銀の龍5


 

他にも宝珠がいるんだから負けないようにね≠ニジェマが言っていた。

確かに龍と未契約の宝珠がこの砦には何人もいた。

もちろん龍と契約した宝珠達もいたが、彼女らはその主である龍と

行動を共にする事が多いのであまり接点が無かった。
 此処に来て数日で、兄イザヤが遠い存在だと言う事が身にしみて分かったのだ。

カサルアがこの組織の指導者だがその片腕がイザヤで、

先日は気さくに言葉を交わして貰っていた三人の龍達はイザヤと同等の力を持つ中心人物・・・・

いわゆる幹部といったところだ。

ゼノアに反旗を翻すだけの巨大な組織となっているから近づく事も出来ない存在だった。

その彼らに付き従う龍達と、当然ながら彼らに憧れる宝珠達は数多くいた。

 龍が宝珠を欲しても宝珠達が承知しない限り契約は成り立たない。

宝珠があくまでも主導権を握っているのだ。

しかし宝珠が龍を選び契約を促しても龍が断れば話にならない。

断るような龍は普通いないのだが、カサルアを筆頭に他四名は例外だった。

宝珠達の申し出は何時も軽くあしらわれていたのだ。

望まれる事しか知らなかった宝珠達にとって考えられない事だった。
 宝珠達は頼もしい龍と契約を結びたいのは当然なのだが、

此処にそんな目的の為だけに集まっている訳では無い。

とは言っても志を同じくする力ある龍が集まるこの砦は、

宝珠達の大いなる希望でもあり楽しみなのだ。

 新しく入って来たルカドもそう言う意味では彼女達(ルカド以外皆女性だった)の

競争相手の一人とみなされていた。しかも珍しい男性型。

イザヤとの兄弟関係は伏せてあったにも関わらず、ある意味十分目立っていた。

 そして更に注目を集めてしまった事がおこってしまった。
 大人しく目立たず過ごしていた数日経ったその日。

ルカドは仲間の宝珠数人と回廊を歩いていた。修練所に行く途中だった。

歳若く経験の少ない宝珠達は珠力を磨く訓練を毎日行なっていた。

何時でも戦線に出られるように日頃から鍛えるのが日課なのだ。
「やあ!ルカド。もう慣れたかい?」
 突然渡り回廊から見える庭先から声がかかった。
 誰?と思う間もなく周りにいた宝珠達が歓喜の声を上げて騒ぎ出した。
「キャ――っ!ラカン様よ!」
「うっそ――ラシード様もいるわよ!」
 ニコニコと笑いながら歩いてくるのは宝珠達の憧れの的でもある

ラカンと、寄り道をする彼が気に入らない様子のラシードの二人だった。
「何処に向かっているの?」
 ラカンはルカドの顔を覗き込むように言った。
「あ、あの・・・・」
「ん?何?」
「あ、あの・・・」
 ルカドの小さな声を聞き取ろうとラカンは更に顔を近づけてきたので

ルカドは真っ赤になってしまった。 龍力の強さに酔ってしまいそうなのだ。
「修練場です!ラカン様!」
 脇で答えたのはルカドと一緒に歩いていた宝珠達の一人だった。
「へぇ〜そうなんだ。頑張ってるね」
 答えてもらった彼女は頬を染めながら輝いていた。

ラカンと言葉を交わすなど若輩の彼女達にとってまたと無い機会だったからだ。
 ラカンは悪戯っぽく笑った。
「修練場と言う事は・・・ルカドは未経験だろ?龍との手合わせ?俺がつきあってやろうか?」
「ラカン!いい加減にしろ!そんな暇は無い」
 突然馬鹿な事を言い出した友にラシードは冷たく諌めた。
「暇?どうせカサルアが戻って来るまで俺ら暇じゃん!ほらっ、ラシードお前も来いって」
 ラカンは、さあ行くぞ!

と言うなりラシードの肩をしっかり押さえ込むと彼を無理やり連れて行った。
 修練場ではちょっとした騒ぎになっていた。それは当然だろう。

このような場所にまず現れない二人がいて、そのうえラカンが入ってきたばかりの

宝珠の訓練を手伝っているからだ。
「そうそう、ルカド良いよ。そう、力を抜いて受け入れるんだ。

そうだ。そう開放して・・・いいかい?少し力を入れるよ―――そう、そうだ。いいよ」
 ラカンの碧色にほのかに輝く龍紋の力を受けてルカドが輝き始めた。

ラカンの右手がルカドの左手をつかんでいたが、その左手には珠紋が浮かび上がっていた。
 ルカドから注がれた宝珠の力を水の槍に変えたラカンはその槍を、

退屈そうに壁にもたれかかっていたラシードに放った。
 一瞬の事だった。迫る水の槍から身をそらす事無くラシードは炎を放ち、力を相殺したのだ。

その衝撃で周りは水蒸気でむせ返った。
「馬鹿か?お前?」
 力を放ったラシードは壁にもたれたままでラカンを一瞥しただけだった。
「つまらんなぁ〜もっと驚けよなぁ〜ほんとつまらん奴。なぁ〜ルカド。ルカド?」
 ルカドは震えていた。初めて龍に力を注いでその力が倍増されるのを目の当たりにしたからだ。

身体が自分の物じゃない感覚だった。

身体から心までその龍に侵されるような感じ―――吐き気がしそうだ。
 何か喋らなければ・・・・
「あ、ありがとうございました。ラカン様。力の出し方・・・良くわかりました」
「そう?もう一回してみようか?」
「そんな!申し訳ないから良いです!」
「遠慮するなって!あっ、待てよ。ルカドは特性的に火だからなぁ〜ラシード!

お前が相手してやれよ」
 周りの宝珠達から悲鳴のような声があがった。
 ラシードはもう付き合いきれないというような冷たい視線をラカンに送ると、

さっさとその場から去って行った。

宝珠を嫌うラシードがそんな事を承知する筈も無かった。
「ほんと!へそ曲がりなんだからなぁ〜アイツはぁ〜オイ!待てよ!じゃあ、ルカドまたな!」
 ラカンはルカドの頭をポンと叩いてラシードを追いかけて行った。
 呆然と二人の姿を目で追いながらルカドは、はっ、とした。周りの視線が痛かったのだ。

特別扱いをされたルカドに対する嫉妬なのだろう。

ルカドは居たたまれずその場から走りだし、二人の後を追った。
「ラカンさまぁ――」
 ラカンは立ち止まって振り向いた。同時にラシードも。
「どうした?」
「あの、お礼を言ってなくて・・・ありがとうございました」
「くぅ――っ。良い子だなぁ〜ルカドは。ほんと!イザヤの弟とは思えないな。

もっと付き合ってあげたかったけど君の場合だと特性と合う奴と練習した方が良いと思うよ。

こいつは冷たいから付き合ってくれないけどな」
 特性が合うもの同士が一番理想だが、それに固執する事も無いとルカドは思っていた。

増幅するのは同じだし、もちろん合えば言う事無いのは事実だが・・・・・イザヤは「風」だ。
「特性はそんな大事ですか?合わなくても宝珠の力は使えるのでしょう?」
「おめでたいな。お前死ぬぞ」
「ラシード!」
 ラカンがラシードを諌めるように鋭く名を呼んだ。
 だがそれを気にする事なく彼はその真紅の瞳でルカドを責めるように見つめた。
「宝珠はおめでたい。自分の力も分からず龍を選んでいるのだからな。

お前、さっきラカンがどれだけ力を抑えていたか分かっていたか?

特性が合わなければ力の強い龍の宝珠なんかになれないんだ。

なったら最後・・・身体ごとバラバラだ!」
 ラシードは嗤っていた。その胸元をつかみながらラカンが怒鳴った。
「ラシード!お前そこまで言う必要無いだろう!」
「本当の事だろう?おおかたイザヤの宝珠にでもなりたくて追いかけて来たのだろうが・・・

奴も迷惑だろう。力を注げない宝珠なんて無価値なうえ足手まといだ」
 ルカドは血の気がひいた。真意を言い当てられた上、力の差を思い知らされたのだから―――
 大きく見開いた銀灰の瞳から涙が溢れ出てきた。
「ルカド・・・」
「僕・・・僕・・・兄さんの宝珠にはなれないの?」
「ああ、そうだ。迷惑だろう」
「ラシード!お前!黙っていろ!ルカド、今日みたいに訓練してさ、力磨いたらさ」
「無駄だな。甘い事言って希望持たす方が残酷だろう?」
「ラシード!黙ってろ!」
「―――あ、ありがとうございました。良く分かりました・・・僕、これで失礼します」
 ルカドはきつく瞳を閉じて涙をぬぐうと走り去って行った。
「あ〜あ。泣かせちゃったよ。お前ほんと!宝珠には最低な奴だな!だけど気づいただろうが?

紅のラシードさんよ。あれは火の龍と組めばかなり化ける。お前の力でも受ける事が出来そうだ。

女の宝珠が面倒ならあの子にしたら?男の子だったら恋愛沙汰にならないしな」
「・・・・・恋愛沙汰?そんなのが嫌で宝珠を嫌っている訳じゃない」
 ラシードの瞳が暗く光った。
 ラカンは不味いと思った。これ以上、彼の閉ざされた心に踏み込むのは止めにした。
「いずれにしてもルカドも大事な仲間なんだから考えてやってくれよな」
 ラシードの心は其処には無かった。ラカンの言葉など聞こえていない。

彼が時折見せる足元に広がる漆黒の闇を覗いているかのような表情だった。

どれだけの傷が心に刻まれているのだろうか?

ラカンにはそれを察する事が出来ても癒すことは出来なかった。

ラシードの心の扉を開く事が出来る人物が現れるのはまだもう少し先の事だった―――
 ラカンは軽く溜息をつくとラシードの肩を叩いた。
「さあ、行こうか」





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