碧の龍6
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数日、同じように豪遊していたところに怪しい招待状が届いた。
うっかり洩らしたように装った罠にかかったのだ。
タニアは噂好の婦人を狙ってその罠をかけたのだった。
羨ましがるその婦人にアデルは買ったのだと告げたのだ。
だから何をしても自分に逆らえ無いお人形なのだと―――そして最近少し飽きてきたから新しい子が欲しいとも。
その話は瞬く間に大きくなって回ったのは言うまでも無い。
そして来たのが表向き美術品の展示即売会の招待状だった。慎重に事を運ばなくてはならない。
そしてその日がやってきた。アデルにラカンが何度もしつこく言い聞かせていた。
指輪の主か家族を殺した者を見つけても絶対に先走らず自分達にすぐ教えるようにと。
アデルはそれを聞くだけで緊張と怒りで頬を紅潮させていた。
そして今日、犯人を捕まえる事が出来るのだと思うと震えが止まらなかった。
案内された会場では仮面を付けての入場だった。売人もそうだった。
これでは顔が分からない。アデルは焦った。
ラカンは彼女のその様子を感じて小声で言った。
「アデル落ち着いて・・・今顔が分からなくても大丈夫だから。まだ今日は様子見だしね」
そう言いながらラカンも今回は予想が外れて心では焦っていた。
出てくる商品は確かに美少女に美少年だが宝珠では無いのだ。そして結局、出て来なかった。
一度も手を上げない新たな金蔓と思ったタニアに主催者側らしき者が挨拶に来た。
「奥様。本日の商品はお気に召しませんでしたのでしょうか?」
タニアは気だるげな様子で横柄に答えた。
「もっと良い子が出ると思ったのに時間の無駄だったわ。あれぐらいなら私のお人形の方が可愛いもの」
「さようでございましたか・・・・それは残念でございました」
タニアはパラリと扇子を広げてそれを口元に当てて小声で言った。
「まだ本当はいるのではなくて?良くある手と思ったのだけど・・・値段をつり上げる為にじらしているのではないのかしら?」
そして無邪気に微笑んだ。
タニアの様子を窺うその男に商才の長けた彼女は商談を持ち込む。
「気に入ればあなたの言い値で頂いても良いのよ。最近ではこういうのが厳しくて面白く無いのよ私・・・・」
男は微かに微笑んでいた。
「お気持ちは分かりました。しかし今は本当に手持ちがございませんので今しばらくお待ち頂けませんでしょうか?きっとお気に召して頂けるものをご用意いたしましょう」
「あらそう?極上品でも使い古しは嫌よ。前そんなのを掴まされたのよね。私が自由に躾出来る子がいいわよ」
「承知いたしました」
二人の駆け引きをラカン達は黙って聞きその場から出て行った後は、止めていたかの息を大きく吐き出していた。
そして馬車に乗り込むと同時にラカンが喋り出した。
「母さんマジで人買った事あるんじゃないかって思ってしまった」
ラシードも小さく頷いた。
「本当におまえは馬鹿ね。商品が何であれ、こういった駆け引きは商人なら当たり前でしょう?あれはじらしているのでは無くて、今は本当に品切れのようね」
ラカンとラシードは顔を見合わせた。
「母さん!それって本当?」
「私はこれでも一流の商人よ。間違い無いわね。取り扱ってはいるけど今は手元に無い・・・そういう感じ・・・だけど商売はしたいから用意出来るまで引き伸ばす。それに私みたいな一見客に用心もしているのは当たり前ね。大きな商売は度胸も必要だけど細心の注意も必要。だから今日は当然、元締めはいなかったでしょうね。ねえアデルちゃん、知っていそうな人いなかったでしょう?」
アデルは頷いた。
「オレ、顔を隠してもあいつは絶対に分かる!それに指輪をしていた奴だって手を見れば分かる!だけど何であんたら、あそこで捕まえなかったんだよ!そりゃあ奴らがいなかったけど、あんた達が追っていた悪いことする奴らだったんだろう?オレの探していた奴らとは別かもしれないじゃないか!」
アデルは彼らの本当の目的を知らないからそう思うだろう。
此処まで関わらせているのだから詳細を伝えるべきだと彼らも思った。
そして話は後で屋敷に帰ってからすると言ったのだった。
そして部屋に落ち着くとラカンはおもむろに話し出した。
「・・・・アデル実はな・・・人身売買でも俺らが追っているのは宝珠の売買なんだ」
「宝珠?宝珠ってあの宝珠?」
ラカンは頷いた。
「そう。貴石の中の生きた貴石と言われる。美しい貴重な人種だ」
「それって・・・だからタニアがもっと他に無いのかって聞いたんだ。もっと他って・・・もっと上等なって事だろう?」
タニアがにっこり微笑んで、正解と言った。
「だけど用意するって言ってたけど・・・」
「そうなんだよな。母さんの読みが正しければ今、手元に売れる宝珠がいないって事なんだろうな」
ラシードも頷いた。
「そうだろう。オーガもこれに関しては馬鹿じゃないから徹底して宝珠達を保護しただろうから、供給が途絶えたと考えるのが正しいな」
「供給か・・・あっ、母さんそれで新しいのが良いって言ったんだ!」
タニアは呆れたように溜息をついた。
「おまえ本当に私達の子供?手元に無かったら取り敢えず適当なものを見繕うものでしょ?既に販売している所から買い取るとかね。相手から幾らでも金を引き出せると思えば転売でも儲かるのだから。それでは供給先まで押さえられないと言う事だわ」
「母さん、スゲー」
「おまえが馬鹿なのよ!もっと勉強しなさい」
「勉強って俺、商人になる訳じゃないんだから」
ラシードは思わず小さく笑ってしまった。
四大龍の碧の龍≠ェ商人になるとしたら笑える話でしかない。ラカンならそれも有りか?
「ラシード今笑っただろう!」
「嫌、別に」
ラシードはもう何時ものしらっとした顔をして答えた。
「ふん!勝手に笑ってろ!しかし困ったな・・・こうなったら天龍都から宝珠を呼び寄せて囮になってもらうとか?」
「囮?そんな依頼をしたら絶対――」
ラシードは難しい顔をして言葉を切ると、ラカンは天井を見上げて言った。
「絶対アーシアが来るな・・・」
ラシードは頷いた。
「駄目よ。彼女は目立ち過ぎるもの。それに年齢的にも合わないわ」
タニアはそう言っても依頼したら最後絶対と言っていいがアーシアが来るに違い無い。
確かにタニアが言うようにアーシアでは年齢的に合わない。
攫われているのは十歳前後の宝珠ばかりだったからだ。
しかし青天城にそれぐらいの宝珠がいただろうか?
ラカンとラシードが悩んでいるところにアデルがぽつりと言った。
「オレがなろうか?」
頭を抱えていたラカンが、ぱっと顔を上げてアデルを見た。
「アデル、なるっていったって宝珠かどうかぐらい普通分かるんだよ。そりゃ君は可愛いけれど、宝珠の輝きはその力で纏う雰囲気が違うから真似出来ないんだ」
ラカンから可愛いと言われてアデルは少し顔を赤く染めたが、左の袖をまくりだした。
そして左の二の腕にしていた細い腕輪らしきものを抜き取ったのだ。
その腕輪は馴染み深いものだった。龍力や珠力を制御するものだ。
それを外したアデルの身の内から珠力が溢れ出したのと同時に茶色だった短い髪がぐんぐんと伸びて色が抜け落ちていった。大きく見開いた瞳の色もその髪と同じく、つややかな琥珀色になっていた。そして透きとおるように白く輝きだした肌。
アデルのその変容に皆、唖然とした。
この歳からすると珠力もそうだがその姿は宝珠でも極上に入るだろう。
ラカンは唾を飲み込んだ。
「アデル・・・それって・・・」
それ以上言葉が出なかった。アデルから溢れ出る珠力は強く純度の高い水系―――
その力に否応無しにラカンの龍力が反応した。
そうなったのはアーシア以来だ。抑えていた筈の龍力が自然と戒めから解き放たれてしまった。
ラカンから放出された龍力にアデルは圧倒された。
完全に珠力を抑えていた時には感じ無かった痺れるような感覚・・・・アデルにはこれが何なのか分からない。経験の無いことだからだ。
宝珠は龍のその力に惹かれる。そんな言葉もアデルは知らない。
ただ自分の心の奥底で何かが芽生えた感じがした。
ラシードはアデルが外した腕輪を裏、表と見た。
「アデル、これはどうしたんだ?」
ラシードの問いにアデルとラカンは、はっと我に返った。
「昔オレが発現した時、何日も熱が下がらなかったそうなんだ。父さんや母さんは慌てて医者の所に行ったんだけど全然駄目で帰りかけた道の通りすがりの人から助けてもらったって言ってた。そいつが言うにはオレの力が身体に対して強すぎるから拒否反応をおこしているらしくって、大きくなるまで力を抑えたら良いってコレをくれたとか言ってた。その人は神様だったに違い無いとか父さんも母さんも夢みたいなこと言ってたっけ。だけど何時までしていたら良いのか分からなかったから、父さん達も外すなって言ってずっとしてたけど・・・」
アデルはそう言いながら伸びた髪を変な顔をして摘まみあげた。
「それって・・・」
ラシードはラカンの言いたい続きを言った。
「カサルアだな。こんな物を作れるのは間違いなくあの人しかいない」
「だよな〜各地を転々としていた時だしな。確かに神様っぽい」
「違い無い」
そう言って二人は笑い合った。
「もしかして知ってるのか!そいつの事!」
アデルは両親から話に聞いていた命の恩人が、この二人の知り合いのようなので驚いた。
ラカンがにっこり笑った。アデルはその笑顔にドキリとした。
「ああ、たぶんね。これが全部終わったら会わせてあげられると思うよ」
「あら、会わせてあげるどころじゃなくて成功したら叙勲ものよ。もちろん私もね。アデルちゃん楽しみにしておきましょうね。それ相応の対価を頂かなくてはね」
タニアはそう言って微笑んだ。
ラカンとラシードはぞっとしたのは言うまでも無い。協力を頼んだのを今更ながら後悔した。