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皇子の贈物10![]()
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「ば、馬鹿っじゃない!ありえないでしょう!先生はいいでしょうけれど少しは公爵家の事を考えたら?信じられない!先生は一応当主なんだから一族の未来も考えるべきよ!公爵家を潰すつもり!」
頭ごなしに怒鳴られたベッケラートは大きく目を見張ったが、笑い出した。
「ははっは、最高!いい、実にいい!ははは・・・こんなものどうってこと無いし、オレがいいって言ってるんだから誰も文句はいわない。これぐらいで公爵家が潰れる事もないって!それにこれは昨日の侘びのつもりだから・・・」
「侘びですって!それなら尚更結構です!こんなの提供されたら私がこの後、それに見合うものの対価をと考えただけで気が遠くなるわ!」
「見合うものって?だからこれはそうじゃなくて昨日の侘びだから」
「同じです!あ、あんなことぐらいでこんな事されたら私、こ、困ります」
ドロテーはどもりながら自分の顔が赤くなっているだろうなと思った。あんなことと見栄を張って平然と言えるほど慣れてはいないからだ。
その様子がベッケラートの心をくすぐるのがドロテーは分かっていない。手を出したい気持ちを抑えるのが精一杯の彼を刺激しているのだ。
ベッケラートは昨日、一晩中思い悩んだ。彼女に誠意を示さなくてはと思った。その為にはドロテーが抱えている案件を手伝うことが一番だと思ったのだ。それなら最高のものを与えたいと思うのは自然な気持ちだったのだ。彼女がそれで喜んでくれるなら何に変えても叶えたいと思ったのだった。
それなら真珠の権利なんかどうでもよかった。
喜ぶかと思ったらやはりというか予想は外れた。逆に怒らせてしまったうえに説教されたのだ。
しかしそれがまた予想外で最高だった。
「あーあ、失敗かぁー喜ぶと思ったのにな」
残念そうな振りをしてベッケラートが言った。
その様子にドロテーがひっかかった。自分が我が儘を言っている気持ちになってきたのだ。
「あの・・・先生。ごめんなさい・・・せっかく言ってくださったのに・・・つぅ」
興奮していた気持ちが落ち着くと頭痛が激しく脈打ち始めた。こめかみに指を当てたが、なんだか吐き気までしてきたのだった。
「どうした?」
「ちょっと・・・頭痛が・・・」
そう答えた自分の声が遠くに聞こえるようだった。そこで記憶が途切れた。
ピチャリと額に当たる冷たい水の感覚に目を覚ました。
一瞬ここは何処だろうかと思ったが倒れた場所から動いて無いようだった。
ただ寝ている横にベッケラートが座って遠くを見ていた。そして身体には彼の上着が掛けられている。気持ちいいと思ったのは水で濡らした布が額にのせられているようだった。
目が開けづらいのでそれをずらそうと手を動かすと、ベッケラートがこっちを見た。
「おっ、気が付いたな。頭痛で貧血をおこしただけのようだ。ちょっと静かにしていれば大丈夫だ」
そう言うと優しく微笑んだ。
そんな彼をドロテーは初めて見た。
いつも皮肉な感じか、ふざけた感じしか見た事が無かったのだ。
さっきまでこめかみが脈うっていたと思ったが今は胸の動悸が治まらなくなってきた。頬に血が上る。
(こ、これって!ま、まさか!きっとそうよ!絶対今、鏡を見たらティアナ様と同じ顔をしているに違い無いわ!嘘でしょ!)
ティアナがいつも見せる、恋する顔―――自分も今そんな顔をしているとドロテーは確信したのだ。
急に恥ずかしくなって、がばっと起き上がったが、目眩がした。
「バカ野郎!今、言ったばかりだろうが!大人しくしろって!」
ベッケラートがそう言って支えた腕に悲鳴を上げる。
「おいっ!」
(あー神様。お助けください!)
ドロテーはまたあっさり意識を手放したのだった。
そして次に目が覚めたのは自分の部屋だった。
しかも次の日だ。よく眠ったせいか頭はすっきり気分爽快だった。
「朝食の準備をしなくっちゃね」
ごそごそと起きて準備を始めたところに寝起きの悪いはずのベッケラートがやって来た。
「おいっ、大丈夫か?大したこと無いと思ったが、ああ何度も気を失うのならちゃんと診察した方がいい。さあ、座って」
真剣な顔で言うのでドロテーも言われるまま座った。
しかし昨日と同じくドキドキ動悸がする。
向かい側に座ったベッケラートに聞こえるのでは無いかと気になるぐらいだ。
「さあ、胸の紐を外して」
「えっ?」
「胸元ひろげてくれないと出来ないだろう?」
ベッケラートは診察の道具を揃えながら言った。
「胸?胸見るんですか!」
「・・・・・診察するだけだ。他意は無い」
確かに今日の彼は医者の顔をしている。ふざけた様子は全く無い。
ドロテーは真っ赤な顔をして立ち上がった。
「け、結構です!もう治りましたから!」
「おいっ!」
いきなり立ち上がったドロテーをベッケラートが見上げると、熱でもあるかのように赤い顔をしていた。
「熱があるのか?」
そう言ってドロテーの額に触れた途端、更に彼女の顔が赤くなったのだ。
「えっ?」
「だ、大丈夫です!今日はちょっと暑いかなあーそ、そうだ先生!私考えたのですけど昨日のあの場所ですけど買うんじゃなくて借りる事にします。考えてみたら目が飛び出すようなお金がかかったってティアナ様が知ったら絶対に心配されますもの。だから皇子の贈物は幻のような時間と空間にします。良いですか!」
「あ、ああ・・・もちろんかまわんが・・・」
「じゃあ、そう言うことで!では失礼します!」
ドロテーは慌てて台所に逃げ込んだ。何とか誤魔化せたと思うが・・・・
そうと決まれば準備は簡単だった。早急に立ち上げた家に生活用品を色々揃えるだけだ。
後は皇子の時間作りだった。
オレの女になる≠ニやらの約束が成立したのかドロテーは分からなかった。
あれ以来ベッケラートはそういう態度をとらないからだ。
でも皇子の代行は引き受けるようで診療所はヤンに任せる手配をしていた。
緊急じゃない場合、彼で十分だろう。
準備は整った。この贈物の件を皇子に直接報告に行くことにした。
皇子宮を避けて直接、中央の皇宮に向った。皇帝はもちろん要職に就く貴族が座するその場所にそうそう誰でも入る事は出来ない。ドロテーは皇子の指輪を使って入って難なく行ったのだった。
丁度会議の合間のようだったが居並ぶ者達はいずれも帝国を支える重臣達だ。
それをまとめて裁可を下すのが皇帝の役目なのだが、今は皇子が一応皇帝の名のもとにそれを行なっている。
その中にドロテーが入ってくると、皆怪訝な目で見た。
しかしドロテーは堂々としたものだった。誰も一介の侍女と思わない感じだ。
そして皇子の前まで進むとお辞儀をして声がかかるのを待った。
「ドロテー?どうしたのだ」
ドロテーは、すっと顔を上げてにっこりと微笑んだ。
「皇子。ご命令のものを準備致しましたのでご報告にまいりました」
「出来たのか!」
ドロテーはお辞儀をしながら、はいと答えた。
「それは今持参しているのか?」
「いえ。あると言うか・・・今はまだと言うか・・・」
「ドロテー、焦らすな。早く答えよ!」
「はい。今から皇子にご協力頂きましたら完成致します」
「協力?」
「はい。皇子は明日から一週間ほどお仕事をお休みして城から離れて頂きます」
レギナルトは眉間にしわを寄せた。
「・・・・・私は構わないが・・・」
そしてチラリと皇帝や並ぶ重臣達を見た。
重臣達はひそひそ話し出している。皇子が構わないと言っているのに彼らが止められないからだ。
しかし、先日も妖魔討伐が思わず長引いて皇子の不在が続き大変だったのだ。
皇帝も皆と同じ考えだ。立場的に皇子に意見を言えるのは父である皇帝しか出来ない事だが、レギナルトには頭が上がらない。
それでも皆の意を汲み取って言った。
「レギナルト。そなたがそんなに休めば困る・・・・どうだろうせめて三日ぐらいで・・・」
皇子も十分それは分かっている。レギナルトが口を開けかけた時、駄目だ、駄目だと言いながらベッケラートが現れたのだ。
「駄目だ!皇子、あんたは働き過ぎだ。主治医として一週間養生するように命じる。皆いいな?否は言わせない!皇帝あんたもだ!」
いきなり現れた彼に周りは驚いた。しかもその続きを聞いて更に驚く。
「で、皇子がいない間、このオレが代わりに仕事してやるからな。安心して休んでな」
「ベ、ベッケラート、それは誠か?」
皇帝が抜けたような声を出した。
「ああ、オレで不満かい?」
「い、いや・・・」
皇帝の返事を聞くと、ベッケラートはニヤリと笑った。
「と、いう訳だ。皇子、今日は引き継ぎを宜しくな」
「・・・・ああ」
レギナルトは信じられないと言う顔をしたまま返事をしてドロテーを見た。
彼女と目が合うとニコッと笑った。
ドロテーの手柄に違い無い。ベッケラートの医術はもちろん右に出るものはいないが、政治手腕もそうだった。しかしレギナルトが出で来るようになったら政からあっさりと身を引いたのだ。レギナルトが彼の腕を惜しんで再三復帰するように打診を続けていたが叶う事はなかった。
それが今、短期間と言っても偏屈で頑固な彼を動かしたのだから大したものだ。
「ドロテー、では私の贈物を教えて貰おうか?」
「はい。皇子、それはですね―――」
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ちょっとひと休み 「贈物」も決まり、ドロテー×ベッケラート路線になっておりますが如何でしょうか?エリクとのラブを期待されていた方、申し訳ございませんでした。彼の恋人は今構想中ですので(妄想中とも言います)相手はなんと!!まだ内緒です(笑)少々お待ち下さいませ。しかし、この物語も残すところ数話となりましたが、エリクとベッケラートどっち?が長かったので後半は怒涛のように攻める攻める…ドロテーも恋を自覚しましたから一気に駆け足でラストまで行きたいと思います。ドロテーのシンデレラ?ストーリーに最後までお付き合いくださいませ。 |