
「シーウェル、また花嫁選びでもするのか?」
いつもより華やいだ宮殿を一周して来た様子のジャラがまた愉快そうに聞いて来た。
魔神は一応姿を変えている。今までグレンの前にしか姿を現さなかった彼だが、只人 の振りをするのが気に入ったらしくその姿で出没するのだ。
白銀の髪は薄い金髪に瞳は灰色。そして白い肌はシーウェル風に褐色にしている。
恐ろしく麗しかった貌もそうなれば見た感じ気楽な貴族の若者にしか見えないだろう。
そのジャラが見て来たのは各国から来た姫君の集団だった。
殆どが妙齢の王女で前回を彷彿させるものだったのだ。
「いいえ。どうしたのでしょうね?こんな状況で差し出すとしたら普通なら一番末の子供だとか、遠縁の王族とかが無難でしょうに・・・不思議ですね」
「不思議という顔をしておらぬようだが?」
「そうですか?今は驚いて責任の重大さを感じているところです。これだけの方々を預かる以上何かあったら大変ですから」
とてもそう思っている様子では無いグレンだったが、ジャラはニッと嗤った。
「我はどうでもいい。退屈さえせねばな」
各国の人選など裏が分かり過ぎてグレンは興醒めだったし予想通りだった。
それこそジャラが言ったように前回のやり直しだろう。今度こそこの機会に独身のシーウェル王に嫁がせようとの魂胆なのは見え見えだった。
しかし今回は条件を付けて預かる客の同行者は無しとした。だから前回のような侍女や護衛官や政府高官の役人の派手な行列もなく、当然ながら画策する人物を送り込むことも出来なかった。
それがこの遊学というものが短期間のものではないし、甘いものでも無いというのを各国に知らしめたのだった。お祭り騒ぎの様相だった各国はその条件に戸惑いを見せたが、もう後には引けない状況となっていた。それでも彼らは自慢の姫を送り出して来たのは本当に切羽詰っているのだろう。
どの国よりも条件を良くしたいと思うのは誰でも思うことだ。
一方、オルセン王国ではニーナのシーウェル行きの承諾に難航するかと思っていたが、彼女達が言う前に会議でニーナに決定していた。
王達もサイラスの考えと同じ結論を出していた。特出した力は各国の脅威であり、オルセンがいくら同盟に協力すると言っても本当に信じている国は少ない。またシーウェルも同じ立場だ。
シーウェルは逆にその力を見せ付ける事により同盟の強化を図ろうとしている。
しかしオルセンはそのやり方に納得はしていなくても反目する訳にはいかなかった。
各国はその様子を窺っているだろう。
そうなると思った事をぽんぽん言うエリカは端から見れば喧嘩を売っているようにしか見えず不適格だった。それに魔神に主はいないがエリカを守護しているのは明らかだ。
そうなると魔神は国の要であり、当然ながらエリカを動かす訳にはいかなった。
王子達は何か画策するのでは?と疑われる。
となれば体の心配はあるが脅威とみなされない大人しく純粋なニーナが一番適当だったのだ。
母親は大反対だったが王と議会の決定に異を唱えても無駄で、嘆きのあまり床に伏してしまった。
「ニーナ、準備は出来たか?」
ニーナの出発の日。
呼ばれた部屋には父と兄達、それと姉のエリカがいた。
父王が準備は出来たかと聞いている。それは心の準備もさしているだろう。
「はい、お父さま。私は私の勤めをしっかりと果たしてきます」
ニーナはシーウェル王国をはじめ同盟国との友好関係をより強固にするようにと言われていた。
世間知らずの姫の方がその教えを忠実に守るだろう。邪心を持たずに一途にその使命を全うするに違い無いと王達は考えていた。
「そうか・・・ではニーナ。長らくの別れになるかもしれぬが体に気をつけて」
「お父さまもお元気で」
「ニーナ、何かあれば直ぐに連絡するように」
「はい、クライド兄さま」
「僕は時々、行くと思うからまた会えるよ」
「はい、アルフ兄さま」
「ニーナ、頑張ってね。応援してるからね」
「ありがとう、姉さま、母さまを宜しくね・・・」
ニーナは溢れそうになる涙を堪えながら皆それぞれと抱き合った。
各国の思惑が交錯する中―――ニーナは旅立って行ったのだった。
彼の地ではシーウェル王の正妃の座を狙う王女達が、中々到着しないオルセンからの遊学者が誰なのか戦々恐々で待っていた。それでも大半の予想ではエリカだった。前回シーウェル王と親密そうだった彼女が来れば自分達の強力なライバルだと思っていたのだ。
しかも本国ではシーウェル王がエリカを娶るような事にならないよう阻止せよと言われていた。両国のこれ以上の結びつきは脅威にしか思えないからだろう。
そんな中、ニーナのシーウェル王国行きに魔神の力は使わなかった。魔神との契約が消滅した今、もう出来る限りその力を使わないし、それをひけらかさ無いと決めたからだ。
だからニーナは体調を考えて通常の行程以上の日数をかけてシーウェル王国へ向ったのだった。
そして到着した王宮の前まで送り届けてくれたオルセンの者達は約定通りに城の門をくぐること無く直ぐ引き返して行った。
その後ろ姿を見ながらニーナは込み上げる涙を我慢していた。
その別れの悲しみと緊張の中、到着した早々に王との謁見が待っていたのだった。
そして足を踏み入れた宮殿はエリカから話は聞いていたが余りにも豪華でニーナは足がすくんでしまった。
「すごい・・・」
思わずもれたニーナの声に、先導してくれていた女官が馬鹿にしたように小さく笑ったので、ニーナは何か失敗したのかと思って恥ずかしくなった。
(し、しっかりしなくっちゃ・・・)
ニーナは自分を叱咤して、早足のつんと澄ました女官にはぐれないように付いて行った。
そして謁見の間はさぞかし目も眩むような場所かもと思っていると、案内されたのはそんなに広く無い部屋だった。どちらかと言うと公式な場所では無く、個人的な雰囲気のある場所だ。それでもオルセンの城とは大違いの豪華な室内で、ニーナの弱い心臓は早歩きのせいもあって鼓動は激しく打っていた。
扉が開いた―――
入って来たのは褐色の肌に金髪と空色の瞳の人物だった。この豪華な宮殿に相応しい服装をした人物の左目は宝石をあしらった眼帯をしていた。エリカから聞いていたシーウェル王グレンだ。
ニーナはその姿を見た時、何度もエリカの話に出て来たグレンとは初めて会った気がしなかった。
覚悟して来たが誰も知らないこの場所で本当に心細かったから思わず、ほっとして涙で潤んだ瞳で微笑んだ。
グレンは彼女とはもちろん初めて会う。
会う前に思った事はエリカと似ているのだろうか?とどこか期待していた。
そして扉が開いて目に入って来た少女はエリカの眩しい太陽のような印象とは全く逆だった。
風が吹けば折れそうな小さな花の風情だ。病弱だと聞いていたがそんな感じの姫だった。
余りの印象の違いに少し落胆していると、その目の前の姫がいきなり微笑んだのだ。
彼女のその表情にグレンは思わず驚いてしまった。
その微笑みは愛想笑いの類では無く、手放しで安心しきった笑みだった。それはまるで母親の腕の中で無垢に笑う赤子のようだ。
「シーウェル、どうした?」
一緒に付いて来ていたジャラの声にグレンは、はっと我に返った。
普段向けられた事の無い種類の笑みだったので見入っていたようだ。
気を取り直したグレンは嘘の微笑みを浮かべた。
「ようこそいらっしゃいました、ニーナ姫。私はシーウェル国王カーティス・グレン・エイドリアンです。貴女を歓迎致します」
「お、おはようございます、は、初めまして、こ、こんにちは。ニーナです」
ニーナは自分が何を言っているのか訳が分からなくなっていた。初めて会った気がしないと思っても初めて会った人だし、ちゃんとしなくっちゃと思うと緊張してしまったのだ。
「この界の言葉は理解していたつもりだったが・・・今のような挨拶の組み合わせも有りなのか?シーウェル?」
ジャラが愉快そうにグレンの耳に顔を近づけて言った。
「い、いいえ・・・ご、ごめんなさい。おはようございますは、朝の挨拶で・・・初めましては、初めて会った時のもので・・・こんにちは・・は、ひ、昼間の挨拶で、ぜ、全部一緒に言うのは、ま、間違いです・・・だ、だから言い直します。シーウェル王、初めまして、ニーナです」
ニーナは顔を真っ赤にして詰まりながらも小さな声で答えた。
グレンもわざと言ったジャラも、こんな答えが返ってくるとは思わず驚いた。
そしてジャラが笑い出した。
「くくくっ・・・そなた愉快よの。我はジャラ。初めまして、でよいな」
「あ、はい・・・ジャラさん?あっ・・・サイラスと同じ魔神の?は、初めまして。ニーナです」
ジャラもエリカの話しに出ていた人物だ。ニーナは慌てて深々とお辞儀をした。
(は、恥ずかしい。私、何やってるんだろう・・・)
ニーナはもう顔どころか首の下まで真っ赤になってしまった。
それがまた愉快だと言ってジャラが笑った。
「海神、からかうのはそれくらいでお止め下さい。姫がお可哀想でしょう?ニーナ姫、大変失礼致しました。貴女の姉君からもくれぐれも宜しくと手紙も貰っております。ここを貴女の城と思って滞在して下さい。何かあれば遠慮せず何でもおっしゃって下さい」
グレンは愛想良く微笑みながら言った。
彼の優しい口調にニーナはまた、ほっとして少し落ち着いてきた。そして父親から言われた友好関係を強く築く≠ニいうことを思い出しそれを思わず口にしてしまった。
「あの・・・では・・な、仲良くして下さい」
世間慣れしていない姫の余りにも飾らない言葉に、グレンは少しばかり驚いてしまった。
その瞬間、瞳を大きく開いてしまったのを透かさずジャラが気付いた。
そしてまた愉快そうに笑うのをグレンが、ちらっとだけ見たがニーナに、にこやかに微笑み返した。
ジャラに言わせれば欺瞞 の微笑み―――
「こちらこそニーナ姫。私も貴女とはとても仲良くなりたいと思っています」
グレンの笑みとは大違いの笑みがニーナからこぼれた。
それと同時に我慢していた涙もぽろぽろとこぼれ落ちてしまった。
グレンもそしてジャラも久し振りにこんな純粋なものを見た気分だった。
穢れを知らない無垢なもの―――
(呆れる程大切に育てられたようだ・・・これなら簡単・・・)
グレンはニーナに感じた少しばかりの感動を心の奥に沈めてそう思った。そして純粋培養された姫の扱い方が彼の中で決まったようだった。
ニーナは自分が何を話したのかどうしてしまったのか舞い上がってしまって殆ど覚えていなかった。与えられた部屋に案内された今でもドキドキしていたが、そこへ侍女がお茶の用意をして現れた。
「長旅お疲れ様でした。私、ニーナ姫様の侍女をさせていただきますマーシャです。宜しくお願いします」
快活そうなその侍女はエリカを思い出させた。年も同じぐらいで雰囲気が良く似ている。
「は、はい。こちらこそ宜しくお願いします」
ニーナは深々と頭を下げた。
「姫様!侍女に頭を下げたら駄目です!」
「え?そうなんですか?ごめんなさい」
「謝ってもらっても困りますよ」
マーシャは不快に思って言っているのでは無く、本当に困っているようだった。
ニーナは殆ど寝たきりで、人と接することが少なかったから良く分かっていなかった。人には身分と言うものがあり、平等であってはならない場合もあると言うのをまだ理解出来ていないのだ。
「えっと・・・私よく分からなくて・・・」
マーシャは呆れると共に内心、ほっとしていた。
王宮に勤め始めて日が浅いせいか今回のオルセンの王女専任は押し付けられた状態だったのだ。
誰もがオルセンから来る王女の担当になるのを嫌がったのだった。
以前来ていた王女も貧弱なくせに素敵な従者を両手に自慢するように侍らして王に生意気な口をきいていたらしい。だからその王女にしてもその姉妹にしても、魔神を擁する神秘な国の王女は高慢で鼻持ちなら無い嫌な姫だと噂されていた。
(他の姫君よりまともじゃない?)
他の姫達の侍女になっていた仲間の愚痴を聞かされていたマーシャだったが、今は当りくじを引いた気分だった。
「国が違えば風習も考え方も違ってくると思います。戸惑うことも多いかと思いますが私で分かることでしたらお答えしますので、遠慮なく言って下さい」
マーシャはそう言うと新しい主が安心するように、にっこり笑った。
「あ、ありがとう・・・マ、マーシャ・・・マーシャって呼んでもいいの?」
「はい、もちろんマーシャと呼び下さい」
ニーナもマーシャもお互い上手くやっていけそうだと思ったのだった。
ニーナが住むことになった場所は、独身の王にはまだ不要な後宮が解放されたものだ。
豪華な宮殿が更に華麗で趣向を凝らしたその空間は、各国の美姫が行き来をするので本当の後宮のようだった。
そして殆どが女達というこの状況で派閥さえも出来ていた。それは国力や各国の政治的関係に比例するかのような集団を作りあげているようだった。まるで今の同盟国の縮小版みたいだ。
そしてその派閥は何かと張り合ってはいたが共通の敵はオルセンの王女ニーナだった。
今日もその原因を悔しそうに彼女達は見ていた。
「ニーナ姫。今日は珍しいものが手に入ったから持ってきましたよ」
シーウェル王が涼やかに微笑みながら虫カゴを差し出した。
その中に海の碧のような色をした蝶がひらひらと飛んでいた。
彼はこんな風にほぼ毎日のようにニーナを訪ねてくるのだ。
「あ、ありがとうございます」
ニーナは戸惑いながらそのカゴを受け取った。
王は優しい―――自分が特別扱いされているとニーナも段々分かってきた。
こんな風に他の姫君達に何かを持って来たり、声をかけたりする事が無いのだ。
高価な物ではなくて本当にささやかな物だった。珍しい貝殻だったり、花だったりだが見た事無い物ばかりでニーナは何よりも嬉しかった。初めはどう見てもつまらないものばかりのそれに姫達も嫉妬することは無かったがこうも頻繁だと気に入らないようだった。
狭いカゴの中で四方にぶつかりながら飛んでいる美しい蝶をニーナは見つめた。
「あの・・これは頂いてもいいのですか?」
「もちろん。そのつもりで持って来ましたからどうぞ」
グレンは笑顔を作ってそう言った。
「ありがとうございます」
ニーナは丁寧にお礼を言うとカゴの扉を開け放った。
「ニーナ姫?」
蝶はあっという間にカゴの外へ、ひらひらと出ると庭の花々を優雅に渡り始めた。碧い翅が海の煌きのように太陽の光を弾いている。
「蝶は花園にいる方が綺麗でしょう?」
美しい蝶はこの国では貴婦人達の飾りものだった。生きたまま飛べなくして髪やドレスに飾るのだ。
蝶はまるで花にでもとまっているかのように翅を優雅に閉じたり開いたりするだけの生きた宝石のようなものだった。
ニーナは初めてそれを見た時、驚いたのはもちろんだが可哀想で見ていられなかった。
他国から来た姫君達はそれが気に入った様子で早速自分達も飾っていたのだが・・・
(たぶん・・・シーウェル王は、私が持っていないからくれたのかもしれないけど・・・)
誰も持っていないような珍しい蝶だった。今まで貰ったものとは違って高価なものだろうとニーナは思った。でも可哀想で自分ではとてもそんな真似は出来なかったのだ。
ひらひら舞う蝶は嬉しそうだ。ニーナはその様子を微笑んで見守った。
「そうですね。貴女の言う通り蝶はご婦人を飾るより花園にいる方が似合っていますね」
グレンがニーナの心の中で思っていた事を言ってくれたので嬉しくなった。
「はい・・蝶もとても嬉しそうです」
「ははは・・・姫は蝶の気持ちが分かるのかな?」
「わ、分かりませんけど・・・私もいつも部屋の中にいたので・・・広い外に出たときとても嬉しかったから・・・何となくそう思って・・・」
人慣れてしていないし、どちらかと言うと言葉を探しながらゆっくりと喋るニーナの話を、シーウェル王は優しく最後まで聞いてくれる。ニーナは何よりもそれが嬉しいと思っていた。
それから二人は暫くその蝶を眺めていたが、グレンが先に去って行った。
ニーナも部屋に帰ろうとすると様子を窺っていた姫達が数人出て来た。最大派閥の頭目でもあるオーデン国の王女ハリエットとその取り巻きの姫達だ。
「流石オルセンの姫はわたくし達とは違いますわね?」
「本当ですわ」
「王が贈ってくれたのを要らないと言って捨てるのですものねぇ」
「ち、違います・・・私・・そういうつもりじゃなくって」
ニーナはそんな風に思われたのかと思って驚いてしまった。
「どういうつもりなのかしら?しかも私達が蝶を飾るのを批判したでしょう?」
「私・・・そんなこと言っていません」
「してたじゃない?ねぇ〜みなさん、聞きましたわよね?」
ハリエットの問いかけに周りの姫は、自分達も聞いたと口々に言った。
「王が言われたじゃないの。ご婦人を飾るよりって!」
ニーナは、あっと思った。
あの言い方だと自分は言っていないが、批判したと思われても仕方がない感じかもしれない―――
姫達の攻撃の的となってしまったニーナを残し、立ち去ったグレンの前に気ままなジャラが現れた。
「シーウェル、良いのか?あの娘をあのまま残しても?」
「仰る意味が分かりませんね」
グレンは立ち止まると、近くに誰もいないか視線をめぐらせて答えた。
「やはりわざとか?あのような言い方は他の者を刺激するだろうに・・・まして何時も目立つように振舞うであろう?もうそろそろあの娘も只では済まぬだろう」
「―――良く見ていらっしゃいますね。それ程あの姫に興味がありますか?」
ジャラはグレンの顎 をすくい上げ、にやりと笑んだ。
「我はそなたが何をしようとしているのか興味があるだけ」
「・・・・・・そうですか。ご期待には副えないでしょう。別に何も企んでなどおりませんから」
グレンは顎にかかるジャラの手をやんわりと払いながら言った。
「まあいい。そなた自分で謀 ったものに心を痛めぬようにな。あの娘相手ではそうなるのが目に見える。我はそなたの落ち込む顔も楽しみだがな」
「心を痛めて落ち込むですか?この私が?ありえませんね」
グレンはこの時、本当にそう思っていた。ありえないと―――
ドレスを泥だらけにして帰って来たニーナにマーシャは驚いた。
「姫様!どうしたのですか?何があったのです?」
「な、何でも無いの・・・転んだ・・転んだだけ」
確かに土の上に転んだのだろうがドレスにはしっかりと靴の跡が付いていた。誰かに足蹴にされたのは明白だった。しかも形の違う跡があるのを見れば数人でされたのだろう。
「またあの方々でしょう?」
マーシャは度々ニーナへの悪質な嫌がらせを目にしている。相手は身分の高い姫だから見ても自分は何も言えないが、ニーナ自身も言わないから段々とそれが酷くなっているようだった。今回は特に酷い。
「私が一緒に行けば良かったのに、すみません!」
何も言えなくてもマーシャがいれば流石に彼女達も一応は手加減している感じだった。
「マーシャは悪くないわ・・・私は平気・・・大丈夫・・」
「姫様・・・」
ニーナはどんなに意地悪されても泣いたりしなかった。
マーシャの方が泣きたくなるくらいだ。何時も平気だと言って微笑んでさえいた。
「・・・・・傷の手当をしましょう。その感じだとドレスの下は痣だらけだと思いますよ」
痛いと思うのにまたニーナは微笑んでいた。
「姫様はどうしてそんなに強いのです?」
「強い?私が?そんなこと言われたのは初めて・・・嬉しいな・・」
マーシャは何が嬉しいのだろうかと思ったが、彼女が嬉しそうなので何も聞かなかった。
しかしニーナの平気と言う言葉を次の朝は聞く事が出来ない事件が起きたのだった―――