| 天空の恋の人気投票でダントツ1位を獲得したイエランのトップ賞として短編読切を書かせて頂きました。内容としてはイエランが美羽を戦火の中から攫って来た直後のエピソードです。 |

黒翔国の王城攻め―――
本気を出した天眼族に敵う者達はいなかった。兵達には無益な殺傷はもちろん、略奪、強姦の類まで厳しく禁じられたが、只一つ女子供関係なく許されたのは王族の皆殺しだけだ。
しかし圧倒的な勝利を収めた彼らの王が自らの厳命を破って戦利品として持ち帰ったのが王女美羽だった。恐れながらも敬愛する王の行為に誰もがその場で問いただす事が出来なかった。
その腕に抱かれる王女の姿は布で覆われ見ることも叶わず噂だけが先行していった―――
美しいと評判の姫を殺すのが惜しくなったのだろうか?それともただ殺すよりも許婚アルネの報復として同じ屈辱を与えるために連れ帰ったのか?
いずれにしても普段の王らしくない行動に皆は驚き見送ったのだった。
イエランはただただ誰の目にも美羽を触れさせたく無かった。自分が一瞬で恋に堕ちてしまったこの姿を他の男の目に触れさせるものかと覆い隠し連れ帰ったのだ。皆のざわめきも噂も気にはしなかったが水晶宮に戻ったイエランを待ち受けていたのは煩い七家の面々だった。
誰かが先に一大事とばかりに美羽の事を報告したのだろう。
「王よ!どういうおつもりですか!ご返答を!」
うるさ型の筆頭オーベリーが血相を変えて言ってきた。
「・・・後日、この件について話しをする。暫く待て」
「待てと仰られても――」
更に食って掛かろうとしたオーベリーをイエランは一睨みで黙らせた。
この無言の威圧には誰も逆らえない。
皆が青くなっている中で一人愉快そうな笑みを密かに浮かべているのはイエランの兄カルムだけだ。
そして静まり返った中をイエランは無言のまま覆いで包んだ美羽を抱えて去って行ったのだった。
皆のざわめきを背に聞きながら自室に到着したイエランは、リンド姉妹を呼び美羽を清めるように命令した。
「お召し物は如何致しましょうか?この背の翼があっては着られるようなものがございませんが・・・」
イエランは覆いを外した美羽を、ちらりと見た。白い翼は傷の名残である血に染まり本人も返り血で汚れ衣服は乱行の後らしく破れ放題だ。
「新しいのを用意させろ。翼が出ても良いようなものを」
「それでは首元も肩も出てしまいますので寒いかと・・・」
確かに黒翔国と天眼国では気候が正反対だ。極寒の天眼の地では肌の露出する衣服は着用しない。
しかしイエランは背翼を隠してしまうのは嫌だった。
気まぐれに見せる陽光に輝く雪原のように真っ白な翼は美しく目を奪われ、触れたその羽は温かく儚げに震えていた。何時までも触れていたい気分だった。
「・・・どうにかしろ。それと白い翼が映えるようなものにするように」
「?はい、かしこまりました。それでは二、三日はかかりますがその間は?」
「構わん、どうせ術で寝たままだ。そのままでいいだろう」
イエランは美羽を預けるといつも一人で考えたい時に使う場所へと向った。そこは神の遺産がある天晶眼の間の更に奥。王だけしか入ることの出来ないその場所に天晶眼が生る樹がある。
その幹に背を預けたイエランは天晶眼が鈴なりに生る樹を見上げた。不思議な色で輝くそれらは聞こえる筈の無い神の声のような感じだ。神々は言葉を発する事無く皆が心眼を持ち心で会話していたと云われる。お互い隠し事無しの良い様で悪い様な世界―――
「皆が皆、心眼を持っていればそれはそれなりに良いのだろう。カルムのように気を遣う事も避けられることもなくなるだろうから・・・」
他人の心を読んでしまう兄カルムを思い出した。彼自身、こんな力は要らないと思っているだろう。聞きたく無いことも感じてしまうのだから・・・
「彼女が黒翔族で心眼を持っていないことに感謝だ」
イエランはそう呟き、美羽の白い翼の姿を思い出して神に感謝し微笑んだ。
もし今の自分の心を美羽が読むことが出来たら計画は泡と消えるだろうと思った。
(それでなくとも敗戦国の王女らしく潔く死を選び取ったのだから親族を殺され国を奪った王が自分に懸想していると知ったら・・・嫌悪して恥辱とばかりに死に急ぐだろう・・・)
イエランはその情景が目に浮かぶようだった。美羽は自分の命を惜しんで王女という誇りを捨て権力者の言いなりになっているような者だと思っていたのに意外にも誇り高かった。
「死なせはしない・・・自らも・・・そして天眼一族からも・・・」
美羽の自決を止めることは出来るだろう。彼女の誇りを逆手に取って脅して自分を憎ませればいい。
だが身内の怒りを静める生贄となる筈だった彼女をどう救えばいいのか?
考えがまとまらないまま天晶眼の間を後にしようとしたイエランは今まで気にも留めていなかった古代文字の一文と壁画が目に入った。
「これは・・・」
イエランはそれらを数度繰り返し読んだ。
「これは使えるな・・・」
神代からあると云われるこの伝承は美羽に酷似していた。イエラン自身古臭い伝承など信じていない。
―――天眼の王が白き両翼の天の使いと結ばれし世は、子々孫々数多の富と栄光が大地に満ちる――
「彼女を助ける為なら神の落書きでも私が真にしてみせる・・・」
神を崇める者が聞いたら卒倒しそうなことを平気で口に出したイエランはその間を後にしたのだった。
数件、急ぎの用を済ませたイエランは自室へと向った。普段は夜にならないと近寄らないその場所に美羽を寝かせているからだ。寝る為だけに戻るような部屋に美羽がいると思うだけで心が浮き立ち足も速くなる。部屋が近づくにつれて召使い達の楽しげな声が廊下まで響き渡っていた。彼女達の控え室からの声のようだ。
「ルルナ、何かあったのか?騒がしいようだが?」
イエランは自室に入ると同時に控えていた部屋付きの召使いルルナに尋ねた。
姉のメラは急用で外出していたが普段なら数人が待機している筈なのに今はルルナだけだった。
それに彼女も急いで来た感じだ。
「申し訳ございません。先程、仕立屋を呼びましたら、私達にと色々と頂きまして・・・」
王宮に入る業者の人気取りだろう。贈物を彼女達にばら撒いたらしい。
「気前のいい仕立屋だな。仕立屋?彼女の?」
「はい、そうです」
ルルナはそわそわしている。その贈物が気になっているのだろう。
女心をくすぐって持ち場を離れさせるような贈物・・・
イエランは嫌な予感がした。
「まさか仕立屋は男か?」
「はい?そうですが・・・」
「その男と二人だけにしていないだろうな!」
「時間がかかるし気が散るから私達は退室して欲しいと・・・」
イエランはルルナの答えを待たずに寝室へと向った。
召使い達を贈物で釣って部屋から遠ざけた理由―――
「此方でございます。どうぞマウリさん」
城下で人気の仕立屋マウリは前々から王宮の仕事を狙っていた。才能はそれ程際立ってはいないが自分の容姿に自信がありそれが人気に拍車をかけていた。元々女好きのマウリは王宮仕えの女達をたらし込んでいた。もちろん下心が大いにある行為だ。王宮に出入り出来るようになれば商売繁盛間違いなしだろう。そしてその機会がやってきた。恋人の一人がリンド姉妹に推薦したのだ。
呼び出されたマウリはいきなり王の部屋へと案内されて驚いたが、そこで眠る夢のように美しい美羽を見て更に驚き生唾を呑み込んだ。
(・・・なんだ・・・これ?)
マウリは男の性が疼いた。彼女を見た途端、王宮での成功だとか忘れた・・・ただ目の前の獲物を手に入れるしか頭に無かった。ルルナがごちゃごちゃと衣服の注文をつけている。
(うるさい!うるさい!うるさい!)
「マウリさん?どうかなさいましたか?」
「・・・・・いいえ。そうそう、この箱の中に最新の服が入っています。皆さんにと思って持ってきました。良かったら着て下さい」
「え?私達にですか?」
「はい。ご紹介して頂いたお礼です。暫く時間がかかるし、なにしろお姿が特殊なので気が散ると進みませんから席を外してもらえませんか?」
マウリは魅力的な笑みを作って箱の中身をちらりと見せた。本当は見本の為に持って来た高級なものばかりで召使い達にやるような代物では無い。しかし、今は早く人払いをしたかった。
早くこの美しいものと二人だけになりたい―――
嬉しそうに箱を抱えて出て行くルルナをもう男は見ていなかった。吸い寄せられるように大きな寝台で眠る美羽しか見ていない。
マウリは近づくと首までかかっていた毛布を剥ぎ取った。
真っ白な羽が広がる中心には下腹部に小さな下着しか付けていない全裸の美羽が深く眠っている。
きめ細やかな白い肌に均整のとれた美しい肢体・・・
身体中に残るそれと分かる淫靡な紅い跡がまた欲情をそそる・・・
マウリはまた、ごくりと生唾を呑み込んだ。自然と息も上がってくる。
「こんな女見たこと無い・・・なんて・・・」
マウリはふらふらと寝台に上った。
「ふっふっふふふ・・・なんて良い手触りなんだ・・・」
美羽の柔らかな胸に手をゆっくりと這わせたマウリは興奮していた。
男の片手で少し余るぐらいの胸のふくらみは、小さすぎず大きすぎずで張りがあり形良いものだった。ぐっと下から持ち上げれば弾むように戻ってくる。
マウリの片手が下着へともぐり無防備な花芯に触れた時―――
「彼女に何をしている!」
扉の開く音と共に聞えた怒鳴り声にマウリは飛び上がるように美羽から顔を上げた。
イエランは美羽の上に馬乗りになっている男を見た。
「貴様!」
驚くマウリをイエランは力づくで払い退けた。寝台の下に叩きだされたマウリは急に現れた男が天眼の王だと気が付いた。額に薄っすらと開いているのは紛れも無い金の天眼だったからだ。
「ご、誤解でございます!わ、わたしはご注文の服の採寸をしていただけで・・・」
「採寸の為だと?それは下着に手を入れる必要があると言うのか?それに此処を膨らませる必要があるのかっ!」
イエランは床に這いつくばっていたマウリの衣服の上からでもハッキリと分かる欲望の昂ぶりを蹴り上げた。
「ぎゃぁ―――お、お許しを――っ!」
イエランは王の剣で手にかけるのも汚らわしいと蹴り上げ、マウリの自慢の顔を何度も蹴った。
顎が割れ、鼻が曲がり二目と見られぬ顔に成り果てた頃、駆けつけた衛兵に引き渡した。
イエランの怒りが燻る中、静けさが戻った寝室では美羽が騒ぎに目を覚ます事無く安らかに眠っていた。毛布を剥ぎ取られた身体は少し寒そうだった。肌寒い室温に反応したのか産毛が立っているようだ。そして暴漢が触った名残なのか?寒いからなのか?ピクンと胸の尖りが立っている。
「寒いのか?・・・・・・深く眠っているのだから答える訳が無いか・・・美羽・・・」
イエランはそっと眠る彼女の唇に自分の唇を重ねた。
深い眠りの底にいる美羽から反応は無いがあの男が触れていた胸に手を這わせてみた。
吸い付くような肌の弾力に我を忘れそうになってしまう。尖る胸の頂を手の平で転がし、もう片方の手は隠された部分へと伸びたが・・・ぐっと拳を握って引き戻した。
「まるで先程の男のようじゃないか・・・情けないものだな・・・天眼の王イエラン?」
イエランは熱く昂ぶる自分の下半身を恨めしく見た。そして大きく息を吐くと美羽から手を離し彼女を隠すように毛布をかけた。意識の無い彼女をどうにかするつもりは無かった。それだけは辛うじて思いとどまることが出来た。目覚めれば彼女を蹂躙する敵国の王を演じなければならない。
意識が戻った嫌がる彼女に手を出すぐらいなら今・・・と思わなくもなかったが・・・
「今は見つめるだけなら許されるだろう・・・」
イエランはそれから何度眠る美羽を見つめただろうか?愛しい美羽を夜中に心ゆくまで見つめるのが日課となりつつある。
それは心が通い合った今でも変わらない―――
美羽は真夜中にふと目覚めた。薄暗闇の中から感じる視線?前からそんな感覚があった。
薄っすらと目を開けて見るとイエランの朱金の瞳が自分を見つめているのだ。
今日は思い切って声をかけてみた。
「あ、あの・・・何か?」
イエランは少し驚いた感じだった。
「どうした?目が覚めたのか?」
「あの・・・よくそうやって私を見ていませんか?どうして?」
イエランが少し瞳を逸らして元に戻すと一呼吸置いて答える。
「気のせいだろう・・・」
美羽は思わず、くすくす笑ってしまった。
「何故笑う?」
「言いたく無いのなら聞きませんけど・・・くすっ、カルム様の言った通りなんですもの。言いたく無いことを聞かれた時の仕草!可笑しい!」
『あのねミウちゃん、あいつは答えたくない事を聞かれると決まって瞳をちょっと逸らして嘘を言う準備かのように息を吐くんだよ。これって子供の時からの癖で多分今もそうだよ。瞳を逸らしたかなんて今は見えないけど息を吐いているのは分かるからね。今度見たら教えてね』
カルムはよく美羽にイエランの昔話しをしてくれる。美羽もそれを聞くのはとても楽しかった。
イエランの意外な新しい顔を見つけるとその分好きが増すようだ。
「カルム・・・余計なことを・・・」
くすくす笑う美羽にイエランは、むっとした顔を近づけた。
「私達の寝床で他の男の名など言うな!それに笑いすぎだ!」
「え?あっ・・・んぅぅ・・・んん」
イエランは美羽の唇を塞いでしまった。美羽を愛しても、愛しても、愛し足りない・・・
今日こそは大人しく寝るだけと思ったのに・・・また無理のようだ。しかしそこをぐっと抑え込んだ。
(盛った獣でもあるまいし・・・こう毎晩ではな・・・)
名残惜しそうに唇を解いたイエランだったが、まだ口づけの余韻に浸っている美羽の濡れた唇に再び軽く口づけると甘い命令をした。
「美羽、背翼を出してくれないか?」
「翼を?」
頷くイエランに美羽は恥ずかしそうに背翼を広げた。イエランはよくこれを要求するが美羽は決まって恥ずかしそうにする。その恥じらいがまたイエランの心をくすぐるのは言うまでも無いが、それよりも美羽の翼に包まれて眠るのが気に入っているのだ。柔らかな褥をさらに柔らかに覆う羽。
「あっ・・・っっ・・・」
羽に手を這わせるイエランの動きに美羽が反応してしまう。敏感な場所には触れないが触れそうでふれないぎりぎりの場所で動く手は十分官能的だった。肌には触れられていないのに身体の芯が疼きだす。さっきの口づけも何時もより中途半端だったから余計な火がついた感じだ。
「あ、あの・・・イエラン・・・」
「なんだ?」
「あの・・・その・・・」
美羽が頬を染めている。イエランは、にやりと笑った。いつもより意地悪な感じだ。
「私ばかり我慢するのは不公平だろう?それに、先程笑った罰だ。さあ、眠るぞ」
そう言いつつ、イエランは美羽の翼の敏感な部分に手を滑らせた。
「イエラン様!あっ・・・あんっ・・・いや・・・はぁあん」
「おやすみ・・・美羽」
「こ、これじゃ、ね、眠れません!手、手を離して下さい!」
「ははははっ・・・すまない」
―――静かな寝息。腕の中で眠る美羽をまた見つめる。
「もう見つめるだけなど必要ないと言うのに・・・何故だろう。つい見つめてしまうのは?」
美羽から問われてもイエランは答えられなかった。
「多分、今はお前を見つめて幸せを噛み締めているのだろう・・・美羽、おやすみ・・・」
イエランは寝る間を惜しんで美羽を静かに見つめる。
そして夜明け近くに美羽の白い羽に包まれて彼女の愛に包まれて眠るのだ。
FIN
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