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天人の
囁き
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天眼国を支える七家の当主達は思わずどよめいた。
七家の当主はそれぞれの家の名を自分の名前とするがハーン家・・・つまり臣下に下った王族で構成されるこの家名を当主は名乗らない。だからカルムはカルムのままだった。その他の七家は先代から当主を務める最年長のオーベリ、イエランの許婚だったアルネの父ドーラ、常識ある穏健派のトールスに最近では珍しい女当主アグレル。そしてカルムと歳の変わらない野心家で過激派のヴァリと皆に圧され気味の最年少のエイセル―――
その歳も性格も何もかも違う者達がそれぞれ顔を見合わせた。
イエラン同様、カルムの縁談も数限りなくあったが何時も適当に流されていた。
長く続いている特定の恋人は無く不特定多数、男女問わないつきあい方に難色を示す者はいても公私を混同することのないカルムに誰も意見することは無かった。ところがいきなり結婚する(した?)仕事に同伴する、と紹介された少女に驚かない方がおかしいだろう。
カルムが今まで恋人として名を連ねていた者達と余りにも違う雰囲気の少女―――
「ご、ご冗談でしょう?」
トールスは只の恋人の一人だろうと聞きたかった。しかし言葉に出す必要は無い。カルムなら言わなくても答えて来る。
「私が私事で戯れる者達をこのような場所で紹介したこと無いでしょう?サシャ、皆に挨拶を」
天眼国の最高幹部の面々を前にしているというのにサシャはいつもと変わらず堂々としていた。
七家は只の名門名家という訳では無い。それを名乗るに相応しい実力を伴っていて誰もが畏怖し敬うものだ。その彼らが敬意を払い畏怖する存在が金眼を持つ者・・・
まるでサシャは金眼の姫かと思うような威光を放っていた。
「サシャだ。宜しく頼む」
皆が唖然として彼女を見つめていた。宜しくとも頼むとも言ったが完全に上位者の物言いだった。
もちろん彼らは金眼の王族以外からこんな態度は取られたこと無いだろう。
カルムは思わず少し笑ってサシャを注意した。
「サシャ、彼らはこの国でとても重要な役職に就いている人達ですよ。もっと丁寧に挨拶なさい」
サシャはカルムを、チラっと見上げた。
この部屋に入ってからのカルムの態度が余りにも違っていて気味が悪かった。言葉使いも表情も何もかも纏う空気さえ違う感じだった。それはあのおぞましい行為の相手にもこんな感じだったことをサシャは思い出した。棘も嫌みも無い優しい言い方に穏やかな微笑み・・・
(まるで別人だ・・・)
「サシャ?」
カルムに再び名を呼ばれたサシャは少し、ほっとした。
彼女の名を呼ぶカルムが聞き慣れた少し苛立つ感じだったからだ。
サシャが黙り身動き一つしないとなると彼女に付けた居場所を知らせる飾りの音も聞こえず、カルムは声を出して存在を確かめるしか無かった。
確かめなければ何故か不安で堪らない・・・それが分かったのかサシャは手を動かしカルムの腕に触れた。
はっとしたカルムは無意識に彼女のその手に自分の手を重ねてしまった。
端から見れば不安がるサシャをカルムが励ましているような感じだ。
しかしサシャは重ねられた手が何だか恥ずかしく感じ、さっと手を引っ込めた。
手と手を重ねる行為は今まで殆どしたことが無かった。巫女の手は治癒を施す聖なる御手であり誰も触れないからだ。そんな習慣を知らないカルムから掴み上げられたり、押しつけられたりしていたが、それは力任せで触れられると言うより違う感覚だった。それに全てが初めて体験する驚きの連続で考える余裕が無かったのだ。
嫌がるように手を引っ込めたサシャの態度はカルムの勘に障わり、皆がいるのを忘れて穏和な表情を一瞬崩した。冷たい氷に怒りの蒼い炎を閉じこめたようなカルムの様子に直ぐ近くにいたトールスは、思わず、ぞっとして後ろへ一歩退いた。
サシャはそれに気がつきカルムの様子を窺った。気がつかなければ良いのにと思ったが見えなくてもそんな様子を敏感に察知出来る心眼を持つカルムは直ぐに気がついていたようだった。そして一瞬崩れた表情は再び穏和な仮面を被っていた。
(・・・また傷付いたのか?)
カルムは本当の自分を偽っているのだとサシャは感じた。そうでないと話し方から表情までまるで別人のようにならないだろうと思った。本当の姿は・・・しかしそれを隠している・・・何故?
(嫌われたく無いから?)
ふとそう思ったがカルムがそんな事を気にするだろうか?とも思った。しかし平気な素振りをしていても心眼を恐れられると密かに傷付いていると感じた。急いで取り繕ったもののこのままでは恐怖が蔓延してしまいそうなこの場を支配したカルムの心眼の影を払拭しようとサシャは口を開いた。
「申し訳ない。私は赤子の時から天山で育ったもので何かと慣習が違うようだ。だから失礼な事をするかもしれない。しかしその時は教えて貰うと助かる。今もふいに手を触れられて動揺してしまった。巫女の治癒を施す手に誰も触れないから・・・つい・・・気分を害させたようで・・・すまない」
カルムは自分を見上げるように言うサシャの姿は天眼を開いていないから見えなかった。
(触れられない?・・・今まで・・・)
今のような手に軽く触れるというような優しい行為では無かった数々をカルムの脳裏を過ぎった。
掴み上げ指の骨まで折ったと言うのに?
「可愛らしいことを言いますね。何度もこんなに触れ合っているのに?」
カルムの手がサシャを求めてさまよい彼女の左手の指に触れた。
サシャは、ピクっとその指を動かしたがカルムの指が絡むままに、じっとしていた。
カルムはサシャのか細い指を絡め取ると自分の口元に持って行った。そして綺麗に爪を切りそろえているその指先に口づけた。
聖なる手だと聞けばそれを穢したくて堪らなくなった。今まで知らずにサシャの手に触れていたが意味を知った後だと愉しさが倍増する筈だ。此処に誰も居なかったら直ぐにでも彼女を弄るだろう。
カルムの機嫌が直り和んだ雰囲気になった。
トールスの感じた畏怖も消え改めてサシャに視線を向けた。他の五人も同じく彼女に注目していた。
「天山の巫女とは実に珍しい女人ですな。しかし所詮、只人。貴方様と釣り合いませぬぞ」
口煩いオーベリが値踏みするように言うと皆は同意するように頷きはしなかったが考えは同じだろう。神に最も近いと云われる天眼族は自分達が最も優れていると自負し傲慢だ。他種族を卑下し見下しているのは何時もの事だった。それが七家の筆頭であり事実上、王イエランの次に位置するカルムに相応しい相手では無いと思ったのだろう。
サシャの毅然とした雰囲気に飲み込まれていた面々はようやく我に返ったような感じだった。
サシャが静かに微笑んだ。それは治癒を求め苦しむ病人に大丈夫だと言って微笑みかけていたような心休まる笑みだった。
「天人達の声が聞こえず治癒能力も無くなった私に何も価値が無いと思う。神の遺産を受け継いだ種族の中で最も優れたそなた達ならば当然の意見だろう。気持ちは良く分かる。しかしこの者が私を必要とする限り、そなたらの意見を聞けない。私の夫がそなたなら別だが・・・私の夫はこの者だ。天眼国では妻は夫の言うことを聞かねばならないのだろう?すまないな」
オーベリが声も無くワナワナと震えた。失礼にもカルムを指差しこの者呼ばわりして、意見など聞かないと言い放った小娘に唖然としてしまったのだ。
カルムが軽やかに笑った。
「オーベリ、貴方の負けですね。それにサシャは普通の巫女ではありません。天山の天女候補の巫女姫です」
「巫女姫?・・・あの数十年に一度ぐらいしか出現しないと云われる巫女・・・」
アグレルが思い出したように言った。
「アグレル、詳しそうですね?そう・・・今はその力を失ったとしても素晴らしい潜在能力を持っていた事実は変わらない。資質的に問題は無いと思いませんか?」
カルムは皆が懸念している血統の件を具体的な言葉にしなかった。それを聞いたサシャが子供を作る意思は無いと正直に公言されると困るからだ。
(全く!何だってこんなことに私が一々気を遣うんだ!だいたいサシャが拒否するのが悪いのに!―――まぁ・・・それを承知する私も馬鹿か・・・)
より強い種族を残す為に同族の力あるものはもちろん、他種族と交わるのが金眼・・・王族の義務のようなものだった。金眼を持つものは王の子にしか生まれないが天眼族の力を維持する為にもそれに少しでも近付くような種を残すのが目的だ。
「交友関係は広いと思っておりましたが・・・何時の間に・・・それにしても急ですな」
アグレルの不審な問いに、カルムはやんわりと微笑んだだけで答えなかった。だから皆もそれ以上追求しなかった・・・と言うよりも出来なかったのだ。この話はもう終わりだと言うような圧力がカルムから漂っているのを感じたからだ。
この話題に最初から興味の無かったヴァリは、カルムのその様子から段々とサシャに関心を高めていた。だからその不躾な視線にサシャは気がついたがカルムも彼の心の動きを視た。
「―――ヴァリ何か?」
「いえ、特定のものを作らなかった貴方が彼女を選んだ魅力は何かと思っただけでして」
カルムは答えなかった。ただ微笑んでいるだけだった。
そうなれば尚更関心が深まるだけだったが取りあえず今は退くことした。
オーベリは渋い顔をしたままアグレルとトールスは興味津々で残る二人と言えば・・・美羽の暗殺計画の件でカルムの真の恐ろしさを知るドーラは善否も無く無言でエイセルは只の関心や興味という感じでは無い感情を寄せているようだった。
それが一番カルムの気に留まった。
(エイセル?)
黒翔国とのいざこざの最中に代替わりした一番年少の七家の一人・・・影の薄いエイセルをカルムは今まで気に留めることが無かった。不躾に関心を寄せて来たヴァリより気になる感じだった。
そのエイセルが珍しく口を開いた。
「その手はどうされたのですか?」
サシャは初め自分に話しかけられたと思わず周りを見た。すると自分より少し年上のようなエイセルの視線が包帯を巻く手に注がれているのに気が付き、これの事かとその手を目の前にかざした。
シャラシャラと音がする・・・
「折れた」
「お気の毒な・・・それでは手が使えず不便でしょう?転移治療はされなかったのですか?」
「転移?」
「ご存知無いのですね?天眼の力の一つで術者に移して治療します」
「そんな治療方法があるのか?でも移された方に今度は治療が必要になるから余り有効と思えないな。気の毒だ」
「お優しいですね。それを出来る天眼の者は自己治癒力が高いので心配いりません。直ぐ治ります」
「そんな力もあるのか・・・天眼族は本当に素晴らしいな」
サシャの心からの賛辞を七家の面々は気分良く聞いた。何時も聞き慣れている称賛なのに彼女の言葉は何故か嬉しく感じたようだった。
「僕が治しましょう」
エイセルは思わずサシャのその手に触れようと手を伸ばしてしまった。
しかし、カルムの手がそれを遮った。
「カルム様?」
「エイセル、転移治療の必要ありません」
「しかし・・・」
カルムが断る理由が分からなかった。エイセルは転移治療が得意で自己治癒能力は高いのに?
カルムは只、サシャが興味を示すものが気に入らず、エイセルの彼女に興味以上の何かを感じ不愉快だった。無言になったカルムとエイセルが気まずい雰囲気でいると、サシャが無邪気に話しかけて来た。
「そなた、その転移とやらが出来るのか?」
サシャは元、治癒者としてその方法に興味津々のようだった。
「サシャ、この話は此処までです。今日の本題に移らないと時間がありません」
「カルム様、これくらいならそんなに時間は取りま――」
エイセルは直ぐに出来ると言いかけたがカルムの冷ややかな視線を受けて言葉を呑みこんでしまった。カルムには視力が無いと分かっていても細められた瞳が恐ろしく冷淡だった。
それを見ていないサシャが不満を言った。
「少しぐらい構わないだろう?」
カルムは内心、腹立たしく思いながらサシャの耳元でそっと囁いた。
「サ〜シャ・・・良いのかな?指が治ったらあの続きをして貰うけど?」
(あの続き??)
あっ、と言ってサシャはカルムを睨んだ。あの続きとは・・・自慰だ!カルムは言った。
『片手では視ていてもつまらない。これが完治したらこの続きはやって貰う・・・その時は淫らに乱れて愉しませて貰おう―――』
完治したら・・・と言うカルムの勝手な約束をサシャは思い出した。そしてその時の事も鮮明に思い出してしまった。両膝を立てて・・・カルムからもっと足を開けと命令され・・・視られているというだけでも蜜が溢れた・・・それに曝された花芯に、そっと指で触れただけでどうにかなりそうだった。カルムから聞かされた方法は更に乳房を自分で弄り・・・
サシャは、ぞっとして首を振った。その身体の揺れで手首の飾りが、シャラシャラと音を立てた。
「何?早くしたいって?」
「ち、違う!」
サシャは大きな声を出すと、耳元で囁いていたカルムの顔を押しやった。
カルムは愉快そうに小さく笑ったが、皆が見ている手前直ぐに曖昧な微笑みへと変わった。
「申し訳ございません。急に大きな声を出しまして・・・お気になさらずに、さあ、皆さん着座しましょう」
結局エイセルの申し出は無視されたままとなったが皆の話題は議題へと移って行った。
天眼国での重要な決裁は全てイエランがする。王の決裁を仰ぐまで至らない案件はこの七家の会議で決裁されていた。カルムは全ての内容を把握しイエランへ回すもの、七家で審議するもの、その他へ移行するものなどの分類。そして七家での閣議決定したものはまとめてイエランに報告している。
更に、水晶宮の守護を采配しているのだから恐ろしく多忙だった。
だから普通なら何人もの補佐がいても可笑しく無いのだ。七家の当主達は補佐となる優秀な家令達を伴って会議には出席していたが、カルムの補佐は居たり居なかったりと安定したものでは無かった。
だから今回久し振りにカルムの補佐をすると紹介されたサシャが本当に役立つのだろうか?
と皆は口には出さなかったが心の中で思って座っていた。
(・・・そうだろうね・・・私としては読み書きさえ出来れば良いぐらいなんだけどね・・・)
皆の心を読んだカルムは溜息交じりに心の中で呟いた。
サシャに言ったように大きな期待はしていない。目が不自由で困る要素でもある書類を音読して筆記してくれるだけでも十分助かるからだ。だから、今日みたいな会議にサシャの出番は無かった。書類を見る必要は無く論戦のようなものだったからだ。それでも質疑応答を記録するようにと言っていたので黙ってペンを走らせているようだった。シャラシャラと鳴る腕輪の音がそれを語っていた。
そして論議の合間に飲み物が出された。
「一息つきましょうか?」
カルムの一言で休憩が決まった。そうなれば軽食も出され緊迫した空気から和んだ雰囲気に一転した。
かなり早く速記していたサシャの様子が気になっていたアグレルがその記録紙を覗き込んだ。
「はて?何語かの?見た事無い字体よの?」
「これは速記用の記号だ。後で清書するから・・・あっ!そうだ!書面は公共文字で良かったのか?それとも天眼国の文字が良いのか?」
サシャはカルムに慌てて聞いた。
「公共文字で構いませんが・・・天眼国の文字も書けるのですか?」
「もちろん。五大国の文字に神国の文字は書籍で、そして言語は天人達から習ったから全部話せる」
「天人か・・・彼らなら消えてしまった神々の謎も知っているのであろう?」
「神は――」
サシャは言いかかったが急いで口を噤んだ。
神々と共存していたと云われる天人達はその謎を知っている。サシャにも良く語ってくれたものだ。
しかしそれは他に語ってはならないものだった。天人との会話は誰にも話してはならないというのが天山の掟だ。嘘が半分、真実も半分の天人達の話は本当のところ分からない・・・神々の事にしても嘘かもしれない・・・他言禁止でなかった時代はそれに踊らされ破滅の道を歩んだ者達は多かった。
「神は?」
アグレルは興味津々に促したがサシャは答えなかった。
「神々には謎が多い方が神秘的で良いと僕は思います」
エイセルがサシャを助けるように会話に入って来た。そして再びサシャの転移治癒を申し出た。
しかし今度はサシャから断られてしまった。
「すまぬ。心遣いには感謝するが私はこのままで構わない」
サシャは澄まして茶を口に運んでいるカルムをチラリと見て言った。興味があるが・・・あの続きはなるべく先延ばししたいものだ。
「そう・・・ですか。あっ、そういえば凄いですね。僕とそんなに歳も変わらない感じなのに五大国全ての言語が分かって書けるなんて僕なんか覚えるのが苦手でどうしたらそんなに出来るのか教えて下さい」
「エイセル」
エイセルはカルムから名を呼ばれてビクリとした。気になるサシャと話せて調子に乗りすぎていた。
「エイセル、それは彼女に乞うものでは無いでしょう?それともエイセル家の家令達は無能揃いでしょうか?」
「い、いえ・・・も、もう・・・申し訳・・・」
口調は柔らかくともカルムの表情がいつもと違っていた。エイセルは言葉に詰まった。
真っ青になったエイセルを庇うようにアグレルが横から口を挟んで来た。
彼女は自分の子供達と変わらない年頃の彼を何時も気にかけている。
「カルム様、そんな怖い顔・・・お珍しいですわね?まさか貴方が嫉妬とか?ほほほ・・・冗談です。エイセルは同年代の彼女に親近感を寄せているだけでございましょう。のう?エイセル?」
「も、もちろんです!可愛らしく賢い方だと思って――」
この馬鹿者とアグレルはエイセルに言いたかった。見るからにカルムの新妻に懸想している様子のエイセルに助け舟を出してやったのに、自らその船に穴を開けて沈没しようとしている。
「サシャが可愛らしく賢い?」
カルムの声が少し冷やかになっていた。皆が余り聞いた事のない声だ。冗談だと言われたがアグレルから嫉妬しているのかと言われ気分が悪かった。
(私が嫉妬なんかする訳無い!だいたいサシャが悪い!調子に乗って受け答えするから!それにしてもエイセル!子供のくせに一人前に色めき立って!サシャが可愛い?こんな痩せっぽちのどこが可愛い?全く×××・・・××!!)
カルムは心の中で悪態をついた。天眼国一の心眼を持つカルムの心を読めるものがいないから幸いだろう。とても思慮深い控えめな性格とは思えない悪口雑言を並べ立てていた。
「ありがとう、エイセル。可愛いは別にどうでも良いが賢いと言われるのは嬉しい。私は師からそう言って褒められるのが一番嬉しかったんだ。沢山勉強した甲斐があるだろう」
そんな緊迫しかけた雰囲気など構わずにサシャが微笑んでエイセルに礼を言った。
エイセルも嬉しそうに微笑返し、二人はまるでお似合いの幼い恋人同士のようだった。
目の不自由なカルムにその様子が見えないから良かったとアグレルは思った。そしてエイセルには後で注意をしようと思いながら何気なくカルムに視線を向けた瞬間、ギクリと心臓が跳ねた。
カルムの天眼が開き、エイセル達を見ていたのだ。当然その開眼は金眼ともなると波動が発生する。
皆も直ぐに気が付き一斉にカルムを注視した。
カルムの天眼は誰もが一番見たく無いものだった。しかも滅多に見ることの無いもの・・・
他国では天眼が開く時―――その場は恐怖に凍ると云われているが・・・天眼国では金の天眼が開く時こそ恐怖に凍るのだ・・・