天人の囁き11


「お前が・・・お前がイェレに色目を使うからこんなことになったんだ!」
「色目?色の目??どういうことだ?意味が分からない」
サシャの無知な返答にカルムは苛々して来た。

「分からない!分からない!何時もそれだ!お前が私の恋人を誘ったんだ!私の口づけを嫌がる癖に他の男の口づけを欲しがって誘惑したのだろう!」
「何を言っているんだ?私が欲しがった?何を?意味が分からない」
「分からない!分からない!いい加減にしろ!」
カルムは検討外れな言い掛かりだと分かっているのに憤りをぶつける相手がサシャしかいないからどうしようにも無かった。

サシャは膨れ上がる怒りに麗し過ぎる顔を歪めたカルムと自分が可愛がっていた子犬カザンが重なった。サシャの元に迷い込んだ子犬は傷を負っていて誰も近づけようとしなかった―――
可愛らしい顔を歪ませて唸り声を上げ一生懸命虚勢を張っていた。人に傷付けられた動物は人に慣れないと師は言ったがサシャは根気良く接した。それこそ噛まれても餌を与え、頭を撫でた。カルムはそのカザンに似ているとサシャは思った。傷付いて誰彼構わず吼えて噛み付いていた子犬のようにカルムも傷付いた裏返しに噛み付いているのだと感じた。

(しかし・・・傷付いた原因は・・・何だ?)
逃げるように出て行った二人の怯えた様子をサシャは思い浮べた。

(怖い?何が?・・・もしかして金眼か?)
カルムの天眼が開いた時、二人の顔色が急に青ざめていた。皆がカルムの強すぎる心眼を嫌っていると言うような話をサシャは思い出した。その話をするカルムが少し寂しそうに感じて慰めたばかりだ。

(こんなに綺麗なのに・・・)
サシャは無意識にカルムの頭に左手を伸ばした。そして綺麗な形をした頭を撫でた。
カルムは驚き、銀糸のような髪の先が揺れた。

「なっ!」
サシャの意外な行動にカルムが唖然としてしまった。

「大丈夫。お前は悪くないし、もうお前を傷付ける者はいない。だからもう怖がらなくていいから・・・」
「なっ・・・ば・・・馬鹿にするな!」
カルムは自分をまるで子供のように撫でるサシャの手首を掴み上げた。ギリギリと力を加えられたがサシャは苦痛の声一つ洩らさず、微笑んだ。

「大丈夫・・・怖く無いから・・・」
「っ・・・」
カルムは言葉が出なかった。何が大丈夫なのか?何が怖いのか?意味が分からなかったが心の奥底でそれを理解している自分がいた。しかしそれを認める訳にはいかないのだ。カルムは自分を防御する仮面を被ろうとした。だがどれもしっくり来なかった。サシャの前では何でも同じような気がしてならないのだ。そう思うと何故か嗤いが込み上げた。

「クッククク・・・ククック・・・」
「どうした?何が可笑しい?」
カルムはサシャを解放すると両手で天眼を押さえ本格的に嗤い出した。そして暫くすると今度は急に黙ってしまった。その顔は無表情で、ぞっとするぐらい冷たかった。

「―――天山の巫女が堕落と称して禁じられているのは男女の交わりと湯浴みに肌の露出の他に何がある?」
「?禁令のことか?それがどうしたのだ?」
「質問は許さない。私の問いにだけ答えればいい」
何故カルムがそれを聞きたがるのかサシャには意味が分からなかったが取り敢えず答えだした。

「肉類は食さない。白い砂糖を使った食べ物も同じだ。酒と煙草と賭事にそれと――」
それと涙≠ニ付け加えようとした時にカルムの嗤いで遮られた。

「くくっく、本当に巫女というものは面白味がない人生を送る訳だ。そこまで禁欲的とは嗤える」
サシャは馬鹿にしたようなカルムの言い方に、ムッとした顔をした。

「怒ったのか?澄ましているよりずっと良い。私としては嫌がる顔の方が好ましいが・・・ところで・・・自慰は?」
「じ?じい??」
「そう・・・自慰。自分で慰める行為だ」
「??何を慰めるんだ?」
「もちろん、性欲―――意味分からない?性的な欲望を自分で解消する・・・他人がしてくれる事を自分でする事だ。例えば・・・」
カルムはサシャの耳元でそのやり方を淫猥に囁いた。
サシャはそのおぞましさに、ワナワナと震え顔色を失った。

「男女の交わりは駄目。同姓同士でも駄目ならそれぐらいするのだろう?」
「し、知らない!」
サシャは瞳を見開いて首を振った。
するもしないも初めて聞いたものに知らないとしか答えられなかった。
その返答にカルムはニタリと微笑んだ。

「なるほど・・・ではして貰おう」
「えっ?」
「何をしている?教えただろう?早くしろ」
「何を?まさか――私?い、嫌だ!」
「あれも嫌、これも嫌。嫌だ、嫌だ、ばかりで罷り通ると思うのか?我が儘も少しなら可愛げがあるが・・・これだと話にならない。言っておくがこれは妻の義務じゃない」
「え?それなら――」
サシャが、ほっとして聞き返そうとするとカルムがまたニタリと微笑んだ。

「妻の義務である性的な要求をしない代わりに私は他の者達とそれをすると言っただろう?それを・・・するな。と先刻言ったのは誰だ?」
「それはっ!私の居るところでするな!と言っただけだ・・・」
サシャの言葉に勢いが無くなり段々と小さな声になった。これはさっきも言い合ったものだが変な方向に話が向いてしまっていたものだ。

「言ったのだろう?するな・・・と。サシャ?」
カルムの一言、一言、区切りながら言う低い声に、サシャは背筋に冷たいものが走った。
そして促されるまま小さく頷いた。

「等価交換に何を差し出す?」
「と、等価交換?」
「性的な関係無し名目だけの結婚は私の仕事の補佐。レーナの件は口づけ。私の快楽を規制するのなら――何?」
「な、何って・・・」
サシャはどうして良いのか分からず戸惑った。

「私からの要求は自慰をして見せて愉しませろ――と言った。それが嫌なら何を代わりに差し出して私を満足させる?」
「嫌・・・嫌だ!もう嫌だ!―――結婚も何もかも止める!」
サシャはもう何もかもが嫌になって叫んだ。
こうなったら罪を償って死んだ方が、ずっと楽だと思った。
それはカルムが何故か恐れていた事態の筈なのだが・・・

「そう。勝手にしたらいい」
「勝手にする!」
「そう?死ぬ訳だ。では私は少しでも関わった責任上お前達の弔いくらいしてやろう。天山ではどうする?土葬か?火葬か?それに墓標には何と刻む?」
サシャはお前達≠ニ言うカルムの言葉に、はっとした。
お前達とは自分と・・・そしてレーナを指している・・・

(レーナ・・・)
幼い頃から献身的に尽くしてくれた世話係―――
彼女はサシャにどこまでも付いて行くと言っていた。
それが例え罪を背負った死の国への旅立ちとしても・・・

カルムはサシャの心の中が視えなくても心理状態は手に取るように分かっていた。
彼女は包み隠さず自分の気持ちを話していたからだ。自分の死よりも重要視しているもの・・・カルムには到底理解出来ないものだが・・・彼女は己の心寄せるものを亡くす心痛と、自分に関わる相手の心痛を異常なくらい気にかけている。それを武器にすれば簡単な事だった。後はサシャが堕ちるのを待つだけだ。
心眼を操る者にとって弱みを見つけ、それにつけ込むのは得意中の得意だ。だから心眼は畏怖され嫌われるものだ。サシャはようやくその意味が分かったような気がした。目の前の天眼の男はその最たる者だ。サシャは自分がどう答えるのか分かっていて只それを待っているのだと感じた。
冷たく光る見えない瞳も薄く微笑む整った口元も全部そう言っているようだった。

(・・・やっぱり意地悪だ・・・)
カルムが何故こんなに怒っているのか分からなかった。

(邪魔をしたから?)
サシャの視界に入っているカルムの屹立した欲望の塊がそれを主張しているようだった。
行き場を失ったそれははけ口を探してはち切れそうだ。
レーナを道連れにしてしまう心の痛みと残されたレーナの兄ユハの悲しみ・・・それらと罪を重ねて更に穢れる事とどちらがつらいだろうかとサシャは考えた。
しかし考える間も無く答えは出ている―――
しかしそれを口に出したく無かった。悔しくて唇を噛み締めるとカルムを、キッと睨んだ。

「何?言いたい事があるのなら言うがいい」
嘲りを含んだその言い方にサシャは、ムッとして反射的に思っているのと違うことを口にしてしまった。

「墓標なんかいらない!自分の身は自分で始末をする!そなたの手を煩わせはしない!」
サシャが苦し紛れに吐いた言葉にカルムの表情が凍った。愉快そうに細めていた目が見開かれ僅かに上げていた口端が下がった。

「死ぬ?レーナを道連れに?」
サシャはまた背筋に冷たいものが走ったような気がした。
カルムの周りの空気が変わった感じだった。凍るように冷たい―――
しかしそれが何故か禊をした、凍るように冷たかった湖水を思い出した。清らかで厳しくサシャの身体の熱を奪い、穢れを落としてくれたようなあの湖だ。

(・・・穢れの原因と清らかなものを同じと思うなんて・・・)
サシャは馬鹿な事だと思った。カルムからは熱を奪われるのでは無くその逆だったからだ。
思い出せば身体中の血が沸騰したような感覚だった。無理矢理捻じ込まれた熱い塊で突き上げられ、身体の中心はその生々しい猛りで掻き回されて熱かった。更に塞がれた口にも生温かい舌が差し込まれて蹂躙され顎に溢れて滴る唾液が熱かった・・・
そして今日、カルムのそそり立つあれにサンドラが舌を這わせ始めた時、サシャは鼓動が一気に跳ねた。それはおぞましさと自分もそれをしたと言う恥ずかしさで怖くなったと思っていたが本当は身体の中で、カッと熱くなるのを感じていた。
今もそれらを思い出せば、ムズムズと経験した事の無い感覚で身体が熱くなっているようだった。
その中心部分に何か温かいものが溢れているのを感じたサシャは両膝を摺り寄せて身じろいだ。

しかし天眼を開くカルムがそれを見逃す筈が無かった。
小さく、クスリと嗤ったカルムはサシャの両膝に手を伸ばした。

「!止めっ――」
サシャの制止を無視したカルムは彼女の閉じた両膝を力任せに開いて持ち上げてしまった。そうされるとサシャはその反動で仰向けにベッドに転んでしまった。まるでひっくり返った蛙のようだ。

「やっ!見るな!」
「見る?私は目が見えない」
「嘘つき!天眼で視られるじゃないかっ!」
「ああ、ぼんやりと」
「う、嘘だ!」
ジタバタと身体をよじってもカルムに両膝を持たれていてはどうにもならなかった。

「厳粛に育てられた巫女姫だというのに何てやらしいんだ・・・こんなに男を欲しがって蜜を溢れさせて・・・」
「ち、違う!見るなっ!」
「違う?何が?何が違うんだ?自分で触ってみればいい。女は性的欲望を感じるとこれを欲しがり結合しやすいように蜜を滴らせる。男はその花芯に入りやすいように隆起する。ほら、こんな風に。クククっ・・・」
もがいて起きあがりかけたサシャの目にはカルムが指差す重そうに揺れるその欲望の塊が見えた。
それに貫かれるという恐怖なのか?それとも?・・・
大きく股を開かれ秘部をカルムに曝しながらそこはヒクヒクと震えているようだった。

「本当にいやらしいな。また蜜が溢れた。嫌だと言いながら本当は好きなのだろう?」
「ち、違う、違う!」
サシャは激しく首を振り、生まれて初めて羞恥と言う感情で身体を赤く染めた。

「そうだ、レーナを呼ぼう。どうせ死ぬのだろうからその前に楽しませて貰おう。同罪ならば道連れにしたと心痛めずに済む。我ながら名案だ・・・そうだろう?サ〜シャ?」
「そ、そんな・・・止め・・・」
サシャはもう止めろ!と言え無かった。カルムに自分達の生死さえ支配されているのだ。
選択肢はサシャに無い・・・死ぬと言ってもレーナを引きずり出して脅しをかける。サシャが彼女を見捨てることが出来ないのを承知しているからだ。結果は分かりきっている・・・サシャはカルムに服従する道しか用意されていないのだ。

(この人が優しいと思っていたなんて・・・)
サシャはカルムの非情な仕打ちにそう思ってしまったが、それを心の中で直ぐに否定した。
師が言っていた―――真の悪人はいない。

サシャもそう思うし何よりも自分の直感を信じていた。しかし、カルムの思惑を外し、本当に死を選んだとしたらどうなるのか?

(きっと悲しむ・・・)
ほんの数日かもしれないが心優しいカルムは平気な顔をしながら心を痛めるだろうとサシャは思った。カルムが自分のせいで若い娘が二人も死ぬなんて気分悪いと言ったようにそれが本当の気持ちだろう。それにしても思惑通りになるのも癪に障る・・・

「どうした?黙って?どうする?死ぬ?それとも私を愉しませるか?」
サシャは、グッと顎を上げてカルムを睨んだ。

「その手を放せ!無礼者!レーナを呼ぶことは許さない!そなたは欲望が満たされれば良いだけだろう?私への自慰の強制は私の前でおぞましい性行為を見せるなという交換条件だと言ったな?ならばそなたが私の目の前で男女の快楽を貪ろうと関知しない!それでいいだろう!」
「無礼者?お前はいつまで聖なる娘のつもりか?―――一番つまらない答えだ。ならば、今回のこの状況はどう責任を取ってくれる?」
「責任?」
「そう、私の遊びに水を注した。だからこれも中途半端なままだろう?」
結局、話がまた振り出しに戻ってしまった。
性欲を満足させないと萎えない男の象徴にサシャは視線を移した。結局カルムの思惑通りに今回限りとは言ってもどれかを選択しなければならないようだ。サシャが知っているその方法とは―――
花芯の中で抜き差しする。口に咥える。そして今回の言われた自慰・・・もちろんどの方法も嫌だ。
契りは子供が出来る可能性があり、自慰はどうして良いのか分からないし・・・恥ずかしい。

(じゃあ・・・口?)
一番無難そうだと思ったサシャだったが、サンドラとイェレがしていたものと自分の稚拙なものとを比べると自信が無かった。彼らは巧みでカルムから甘い吐息を零れさせていた。
サシャはその光景を思い出して・・・

「サ〜シャ。何を思い出した?また蜜が溢れた・・・本当にお前はいやらしい」
「ぶ、無礼者!今回の詫びをすれば良いのだろう!分かったからその手をどけろ!」
カルムは、ニッと嗤ってサシャの膝から手を外した。
「さて?どう詫びてくれる?」
「今回だけなら・・・」
「だけなら?何?」
サシャは唇を噛み締めて骨折していない左手を、そっと蜜で濡れている場所へ伸ばした。

「成程・・・ではじっくりと見物させて貰おう」
サシャは覚悟して手を出したがこれからどうして良いのか分からなかった。
するとカルムが軽く溜息をついた。

「さっき教えただろう?自分の指で気持ちが良い場所を擦ればいい」
サシャはもじもじと股を閉じてぴったりと合わした腿の付け根から手を潜り込ませたが、カルムは気に入らなかったようだった。更に大きな溜息をついた。

「視えないだろう。足を開け」
「くっ―――」
サシャは屈辱に耐えながら少し開いた。

「もっとだ。膝を立てて開け。もっとだと言っている。出来ないのなら両膝を縄で縛って左右の寝台の柱に括りつけようか?」
「っ・・・」
サシャは嫌々ながら膝を立ててカルムの目の前で大きく内股を開いた。すると溢れていた蜜がクシャクシャになっているシーツに滴り滲みを作った。とろっと流れるその感覚だけでサシャは罪を意識して心が痛んだ。カルムのいやらしい≠ニ連発された言葉が頭の中で木霊していた。
穢れは蔓延し堕落はもう取り返すことが出来ないぐらい進行していると感じた。

サシャの噛み締めた唇の隙間から鼻に抜けるような声が零れた。敏感な部分を指で少し触れただけだったのだがそんな声を出してしまった。

「敏感だな。どうした?続きは?」
「・・・・・・・・・」
「ここまでか・・・不満は残るが今日はこれで赦してやろう」
「本当か?」
ぱっと微笑んだサシャだったがカルムが唐突に伸ばして来た手を避けられなかった。その手は包帯を巻いてある手を掴んだ。

「つっ・・・」
骨折した指から痛みが走った。

「片手では視ていてもつまらない。これが完治したらこの続きはやって貰う・・・その時は淫らに乱れて愉しませて貰おう。それとも今、思いついたが他の方法もある。試してみるか?」

サシャは掴まれた手の痛みでカルムが何を言っているのか聞く余裕が無かった。だから自分が頷いたかどうか定かでは無かった。この場からやっと逃げ出せるとだけが頭に浮んで手が解放されたと同時にサシャは這って逃げようとした。

「煽っているのか?そんなに尻を高く上げて。私にそんなに犯されたい?」
「違う!もう赦すって言ったからっ!」
「誰が赦すって?」
「さっき・・・まっ!や、止めろ!うわっ、あっ!」
カルムは彼女の突き出した柔らかな尻の肉を両手で掴んだ。そして大きく割り開き窄まりの皺を一本残らず引き延ばした。

「な!何をするんだ!」
サシャはシーツに顔を押し付けられながら恐怖で、ブルブルと震えた。

「何をするのかと聞くのか?何をするのか聞きもしないですると頷いたのは自分だろう?流石、元巫女姫は違うと感心したところだ。探究心は素晴らしい。知らなかっただろう?この場所でも色々と愉しめる。ははははっ!」
「そんな不浄な場所!嫌だっ――!」
サシャは必死に逃れようともがいた。

「クックククッ・・・そんなに喜んで尻を振らなくてもいい」
「よ、喜んでなんかいないっ!」
カルムの先端が割り開かれた場所に触れた―――ゾクリとする感覚が背中に走った。先端でその場所を押し広げられたサシャは息を呑んだ。サシャがもう駄目だと思った時、カルムの手が離れた。

「さてと・・・お遊びはこれくらいでもう寝ようか?」
「え?・・・」
ガラリと変わったカルムの態度にサシャは戸惑った。
その間にカルムは隅に追いやられていた羽毛が入ったフカフカの上掛けを引き上げてその中に潜り込んでしまった。そしてその中にサシャを、グイッと引き摺り込んだのだ。驚く間も無く腕を撒きつけられたサシャはもう身動きが出来ない状態だった。それに伴ってカルムの屹立した硬いものが身体に押し付けられるからその部分だけでも離れようともがいた。

「サシャ、大人しくするんだ!それは煽っているのと同じだ。もし私がまた気を変えたら今度は脅しだけで赦されなくなるよ。続きをしたいのなら遠慮はしないけれどね」
カルムの燻っていた怒りは消えていない。その怒りをサシャにぶつけて鬱憤晴らしをするのは簡単だ。嫌がる彼女を滅茶苦茶に思う存分抱けば済む事だ。そうしたとしても彼女は死ぬ事は無いだろう。
それなのに長々と言葉でいたぶって最後は見逃してしまった。途中まではサシャを陵辱することしか考えていなかったのに・・・カルムは自分でも不思議だった。気まぐれとしか言いようのない感じだ。

(全く・・・彼女と関わってから調子が狂ってしまう・・・)
「大丈夫なのか?その・・・」
サシャは動くなと言われても気になって当っている箇所で身じろいだ。これを治める方法を自分はしたく無くても気になって仕方が無いのだ。

(方法?・・・)
「あっ!そうだ!自慰をしろ!あれは自分で慰めるものだろう?それをすればいいじゃ無いか!何で気が付かなかったんだろう。それが一番だ」
「へ?」
カルムはまさか自分が張った罠に自分が掛かるとは思わなかった。

「さあ、早く!」
「ま、待て!私はそんなことはしない!」
「何故だ?」
「何故って・・・と、とにかく不愉快だ!それ以上言うな!もう寝る!」

 欲求不満で寝た筈なのにカルムはすっかり熟睡してしまった。
腕に心地良いサシャの重みを感じているせいなのか?彼女の触り心地の良い肌に触れているせいなのか?とにかくぐっすりと寝入ったようだった。

そして気持ち良く目覚めた時、隣に寝ていた筈のサシャを手探りで探した。
天眼を開いていないから頼れるのは手だけだった。しかし寝床はどこも冷たく彼女がいなくなって時間が経っているのを示していた。

「サシャ・・・まさか・・・昨日無茶したから?」
カルムの脳裏に昨日の出来事が浮んだ。最後の一線で踏み留まったとは言ってもかなり彼女の心理を揺さぶっていた。

カルムの天眼が開いた―――
国々の隅々まで見渡せると云う遠視。それをここ数日は、ちっぽけな少女の為にだけ開いていた。
サシャの表情を視る為だけに開かれていたその本来の姿は天眼国最高の遠視だ。

(何処にいる?サシャ・・・)



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