の本気を甘く見過ぎよ)
プンと怒った顔をしたアーシアがラシードの目の端に入った。

(怒っている?何故?)
思い通りにならない事に地団駄踏んでいるセイカよりラシードはアーシアが気になった。
そして唖然としてしまった。アーシアが叫んだからだ。

「ラシード!私はあなたと二人っきりの世界でも幸せよ!その方があなたを独り占めできて嫉妬しなくて済むから大歓迎だわ!あっ――えっと・・・」
アーシアの悪い癖が出てしまった。腹を立てると黙っていられず思った事を口にしてしまうもの・・・
慌てて、手で口を塞いだが間に合わなかった。

「あら?同意してくれるなら良いじゃない?私が素晴らしい環境を整えてあげるわ」
「嫌よ!ラシードと二人だけの世界なら大歓迎だけどあなたが居るのでしょう?もう私のラシードに指一本触らせないわよ!」
アーシアはもう後には退けなかった。

「触らせない?馬鹿じゃないの?あの男が私を誘ったのよ!血を吸えって!血を与えるのは支配するのと一緒よ!お前の男は私が欲しいのよ!私が・・・・・・そうよ。どうして私に言うことを聞かせようとした訳?お前の言う通りにこの女だけ居れば良いのなら私が何をしようと関係無いでしょう?―――ほら、だから私が言ったでしょう?何故レン様を助けようとしたのかって!―――そうね・・・確かに話がおかしい・・・」
セイカはセイカと自問自答のように呟いていた。

(狂っているのに勘のいい奴だ・・・)
誤魔化すのは此処までか・・・と思った時、セイカの周辺で異変が起きた。
彼女を中心とした包囲結界が発動したのだ。包囲結界―――
これはその名の通り対象物を外界と離脱させるもの。以前カサルアが離龍州でゼノアの四大龍の銀と碧と駐屯する敵軍を一網打尽にしたものと同一の術だ。
あれは広範囲に及ぶ大がかりなものだったが今回はセイカだけを結界内に封じれば良かった。
カサルア以上の防御力を有するレンならばラシードの協力があれば出来るものだ。
彼らは打ち合わせ自体一言二言のみで、争うふりをしてこの結界を仕上げた。
しかしこれが実際、彼女に有効かどうか確証は無かったのだが・・・これが有効に働けばセイカがどんな力を使っているのか分からなくても見えない壁であらゆるものから隔離させこの結界で防げる筈だった。
気を失っているふりをしていたレンが立ち上がってラシードの横に立った。その右腕はラシードと争っていた時よりも翡翠色の龍紋は強く輝いていた。
結界は完璧な仕上がりのようだった。セイカは怒りで顔を歪めて見えない壁を狂ったように叩いていた。この結界の特徴は内側にのみ壁を作り外側からは干渉出来るものだ。

「どうにか上手く出来たようですね。今のうちに止めを・・・」
レンの安堵したような声に頷いたラシードが力を放出した前に今まで腰を抜かしていた男が飛び込んで来た。紅の龍を名乗っていたその男はラシードの渾身の一撃をまともにくらいその場で崩れ落ち絶命してしまった。あっけない最後だったがラシードとレンを焦燥させるには十分だった。
男がセイカを庇ったのは自分の意思なのか?それとも彼女が動かしたものなのか?もし後者ならば外界から完璧に遮断する筈の結界がセイカに効いていない証拠だからだ。しかしそれを考える時間は無い。結界の効力が無いのなら犠牲者が増える前に決着をつけなければならないからだ。怒ったセイカがどれくらいの規模で反撃をして来るのか・・・

「レン!アーシアと頼む!」
「分かりました。出来るだけ広範囲にやってみます。アーシア、お願いします!力を!」
ラシードとレンの間では分かっている様だったが、アーシアは今から何をするのか分からなかった。
しかし、宝珠は龍に従うもの・・・アーシアの全身が淡い金色に輝き珠力が揺らめくと、若草色の瞳が硝子のような空虚な色を湛えていた。これはかなり強い力を出す時に見られるアーシアの神気溢れる姿だ。
その彼女が、感情の無い無機質な言葉を発した。

「我が龍ラシードの命により珠力を解放します。翠の龍レン、私に力を・・・」
久し振りに見るそのアーシアの姿に一瞬魅入っていたレンだったが、我に返って力を放出させた。
彼らが取った手段はレンがセイカの力が及ぶ民衆を動かされないように仮死状態にするものだった。
彼女の力がどのくらい及ぶのか判断つかない今、広範囲でそれを実行する必要があった。
セイカの力が人を操るものだけならばラシードの攻撃で直ぐに決着がつくだろう。しかしそうで無かった場合が問題だった。彼女を斃すまでの時間が長引けば長引く程、犠牲者が増えると予測される。
ラシードは再び渾身の一撃を繰り出したその時、また邪魔が入ってしまった。
今度は昔から良く知っているもの・・・

「ラシード!力を引け――っ!」
止めに入ったのはラカンとイザヤだった。カサルアの力の次に強いと評されるラシードの攻撃は最高の防御力を持つレンでどうにか凌げるものだ。だからラシードの力を相殺するにはラカンとイザヤが同時に力を放つ必要があった。水と風の力が炎の力を相殺し、ビリビリと空気に振動が走った。

「ひゃあ〜〜間に合った」
ラカンの気の抜けた声にラシードが、チラリと視線を向けた。

「―――何故止める?何か分かったのか?」
「ああ、分かった、分かった。あのな――」
「私が説明する」
話し出そうとしたラカンをイザヤが制した。そして部屋の中の状況を冷めた目で見渡すと口を開いた。

「・・・成程。今の状態では最も適切な処置だ。だがこれを安易に斃したら不味いことになっていた―――これを殺せばこの妖樹に汚染されている民衆が絶命することが明らかになったのだ」
「命が・・・生命が連鎖していると言うのか?」
常に冷静なラシードでも流石に驚いて訊き返すと、イザヤが頷いた。

「あの母娘の血中にあった異物の成分はカビのようなものと分析結果が出た。そしてタジリの証言とザーン家の古書を照合したところ妖樹は自分に生やしたそのカビを媒体として操るらしい。どうやって操るかは不明だがその母体である吸血樹がもし消滅すれば特殊な信号伝達で同時にカビも消える・・・というより腐って人体には猛毒となることが分かった。その恐ろしい生態は当然人々を恐怖に陥れるからだろうが・・・詳しい情報は封印され、そして吸血樹らは住みやすい土地から追われ種が絶えて行ったらしい」
年中温暖なこの土地は吸血樹にとって正しく理想郷だったのだ。運良くセイカに寄生出来た妖樹は自分の力が一番発揮し易いこの地を選んだ。カビを繁殖させ人々に寄生させるのは簡単だった筈だ。
繁殖力が強く不衛生な場所を好むそれは下層の民衆から広がって行った。
しかし、それが全てに根付くようなものでは無かったのだろう。感染しない者はタジリの権力を行使した・・・それがシアンの言っていた彼女に逆らった者達が投獄されたという話に繋がる。
「・・・それでこの土地に拘った訳か・・・しかし、それならば州を封鎖せずにその感染を広げれば良いだろう?何故しなかった?」
「それ!それ!そこが変だったよな?」
ラカンが黙っていられず話しに首を突っ込んで来た。

「遠隔操作が出来ないんじゃ無いかってさ!距離的な問題?それに本人はこの暖か〜い土地から出たら力が使えないんじゃ無いかってさ」
「あくまでも推測だ」
調子良く喋るラカンにイザヤが、ピシャリと付け加えた。

「ならばどうする?レンには人々に蔓延っているそのカビの浄化をさせるとして・・・」
レンがアーシアと力を放出しているのはセイカへの防御の仮処置だ。それを浄化に切り替える間は防御出来ない。
その側でサードがワナワナと怒りに震えている姿が目に入った。

「俺のレンに何でアーシアが力貸しているんだ?レンは俺のもんだ!」
「おいおい、サード。この状況でそれは無いだろう?」
呆れたラカンが溜息混じりにそう言うとサードが吼えた。

「うるさい!俺がレンの宝珠なんだから怒って当然だ!」
まあまあとラカンが宥めているとレンの叱咤が飛んだ。

「サード!騒いでないで早く手伝いなさい!」
レンの一言でサードは飛び上がり慌てて珠力を解放した。

「ヒュ〜すげ〜浄化と防御を一緒にやるなんて驚きだな。アーシアとサードを同時に二人共使うなんてレンやるなぁ〜」
ラカンは楽観的に感嘆したがラシードとイザヤは険しい顔をした。

「レン、浄化は後だ。それでは力を使いすぎる」
「い、いいえ・・・大丈夫です。イザヤ」
レンの答えに舌打ちをして動いたのはラシードだった。

「アーシア!力を引くんだ!」
龍の命令は絶対だ。アーシアはラシードの声に弾かれたようにレンから力を引いた。
いきなり消失したアーシアの珠力で防御を弱められたレンは仕方なくサードの力を防御へと回す事となった。
力の放出の余韻で呆然としているアーシアをラシードがかき抱いた。

「アーシア・・・」
サードの気持ちは良く分かる。ラシードもアーシアを他の龍に委ねるような事はしたく無いのだ。
彼女の全てが自分のものだと思っているからだ。それが例え長年の戦友だったとしても親友のラカン、兄のカサルアだったとしても嫌なものだった。今回はかなり自分でも驚く程譲歩したと思っている。

「ラシード、どうしたの?」
ぎゅっと抱きしめたまま離そうとしないラシードにアーシアが優しく問いかけた。
そのアーシアの耳元で、切なくくぐもった声が囁いた。

「アーシア・・・君が欲しい・・・」
「え?今更何を言っているの?私はあなたのものでしょう?」
アーシアは、ドキドキしながら答えた。
ラシードが何を言いたいのか意味が分からなくても彼の甘い囁きは何時でも心臓が跳ねるのだ。

「・・・そうだ・・・全部・・・全て私のものだ・・・アーシア・・・」
ラシードの束縛の囁きはアーシアを甘く酔わせて身体中を熱くさせる。こんな時はもっと抱きしめて貰いたいし、口づけして貰いたい・・・それこそ今はそんな事をしている場合じゃないが・・・
ラシードも同じだろうが名残を惜しむようにアーシアを抱きしめていた腕を解いた。
その離れて行く腕をアーシアが掴んだ。

「ラシード。青天城に帰ったら・・・私のお願いきいて叶えてくれる?」
「願い?どんな?」
「それは内緒・・・」
「内容が分からないのに約束出来ない」
「でも・・・約束して。お願いよ」
ラシードは息を吐いて困ったように微笑んだ。アーシアのお願いは昔から無視出来ないものだ。
それに承諾した時に見せるアーシアの喜ぶ顔見たさに頷く場合も多いかもしれない。

「分かった。約束する」
アーシアは咲き誇る花のように微笑んだ。
ラシードはその笑顔の眩しさに目を細めた。この微笑を見る為ならば何でも約束したくなるだろう。
しかし甘い余韻に浸る時間は無かった。セイカがけたたましく嗤ったのだ。

「美味しそうな男が又、ふた〜り。ねぇ〜どちらか私と組まない?望むものを幾らでも手に入れてあげるし、この私が普通では味わえないような楽しみを与えてあげるわ・・・」
セイカは自信たっぷりに自分の魅力を振り撒いて言った。
だが声をかけられたイザヤは冷淡に鼻先で笑い、ラカンは嫌そうな顔をして頭をかいた。
全く興味を示さない二人にセイカは腹を立てた。

「もういいわ!お前達は私の食事に決定よ!やっぱり・・・私はお前が良い・・・魔龍の息子・・・闇色に染まったお前ならば私の気持ちも分かるでしょう?平穏な日々は面白く無いと言っていたわよね?あれは本心よねぇ?私には分かる。分かるのよ・・・紅の龍・・・あなたを本当に理解出来るのはこの私だけ・・・」
セイカは、ねっとりと纏わりつくような声音でラシードに話しかけた。
心を闇色に染まらないようにしようとする方が大変であって、染まるのはとても簡単だろう。
それは日々葛藤していたラシードが一番良く分かっているものだ。それに今は彼女の申し出に魅力を感じることは無い。何故なら・・・その答えはラシードが口を開く前に出た。


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