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天人の
囁き
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カルムの眠りは深まったがサシャは眠れなかった。
「・・・本当に眠っているのか?」
サシャは呆れて大きな溜息をついた。
初めは寝た振りをして起きているのかと思っていた。何故なら密着するあの塊を小刻みに擦りつけられていたからだ。
仰向けに眠るカルムの片腕で抱き寄せられたサシャはその上半身の上に腹ばいで乗せられたような感じだった。だから硬く反り返ったそれが微妙にサシャの腰の側面に触れていた。それが寝返りをうたれてサシャの身体ごと横になり尚更それが密着した。抱き合ったような感じで丁度、下腹部でそれを挟んでいるようになった。
するとカルムの腰が小刻みに蠢き出したのだ。
「もう寝ると言っただろう」
サシャは堪らずなじるように言ったがカルムの返答は無かった。
「やっぱり眠っているのか?」
溜息をついたサシャはカルムの腕から逃れようと、もぞもぞしたが逆に、ぎゅっと抱きしめ直されてしまった。
「もう!やっぱり起きているのだろう!」
サシャはカルムの胸に顔を押しつけられたような状態で文句を言ったがやはり返答は無かった。
サシャは腕の中から抜け出すのは諦めたが例のものが触れているのが気になって仕方がなかった。
だから少しでも遠ざけようと試みてそれに手を伸ばした。躊躇しながらそれに触れるとそれは体温より温かく、ぬるぬるしていて別の生き物のように脈打っていた。指の腹に伝わるそれがサンドラ達を見ていた時よりも鮮明にサシャは自分が口に咥えた時を思い出してしまった。
口内で脈打っていた肉の塊・・・サシャは思わず吐き気を感じた。
あの時、口の中に吐き出された苦く不快だったものを思い出したのだ。
「ふ〜ぅ・・・記憶まで穢れている・・・」
つらつらと考えながらサシャはそれをとにかく横に押しやりたくて、グイグイ押した。
するとそれは、グンといきなり大きくなって、いきなり爆ぜてしまった。
そして生温かくドロリとしたものが吹き出したのだ。
それと同時に、カルムが切なく甘い吐息を漏らした。
「ふっ・・・くっ・・・ん・・・」
サシャは驚いてすぐに手を離した。今度こそ起きたかと思い、まるで悪戯を見つかった子供のように、身体を竦めた。しかしやはりカルムは眠っているようだった。それにもっと寝息が深くなって気持ちよさそうに、すやすやと眠っていた。
「驚いた・・・それにしてもこんなに、グーグー眠るなんて小さな子供みたいだ・・・うむ。お漏らしするのだから同じだな」
サシャはまた溜息をつくと手に付着したお漏らしと称したものを、もぞもぞとグシャグシャになっているシーツに塗りつけた。そして少し考えたがそのシーツを引っ張ってカルムも手探りで拭ってやった。
「全く、手間が掛かる困った人だ・・・」
サシャはまた大きな溜息をついてカルムの鼓動を聞いていた。その音はいつも一緒に寝ていた犬のカザンを思い出した。規則正しい生命の音は心地良く眠気を誘うものだが一向に眠れなかった。
それから随分時間が経ったところでサシャに絡んでいたカルムの腕が緩んだ。
「お目覚めか?天眼の御方?」
返事は無く、サシャはそっとカルムの腕の中から抜け出した。
そして辺りを見回したが自分の服は見付からなかった。しかしカルムの室内用らしい毛皮のガウンを見つけそれを身にまとった。丈も袖も長かったが軽くて温かかった。
「後は・・・靴」
それはベッドの近くに転がっているのを見つけて履くとガウンを床に引き摺りながら寝室から出た。
そして扉を何個か開いて宮殿の外へと向かった。
昼間に辿った道だから迷う事なく歩いたが宮殿内を警備する者がサシャを呼び止めた。
「巡回、ご苦労」
サシャは、にこりと微笑んで労うと守備兵は何故か敬礼してしまった。
「はっ!こんな明け方、どちらにお出掛けになられるのですか?」
「目が覚めたから、散歩をしようと思っている」
「散歩?ならば警護をお付け致しましょう」
「その辺を少し歩くだけだから大丈夫だ。そなたは自分の仕事に戻りなさい」
サシャは諭すように言うと守備兵の前を去って行った。
散歩と言ったものの本当は明け方の夜空に浮ぶと云う虹色の帯を見ようと思い立ったのだ。
天眼国の風土を記した本にそう書いてあったのをサシャは思い出したのだった。
「どこからが一番空を見渡せるだろうか?―――それにしても、寒っ」
息も凍りそうな外は毛皮に包まっていても出ている顔から体温を奪われるようだった。
サシャは外に出る前に首を竦めてガウンを頭から着ていたが流石に顔まで隠すと前が見られないから仕方が無かった。その奇妙な着方のまま空を見上げると建物が邪魔で空を見渡す事が出来ない。
一番高い階の窓から外を見ることを考えたがそれも視界が狭い感じだったから止めたのだ。
「そうだ、向こうに行こう」
サシャは本宮殿の方向へ歩き出した。昼間に行った王の居室付近は建物の背が低かったのを思い出したようだった。しかし、また本宮を警備する兵に呼び止められてしまった。
「何用でございますか?」
不審者だと言うのに兵は礼儀正しく問答して来た。
見かけない人の子だが纏っているガウンは最上級の毛皮で王族にしか使う事を許されない禁獣の代物だ。しかも寝所から脱け出て来たような様子・・・と、なれば不審極まり無くても強く誰何出来ない。
「空を広範囲で見渡せる場所を探している」
サシャの言っている意味が分からず兵達は顔を見合わせた。
「ですから何用かとお聞きしているのです」
「だから、空を見ると言っている。時間が無い、そこを通せ」
兵達は少し躊躇ったがサシャを捕らえる事を決めたようだった。彼女の行く先に手を広げて遮ってしまった。
「少し、お話を向こうで聞かせて貰います」
「時間が無いと言っているだろう」
「お逆らいませんよう」
サシャは兵に肩を掴まれ、ぞっと悪寒が走った。
見上げるような大きな身体の兵は近付いただけで男を感じサシャは恐怖を覚えた。
男は穢れをもたらす象徴のようだった。しかしカルムも同じ男で穢された張本人だが不思議な事に何故か恐怖は感じなかった。
サシャは少し気圧されたが直ぐにその手を払った。
「無礼者!邪魔をするな!」
イエランの腕の中で眠っていた美羽が、ふと目を覚ました。
誰かが言い争っているようだった。黒翔族の美羽は聴覚に優れ小さな音でも聞き取る。
(女の子?こんな時間に?)
美羽はもっと聞き取ろうと顔を上げた。
「美羽?どうした?」
イエランが美羽の身動きに眠りから醒めて訊いた。
「外に誰か居るみたいで・・・」
「誰か?」
イエランは耳を澄ましたが声は聞こえなかった。
「こんな陽も昇らない明け方にいるのは守備兵ぐらいだ。私語でもしているのだろう。目が覚めたなら・・・」
「あっ・・・まっ、あんっ・・・待って、やっ・・・ああ」
イエランは美羽の胸をゆっくりと撫で回し始めた。
その指にひっかかる乳首は指と指の間で、ぎゅっと挟んだ。美羽は全身を痙攣させ快感に酔いそうになったが、やはり聞き間違いなく女の子の声が耳に入った。
「やっぱりあの子!カルム様のあの子です!」
イエランは、ピタリと手を止めた。
「元、巫女姫か?」
「そうです!間違いありません!どうしたのかしら?直ぐに行ってあげないと」
「放っておけ。私達には関係ない」
イエランはそう冷たく言い捨てると再び美羽の乳房を弄り出した。
「はっ、あっ・・・イエラン。お願い・・・お願いします」
美羽の懇願にイエランは諦めたように大きな溜息をついた。
「・・・全く・・・」
イエランは渋々起き上がると身支度をして外に出た。
外では美羽の言っていた通り天山の元、巫女姫サシャが兵に捕らえられている最中だった。
雪の中に押さえ込まれたサシャは恐怖の声を上げていた。
「お前達!その者はいい。見知った者だ。手を離してやれ」
イエランの声に兵達は直立敬礼しすぐさま持ち場に戻って行った。
急いでイエランの後を追って来た美羽は雪の中で蹲るサシャに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
サシャは、ガタガタと震えていた。襲われたのでは無く抵抗するサシャを只、取り押さえようとしただけだったが組み敷かれて本能が叫び声を上げさせた。
「可哀想に・・・もう大丈夫ですからね」
ふわりと温かい温もりを頬に感じたサシャはようやく我に返った。焦点を合わせれば昼間、天眼の王の隣にいた美しい娘だと認識した。
「そなた・・・」
「こんな所で何をしている。カルムはどうした?」
「天眼の王・・・あ・・・すまない。騒ぎを起こすつもりは無かったのだ。許してくれ」
「問いに答えよ」
「すまない―――天眼の御方は就寝中だ。私は天眼国名物の虹の帯を見ようと思って空全体が見渡せる場所を探していたところだ」
「虹の帯?」
「夜明け前の夜空に現れるのだろう?そう書物で読んだから一度見たかったのだ」
イエランはその動機に呆れてサシャを見下ろした。さっきまで恐怖に引きつっていた顔が今はキラキラと瞳を輝かせていた。ふとその横の美羽を見れば同じく期待に顔を輝かせている。
「美羽、お前。見た事無かったのか?」
美羽は頷いたがその前にイエランは見る訳無いかと自分で答えていた。陽が昇るまで美羽を抱いて離さないのはイエラン自身だったからだ。
結局、その後は三人で夜明け前の自然観照となってしまった。しかし、それは気温や天候に左右され易くとうとう見る事が出来なかった。がっくりとうな垂れる娘二人をイエランは自室に連れ帰った。
「すっかり冷えたな・・・美羽、一緒に湯殿で温まろう」
イエランの居室には大きな湯殿とは別に、いつでも使える風呂場があった。昔は忙しいイエランの為に造られたものだか今では愛し合った後、身を清める為に使われる。でもそれがそうならず続けてしまうのは何時もの事だった。
今日もそのパターンで終ったばかりで美羽は、ぱっと頬を染めたが、しどろもどろ答えた。
「お、お先にどうぞ。私はサシャさんと行きます」
イエランは、ムッとしたがまさかサシャも一緒にと言えない。
「分かった。ではお前達から入れ」
「私は湯を使わないからいいが・・・一緒に入る、とは・・・お二人は夫婦なのか?」
「えっ!あ、あの・・・」
サシャから無表情で淡々と質問された美羽は真っ赤になった。
「そうだ。正式な挙式はまだだが美羽は私の妻だ」
式は形式だけだとサシャも分かっている。本当の意味での婚姻は身体での契約なのだ。
契りで刻まれるものが証明のようなもの・・・サシャは世の中の妻と呼ばれる人達を尊敬してしまう。
(私ではとても耐えられない事なのに・・・この綺麗な人は耐えているのだな・・・)
軍人のイェレも守備兵も大きかったが改めて見るイエランも負けていないぐらいの体格だ。
それがこの華奢で壊れそうな美羽が、あの恐ろしい洗礼をいつも受けているのだ。サシャは本当に感心し尊敬したようだった。
それからイエランに引き摺られるように湯殿に消えて行った美羽だったが、サシャが心配で温まったら直ぐに出て来た。サシャは事故とは言ってもカルムから強姦されたのだ。その恐怖は同じ経験を持つ美羽には痛いほど分かっていた。さっきの悲鳴も同じ恐怖から来たものだ。美羽も男と言うものに恐怖していたのだから良く分かる。だから少しでも力になってあげたいと思ったようだった。
二人が湯殿から出た時、勢い良く主部屋の扉が開いてカルムが飛び込んで来た。
「イエラン!イエラン!早く天晶眼をよこせ!」
「何事だ?」
天晶眼とは天眼の力を何倍と高めてくれる神の遺産だ。しかもそれを所有して採取出来るのは天眼の王だけだった。その貴重な宝を必要とする場合は国の有事にしか使われないのが普通だ。
それを直ぐに出せと言うカルムにイエランが何事かと聞くのは当たり前だろう。
「訳は後だ!」
「訳もなく渡せない。お前こそ簡単に渡せるものじゃないと分かっているだろう?」
カルムは大きく舌打ちをした。
珍しく本気で焦った形相に天眼が開いている。それこそイエランが余り見ないカルムの様子だ。
「サシャが!サシャが居ない!彼女の気を読めないから遠視でも探せない!こんなに私の遠視が心眼に頼っていたものとは思わなかった!何が天眼国一の遠視力だ!娘一人捜せないなんて!」
遠視を試みたが上手く行かず天晶眼の力で捜し当てようとしたようだった。
サシャがもしかして命を絶つかもしれないと言う考えがカルムを焦らせていた。
カルムが髪を振り乱して頭を抱えた時、その動きがピタリと止まった。
そして大股で奥の部屋へ入って行った。
「サシャ!」
カルムの天眼に奥の部屋が映ったのだ。宮殿内の内も外もくまなく遠視したつもりだったのが此処は絶対に有り得ないと無意識に見過ごしていた。
サシャはブカブカのカルムの毛皮のガウンに包まって暖炉の前で足を抱えて座っていた。
そしてその声に驚き立ち上がろうとして床に転げ落ちてしまった。
「サシャ!どれだけ捜したと思うんだ!」
サシャが起き上がって謝ろうと口を開きかけた時に、カルムが凄い形相で後を振り返った。
視線の先は心配そうな顔をしている美羽だった。
「サシャが襲われた?」
カルムの天眼に美羽の出来事が鮮明に視えたのだ。
「落ち着け、カルム。兵が不審者を取り押さえただけだ。当たり前だろう、まだ陽も昇らない夜明け前にこんな格好でうろついていたのだからな」
こんな格好と言われたカルムはまた勢い良く振り返って今度はサシャを見た。転げた拍子にブカブカのガウンは肌蹴て胸の小さな膨らみを少し隠した程度で足は丸出しだった。
カルムは眉を吊り上げるとサシャを乱暴にすくい上げ肩に抱え上げた。
「なっ!降ろせ!」
暴れるサシャの突き出した尻をカルムが叩いた。
「黙れ!大人しくするんだ!大人しくしないのなら裸のまま大回廊に捨ててやる!」
「むぅ・・・」
言葉を呑みこんで大人しくなったサシャを抱えたままカルムは部屋を出ようとすると、美羽が恐る恐る近付いて来た。
「サシャさん、また行きましょうね。ねぇ、イエラン?」
「私はご免だ」
カルムが冷やかな視線を送って来たのを受けたイエランはそう答えた。
サシャを都合の良い玩具だと言っていたカルムだったが・・・今の様子を見ればそればかりでは無いようだとイエランは思ったが口には出さなかった。
イエランの返事など耳に入っていないカルムはそれどころでは無かった。美羽の記憶を読みサシャがしようとしていた事は分かった。しかし苛々が治まらなかったのだ。
警備だと言っても嫌がるサシャを組み敷いた兵も、楽しそうに虹の帯をイエランが一緒に見に行ったと言うのもとにかく気に入らなかった。そして・・・
「今日はありがとう。美羽殿、天眼の王。また誘いに来る」
嬉しそうに返事をするサシャにカルムはもう我慢なら無かった。担ぎ上げていたサシャを乱暴に降ろすと燻る怒りをぶつけようと口を開きかけたカルムにサシャが首を傾げた。
「どうした?置いて行ったから寂しかったのか?」
カルムはその突飛な理由に驚いて口を阿呆のように開いた。
その間抜け面のカルムの頬をサシャが撫でた。
「よしよし、今度は一緒に連れて行ってやるから機嫌を直せ」
「なっ・・・」
イエランが珍しく表情を崩して吹き出した。美羽も笑うのを我慢しているのだろう、プルプルと小刻みに震えていた。
カルムは、はっと我に返って顔を引き締めた。
「帰る!邪魔をした!」
クルリと踵を返したカルムはサシャの腕を掴むと引き摺るように連れ去ったのだった。
一方、天山ではサシャの突然の下山に動揺が走っていた。
「―――以上でございます」
報告を終えたウッラが控えているのは天山の巫女達の師ドルイドだ。
天山での最高位はもちろん天女だが彼女も他の巫女達と同じく彼を師と仰ぎ尊敬し敬っている。
だから天山で最も力があるのはこのドルイドかもしれない。そして何十年も前から彼を知っているものはドルイドこそ神の化身と思っているものは多い。何故ならその何十年も前からドルイドの姿が変わらないからだ。齢を重ねない不老不死のようなその奇跡は天山の象徴のようにさえなっている。
そのいつも優しげな顔を崩した事の無いドルイドが目を吊り上げて烈火のように怒っていた。
「ウッラよ!サシャは天眼の王族から間違って犯され、掟に従って結婚の約束を取り交わしその男に付いて行ったと言うのですか!」
「は、はい!さようでございます!この目で確認致しました。もう私は驚いてしまって・・・間違え無くサシャ様は穢されておりました」
「・・・・・・・・・」
怒っていたドルイドが、すっと何時もの顔になっていた。慈悲深く誰もが尊敬する巫女達にとって兄でもあり父でもある師の顔だ。
「ウッラ、事情は分かりました。お下がりなさい」
深く頭を垂れてウッラは嬉しそうに去って行った。
その後姿を見送ったドルイドはレーナの兄で天山の警備隊長をしているユハを呼んだ。
「ユハ、参上致しました」
「ユハ、心して聞きなさい。サシャが穢され下山を余儀なくされたそうです」
「なっ!ま、まさか・・・」
ユハは驚きの余り肩を震わせた。
ドルイドはウッラから聞き出した話しをそのまま伝えた。
「―――可哀想なサシャ・・・彼女は誰よりも誇り高く気高い巫女だと言うのに・・・とても傷付き苦しんでいることでしょう・・・」
ユハはその衝撃に足元が揺らぎ床に崩れ落ちた。そして号泣しながら力いっぱい石の床を叩いた。ユハはもちろんレーナと同じくサシャを崇拝し彼女が天女になる事だけを夢見ていたのだ。それが・・・
「ユハ、嘆くのはまだ早い・・・貴方にサシャを取り戻して来て欲しいのです」
ユハは、はっとして顔を上げた。
「ドルイド様、そ、それはどういう事ですか?」
「サシャの穢れは天山の秘術を持ってすれば救えるのです。これは極秘中の極秘―――知っているのは殆どいません。だからサシャはまた巫女姫に戻すことが出来ます・・・ユハ、行ってくれますか?」
「もちろんです!オレが必ずサシャ様を連れ帰ります!」
「頼みましたよ。相手は天眼族のそれも・・・王族。天眼の王の兄だということです。サシャを一夜限りの相手と捨て置かず大人しく連れ帰ったとなれば彼女を気に入って手放さないかもしれません。もしそうなら話し合いさえ出来ないでしょう。彼らは傲慢で同族以外を軽視する傾向にあります。サシャも今・・・どう扱われているかと思うと胸が痛みます・・・あの王族が結婚を承知するなど考えられないのですから・・・」
「ドルイド様・・・」
「いいですか、ユハ、それでも天眼国と天山は事を構える訳にはいきません。彼らを怒らせれば黒翔国、法国のように天山も攻め滅ぼされてしまうでしょう。だからそこのところを頭に入れて行動して下さい。天眼国の王宮に出入りしている者で協力して貰える者達を私から手配します。先ずは王宮に入り、サシャと会い彼女に私からの話しを伝えなさい。そうすればサシャは喜んで帰って来るでしょう」
「はい!もしサシャ様が捕らわれているのなら密かに助け出します!」
そう言って勢い良く出て行ったユハの背中を見送りながら、サシャの師であるドルイドは温和な顔を歪めて険しい顔をした。簡単に済むと思っていない。しかし事は重大であり、サシャを他の禁を犯した巫女のように処分する事は出来ないのだ。
「サシャをどうどうあっても取り戻さなくては・・・」
ドルイドは窓辺に立ち、天眼国の方角を見ながらそう呟いたのだった。