碧の龍7
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次の日、タニアは嬉々としてアデルを着飾らしていた。
元々可愛らしかったが宝珠となったアデルは幼さが残るものの、前とは比べものにならないぐらい愛らしかった。
ラカンは呆れた声で言った。
「母さんそれって飾り過ぎだろう?それじゃかなり有力な龍の宝珠みたいじゃないか。そんなんじゃ奴ら狙って来ないよ。あくまでも旅行者っぽく普通でなくっちゃ」
ラカンの言う事は正しい。
タニアは残念そうに同意してそれらしく仕度を整えた。
出来上がったアデルにラカンが真剣な声で言った。
「いいかいアデル。奴らは君が大事な商品である限り傷付ける事は無いと思うから絶対に大人しくしているんだよ。もし君が探している奴がいても絶対に騒がない事!約束出来る?出来なければこの策は取り消しする。約束出来るかい?」
「あいつがいても・・・・分かった。約束する。大人しくしていたらいいんだろ」
挑むような瞳でアデルは言った。
ラカンは吹き出した。
「アデルもっと女の子らしくやんないとさ!そんな目で睨んだら駄目だよ。怖いよ〜と言って泣いているぐらいが可愛らしくって宝珠っぽいと思うな」
アデルは可愛らしく無いと言われて、むっとした。
「オレは女みたいにベぇーべぇー泣かないんだよ!」
「女みたいにって?アデルは女の子なんだからさぁ〜やれやれ。いずれにしてもアデル絶対に君を救い出すから無茶しないように!」
ラカンはそう言ってアデルの頭をいつものようにぽんぽんと叩いた。
「ガ、ガキ扱いすんな!」
「はいはい」
ラカンは愉快そうに笑った。
その自分に向けられた笑顔を見るとアデルは以前よりもっと落ち着かない気持ちになる。
その様子をタニアとラシードは見逃さなかった。タニアは嬉しそうに、ラシードは呆れたように溜息をついていた。
ラカン達は部下の中で適当な龍をみつくろい宝珠を盗まれてしまう間抜けな役を演じさせアデルを作戦通りに攫わせた。そして街中に配置した部下達にその経路をつきとめさせたのだった。
ラシードの念視力は強いが、それが出来ない場合があると想定した作戦だった。
アデルが運び込まれた場所は信じられない事に坤龍州の副宰相ザーランドの別邸だった。
この州には副宰相は三人いる。その中で最年少のザーランドは次期宰相と目されていた。
この一件に彼が関係しているのか?していないのか?今の時点では何とも言えない。だが必要以上にこの別邸に結界が施されていた。
「ラシード、ちょっとヤバくないか?」
「そうだな。ザーランドの変な噂は聞いた事は無いが奴が関わっているのなら、この件の尻尾がつかめなかったのも頷ける」
「だよな・・・州の高官が関わってるんなら州で保護しているようなもんだろうからな。ザーランドの身辺調査はイザヤに頼もう。奴の情報網から何か糸口がつかめるかもしれないしな。俺達は目の前の奴らを取り敢えず一網打尽しようぜ」
ラシードは頷いた。
しかし予想に反して商品が手に入ったと言うのにタニアの元へ連絡が来なかった。
アデルがあの別邸から出された形跡も無い。それはどういうことなのだろうか?
「やっぱり!ああもう私ったら!失敗したわ」
タニアが青くなって叫ぶように言った。
「母さん、どうしたのさ」
「どうしたのじゃないわよ。迂闊だったわ。アデルちゃんが上等過ぎたのよ!私に売るのが勿体無くなったに違い無いわ!」
「何だって!」
「それは有りえるな。今届いたイザヤからの調査書をざっと読んだがザーランドには疑わしい箇所は無いようだ。強いて言えば三人の副宰相で彼が次期宰相とまで言われる地位に上ったのが早かったというぐらいらしい。それを悪く考えれば金にものをいわせたとも言える。そして奴は水の龍だ」
「ザーランドが水系?そうだったっけ?」
「おい、ラカン!お前碧の龍≠セろうが。全部知る必要は無いが州の重臣達ぐらいは把握していろ」
タニアも呆れたように言った。
「ラカン、おまえが馬鹿なのは今に始まったことではないのだけれど、おまえが気にもとめないぐらいの力しか持っていないとしたら・・・もう既に地位は上るところまでいっているとして次に狙うのは龍力≠チて事かしら?アデルちゃんなら涎が出るくらい欲しいでしょうね。そういう事でしょう?ラシード?」
ラシードは頷いた。
その時、ザーランドの別邸を見張っていた部下からその本人が入って行ったとの連絡を受けたのだった。こうなったら強硬手段に出るしかないだろう。アデルに約束させていたが、あのはねっかえりは何をしでかすのか分からないからだ。安全とは言えない状態なのだ。今度こそ慎重に事を運んでこの事件の主犯を捕まえたかったがアデルを危険にさらす訳にはいけない。
ラカンはラシードと共にザーランド邸へ侵入する事に決めた。屋敷の外は部下達に命じて水も洩らさない包囲網を敷いた。この屋敷から一人として逃がさないだろう。結界の様子から手練の用心棒の龍もいるようだがラカンとラシードにかかれば話にならない。
一方攫われたアデルは初め軽く抵抗したようにしたが、言われた通り大人しく捕まっていた。ラカンの言っていた通り大人しくしていれば危害を加えられる様子は無かった。逆に丁寧に扱われているぐらいだ。大事な商品だから傷でも付けたら大変なのだろう。
目隠しをして連れ込まれた場所は窓一つ無かった。
ひんやりとした空気が漂う空間は地下だろうと思われた。
アデルは此処に来る間も来てからも何人かの男達を見たが見知った者はいなかった。自分の追っている奴らと違うのかもしれないと落胆はしたが、ラカン達の仕事に役立つなら頑張ろうと思った。
食事を運んで来た男にアデルは問いかけた。
「オ・・わたしをどうするんだ!」
男は不満そうに睨んだ。
「どうするだって?こっちが聞きたい!せっかくこんなに良い宝珠を捕まえたというのに、まだ売るなと言うのだからな。大儲け出来ると言うのに!まったく何を考えているやら」
この男の声を聞いてアデルははっとした。
先日の人身売買の会場でタニアに話しかけてきた主催者側の男だった。
アデルはゴクリと唾を飲み込んで慎重に問いかけた。
「オ・・わたしを売るの?」
男はアデルが怯えていると勘違いしたようだった。
憂さばらしにもっと怯えさせて楽しむのも良いかと思ったようだ。
男の顔が残忍に歪んでいる。
「そうだよ、お譲ちゃん。鞭を持った優しいご主人様に飼って頂くんだよ。綺麗な愛玩動物は、それはそれは高く売れるからな。言う事を聞くまで鎖に繋いで躾られるんだ。楽しそうだろう?」
アデルは、ぞっとした。
男はそれを見て満足したようだった。そして次に現れた時もその続きをした。
「お嬢ちゃんの事について今連絡が来た。何だと思う?」
男は楽しそうに笑いながら話を引き伸ばして恐怖を煽りたい様子だった。
「お嬢ちゃんは売らないそうだよ」
アデルはえっ?と大きく瞳を見開いた。それでは困るのだ!
「ははは、嬉しいか?でも残念だ!俺達の恐ろしいご主人様がお嬢ちゃんをご希望されているからな。ご主人様は本当に怖いからな。用が無くなった奴はあっさりと殺す――だけどお嬢ちゃんは他の宝珠のように愛玩道具としてじゃなく、宝珠として望まれているから大変だな。契約しないと相当酷い目にあう。早く同意しないと殺されるかも・・・」
男は満足そうに笑っていた。
「もうそろそろお着きだ。直ぐに案内してやる。はははは」
アデルは何が何だか分からなくなった。
宝珠売買の親玉が自分を欲しがっていると男は言っている。売る筈の商品に自分が手をつけるのだ。
(オレがそんな龍と契約する?契約って言ったら・・・)
アデルは宝珠として暮らしていなかったが本能でそういったものは分かっていた。宝珠は自分で龍を選び契約をする。無理やりに契約は出来ないと思う・・・・
だけどそれを知っていて自分のものにすると言うその悪党は、出来ると思っているからそう言っているのだろうか?心をねじ伏せられるまで痛めつけられ、もうどうなってもいいと思うぐらい追い詰められたらそうなるのだろうか?
アデルの心がざわめいた。そんなのは絶対に嫌だと震えているようだった。
去って行った男が出て行った扉を見つめた。
直ぐと男が言っていたが本当に直ぐにその扉が開いたのだ。そこから現れたのは二人―――
アデルは驚き瞳を大きく見開いた。
初めに入って来たのはあの指輪をしていた男。
そしてその後ろにいたのは忘れもしない家族を殺したあの男だったのだ。
ラカンから言われていた事なんか全部弾け飛んでしまった。
鼓動が異様に乱れて脈うっている。
悲しみと憎しみで目の前が真赤に染まりそうだった。
「人殺し!」
アデルの叩きつけるような叫び声にその男達は立ち止まった。