天人の囁き22



「サシャ様!レーナ!」
若い男の声にサシャとレーナは足を止めた。
猛牙国でも開拓され人々が行きかう賑やかな町中を案内していたリネアは条件反射で身構えた。しかし呼ばれた二人の表情を見て緊張した身体の力を抜いた。

「兄さん!どうしてここに?」
レーナは声を弾ませて自分の名を呼んだ男に駆け寄った。

「リネア殿、あの者はレーナの兄ユハだ。天山の守備隊長をしている。怪しい者では無い」
リネアが聞く前にサシャが答えた。

(天山の守備隊長・・・そんな人物がどうしてここに?)
リネアは散策しながらサシャの生い立ちやカルムとの出会いを聞き出していた。
サシャは普通の娘では無いと思っていたが・・・リネアはこれからも恐らく会うこと無いような世界の人種だった。天山信仰は耳にしていたが力弱き人々が最も恐れる病気や怪我を治してくれる奇跡は人心を魅了するだろうと思っていた。その頂点に立つ候補だった人物となれば希少価値の宝石のようなものだろう。その人物をカルムが間違って犯し、こんな状況になっているのだから厄介な問題だろうとリネアは思った。
その天山の関係者がこんな場所に?となれば・・・

「追っ手なの?」
「追っ手?天山でそのようなものは無い・・・それに天眼の御方が結婚してくれたのだから禁令に問題は無い・・・」
サシャは問題無いと言いながら少し不安が過った。
結婚は今のところ続行中だ。しかし、心が伴わないものは禁令違反にならないのだろうか?と思ってしまった。簡単に思っていた結婚は思っていたより大変で、形式だけでは無く一番関わり合いたく無い心が重要な感じだった。

禁令に違反したものの処罰はその内容によって異なるが一番重い罪は淫行罪だ。
掌中の珠のように育てられたサシャはそれに違反した者達の処罰を実際見たことは無かった。罪を悔いて自ら命を絶つのが当たり前だと思っていた。
もしそれを実行しない場合・・・どうなるのかなど考えた事が無かったのだ。
レーナがどうしてここに?と訊いたのも頷ける。
警備の者は天山の治安を守る者だ。それは外敵からもだが内側では禁令違反者への懲罰隊でもあった。内側と外側を守る実行部隊―――それがユハの仕事だ。

突然現れたユハは水晶宮への侵入を手引きして貰える予定だった商人からサシャが猛牙国へ行くとの情報を入手したのだ。カルムが猛牙国行きの衣服をその商人に注文した事から分かったものだった。どの国でも天山に協力してくれる者たちはいた。
ユハが一足早く到着していたところに思いがけず、サシャと妹レーナを見かけたのだ。

 ユハはサシャに会う前はどんな顔をして会えば良いのかと悩んでいた。
聖なる巫女姫が純潔を失いその地位から堕ちどう変わってしまったのか・・・
命の恩人であるサシャに報いる為、ユハは子供の頃から大人に混じって血の滲むような努力をした。全てはサシャの為・・・
サシャが座す天女の聖殿を守る長官になって一生涯、彼女を守りたかったのだ。
それがこんな事になってしまって・・・サシャを穢した男が天眼の王族だろうが八つ裂きにしても憤りは収まらないもの
だった。
戸惑うユハが見たサシャは変わる事無く天殿に湧き出る泉のように清らかだった。
ユハは天山のドルイドから受けた細やかな指示も忘れ叫んでしまった。

「サシャ様!お迎えに参りました!天山にお戻り下さい!」
ユハの大きな声に行き交う人々は何事かと一瞬動きが止ったが気にするようなものでは無いと思ったのか直ぐにざわめきが戻った。

サシャはその間、黙したままだった。
ユハは返事を待てず、口を開きかけた時、サシャが声を発した。

「ユハ、それは出来ない。私は巫女としての資格を失ったのだ。戻れる筈もなかろう?」
サシャは無表情だった。悲しんでいる様子でも無く、怒っている訳でも無かった。
ただ淡々と喋っていた。

「いいえ!サシャ様!それが戻れるのです!穢れを浄化する秘術があるとドルイド様が仰いました!だから直ぐに迎えに行けと命を受けたんです!」
ユハの驚く情報は流石にサシャの表情を変えた。瞳を大きく見開き息を大きく吸って止めていた。側にいたレーナは歓喜の声を上げ飛び上がった。

「サシャ様!サシャ様!直ぐに帰りましょう!」
(男を知らない娘は単純ね・・・要するに浄化って肉体関係を無かったことにする訳でしょう?出来る訳ないじゃない)
リネアは嘲笑しそうになるのを堪えるのに苦労した。そしてサシャがどう答えるのか興味津々だった。面倒な事に関わり合いたく無いがカルムが保護を決めている彼女を無視は出来ない。取りあえず大人しく様子を伺うことにした。

サシャの心の中では驚きと喜びが交差し・・・そして何故か少しだけ戸惑いと躊躇いが心の片隅にあった。

「全部・・・無かった事になるのか?」
サシャは声に出すつもりは無かったが思わずそう呟いてしまった。

「そうです!サシャ様!全ては無かった事です!悪い夢だったのです!貴女は再び天人達の声を聞き、多くの人々を救う巫女姫に戻るのです!さあ、一刻も早く天山に戻りましょう!」
ユハもレーナもサシャが帰るのは当然だと信じて瞳を輝かせて急かした。

(無かった事になる・・・)
それはサシャにとってとても嬉しい事なのに思い出すのはカルムから刻まれた甘い痛みと痺れだった。雷にでも打たれたかのような痺れが両手両足の指先まで走った・・・
心では否
定し続けた行為。だからもう二度としたくないからカルムから離れようとした。それが死を意味するとしてもしたくなかったものだ。それなのに信用出来ないカルムのもう二度としないと言う申し出を受けた。それを受けたら駄目だと心の中では警笛を鳴らしていたのに・・・カルムを振り切ることが出来なかったのだ。
これで完全にカルムと別つことが出来、元通りの生活に戻れるのだが・・・
サシャの脳裏には今まで見たものの中で一番綺麗だったカルムの天眼を開いた姿が、チラついて直ぐに返答出来なかった。

(寂しくて・・・優しい人だが・・・私が居なくなっても困ることは無いだろうが・・・恋人達も沢山いるし、兄妹も・・・でも・・・恋人達には表の顔をしていた。心許して無い感じだ・・・天眼の王にもリネア殿にもあの人より大切な人がいる・・・)
サシャは大丈夫だと言う理由を付けながらそれを否定した。

「サシャ様?」「サシャ様?」
ユハとレーナから呼ばれたサシャは自分の思いから、はっとして戻った。

「すまぬ。考え事をしていた。ユハ、直ぐに帰ることは出来ない」
「どうしてですか!」
「そうですよ!サシャ様!」
「レーナ、天眼の御方に断りも無く勝手は出来ない。事情はどうであれ私達は婚姻しているのだから・・・約束もあるし、世話になったままでは心苦しい・・・」
「世話にって・・・そんな・・・だいたい、あの方が悪いのでしょう!もちろん、ウッラが一番悪いのでしょうけれど、サシャ様は十分お返ししました!あ、あんな無体なことされて・・・あの方は十分サシャ様に世話になった代価以上の事をされたと思います!お可哀想なサシャ様・・・」
ユハは妹の含む言い方の内容を察して怒気を露わにした。
サシャを見ればそれと分かる赤い痕が肌の至る所に刻まれている。手首には縛ったような痕も見えた。変わらない清涼な気を放つサシャだが今までに無い色香を感じた。
以前より紅く染まっているような唇を目に留めた時、ユハは下半身が、ズクリと疼いてしまった。
その紅を引いたような唇が開いた。

「レーナ、そなたはユハと先に天山へ帰りなさい。私は天眼の御方と話し合おうと思う」
「そんな!それなら私もご一緒します!」
「オ、オレも!」
駄目だとサシャは首を振った。

「天眼の御方は心眼だから、そなた達の心を読んでしまわれる。こちらの一方的な事情ばかり押し付けていたのだから誠意を持って私は話をしたい。そなた達が敵意むき出しでは失礼だから・・・」
ユハは心眼と聞いて、ぞっとした。話に聞くその能力は気味の悪いものだった。

「その方が良いと私も思うわ。カルムって昔からモノに執着しないし、去るもの追わずなんだけど、結構あなたの事、気に入っているみたいだし・・・いきなりそんな話をしたら意地になって離さないかもよ」
リネアがようやく口を開いてサシャに同意した。
リネアを先ほどから何者だ?と思っていたユハにレーナが教えていた。

「天眼の男の妹?」
ユハは、はっとした。猛牙国の悪名高い王子と天眼国の王女の婚姻は、近隣諸国を恐怖に震わせたばかりだ。結びつく可能性の無かった両国が、これで暗黙の同盟を結んだようなものだからだ。

(彼女も敵か?)
「クスッ、敵でも味方でも無いわ」
ユハは心を読まれ、ギクリとした。リネアの天眼が開いていたのだ。

(し、心眼?)
リネアはユハの恐怖に引きつった顔を見て、ニッと微笑んだ。

「私はカルムに関わらないの。恋人が嫉妬するから関わり合いたくないと言うのが本音ね。だから、ゴタゴタは此処でして欲しく無いわね」
「すまない。リネア殿・・・迷惑はかけないようにするが少し聞きたいことがある」
「私に?何かしら?帰ってからでも良いかしら?」
頷くサシャの手をリネアは掴んだ。瞬間移動をするつもりだ。

「ユハ、レーナを頼む」
「サシャ様!」
ユハの目の前でサシャの姿が消えた。

「瞬間で違う場所に移動するのよ・・・恐ろしい力。兄さん、あの人達は私達の想像を超える力を持っているのよ」
「サシャ様を助けに行く!」
「駄目よ、兄さん!迂闊に行ったら殺されるわ!サシャ様はあの方が優しいと言うけれど私は恐ろしかった。何でも見透かすし、ぞっとするくらい綺麗な顔で見下ろされたら・・・もう恐ろしくて顔を上げられなかった。サシャ様はまるで・・・公開懲罰を受ける巫女のようだったのよ」
「公開懲罰・・・サシャ様が・・・」
レーナから飛び出した証言にユハが絶句してしまった。

公開懲罰―――
これは天山にいるものなら誰でも知っているものだがサシャだけはドルイドの計らいで内容まで知らなかった。巫女の一番重い罪・・・淫行罪は死罪だ。
その死罪は自決では無く処刑だった。しかもそれは見るも無残なものとなる。
ユハ達のもう一つの仕事は懲罰だからもちろん彼もこれを実行していた。

その内容とは・・・罪を犯した巫女は自決を許されず、全裸で両手両足はもちろん縄で身体を縛られ処刑場の天井から吊り下げられる。そして次から次へと懲罰隊から犯されるのだ。それは昼夜問わず何日も続くものだった・・・罰は同質のものでするのが天山のやり方だ。処罰を受けた巫女の最後は気がふれて死ぬか、運が良いものはその前に散々放たれる精液を呼吸器官に詰まらせ窒息してしまうか・・・いずれにしても屈強な男たちに犯される様を見せられる若い巫女達は恐怖するものだった。
懲罰を与える隊員達の中には喜んでするものも多いがユハは嫌悪していたものだ。
罪深いとは言っても処罰されるのは巫女だけで相手の男は無罪放免なのも疑問視していた。自分がまだ下っ端な頃、先輩の中には妻子がいるのに巫女を誘惑して罪を犯させ、それが露見すると被害者面をして自分は高みの見物をしていた卑劣なものもいたのだ。
その処刑にユハは初めて参加させられた。とてもそんな気分になれないのに先輩達は嗤い、下を向く肉茎を宙釣りになっている哀れな巫女の身体に擦りつけられ、無理やり屹立させられた。囃し立てられながら気持ちとは反対に固く勃ったもので、女を初めて貫いたことは忘れられない記憶だ。
縄の軋む音と目の前で揺れる白い柔肌、女の喘ぎ過ぎて潰れた声と、ビチャビチャと響く淫猥な粘着音が長い間耳から離れなかった。そしてそれから何度もそんな苦い経験はあった。しかし、ユハが隊長になってからは規律を厳しくし隊員からの不祥事は無くなり、最近ではその処刑は行われていない・・・

「サシャ様はそれで?どんなご様子だった?」
「サシャ様はご立派だったわ。気がふれてなんか無いし、どんな無体な事をされても、いつもと変わらずシャンとされていて・・・」
ユハはそれを聞くと胸の奥から、ドロドロとした黒いものが溢れて来るようだった。
ユハが神聖視していたサシャは触れてはならないものだ。それを只の女に堕落させただけで無く、今もその男の醜い欲望を彼女に穿っているのかと思うと、怒りと言うより嫉妬に狂いそうだった。

「こんなことになるくらいならオレが・・・」
「何?兄さん、何て言ったの?」
思わず本心を呟いてしまったユハはレーナの問に、はっと我に返った。

「い、いや!何でもない!いずれにしてもこんな状況ではこれからどうすれば良いか、ドルイド様に連絡を取って指示を仰ごう」
今はとにかくサシャを天山に連れ帰る事が先決なのだと、ユハは膨れ上がった想いを沈めると踵を返したのだった。



一気に長距離を瞬間移動したリネアとサシャだったが、まだ城の手前だった。そこは王族が使う狩猟小屋のようなもので誰もいない。

「城に帰ったら煩いのがいるから此処で話しましょう」
煩いのとは当然サガンの事だ。煩いと悪口を言いながらリネアの声は甘かったのでサシャも誰の事を言っているのか分かった。

「仲が良いのだな」
「もちろん、でも喧嘩もするわよ」
「そして直ぐに仲直りする」
サシャは二人のその仲直りの仕方を思い出して少し頬を染めた。

「あら、可愛い!初々しいのね。ミウちゃんもだけど女の子はそうでなくっちゃ!あっ、ミウちゃんは知っているでしょう?」
サシャが頷いたのでリネアは話し始めた。

「でも彼女なんか最初に会った時、綺麗な人形のようだったのよね。喜怒哀楽の無い寂しい顔をしたお人形さん・・・それがイエランと関わって変わった・・・あ、ごめんなさい!あなたの話しを聞くのだったわね。それで何かしら?」
「聞きたかったのは――」
「ちょっと、待って!やっぱり、私から話しをさせて!あなたは本当にカルムと別れるつもり?どうして?何が不満?カルムは大盤振る舞いで優しいでしょう?」
「・・・感謝している」
「感謝ねぇ・・・あの溜息が出るような顔と、美しくしなやかな体躯で抱かれて何とも思わなかった?カルムは綺麗でしょう?」
リネアに言われる必要も無いくらいにさっきから何度も思い出していた。
カルムはサシャを激しく揺らし貫いている時も美しくそして力強かった・・・
サシャはその残像を払うかのように頭を振った。

(まただ!私はどうかしている!それが嫌だと言うのに!)
「ねぇ・・・どんな感じだった?カルムに抱かれて・・・」
リネアは何故こんな事を訊くのだろうかと思った。
もしかしてカルムにまだ未練があるのだろうか?と、ふと思いサシャはまた胸の奥に針が刺さったかのような痛みを覚えた。

「き、気持ち・・・悪かった・・・」
サシャは何とか答えた。それが本心だと信じての言葉だった。

「ふ〜ん・・・そう・・・まあ、いいわ。それで話しって何かしら?」
サシャは気持ちを切り替えようと深呼吸をして話しを切り出した。

「天眼の・・・いや、カルム殿が視力を治さない理由が何か知りたくて・・・瞳が治るのなら私は不要となる。だからその原因を取り除けば――」
リネアが首を振ったのでサシャは言葉を途切らせた。

「カルムの瞳は根が深いわ・・・無理な話ね」
「原因を知っているのか?」
「何となくね・・・あなたに教えても何も出来ないわよ。私もイエランも・・・どうすることも出来なかったのだから」
「・・・母親から瞳を潰されたと聞いた・・・」
リネアは驚き、思わず声を上げそうになった。

「カルムは自分で話したの?」
サシャは何故リネアがそんなに驚くのだろうか?と思いながら頷いた。

「そうなのね・・・カルムが自分から話すなんて驚いたわ。絶対にそんな弱さを他人に見せようとしない人だから・・・カルムが本当に心を許しているのね・・・もしかしたら私達よりも・・・」
リネアの最後の方の言葉は小さく聞き取れなかった。
サシャは聞き返そうといたがリネアが話続けたのでそのまま黙って耳を傾けた。

「心眼を恐れての凶行なら天眼を潰せば良いのに力に関係無い瞳をどうして?と思ったわ。でも考えたらカルムは天眼を閉じていても表層意識ぐらい簡単に読めるのよ。視力があれば顔の表情も見られるから尚更ね。母親にとっては恐怖の対象だった―――カルムの母親は今も生きているのよ。そうじゃないわね・・・カルムに生かされていると言うのが正しいかしら」
「生かされている?」
「そうよ。カルムの母親は夫である王の愛を繋ぎ留められず嫉妬に狂って最後には精神崩壊を起こしかけてしまった・・・普通なら可哀想にと田舎で療養させるでしょうけれどカルムの母親は残念ながら心眼者だったの・・・」
「心眼者だと悪いのか?」
「そう・・・最悪。心眼者が精神崩壊を起こすと周りに影響が出るのよ。それこそ具合が悪くなるものや悪ければ同じく精神崩壊を起こすか無気力になって自殺してしまう・・・だから心眼者は直ぐに安楽死させるか身分のある者なら影響の出ない遠隔地の何十にもの厚い壁に覆われた窓一つない牢獄のような場所に死ぬまで幽閉されるのよ。それをカルムは法で禁止されている精神干渉をして母親の精神を安定させているの」
「精神干渉で治るのなら何故、禁止する?」
「簡単に言ったけれどそれはとても難しいのよ。精神構造を例えるなら何十にも張り巡らした蜘蛛の巣のよう・・・迂闊に触れれば引っ付いて剥がそうとすると網目を崩してしまう。それは取り返しのつかない結果となる場合が多いのよ。廃人にしてしまうか精神崩壊のどちらかね。いずれにしても殺してしまう結果になるから禁止されているの。崩壊しかけたものに干渉するなんて神業に近いわ・・・でも、それでも完璧では無いから定期的な処置が必要みたいでカルムは否応無しに母親と会っているのよ。多分、あなたが出会ったのはその帰りね・・・カルムの母親は国境の小離宮に住まわせているから」
サシャは愛する妻を失って嘆いていた男の事を思い出した。カルムは母親を愛しているのだろうと思った。

「母親に疎まれている瞳は療養中の母を刺激しない為というのも一つだろうが・・・要するに一番の原因は・・・母親にさえ疎まれたものは他人ならもっと嫌うだろうと思っただろうし、心底、自分が心眼だというのを嫌っているのだろう?少しでも力が弱まるのなら盲目のままが良いという訳か・・・確かに根本がそれならその気にさせるのは難しいな・・・流石に心眼は失くせないだろうし・・・精神的に疲れるから他人に関わりたく無い。でも・・・関わりたい?」
「あなた・・・本当にカルムのこと良く分かっているのね・・・驚いたわ。そうなのよ。困った事にカルムは寂しがり屋。だから浅く広く付き合うけれど実際は他人を心の奥まで踏み込ませない。私もイエランもその近くまで行っているのだけれど・・・まだまだ遠かったのだと今日・・・実感したわ・・・カルムの近くに長年いたのに今まで私は何やっていたんだろうと悲しくなったわ・・・」
「悲しむ事は無い。貴女や天眼の王が一緒に居たから今まで寂しく無かったのだと思う」
「・・・そうかしら・・・そうだったのなら良いのだけれど・・・じゃあ、今は私達の代わりにあなたがカルムの寂しさを紛らわせているのかしら?沢山いる恋人達とは随分違う感じだし」
「私が?――そなたらと少し違う。私に心眼が効かないから楽なだけだ。ただそれだけだ・・・いずれにしても瞳を治癒させるのは困難だと言うことか・・・」
「そうよ。その手は諦める事ね。どうするつもり?天山に帰るの?帰ったとしてもあの馬鹿みたいな話しは全く信用出来ないわよ」
「そんな事は無い!わが師ドルイドは嘘言わない!」
サシャも心の片隅では疑っていた。だから尚更それを打ち消すように大きな声で否定した。穢れを払うにしても経験したから分かるものだが身体の隅々まで刻まれたようなものが浄化出来るとは思えなかったのだ。サシャは思わず自分自身を強く抱きしめた。
その様子をリネアは無言で見つめた。

(カルムは相手にこんな痕を付けるような抱き方はしなかったわ・・・やっぱり何時もと違う・・・サガンの勘は正しいのかしら・・・)
リネアはサシャの肌のあちこちに残る情事の痕に視線を留めながらそう思った。

「まぁ・・・いずれにしても私には関係無い話しね。もうこれで話しは終りかしら?」
「帰る前に、もうひとつ訊きたいことが・・・」

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