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天人の
囁き
10![]()
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慣れた様子で寝室に入って来た女はカルムに組み敷かれているサシャに視線を流した。
「もう少し後に致しましょうか?」
「この子は気にしなくて良いですよ」
カルムはにこやかにそう言うとサシャの上から身体を起こした。
そして女に向かって振り向いたカルムは天眼を閉じていた。サシャ以外なら天眼が無くても不自由しない。それに恋人達の中でカルムが天眼を開いている姿を見た者は誰もいなかった。
女の名はサンドラ―――数いるカルムの恋人の一人だ。
「此処に私以外いるのは良くあることですから気にしませんけど・・・」
「私の趣味が変わった?と?」
女の顔色が、さっと変わった。
いつもと違うカルムの冷やかで棘のある言葉にも驚いたが心を視られたと思ったようだ。
心眼を使ったような言い回しは相手に警戒心を与えてしまいお互いが余計な神経を使って疲れる。
カルムは何時もならもっと用心して喋るのに今日はどうかしているようだった。
女がサシャを値踏みした様子が視えてつい口に出してしまったのだ。
女は心の中で言っていた―――
(何?このちっぽけで貧弱な娘。カルム様・・・どうしたのかしら?こんな子と私が一緒に扱われるのかしら?)
自分より魅力が劣るサシャと同列に扱われる不快感・・・可愛らしい競争心だといつものカルムなら思うが今日はそんな気持ちになれなかった。だからつい普通言わないような冷たい言葉を口にしてしまった。
カルムは殆どと言っていいぐらい一人寝はしない。そして特定の誰かを決めることもせずに毎日その相手は入れ替わる。しかもそれは一人だけじゃない場合が殆どだ。だから恋人達も自分が特別だと思わず遊びだと割り切っている。その遊びでもカルムから飽きられない限り贅沢三昧させてくれる気前の良い恋人だから機嫌を損ねる訳にはいかなかった。
女は直ぐに取り繕った。
「カルム様のお相手では珍しい感じだと思っただけでございます。ご、ご趣味をとやかく言うつもりはございませんでしたのよ」
カルムは軽やかに笑った。
「恋人なら貴女のような人を選びます。でも彼女は妻なのでこれで良いのですよ」
「妻!カルム様、いつご結婚されましたの!」
「昨日です。でも彼女は子供過ぎましてね・・・愉しむに至らないのですよ」
誰もが心密かに狙っていた妻の座が一つ埋まった事に女は驚いたが、カルムの遊びが続くのなら取り敢えずサシャに興味は無くなった。
「今日は私だけでございますか?」
女はサシャの存在を無視した。カルムもそんな感じだからだ。
「いいえ。イェレが来ます」
「イェレ!久し振りですわ」
「そんなに喜ばれるから会わせたく無かったのかもしれませんね」
「まぁカルム様、お上手ですこと。ふふふ・・・それではどういたしましょうか?自分で脱いだ方が宜しいでしょうか?それともカルム様が脱がせて下さいますか?」
二人の会話を何気無く聞いていたサシャは女のその言葉に驚いて起き上がった。
「イェレに脱がせて貰ったらいいですよ。たまにはいいでしょう?」
サシャは何がいったい始まるのか検討がつかなかった。
そして程なくまた一人現れた人物はがっしりとした体格の男だった。
サシャはそれこそ大慌てでシーツを引っ張りそれで身体を隠した。
イェレは初めて見るサシャに気が付いたが余計な詮索はしなかった。カルムに多数の恋人がいるのは承知している。珍しいタイプだと思ったがそれこそ顔も身体も良い女の他に男でも華奢な美青年にイェレのような雄臭い美丈夫の軍人だろうとカルムの趣味は広い。だからそれに少女趣味が増えたとしても不思議では無かった。
「カルム様、お久し振りでございます。もうお声がかからないのかと胸を痛めておりました。再びお会い出来て嬉しく思っております」
「久し振りですね、イェレ。リネアが抜けてから軍の再編で忙しそうでしたから少し遠慮していたのですよ。急な事で大変だったでしょう?でも私はリネアから自分の部下に手を出すなと小言を言われなくなったから良かったですけれどね。さあ、久し振りに愉しみましょう」
サンドラがカルムの目の前で誘うようにイェレに口づけし二人はお互いに服を脱がせ合った。
そして全裸になった二人がベッドに上がり込むと左右からカルムの服を脱がせ始めた。カルムの肌が露になる度に、お互い代わる代わるカルムのその外気に晒された肌に口づけを落としている。
サシャは恐ろしいものでも見るかのようにその様子を硬直して凝視した。
(ふふふっ・・・サシャはどんな顔をしているのかな?)
カルムはサシャの様子を想像すると心が浮き立った。天眼を開いて確認したい気持ちを抑えるのに必死だった。彼女が見ていると思うだけで何時もより興奮してしまう。だからカルムの昂ぶりは恋人達の手で窮屈な場所から解放されて飛び出したところだった。それに先ずサンドラが横から舐めた。
それを見たサシャが息を呑んだ。それに気が付いたカルムが、ニッと笑う・・・
「サシャ・・・何を思い出した?」
「な、何も」
サシャは恐ろしいものでも見るように凝視しながら答えた。
確かに自分もしたものだが・・・女の紅い唇から蠢く舌が汚らわしく感じた。と、言うよりも自分があんな感じだったのだろうかと思うと恥ずかしさで怖くなったのだ。
「そう?・・・ふ・・・っ」
カルムはサシャの答えに不満だったが与えられる刺激に仰け反った。
そしてイェレもカルムの芯を持って反り返る肉塊をサンドラの反対側から舌を這わせ始めた。硬くなったそこに舌を絡み付け、くびれた部分をなぞるようにねっとりと舐める。
「ふっ・・・っ・・・サンドラ・・・イェレにもしておあげ」
妖艶に微笑んだ美女は膝をついてカルムを舌で責めていたイェレの下に潜り込むと、まだグニャリとした彼の塊を口に含んだ。イェレはサンドラから与えられる快感と言う刺激を受けながらもカルムへの奉仕は忘れない。独占状態になったカルムの股間に顔を埋め、彼の昂ぶった先端を咥え唇で揉みしだき始めた。更に喉の奥まで飲み込んで舌でその全体を舐めながら根元は手で扱く。
慣れた手つきでカルムを更なる高みへと誘っていた。
「んっ、・・・・っ・・イェレ、相変わらず上手ですね・・・くっ・・・ん」
零れたカルムの甘い吐息にサシャはまた息を呑んだ。
そして恐ろしい光景から目を背けようとした。しかしその動きは視えない変わりにサシャの動向を気にかけているカルムは直ぐに気がついた。
「くっ・・・サシャ・・・良く見てなさい。貴女はとにかくこういうものに免疫が無い。これも一つの勉強ですよ」
サシャは首を振った。
こんなもの・・・堕落の行為を見ても自分の為になるとは思えないからだ。
しかも同性同士・・・不道徳の極みだ。
サシャは急いで広いベッドの上から逃げ出そうと動いたが身を隠していたシーツをカルムから掴まれてしまった。グイッと引き寄せられシーツごとカルムの腕の中へと引き込まれた。
「は、離せ!」
サシャはもがいたがシーツが逆に縛めのように絡まった。
「サシャ、大人しくして。私のお友達が驚いていますよ」
サンドラとイェレの動きが止まりお互い顔を上げてサシャを見ていた。
サシャはその気だるげな様子に、ぞっとしてしまった。
カルムはその様子を感じ、ふと微笑んだ。
「さあ、この子に構わないで続きをしましょう」
構うなと言われてもカルムは片腕でしっかりとサシャを抱いたままだ。
いち早く動きだしたのはイェレだった。
「今日はどう致しますか?俺が貴方を頂いても宜しいのでしょうか?それとも俺に貴方を頂けるのでしょうか?」
カルムは男を抱く場合もあるし抱かれる場合もある・・・それを決めるのはもちろんこの場の支配者カルムだ。だから答えによって今からの手順決まる。
「そうですね・・・」
腕の中のサシャが動転して強直しているのが分かる・・・カルムは愉快で堪らなかった。
「先ずはサンドラを二人で喜ばせましょうか」
「承知」
サンドラはその決定に甘く淫らな歓喜の声を上げた。
カルムとの遊びはこれだから止められない。カルムは自分の恋人達同士で絡み合っても構わない性格だ。遊び慣れた逞しい男達に貫かれると思うだけで蜜が溢れてしまう。
サンドラがカルムに跨ると蜜溢れるその場所へ、吐き出す出口を求めて大きく膨らんだ彼の肉茎をあてがった。ズブリと簡単に咥え込んだサンドラはその質量感を感じる間も無く後の窄みにイェレの太い熱棒が挿し込まれた。
「はっ、ああぁあ・・・あっ、あっ・・・くっ・・・んん」
イェレはグッと大きな体躯をサンドラに押し付け力任せに己の昂ぶりを捻じ込んだ。
上から押さえ込まれればカルムとの結合も更に深まる。
行き場を失った蜜が、グチャという音を立ててそれを証明していた。
「あっ、んっ・・・ぁあっ、んん・・・んん」
ググッと体重が掛かりサンドラとカルムを刺激する。
「ふっ・・・イェレ、乱暴ですね。・・・っ」
「お嫌いですか?カルム様?・・・くっ・・・」
「ふふふふっ・・・」
サンドラを挟んだままの状態でイェレは上体を更に下げ、微笑んでいるカルムに口づけした。
そっと啄ばむような口づけを唇に与えていたそれはイェレの腰の動きと共に嬲るようなものへと変わって行った。お互いの舌を絡めてきつく吸い上げる。
その間にもイェレは激しくサンドラを責め立ててした。
抜き差しする場所は滑りが悪かったが力任せに揺さぶる。抜きかかっては一気に突き入れられるとサンドラは狂ったように声を上げた。彼女の中に入ったままのカルムの肉塊とイェレの肉塊が中でいっぱいになり強烈な快感を与えてくれるのだ。
そしてその振動と締め付けはもちろんカルムにも快感となって伝わる。
「あ・・・あ、はっ・・・っあ・・・ああっん、イェレ!もっと・・・」
もっと、もっと、とサンドラが叫び肉棒を打ち付ける間隔も激しく強くなって行った。
絶頂を迎えようとしたイェレはカルムから口づけを解き、顔を上げた。すると真っ青になっているサシャが目に入った。カルムが小脇に抱えるその少女の何とも言えない魅力にイェレは思わず口づけしようと顔を近づけた。
「い、嫌―――っ!」
獣のような荒い息の男に恐怖したサシャが叫んだ。その瞬間、
「イェレ!」
カルムが叱責するように彼の名を呼んだ。
イェレがその声に、ビクリと肩を揺らして動きを止めた。サシャと後少しで触れそうな位置で止まったイェレは更に、ギクリとして顔を上げた。カルムの額に金の天眼が開いていたからだ。
それに気がつかないサンドラは動きが止まった事に不平の声を洩らし自ら大きく腰を揺らした。
「くっ・・・うっ、・・・」
それと同時にイェレは達しそうになったが、サンドラの中からはち切れそうな昂ぶりを抜いた。
しかしその行為も刺激となって抜いたと同時に爆ぜてしまった。
白濁した精液を勢い良く撒き散らかしそれはサシャの顔にもかかった。
「きゃっ!」
サシャは小さな悲鳴を上げて驚きに瞳を見開いてしまった。
そしてイェレは開放感に浸る間も無くカルムの天眼に射竦められていた。
「カ、カルム様・・・」
イェレは底知れぬ恐ろしさをカルムに感じた。
喪失感を感じたサンドラが再びねだろうと顔を上げるとイェレと同じくカルムの天眼に、ギクリと強直した。
「どうしました?サンドラ、続けて・・・」
「は、はい・・・」
サンドラは、ギクシャクとカルムの上で腰を動かし始めた。
しかし膣に収めているカルムの肉塊に変化を感じ無かった。爆ぜる前触れで大きくなるどころか硬いまま鉛のように重く感じた。イェレは恐怖に固まったままだ。サンドラも早く終わらせて逃げ帰りたい気分だった。そう思っている事ももうお見通しだろう・・・
カルムが大きな溜息をついた。イェレとサンドラは、はっと恐怖に息を呑んだ。
「もういいです・・・気分が削がれました。お帰りなさい」
その言葉を待っていたとばかりに二人は脱いだ服を急いで掻き集め飛び出して行った。
二人が出て行くとカルムは真っ青のままガタガタ震えているサシャをすくい上げた。
顔にはどろりとした精液がかかったままだ。それを手で拭ってやった。
「大丈夫?」
サシャはおぞましい性行為に驚いて硬直したままだった。
「サシャ?サシャ!」
サシャは頬を軽く叩かれて、はっと我に返りカルムを見た。
そして抱かれている事に気がつきその腕から逃れようとカルムの胸を力いっぱい押した。
不意を突かれたカルムはサシャを手離してしまった。
しかし直ぐに手を伸ばしたカルムのその手をサシャは勢い良く払った。
「私に触れるな!あ、あんな事、す、するなんて・・・信じられない・・・」
「あんな事?何それ?」
カルムはサシャの拒絶に、ムッとしながら聞いた。
「お、男同士・・・同性同士の契りは異端だ!そ、それに神聖な契りを・・・さ、三人でなど・・・許されるものじゃない!穢れきっている!」
「神聖?あはははっ・・・これは快楽だって言っただろう?慣れて貰わないと困るな。君にあれを要求しない代わりに他の人達とするんだからね。殆ど毎日ね」
「なっ!ま、毎日?」
「そう、私は一人寝しないんだよ。誰かと一緒じゃないと眠れない。だからその前に少々運動して眠り易くする訳。分かったかい?」
「だったら私の居ない場所でしてくれ!」
カルムが意地悪く微笑んだ。
さっきとは大違いだとサシャは思った。恋人達には別人のような微笑を浮かべていた。それはとても優しい顔だった。最後は一変していたが・・・
「夫婦は同衾するんじゃ無かった?」
「そ、それは!」
「あんなことを君にしないけれど他の義務を果たして貰わないとだね。約束を破るの?私はどうでも良いけどね」
サシャは、あっと息を呑んで黙ってしまった。カルムの言う通りだからだ。
しかしそうだ!と思いついた。
「今度から私が同衾するのだから一人寝じゃないじゃないか!」
「へっ?」
意外なサシャの意見にカルムは阿呆のような声を出した。
「寝る前の運動なら外は無理でも宮殿は広いのだからこの中を走ったらいい。それなら私も付き合える」
「宮殿の中を走る?この私が?」
「私も天山の天殿では良くそうした。外に出たら駄目だと言われていたからな。時々、走ってはならぬ廊下を走って師に小言を言われたこともあるが楽しかった」
サシャが瞳を輝かせて楽しそうに喋る姿にカルムは思わず見とれてしまった。彼女の周りが、キラキラと光りが輝いているようにさえ思えた。
(天眼が可笑しい?)
カルムは瞬き出来ない天眼を手で擦ってみた。
「ね?」
サシャが無邪気に首を傾げて同意を求めている。
危なくカルムは頷いてしまいそうだったが首を振った。
(駄目だ!駄目だ!危なく天然馬鹿の口車に乗るところだった!)
「サシャ、君、分かってないね。あれは快楽だって言っただろう。気持ち良いんだよ。だけど君が今日、悲鳴を上げて邪魔したから中途半端なまま・・・」
カルムはまだ重そうに頭を擡げている自分の肉塊を指で示した。
性的な刺激を受けると腫れるそれをサシャは恐る恐る見た。
気持ち良くならないとそれは治らないものだ。
「じゃ、邪魔をしたと言うがあの女性の声の方がもっと大きな声だったじゃないかっ!口づけされようとしたから私は驚いただけで――(な、何故怒るんだ?)」
カルムが見るからに不機嫌そうな顔になりサシャは続きの言葉を呑みこんでしまった。
多分、イェレもサンドラも何故カルムが天眼を開いたのか分からなかっただろう。あの時、イェレはサシャに手を出しかけた。それが原因とイェレは思わない筈だ。何故ならベッドの中では誰が誰に手を出そうと咎められることが無いからだ。誰でも重なり合い貪りあうのがカルムの好む不道徳なお遊びだからだ。だからその場に居たサシャの唇を奪ってもそれ以上のことをしても自由な筈だった。
しかし、カルムは何故か許せなかったのだ。
(イェレ、調子に乗ってサシャに手を出そうとするなんて!しかもだらしなく垂れ流したもので彼女を汚して!)
「イェレ・・・どうしてくれよう」
ぼそりと低い声がカルムの口から漏れた。それにとても嫌な感じを受けたサシャが聞き返した。
「何?彼をどうするんだ?」
カルムの見えない目が、ギロっとサシャを睨んだ。
その仕草を見るとカルムに視力が無いとは思えなかった。しかし彼には残念ながら見えていない。
「どうしてそんな事を聞く?イェレに気があるのか?」
「気?気がある?何だそれは?」
意味が分からない質問にサシャは首をひねった。
その答えにカルムは呆れて吹き出してしまった。思えばサシャは男女の理には疎い・・・と言うか無知に等しい。教本に書かれた通り・・・しかも偏見に偏った知識だけしか持ち合わしていないのだ。
(サシャは私のもの・・・彼女を自由に出来るのは私だけだ・・・)
カルムは無意識にサシャをそう位置づけていたようだった。
だからイェレが手をだそうとした事に感情が揺れ天眼が開いてしまったのだ。感情の起伏で無意識に天眼が開く事がある。主に怒りの現象で起こるが制御力の強い王族となればそんなに開くものでは無い。
しかし天眼の王であり一番制御力の強いイエランも美羽の事になれば時々開眼しているようだった。
そして今回のカルムは本当に無意識だったようだ。
鮮明に流れ込むサンドラとイェレの恐怖に自分の天眼が開いていると知ったぐらいだ。
カルムは自分自身どうしたのかと思ってしまった。
もうあの二人を呼ぶ事も・・・恋人と位置付ける事も・・・無いだろう。それにしてもこんな後味の悪い別れ方をするのは初めてだった。恐れさせて逃げ出させる・・・カルムが最も避けたいものだ。
それを引き起こしたサシャが段々と恨めしくなって来た。
彼女との噛み合わない会話も憤懣を更に増長さる―――
この燻る怒りをどう鎮めれば良いのか?カルムの内に眠る性が鎌首を擡げ始めたのだった―――