| 新シリーズです。今回も(笑)王道≠ワっしぐらのラヴ・ロマンス≠お届け致します。テーマは「深淵の愛」です!えっ?今までの小説にテーマがあったか?ですって?はい、ございました。 「龍恋→愛の目覚め」でして愛を信じないラシードが愛に目覚めるのがメインテーマで、「盟約→至上の愛」これはこの字の通り!花嫁を何よりも誰よりも最も愛するようになる・・・でした。 「深淵の愛」とは何でしょうね? それでは新シリーズもお楽しみ頂けたら幸いです。 |
第一章 目覚め1
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―――誰が呼んでいる? 誰が笑っている? 我の眠りを妨げるものは誰か?―――
「姫さまぁ〜お待ちください――っ。王は公務中でございます! お邪魔でございます!」
「きゃあははは! お父さまぁ―――」
オルセン王国の城内で乳母の手を掻い潜り、長い回廊を転げる様に走る幼い姫が父を求めて会議中の扉を押し開いた。やんちゃな姫の出現に、王はもちろん王国の重臣達も話しを中断して顔を和ませた。中の状況などお構いなしで飛びつく姫を抱き上げながら王は追って来た乳母に、
(いいから)と目配せをする。
「エリカ、どうした? 何か新しい発見でもしたのかな?」
「お父様、どうしてエリカの言いたい事が分かるの? すごい!」
「エリカの事なら何でも分かる。その薄紅の瞳がどの宝石よりも輝いているからな」
王子が二人続いた後の最初の王女を、王はとても可愛がっているようだ。
エリカは父の言葉に、ぱぁっと明るく笑うと、興奮して早口で話だした。
「あのね、お父様! あの人は誰? ずっと寝てばかりいるのよ。起こしても全然起きてくれないのよ。変でしょ? それにあんな暗くて寂しい所にどうしているの?」
姫の言葉に王と重臣達は顔を見合わせた。
「何の話かな? 誰のことを言っているのかな?」
姫は何でも知っている父なら直ぐに回答をくれると思っていたのに、逆に問われた事に少し驚いたようだった。小さな頭を少し傾げて不安そうに答えた。
「お城の一番下の所にいるきれいな人よ。お父様、知らないの?」
王はその思いもしなかった言葉に驚いた。
「エリカ、それはまさか地下の大きな扉のある部屋の中の事なのか?」
「そうよ」
再び王は重臣達と顔を見合わせた。
「エリカ、あの扉は開いたのか? 重たくて開かないだろう?」
「? 触ったら開いたよ」
主だった者達の顔色が変わった。皆、信じられないと言う表情で小さな姫を見た。
王も腕の中で、不思議そうに自分を見上げる幼い姫を見つめながら言った。
「エリカ、一緒にそこに行ってみよう」
「本当! お父様と一緒に! 嬉しい」
王はエリカを抱きかかえたまま、その場所に向かった。
会議室にいた重臣達も一言も喋る事無く、緊張した面持ちで同行する。
光りが一切入らない城の地下でも最下層にあるその場所は、幼い王女が行くような所では無かった。大の男でさえも、たち込める異様な空気に身を震わせる様な空間なのだ。足音が不気味に響き、顔に感じる空気は湿って生暖かく、反対に足元は凍えるように冷たかった。
「エリカ、一人でこんな所に来てみたのか? 怖く無かったのか?」
話し声は壁に反響して只ならぬ雰囲気を作り出している。
エリカは全く気にしていなかった。忙しい父が自分の発見に付き合ってくれているのが嬉しくて堪らないらしく、明るい声で答えた。
「鞠を落としてね、追っかけたらここまで来ちゃったの」
「落とすと言っても限度があるだろう? こんな所までなんて」
エリカは悪戯っぽく笑って自慢げに答えた。
「どこまで落ちるか確かめたの。拾ってもまだ下があったから又、落としてみたの。それを繰り返したら到着したの。ねえ、楽しいでしょ?」
王は呆れた。我が娘ながら姫にしておくのが惜しい性格だと思うが、姫なのだからもう少しおしとやかに教育しなおさなければと、行く末を案じてしまう・・・・
最下層に到着すると父の心配を他所に、エリカはその腕から飛び降りて父を見上げた。
その場所は自然の岩石をくり貫いたかの様な硬い岩肌に覆われていた。まるで城の土台部分に位置するようだった。そして皆の目の前にある扉は、何時の時代から存在しているのかと問いたくなる様な代物で、天井高く中央から開くように二枚で出来た物だった。しかも何で出来ているのか分からず、現在の技術を用いてもその扉に傷一つ付ける事が出来ない物だった。
その扉の中央にはオルセン王国の紋章と共に、古代文字で、
―――オルセン王国の守護魔神サイラス、此処に眠る―――
と、書かれていた。
王はその扉に手をかけて押してみた。しかし、扉はビクともしなかった。 開くはずは無かった。
その扉は開かずの扉だったのだ―――
エリカは首を傾げた。どうして扉が開かないのか分からなかったのだ。簡単に開くのに・・・・
「お父様? 何やっているの? エリカがする!」
額に汗して扉を押している父に代わって、エリカが小さな両手で扉に触れるとその頑丈な扉はまるで紙で出来ているかの様に軽く簡単に開いたのだ。開かれた内側は薄暗く広さは分からない。奥に台座が青白く光っていてその上に人らしきものが仰向けで眠っていた。
エリカは恐れもなくその台座に近づいて行った。王達は不可侵の領域を侵している気分に襲われていたが小さい姫の後を追って行った。
各人が手に持っている灯りに照らし出された台座に眠る人物は男性だろうか?背が高く、身体を覆う薄い衣からは芸術家が理想として彫刻する彫像のように均整のとれた美しい身体を感じさせた。瞳は閉じられているが、長い黒髪が整った貌を際立たせていた。眠っているというよりも死んでいるようだ。
「死んでいるのか?」
「違う! だって少し温かいし、小さくだけど時々、トクン、て音がするもん」
エリカはその眠る人物の上によじ登ると胸に耳を当てて確かめながらそう言った。
王はエリカの行動に目を丸くして、慌てて娘を抱き上げた。
「これ! 失礼をしたらいけない」
「お父様、この人知っているの? きれいね。でも起きないのよ。叩いても引っ張っても」
「エリカ、そのような事をしてはいけない。この方はオルセン王国の守護魔神なのだから」
「魔神! 怖い人なの!」
「後で話してあげるから今は此処から出よう。魔神の眠りを妨げたらいけない」
王はエリカを抱きかかえたまま扉の外へ出た。
すると扉は自然と閉まり再び誰の手でも開ける事は出来なかった。
それから王はエリカの部屋に向かいながらに魔神の事を語ってくれた。
「昔々、この王国に大いなる力を持つ魔神がいてね。その力は王国を守り、富みをもたらしてくれたそうだ。でもね長い間、沢山働いてくれたから今は休んで眠っているんだよ」
「お仕事たくさんしたから疲れたの?」
「そうだよ。だから起こしてはいけないよ」
「・・・・そうなんだ。つまんないな・・・」
王は残念そうに顔をしかめている愛しい娘を部屋へ返しながら、真実の伝説を思い浮かべていた。オルセン王国が建国間もない遥かなる昔、人間には考えられない力を持った別世界の住人である彼が何処から現れたのか王国に住みついたのだ。その魔神は、痩せた土地を開墾するオルセンの人々をその大いなる力で助け、実りある豊かな土地へと導いてくれた。しかしその力は次第に恐れられ、それが他国へ渡る事を恐れた王は魔神を隷属させる呪をかけたのだ。魔神が自らの力で自らを縛るその呪は己では解く事が出来なかった。 それから魔神は自らの意思に関係なく主となる歴代の王達に隷従する運命となったのだ。
巨大な力を手に入れた者は己の野心を抑える事が出来なかった。不可能と云われた大陸の統一を、魔神を使って遣り遂げた。恐怖と殺戮の力を使って―――
繁栄を極めた王国に逆らう国も無く、魔神の存在が抑止力だけとなった時、時の王は魔神を哀れに思い最後の命を出したのだ。もう誰からも利用されないように只、眠るように・・・・と。
魔神を支配する契約の秘儀もその時全てが破棄され、後世に伝わる事は無かった。そして繁栄を極めた王国も魔神が眠りについてから次第に国力が衰え、衰退していった。歴代の王達は魔神を我が物にした王を称え、眠りにつかせた王を非難する者もいれば、全く逆の考えを持つ者もいた。今の王はその後者だった。強すぎる力を持ち他人を虐げてまで自分達の欲を満足させるやり方に同意出来なかった。統一だけが平和の道とは思えないのだ。それは今のオルセンが昔の諸国の様に、虐げられている弱者の立場だからそう思うのかもしれない。
世界はオルセン王国以来、誰も統一を試みるものがいなかったが、愚かにも再び大陸を統一しようとする帝国が台頭してきていた。北のベイリアル帝国だ。その帝国は遠く、この王国にはまだその魔の手が届いていないとは言え油断出来ない状況なのだ。
不穏なこの時代に魔神の封印の扉が開いたのだ。長きに渡り開く事の無かった扉が――――
しかし、魔神の眠りは覚めてはいなかった。目覚めたとしても既に契約の秘儀は失われていて彼を支配する事は出来ないのだ。
(だが何故、エリカだけに扉が開くのか?)
王は釈然としない思いを抱えながら大きな溜め息をつくのだった。
――― 十年後 ―――
「姫ぇ―――エリカ姫―――っ。姫―――」
侍女達がエリカを探して城内を駈けずり回っている。
エリカはそれらをかわし、そっと後ずさりながら移動していた。
「エリカ、今度は何から逃げ出している?」
エリカは真後ろから聞こえてきた声に、ぎょっとして振り向いた。
「なぁ〜んだ。クライド兄様か。びっくりさせないでよ」
「その口の利き方はなんだ。苦手な作法の時間を抜け出したのだろう?もう子供では無いのだから皆を困らせるな」
「分かっているわ。今日だけよ。今日だけ!あっ、いけない!じゃあ、兄様またね」
エリカは彼女を探す侍女と目が合って、返事もそこそこで慌てて逃げ出して行った。
長兄のクライドは苦手だった。前王妃の忘れ形身だから母違いの兄で歳が離れている上に気難しく堅苦しいので、何かとお転婆なエリカにとって天敵なのだ。エリカには二人の兄と妹がいる。十年経った今でもお転婆なところは、ほとんど変わり無いようだった。
その彼女は兄の指摘通りに煩い作法の時間を抜け出した所だったのだ。やっと侍女達を撒いて何時もの場所へ逃げ込んだ。何時もの場所とは幼い頃、見つけた封印の間だった。
昔も今も彼女しかこの扉を開く事が出来ない。
―――オルセン王国の守護者サイラス、此処に眠る―――
と、扉に書かれた古代文字のサイラス の部分にエリカは指を這わせた。
「サイラス・・・」
何故か胸に膨らむ想いを込めて言葉に出して読むと、扉を開いて静かに中に入って行った。中は昔から変わらず、ほのかに光る台座に魔神は眠っている。
しかし、台座の周りには何かと物が増えているようだった。
エリカは台座に近づき明かりを灯 した。彼女の私物が周りにあるみたいだ。
持ち込んだ明かりで魔神がはっきりと見える。幼かったエリカは歳を重ねて少女へ変身したが眠る魔神は変わらない姿で眠っている。
エリカは彼の冷たい頬にそっと触れる。
「こんにちは、サイラス。今日ね、少しゆっくり出来るの。煩いブロウ婦人から逃げて来たから!今頃、頭から湯気出して怒っていると思うわ」
それからね、と色々話かけながら手は彼の長い髪をもてあそんで三つ編みをしたりしていた。一日の中でこの時間が一番好きだとエリカは思っている。喧騒とした外の世界から切り離されたこの空間は何故か懐かしく心が安らぐのだ。そう・・・・何故か安らぐのだった。エリカは幸せだった。だが彼女を取り巻く世界は安穏とした情勢では無くなっていた。
ベイリアル帝国の野望が間近に迫っていたのだった―――