碧の龍10


「おい!おまえ誰だ?ここはオレの昼寝の場所だぞ!」

アデルは驚いて飛び起きた。

目の前に立っている男は背も高くがっしりとした体格で、何といっても髪と瞳が燃えるような赤だった。
整った顔を甘く見せないのは、右頬にはしる大きな傷のせいだろう。
しかも宝珠のようだった。この特徴はタニアの話に聞いたあの・・・

「あーっ!おまえ炎の宝珠だろう?」
炎の宝珠<Tードは驚いた。
自分のお気に入りの場所に大嫌いな宝珠が大きな顔をして寝ていたから追い出そう思った。
しかしこの宝珠は普通の奴らと違っていたからだ。まるで少年のような動作と喋り方で、この姿に相応しい女の宝珠独特の甘やかさが無いのだ。

「おまえ、人にものを尋ねる前に名を名乗れ!」
アデルはムッとした。
「そっちこそ人に名を聞く前に名乗ったら?」
二人は睨み合ったが双方とも吹き出してしまった。
「悪いな。オレはサードで?あんたは?」
「わたしはアデル。サードの事はタニアから聞いた事あったんだ」
「タニア?まさか・・・あのタニア・ネイダ?」
「そう。わたしの養い親」
サードはぞっとした。一度会って散々遊ばれて触られたのだ。
アデルは又、吹き出した。

「きっと散々な目にあったんだろう?タニアは美形好きだから。わたしも炎の宝珠の事たっぷり聞かされたしな」
サードは引きつって笑った。タニアのということは?

「じゃあ、おまえって今話題の宝珠か?例の美人で極上品という?」
確かにそうだが想像していた感じでは無かった。
噂を聞いた時、新たにレンに言い寄る宝珠が増えるのでは?と心配もした。
サードはジロジロとアデルを見回した。

「な、何だよ!」
「おまえの属性は水が強いみたいだな。でも他もまあまあいけるって感じか・・・おい、レンには手出すなよ!碧と紅だけにしておけよ!」
「何言ってんだ!わたしは誰にも手なんか出して無い!誰か構わず追いかけている馬鹿な宝珠と一緒にするな!」
サードはニヤリと笑った。
「おっ!気が合うね。やっぱあんたも尻軽な宝珠は馬鹿って思うだろう?おまえ本当に宝珠らしくないな」
宝珠らしくないのはお互い様だった。
アデルは吹き出してしまった。サードとは良い友人になれそうだった。サードもそう思ったようだ。

そこへ今度は二人の笑い声に誘われてきたルカドが現れた。
アデルは初めてルカドに会ったのだが、彼の透き通るような綺麗さに驚いてしまった。
昔は少女の宝珠と区別がつかなかったルカドも少年期を終えて、すっかり大人になってはいたが容姿の綺麗さは逆に増したようだった。女性の宝珠に引けは取らないだろう。

「どうした?アデル?」
サードの声にアデルは我に返った。

「――はあーびっくりした。男でこんなに綺麗なの初めて見た」
「はぁ〜何言ってんの?確かにこいつもまあまあ綺麗だけどよ。オレのレンをおまえ見た事無いだろう?こんなのより、ずーっとずーっと綺麗だぜ!」
「酷いな、サード。レン様と僕を比べないで欲しいな。始めまして君が噂のアデルでしょう?僕はルカド・ラナ。銀の龍<Cザヤの弟で契約者だよ」
ルカドはそう言って手を差し出したので、アデルはその手を取って挨拶をした。
サードとルカドは性格や雰囲気も正反対だが以外な事に仲が良いらしい。
アデルにとってもこの知らない場所で頼りになった。それからこの二人とはよく時間を共にすることとなったのだった。


いつものそんな様子を窺うラカンは、心配そうにラシードにぼやいていた。

「おい、あれってどう思う?宝珠どうしでたむろってさ。しかも宝珠と言っても男だし・・・アデルには女の子の友達は出来ないのかな?」
会合の為集まった塔の一室からその様子はよく見えていた。
三人が楽しそうにふざけ合いながら話し込んでいるようだった。
ラシードもそれを一瞥して答えた。

「女の子か・・・無理だな。アデルは同性から嫉妬心を持たれるのに十分な条件が揃っているから、自尊心の強い宝珠は無理だろうな。それに良いじゃないか?宝珠同士の恋人は、共に選んだ龍が同じ場合だったら問題無く成立する」
「な、なんだって!アデルは龍を探しに来たんだ!恋人を探しに来た訳じゃない!」
「ラカン、お前な・・男と見ればそんな風に考えるだろう?アデルが誰を好きになっても別にいいじゃないか。それに彼らの龍はイザヤにレンだろう?アデルが宝珠も龍もまとめてどちらを選んでも立派なものだ」
ラカンは唖然とした。

「イザヤとレン?アデルが彼らを選ぶ?」
「だからそんな可能性もあると言いたいだけだ」
アデルの気持ちを薄々気が付いているラシードはそんな事は無いと思っていた。
しかし相変わらずこういう話題に鈍感な親友を煽るのには最適だった。

イザヤとレンも時間前に入って来ると、ラカンとラシードが険悪な様子で張り付いている窓の外を見た。

レンが微笑んだ。

「ああ、アデルですね。彼女は本当に可愛らしく魅力的ですね」
珍しくイザヤも同意している。しかも口元も少し微笑んでいるようだった。

「そうだな。奔放で無邪気のように見えてはっとする表情をする」
ラカンはギロリと二人を睨むと窓を閉めた。

「集まったならさっさと話しをしようぜ!」
レンとイザヤはお互い顔を見合わせたが、ラシードは肩をすくませた。

会合中、ラカンはムカムカしていた。
偏屈なイザヤに評して貰わなくてもアデルの魅力は十分分かっている。分かっているから変な虫が付かないかと心配なのだ。
だがラシードの言った言葉が胸に詰まった。レンやイザヤをアデルが選んでも、彼らなら問題ないと言う事だったが・・・確かに彼らなら悪い虫では無いだろう。

(やっぱり駄目だ!あいつらは駄目!)
レンにしたってサードの独占欲は尋常じゃないし、仮に奴の恋人になったとしてもそれは変わらないだろう。逆にレンの取り合いになりかねない。
イザヤだってサーラはきっと良い顔する訳が無い。アデルはあんなに可愛いんだから、恋人ならそんな宝珠が好きな男に引っ付いているなんて嫌だろう。アデルが肩身の狭い思いをするに違い無い。

色々と思いを廻らせている間に話し合いは終わっていた。
しかもその悩みの原因の二人がいつの間にかアデル達と合流していたのだ。
ラカンも急ぎその場へ向った。

「アデル!ちょっといいか?」
ラカンはそう言いながらアデルの手を引っ張っていた。
いきなりつかまれた手にアデルはドクンと胸が高鳴った。
そして答える間もなくアデルをその場から連れ去って行った。

「ちょっと!ラカン!放せよ!痛いったら!」
ラカンは急に立ち止まった。振り向いた彼は怒っているようだった。
「・・・アデル・・・サードとルカド、どっちが好きなんだ?それにレンとイザヤどっちがいいんだ?でもどれも駄目だ!絶対に君が不幸になる選択はさせられない。母さんからくれぐれも監督するようにと言われているからね」
そして昔のように頭をぽんぽんと叩いた。
ラカンは叩いたものの昔と違って背の高さが違うから変な感じがした。
アデルは瞳を見開いた。
ラカンは彼らとの仲を誤解しているのだ。それが嫉妬なら嬉しいが、タニアとの約束でただ動いているのだと思うと悲しくなった。
そして昔と変わらない自分の立場・・・・

「・・・・もう子供じゃないんだ!バカ!ラカンのバカ!ダメダメばっかり言って!じゃあ、ラカンが連れてきてよ!あんたのお眼鏡に叶った奴を!そしてその龍を選べばいいんだろう?もう、知らない!」
アデルは激しく言い捨てると走り去った。
残されたラカンは呆然としてしまった。
アデルは泣いてなかったが今にも泣きそうだった。
彼女の為と思って言ったのだが逆に怒らせてしまった。
しかも大変な課題を与えられてしまった。

(俺がアデルの龍を選んでやる?)
タニアからも似たような依頼だったがアデルからも言われてしまった。
しかもその龍にすると言ったのを思い出すと、何だか気持ちが重くなってくるのだった。


 数日後アデルはラカンから指示された任務についていた。
水源の無くなった村の井戸に水脈を通すという簡単な仕事だ。
しかもその相手の水系の龍ヴァリスは、ラカンが連れて来たのだった。

ラカンは気乗りしないもののアデルに似合う龍を選ぶ事にしたのだ。
彼女の属性からすれば水の龍は必須条件だろう。そこで浮上したのが自分の部下でもあるヴァリスだった。まだ若いが力もそこそこ強く品行方正で真面目だ。
性格的に優し過ぎて弱く感じるかもしれないが、アデルの気性からすれば逆に良いかもと思った―――

そして二人の出会いを兼ねて任務を依頼したところ、当然ながらヴァリスはアデルの魅力に夢中になった様子だった。
アデルはというと・・・不気味なほど大人しかった。一言二言憎まれ口でもたたくかと思ったのに何の反応が無かったのだ。ラカンは一抹の不安と持っていきようのない変な気分を抱いたのだった。


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