天人の囁き20



 リネアの露出の高い衣服でも大事な場所はしっかり隠されている。
サガンはその下半身を隠す小さな布を押しやり己の熱く滾っている硬い強張りを一気に突き入れた。
そしてリネアの両太腿を抱え上げ宙に浮かした。砂利のある地面やゴツゴツした岩にリネアを押し付けないようにするにはそうするのが一番だった。腕力のいる体勢だがサガンなら簡単に出来るものだ。

「はぁっうんっ!あっ、あっ、あ、あ、あんん・・・あっ」
サガンは立ったままリネアを軽く上下させて揺さぶり腰を抉るように打ち付ける。
その強烈な快感にリネアの抱きかかえられた足の指先がピンと伸び痙攣していた。

「あ、あ、あ・・・あっん・・・い、いい・・・サガン、もっと貴方が・・・ほしい・・・」
リネアの熱い声にサガンは軽く息を呑み、更に深く激しく突き上げた。

「あああっ―――っ、ああっ、んん・・・」
リネアは叫んでいるのに仰け反りながら恍惚とした顔で喜んでいた。
サシャはそれが信じられなかった。

(あんな恐ろしいもので突き上げられているのに?そう言えば・・・)
サシャはふと思い出した・・・カルムの恋人達もあんな顔をしていたのだ。
自分と彼女達との差が分からなかったが、今なら分かる事が一つだけある―――
彼女達はその相手を好きなのだ。

(・・・私は好きと言う気持ちが分からない・・・だから苦痛なのか??)
サシャはカルムが前に言っていた事を思い出した。自分を好きだと言わせて見せる。
そうすれば自分からその足を開いてカルムの情けをねだるようになる・・・と。
サシャは何と無く好き≠ニいう感情に付属する疑問の答えを見つけたようだった。
こればかりは天山で誰も教えてくれなかったものだ。

「これは、これは・・・激しいうえに持久力も最強だね。リネアだから大丈夫だろうけれど・・・サシャ、君だったら直ぐに壊れそうだね」
サシャの反応が楽しくてカルムはそう揶揄してみた。

「・・・そうか?そなたより優しいし無茶していないからそう思わない」
「!あの男の方がいいだって!」
サシャの予想外の答えにカルムは腹を立てた。
男女の交わりを嫌うサシャにとってサガンの荒ぶる行為は恐怖の対象でしか無いと思っていたからだ。それに怯える彼女を視るのも一興だし、自分が普通であると証明したかった。それがあの獣のような男の方が優しいと言うのだ。

「そんなこと言っていない」
「言っただろう!私が優しく無くって無茶しているからあの男の方がいいって!人がいる前で何処構わず盛るこの野蛮な男がいいって?呆れる!」
「そなただって同じだろう?私の前で恋人達と交わり、先程はサウル殿の前で・・・場所は野外では無かったが執務室だった・・・そなたが言うようにサガン殿とそなたのどこが違うのか分からない・・・」
理路整然と真っ直ぐな視線でサシャから言われたカルムは言葉が出なかった。

「お、同じなら!あの男と私とならどちらがいい?」
カルムは自分の質問に内心呆れながらも思わず言ってしまった。

その問いにサシャは珍しく戸惑った。こんな事を聞かれるとは思わなかったが何を基準に答えれば良いのかと悩んだ。

「その・・・それは何を比較するのか?」
「抱かれて良いのはどっちだと聞いている!」
カルムは苛々と答えた。馬鹿らしい質問だと呆れながら・・・

「・・・どちらも嫌に決まっている」
「気持ち悪く無かったって言っただろう?気持ち良かったとも言った筈だ!」
カルムは再び無駄な問答を繰り返した。

「好き嫌いは別だ・・・気持ちが良いから好きだという答えになどならない」
「この、頑固者!ほらっ、サシャ!あの二人をご覧!何も感じないか?」
見たく無いと言うようにサシャが顔を背けたのでカルムは彼女の背後に立ち、背けた顔を前へ向かせ固定した。

「見たく無い!放せ!」
「見るんだ!サシャ!目を瞑っても無駄だよ。そんなことしたら私がどうするか知っているだろう?」
カルムは長い爪でサシャの頬を軽く掻いた。執務室の時と同じだ。目を瞑ったのなら目をくり貫くとでも言うのだろう。

「そなたは本当に意地悪だ!目をくり貫くのならそうすれば良い!見たく無いものを見るくらいなら目など見えなくなった方がいい!そなたの理想の玩具は目が見えなくても勤まるのだろう!」
サシャは腹が立って思わずそう叫んだ後に、はっとした。

「もしかして・・・そなたの目―――見たく無いものがあるから真剣に治そうと思わないのか?そなたは目のことになるといつも激昂する・・・初めは見えないことに憤りを感じているのかと思っていたが・・・そんなのは見えなくなって直ぐの感情だ。天山でもそういう人々をよく見た。逆に何年も前からの症状ならば諦めているせいもあって怒るよりも悲嘆しているものだった・・・そなたは――」
「黙れ!!私の心を勝手に分析するな!分かったような口を利くな!」
カルムは激昂したが、サシャは凛と立ったままで動じなかった。

「―――ほら、そのように怒る。何をそんなに見たく無いんだ?」
カルムの怒りは滅多に表に出さない一番冷酷で冷淡な顔を引き出していた。全ての感情を無くしたカルムからの答えは無く、天眼の大地を凍らせる大気より冷たい冷気を立ち上らせているだけだった。
しかしサシャは臆した様子も無く、ただ少し首を傾げて、にっこりと微笑んだ。

「猛牙の王子も怒ると瞳が綺麗だったが、そなたはその金眼はもちろんだが何もかもより以上綺麗だ。その藍色の瞳に光りが戻ればもっと綺麗なのだろうに・・・残念だ。それに普通に見える事の喜びよりも見たく無いものの方が勝っているのは本当に悲しい事だな・・・あっ、私もか・・・」
自分も同じだったと、クスクス笑うサシャにカルムは更に黙してしまった。

(喜びより勝る?虹の帯が見たいだの猛牙国に行ってみたいだの興味津々で、私の金眼が綺麗だと溜息ついて見る奴がそれらを見る嬉しさよりも・・・それ程まで嫌う・・・)
視力と天秤にかけてまで嫌うそれを強いているのはカルムだ。嫌がっているのは重々知っていての強制だったが、サシャが嫌々ながらも従おうとしてくれていたのも分かっていた。猛牙国に来て期待通りに激しく抱き合う男女・・・まさかリネアで見るとは思わなかったが・・・
とにかくサシャに男女の交わりを色々見せて慣れさせる良い機会だと思っていた。それなのに最初から挫けそうな展開だ。しかも自分の方が追い詰められた感じがした。

「天眼の御方?どうかしたのか?」
触れるか触れないかのような間近で自分を見上げて覗き込むサシャの視線にカルムは、はっと我に返った。そして何時までもよそよそしい天眼の御方≠ニ言う呼ばれ方が癇に障ってイラついた。

「私の名はカルムだ」
「??名乗らずとも分かっているが?」
「呼び方が気に入らない」
「呼び方??天眼の御方がか?」
カルムが無言で頷いた。その様子が拗ねた子供のようでサシャは呆れたように軽く溜息をついて口を開きかけた時、サガンの呻き声が響いた。

「く、うううっ、おおぉぉっ―――っ」「はぁっ、ああっ・・・・あ、あ、あ・・・」
絡み合っていたサガンとリネアは絶頂を迎えたようだった。
サガンの激しい突きに合わせて腰を振るリネアは背中を反らせ火照った肌は艶めいていた。
衣服からこぼれた乳房が天を向いて揺れている。それがビクビクと震え全身が痙攣したようになっていた。狂暴なサガンのものが彼女の中で爆ぜたのだ。
サガンの身体は硬直し、熱くたぎったものを吐き出していた。それを全部受け息も絶え絶えで四肢から力が抜けて崩れかけたリネアをサガンは支えた。そして未だに深く繋がったまま震えるリネアに口づけを繰り返している。達してもまだまだ終わりそうに無い様子だ。
その幸せに満ち足りたようなリネアとサガンの表情がサシャには印象的だった。

(快楽?嫌、違う・・・そんな表現は合わない・・・あの行為が快楽だと言う天眼の御方はあの二人のようになりたいのかも・・・)
サシャが避けている愛≠ニ言う形をリネアとサガンが体現しているように思えた。
サシャには穢れとしか思えない行為は一般的に愛情表現なのだろうと感じた。
だからこそサシャは本能で天山の禁令以上に頑なに拒絶していたのかもしれない。

しかしそれをただの快楽だと位置づける人も居るのも確かだ。
快楽は堕落の象徴であり忌むべきものだ。カルムは快楽を求めてあの行為をすると公言していた。
だから忌むべき行為でもサシャは甘んじて従ったのかもしれない。
愛の無い行為は穢れ―――穢れは我慢出来る。嫌だと言いながらその行為を許したのがその証拠だ。
本当に嫌ならばレーナに残す心の痛みなど気にせず命を絶てば良いのだから・・・

(そう思った時も何度もあったのに・・・)
何度も死を選んでもカルムによって思い留まっていた。

サシャはカルムのそうした行為にあることを思い立った。快楽だけにこだわるのなら面
倒な自分を何度も引き留める必要も無いのでは無いか?快楽に付き合うのは良いがカルムの本心は愛情を求めているのでは無いか?と、ふと思った。
欲しがっていた玩具は自分の言う事を何でも聞くという類いのものでは無く―――

(自分を一番に想ってくれる・・・自分だけに愛情を注いでくれる人が欲しいとか?)
サシャはそう思い立つとカルムの今まで不可解だった言動の全ての意味が分かって来たような気がした。サシャはカルムの言葉を思い出して、ぞっとした。

カルムは言っていた・・・

『嫌だ、嫌だ、と言っていても女は変わる―――それを恋と言うらしいけれどね』
し自分の考えが正解なら・・・
(私には無理だ・・・理想の玩具になれるように努力すると言ったが・・・愛情など絶対に持てはしない・・・それに変わりたくない)
サシャは自分の考えの甘さを悟った。出来ない約束をしてカルムに期待を持たせてしまったのだ。
サシャは決心をした。これ以上、カルムに期待を持たせないように・・・そして愛すると言う恐ろしいものから自分を守る為に。

「その・・・天・・・いや、カルム殿――」
「カルム殿?」
カルムの冷やかな指摘にサシャは口籠った。

「・・・カルム、そなたが私を好みの玩具に仕立て上げたいのだろうが・・・私には無理だと悟った。だから努力すると言った言葉は撤回するし、妻の義務だと言う閨ごとも断らせて頂く。最初の決め事の通り仕事の補助だけをする。そしてレーナの件も白紙にして欲しい。私がどうにかするべき事をそなたに頼むのは間違っている・・・」
「な・・・」
サシャの突然の拒絶にカルムは言葉を無くした。少し前進だったものが一気に後退したのだ。
「もちろん、そなたが納得出来ないのなら私はこの場で去る・・・いっそ、その方がお互いに良いのかもしれない・・・」
何度かこういうやりとりはあった。その都度、カルムが戸惑うサシャを説き伏せていた。
しかし今回はサシャの意志は揺ぎ無く強い感じだった。
カルムはこのうだるように熱い場所で寒気を感じた。サシャが本気で自分から去ろうとしているのだ。それがこんなに、ぞっとする感覚なのだろうか?と・・・
カルムは今まで経験したことのない感覚に息を呑んだ。

「サシャ!駄目だ!」
カルムはサシャを手荒く引き寄せ抱きしめようとした。しかし、サシャは両手でカルム
を押しその腕の中に収まろうとしなかった。今までに無い強い拒絶―――
「サシャ!」
カルムは彼女の完治していない骨折した手を掴み上げた。

「ぐっ・・・くぅ、砕けばいい。それでそなたの気が済むのならそう・・・しろ・・・あっ!ううっ・・・くっ」
嫌な音がカルムの手の中でした・・・サシャの指が全部砕けた音だった。
怒りで我を忘れたカルムが加減無く力を加えてしまったのだ。
レーナの悲鳴でカルムは我に返った。そしてリネア達も動きを止め振り向いた。

「サシャ様!サシャ様!」
「くっ・・・騒ぐな、レーナ。何でも無い」
「何でも無いなんて・・・酷い・・・サシャ様をお放し下さい!」
「カルム!何をしているの!」
リネアが様子のおかしいカルムに近寄ろうとするとサガンが止めた。そして自分がカルムからサシャを引き離した。

「お〜お、見事に全部折れたな。神経もズタズタ・・・これじゃあ〜治っても指は動かないだろうよ。いっそ切り落としてしまった方が痛まないし治りも早いから切ってやろうか?」
サガンの恐ろしい提案にレーナが真っ青になって悲鳴を上げた。

「馬鹿!止めなさいよ!全く極端なんだから!貴方は黙っていて!それよりもそれを早くしまいなさいよ!」
リネアはサガンの再び硬度を取り戻して反り返っている昂ぶりを指差した。

「ちっ、なんて女だ!今の今までこの俺様のこれで気持ち良さそうに喘いでいたくせによ!」
サガンは、ブツブツ言いながら衣服を整え始めた。

「どうしたの?カルム。貴方らしくないじゃない」
呆然としていたカルムが小さく笑いだした。

「く、くくっ・・・私らしくない?リネア、私のことを良く知っているような言い方だね?」
「カルム・・・貴方・・・」
「そうだね・・・私らしく無いね」
「そ、そうよ・・・」
「違う!こんな癇癪、実にそなたらしい」
サシャの凛とした声がカルムとリネアの会話に割って入った。

「全く・・・いつもの事とは言え少しは加減しろ!やった後、後悔でグダグダするんだからな!」
「なっ・・・」
リネアは驚いて黒曜石のような瞳を見開いた。カルムが駄々を捏ねたりするのは見ても、癇癪を起こすのは見た事無かった。いつも?と聞けば驚くしか無い。

「私は大丈夫だ。何ともない。気にするな・・・そなたは大丈夫か?」
あの時と同じだった―――
サシャが以前指を折られた時も折ったカルムを心配していた。今回はもっと酷い状態でかなり痛い筈だ。それなのにまた加害者のカルムを気遣っているのだ。

カルムは息を呑んで呼吸するのも忘れてしまった―――



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