| この物語は「星の記憶」からすぐの話となります。 今回はティアナの頼もしい侍女ドロテーの恋物語です。ドロテーと誰を??と悩み、何通りかのパターンがありましたが・・・何とか自分の欲望(笑)に忠実な話が出来たのでは?と思っています(笑)ラブラブなティアナ&レギナルトも織り込んでおります。 どうぞこの短編も可愛がってくださいませ。 |
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皇子の贈物1![]()
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「ドロテー此処で何をしているのですか?」
怪訝な声で皇子宮の女官長バルバラが声をかけた。
彼女の姪でもあり冥の花嫁ティアナの侍女を勤めるドロテーが、正妃の居室扉前に座り込んでいたからだ。
「伯母様。私はただ今仕事中です・・・」
いつも快活な彼女にしたら元気の無い返事だった。
「仕事?ですか?」
「はい。見張り番です・・・かれこれ半日ほど・・・」
「半日?それでは・・・」
ドロテーはうんざりしたように頷いた。
正妃の居室はティアナの部屋―半日前といったら皇子レギナルトが皇宮より戻った時刻?
「お察しの通りですわ、伯母様。皇子のご命令でこの部屋に誰も入れないように見張っているんです。少しでもティアナ様と二人っきりで過ごしたいのは分かりますけど・・・既に半日・・・流石に私も疲れてしまって・・・今度から立て看板を作ろうかと思っていたところです。立ち入り禁止・入った者は斬首なり″c子って印の!」
いつも厳格なバルバラもドロテーの大げさに嘆く様子に思わず笑ってしまった。
つい最近の出来事だが、皇子とティアナにとって辛かった事件が解決したばかりだった。その前も大変な試練を乗り越えてやっと幸せにと思った矢先、愛し合った二人が引き裂かれるような出来事だったのだ。だから皇子としては片時も愛するティアナを側から放したく無いのだろう。それでドロテーが部屋から追い出された次第だ。
「はあーそれにしてもまだかしら?何をして過ごされているのやら・・・どうしたらこんなに時間を使うのかしらね?思いません伯母様?」
「何をして?ほほほ・・・ドロテー貴女は今まで恋人とかいなかったの?それなら分からないでしょうね。恋人と過ごす時間は何をしていなくても心は満たされて、時間はあっという間に過ぎるというものです」
恋人がいないと言われてドロテーはほんの少し前の昔を思い出した。思い出したくない話だ。そんな事もあっただろうか?と考えるだけでも気分が悪くなった。とにかく自分に恋人なんて余計なものでしかないと思っている。夫を早くに亡くしても自立して生きているバルバラを尊敬して彼女のようになりたかった。
「そうですか?私はそんな無駄な時間を過ごす事は無いと思いますけどね。それにしてももうすぐ夕餉の時間になってしまいますわ・・・此処に運んだ方が良いかしら?それともお声をかけるべきかしら?ううん、そんな事したら・・・きっと私の首は胴体から離れるでしょうね。うわあぁー怖い怖い」
「ごちゃごちゃと煩いぞ!ドロテー」
ふいに番をしていた扉が開き、レギナルト皇子が立っていた。
バルバラはクスリと笑い頭を下げた。
ドロテーも慌てて立ったがチラリと中を確かめた。主のティアナは頬を薔薇色に染めて夢心地で長椅子に腰かけているようだ。
(着衣の乱れは無しでと・・・うっ、また!)
ドロテーは不機嫌に立っている皇子を睨みながら言った。
「皇子!またティアナ様の髪を解かれましたね!二度しないと誓って下さいましたでしょ!」
レギナルトは方眉を上げた。皇子の自分にこんな風に言うのは彼女ぐらいなものだ。もしくは昔のバルバラ。幼い頃はこんな風に叱られたものだった。しかし一々そんな事を言われるのにも腹が立つ。
「ドロテーお前は――」
とレギナルトが反論しようとしたが言葉を呑み込んでしまった。ティアナが来たからだ。
「ごめんなさいドロテー。今日の髪型はあなたの新作だったのに・・・その・・・」
ティアナが口ごもりながら薔薇色の頬は更に赤くなっていた。
今日は珍しく皇子が早く帰って来ると聞いていたからドロテーも念入りに彼女の仕度をしたのだ。帝国ではどちらかといえば色が濃く、こしが強い髪が多い。ドロテーも明るい色の方だが金というよりもっと濃い琥珀色だった。ティアナの髪は隣国のオラール王国に良く見られるが、この国では珍しい金の絹糸のようなのだ。とても美しいのだが柔らかすぎて髪を結い上げるのも大変だし崩れるのも早いのが難点だった。皇子は結った髪より流したままの髪を好んだが、上流階級の女性は結い上げているのが普通だ。それなのに皇子はすぐティアナの結った髪を解いてしまう。着衣の乱れ同様に髪型の乱れも貴婦人として失格なのにだ。
だからドロテーが度々抗議していたのだった。まあドロテーとしてはこれだけベタベタしているのに、着衣が乱れる行為まで及ばない皇子の鋼のような自制心に感心はしている。
(あの皇子がねぇ〜噂は大げさかと思っていたけど本当の事みたいだったし・・・変われば変わるものよねぇ〜)
氷壁の皇子と囁かれたレギナルトだったが、別に女性をその氷壁で遮断した聖職者のようだった訳では無い。心に踏み込ませないだけで関係は一度きりの冷たいものだったようだ。皇子を手に入れたと有頂天になる女達は数知れなかったがその喜びもつかの間、顔さえ覚えて貰えず無視されるのだ。皇子の女性遍歴と、その彼女らに対する冷淡さは田舎まで聞こえてくる程だった。
ドロテーがその話を聞いた時には皇子は女の敵だと憤慨したものだった。まあ実際この皇城に来て内情を知れば皇子が女性に対してそんな態度だったのも頷けた。同性の自分でもムカつくくらい厚かましく嫌な女達が多いのだ。それならいっそ女自体を寄せ付けなければいいのにと思わないでも無かったが・・・
(そんな手の早い・・じゃなくって・・・えっと欲望に忠実な?かしら?その皇子がねぇ〜)
そういう思いを込めてドロテーはレギナルトをチラリと見た。その時、皇子の胸元の刺繍にピンがぶら下がっているのを見つけたのだ。なる程とドロテーは思った。
「皇子、大変申し訳ございませんでした。私の早とちりでございました。お詫び申し上げます。ティアナ様の髪留めが外れたのでございますね?申し訳ございません、邪魔になる位置で留めておりまして。失礼いたします」
ドロテーはそう言ってレギナルトに付いていたピンを取ると目の前にかざした。
寄り添っていた時にでもひっかかって崩れかけたのだろう。だから全部解いてしまえ!となったに違い無い。
レギナルトは少し居心地悪そうに言った。
「分かればいい。以後気をつけるように」
「かしこまりました。以後、皇子がお手を触れるところはもちろん、ティアナ様がお傍に寄られましてもその衣服にひっかからないように注意いたしますわ」
それを聞いたティアナが更に耳まで赤く染めてしまった。
レギナルトはこのドロテーが時々妖魔より性質が悪いと思ってしまう。自分に対しても怯まず堂々と意見を言うのだから苦手でたまらない。しかしティアナにとっては良い理解者なのは認めるところだ。
(可愛らしい憎まれ口と思って耐えよう・・・)
レギナルトは不快さを噛み殺しながらそう思った。
その二人のやり取りを見ていたバルバラは、最近の皇子の変化には目を疑うところだった。自分が育てたと言っても生まれながらに持つ、他を従わせる帝王の資質は性格的に逆らう事を許さなかった。幾ら自分の姪であってもただの侍女に、このような口のきき方を許す皇子では無かった。当初この怖いもの知らずの奔放なドロテーが、いつ不興をかうかとハラハラしたものだ。
バルバラは再び微笑みながら言った。
「それでは皇子、お夕食はどちらでなさいますか?ご一緒になさいますでしょう?」
「いや、私は夕刻出かける用事があるから簡単なものを部屋へ運んでくれ。その前にドロテー話があるから少し付き合うように」
「えっ!私にですか!」
ドロテーは驚いてグルグルと何をしでかしただろうかと考えた。
その青くなった様子にレギナルトはチラリと視線を流して言った。
「叱責では無い。それとも何か心当たりでもあるのか?」
「まさか!私には何もございません!」
むきになって言うドロテーにレギナルトは失笑した。
「ではティアナ。少しドロテーを借りる。今日は帰りが遅いからまた明日の朝に・・・・」
レギナルトはティアナにそう優しく言って軽く抱きしめた。
そしてドロテーは皇子に連れられて行ってしまった。
「バルバラ、皇子はドロテーに何のご用なのでしょう?」
不安そうに尋ねるティアナにバルバラは答えた。
「叱責では無いと皇子はおっしゃっておりましたから大丈夫でございますよ」
そう言いながらバルバラは皇子の考えそうな事は分かっているつもりだ。
(あの子も苦労するわね・・・)