これは「盟約の花嫁」のページにある「魔法の涙」のR18版です。ストーリー展開は同じですがラブシーンの表現が違います。以前の「魔法の呪文」はR15ぐらいで留めてましたが今回はバージョンアップです(笑)


アランとの婚礼を控えたイレーネの下にナイジェルからの書簡が届いた。
イレーネを気遣って時々届くそれをアランは未だに良い顔はしない。
そしてそれが届けられたのはアランがいつもの様に政務の合間を縫ってイレーネを訪れている時だった。いつも彼女に纏わり付いている息子のレミーは昼寝中で邪魔されず上機嫌で幼い子供のようにイレーネに纏わりついていたアランが、瞬く間に不機嫌になってしまった。
そしてそれを届けに来た書簡係りを睨んだ。

「何の用だ!」
「イ、イレーネ様に・・・しょ、書簡をお届けに・・・」
不渡りを無くす為に書簡は王宮の係官が直接本人へ手渡しするのが決まりだった。
いつものように届ける筈だったのだが・・・何故、王が怒っているのか検討が付かなかった。
係官は手に持っていた見事な細工の文箱をカタカタと震わせて答えた。

それは、ひと目見ただけでそれがデュルラー帝国の皇帝ナイジェルからだと分かるものだった。
イレーネの元夫・・・夫婦とは名ばかりだったとしてもその肩書きだけでアランの嫉妬心が疼いてしまう。

アランはフンと鼻を鳴らして、イレーネより先にその文箱を取り上げてしまった。

「あっ!」
思わず取り戻そうと手を伸ばした係官だったが・・・アランから睨まれてしまい伸ばした手は宙に浮いたまま硬直した。

「陛下、それはわたくしの文でございます。係りの者が驚いております。どうぞ、わたくしにお渡し下さいませ」
イレーネはアランの乱暴な行為を嗜めるように言った。
するとアランはムッとしたまま文箱をイレーネの胸に押し付けて来た。
それを受け取ったイレーネは微笑むと立ち尽くしている係官に優しく声を掛けた。

「ご苦労様、確かに受け取りましたからお下がりなさい」
ほっとした係官が深々と礼をして去って行くのを見送ったイレーネはふて腐れているアランに微笑みかけると文箱を差し出した。

「どうぞ、陛下からお読み下さいませ」
「いい!」
「気になられるのでしょう?わたくしは構いませんので、どうぞご覧下さいませ」
イレーネはアランが未だにナイジェルに嫉妬しているのを知っている。それが少し嬉しいと思ってしまう自分がいることも・・・

意地を張って受け取らないアランの前でその文箱は開けられた。
見ないのなら目の前でそれを読むしかない。イレーネは書紙をパラリと開いて目を通し始めた。
見慣れたナイジェルの流れるような文字が目に入り、そしてアランが熊のようにウロウロとしているのが目の端に映った。
イレーネは心の中で、クスリと微笑みながら読み進んだ。しかしその内容に目を見張ってしまった。

「まぁ・・・大丈夫かしら・・・」
「どうした!何が書いてあったんだ!」
イレーネの悲痛な声を聞いたアランが飛んで来た。そしてその書面に目を走らせる。
内容はツェツィーリアが流感をこじらせて療養しているから結婚式に出席出来ないとのことだった。
ナイジェルもそんな彼女を残しては行けないという詫び状だった。皇帝夫妻の欠席という公的な書簡は別に届けるらしい。

「ツェツィーは我慢強い子だから無理したのでしょうね・・・陛下もお心痛めていらっしゃるでしょう・・・心配だわ」
妹のように可愛がっていた元侍女を心配するのは分かるが、ナイジェルを心配するイレーネにアランは無償に腹が立って来た。

「奴の何が心配なんだ!病気なのは女の方だろう!」
アランの怒った声にイレーネは、はっとした。嫉妬してくれるのが嬉しいと思っていても怒ってしまうのは悲しい・・・イレーネは眉をひそめると憤慨するアランを見上げた。

「わたくしも貴方様がご病気になられたら心配で夜も眠れません・・・ですから同じようにナイジェル様のご心痛を思ったのでございます・・・」
「むむむっ・・・」
アランがもしそうなったら・・・と言う件は嬉しい。だからと言ってもう関係ない男の心配するのがやはり許せなかった。イレーネを、グイッと抱きしめ口づけした。
とにかく腹が立って仕方が無いアランは憂さを晴らすかのようにイレーネにその気持ちをぶつけた。
押し当てられた熱い唇―――息を呑んだイレーネの薄く開いた唇に柔らかく濡れた舌が触れ、それが強引に割り込んで来た。歯列を割られ舌を絡み取られたイレーネは震えた。

「ん・・・・・・っん」
蠢く舌から吸い取られて行くように四肢の力が抜けて来るようだった。イレーネは足に力が入らず膝が震えた。深く差し入れられた舌がぐるりと口内を掻き回す。
その何とも言えない心地良さにイレーネは思わずその舌を追い掛けてしまいそうだった。
アランの強引な口づけは未だに慣れない。彼はいつも貪るように唇を重ねる。激しく絡められる舌・・・ちゅくっと唾液の鳴る音がした。イレーネの溢れた唾液をアランが吸ったのだ。

「へ、陛・・下、お、お止・・・め、下さ・ぁ・・んんっ」
口づけの角度を変えられる合間にイレーネは抗議したが、更に深く口づけされて息さえ出来なかった。
しかもはしたなくも床に押し倒されて身動き出来ない。
そしてアランの手がイレーネの胸元を弄り始めた・・・簡単に脱がす事の出来ないドレスだがその布越しでも彼女の尖り始めた胸の頂きを探し当てて来た。そして布地ごとそれを抓みあげられ捏ねられて・・・

「あっ・・・っ・・・」
小さな喘ぎ声を重ねられた唇の端から洩らしたイレーネは身体を震わせた。それを耳にしたアランは口づけを解くと今度は痕が残るくらい首筋を吸った・・・

「イレーネ・・・」
「ア、ラ・・・ンさ・・・ま・・・あっっ・・・」
イレーネの尖った乳首はアランの愛撫に布の中から形を現しだした。そしてアランはその、ぷくっりと浮ぶそれを邪魔な布越しに噛んだ。

「ああっ・・・くっう・・・ん」
イレーネはその与えられた快感に背中をそらした。しかしアランの愛撫は終らなかった。彼の手が侵入しやすい下腹部へと伸びて来たのだ。スカートの裾をまくりあげ足に添ってその手は上がって来た。

「あ・・・そこは・・・あ・・・っ」
容易く辿り着いたそこにアランは慣れた手つきで潜り込んで来ると、動きを制限する下着は瞬く間に膝まで下げられてしまった。

「ア、アラン様・・・お、お止め下・・・さい・・・このような場所・・・あっ・・・」
抗議の言葉は唇を重ねられて止められた。その間に忙しくアランは自分の下穿きを下げ始めていた。
昂ぶる塊が窮屈な服から解放されたがっているのだ。

イレーネはこのアランの人目も場所も気にしない猛々しい愛情表現には中々慣れなかった。それだけ愛されている証拠だと思ったが昔から誰にでもそうだったとも聞き、それこそ醜い嫉妬心が湧いてくる。

「イレーネ・・・挿れるぞ・・・」
アランはイレーネの両脚をぐいっと彼女の腹に折りたたむように押し付けた。しかし下着が膝に留まっているので足が思うように開かない。アランはそれを慣れた手つきで抜き取ったが片方は靴にひっかかった。それでも邪魔するものはこれで無くなり、小さな下着が上げられた足の先で揺れているのを見たイレーネは恥ずかしさに顔を背けた。
そのイレーネの両膝にアランは手をかけ広げると花芯は自分の昂ぶりを受け入れるのを待っているかのように蜜で溢れていた。そしてその蜜を絡めるように自分の肉塊でイレーネの花芯を撫でる・・・

「はっあ・・・あ・・・」
その動きだけでイレーネの下腹部は熱くなり疼き出した。そしてその熱い塊が位置を定めグッと進められると突き上げて来た。

「あっ!・・・ああぁ・・・んんっ・・・あ、あ、あっ」
熱く硬く猛ったものが一気にイレーネの中へ入って行く・・・その何とも言えない感覚と圧迫感にイレーネは激しく身悶え
無意識に腰を揺らした。その動きはアランに伝わったようだった。
「く・・・っ・・・イレーネ・・・」
アランが快感に眉を寄せて口づけした。しかしその時、部屋の扉を叩く音がした。

「陛下、お時間は後・・・五分、いえ十分で宜しいでしょうか?」
戻らないアランを迎えに来た宰相クロードの声が扉の向こうから聞こえた。
今、何をしているのか全て承知したようなその言葉にイレーネは恥ずかしさに身を震わせた。

「うるさい!直ぐ行く!一々時間を区切るなっ!」
アランはイレーネへの口づけを解くと扉に向って怒鳴った。
クロードは中に入って来ない様子だったがイレーネは慌てて押し倒された床から起き上がろうとした。しかし唇は解放されてもアランとはまだ繋がったままでで身動きが取れなかった。

「へ、陛下、おどき下さいませ!もしクロード様が入って来られたら・・・」
クロードの前でこのような戯れは失礼だとイレーネは抗議したかったがまた唇を塞がれてしまった。
そして優しく侵入していた塊をアランは激しく動かし始めた。

「うぅ・・・っ・・・ぁっ・・・んんん」
イレーネはこぼれる喘ぎ声を噛み殺したかったが声を抑えられない。思わず自分の指を噛んで我慢しようとした。

「くっ・・・イレーネ、指を噛むな・・・声を抑えたいのなら俺の指を噛め・・・くっ・・・」
嫌と首を振ったイレーネだったがアランの指が差し込まれた。

「ふっ・・・っぁ・・・んん・・・ん」
イレーネは自分の中で膨れ上がる熱の塊を感じた。
激しく腰を揺すりながら大きな動きでそれを突き上げられる。
イレーネはもうなにがなんだか分からなくなってきた。扉のすぐ外にクロードがいるのも忘れて大きな声を上げそうだった。そして口からアランの指が抜かれると腰を強く掴まれ、今までよりも大きく強く突き上げられた。

「ひっ―――っんん・・・」
イレーネは必死に両手を口に当て声を抑えた。押さえ込まれた両脚が震える。
アランの昂ぶりがイレーネの中で爆ぜ、熱く滾ったものが流れ込んでくるのをイレーネは感じた。

そしてアランがふと、何かを思い立ちクロードに入れと命令したのだ。

入室して来たクロードの呆れたような溜息をイレーネは床上で聞いた。
気心知れた仲とは言っても恥ずかしさで消え入りたい気分だった。そしてアランの爆ぜてもまだ熱い塊がイレーネから抜かれ重そうに揺れた。

「―――陛下、誰もいないからと言ってイレーネ様にそのようなご無体・・・如何なものかと思いますが?」
「うるさい!何処で何をしようと俺の勝手だろう!それに何時もの事だ!イレーネも本当に嫌なら大人しく抱かれはしない!」
「イレーネ様は優しいからですね。しかし高貴な方にはそれなりの礼節を持つべきです。イレーネ様は今までの後宮の女達とは違うのですよ」
「はん!後宮の女達の中にも名家出身者はいた!それこそお前の花嫁候補が何人もいただろうが!どれもこれも由緒正しい娘だったよな?そんな娘でも足を大きく開いて俺をねだっていたさ!」
「陛下・・・もうそれくらいで・・・」
クロードの非難に満ちた声とその視線の先にアランは、はっとした。クロードの視線はアランを通り越してその下に組み敷かれていたイレーネに注がれていたのだ。彼女は声も無く涙していた。

「イ、イレーネ・・・」
「―――はい、何でございますか?陛下」
いつもと変わらない返答だったが、涙が頬をぬらす事無く溢れては目尻に落ちていた。

「イレーネ、何故泣く?どうしたんだ?」
「え?わたくし・・・泣いてなど・・・」
イレーネは無意識に涙を流しているようだった。アランは直ぐにイレーネをすくい起こし抱きしめた。すると溢れた涙は頬を伝って落ちてイレーネは自分が泣いていることに気が付いた。

「わたくし・・・」
「陛下がお泣かせになったのですよ」
クロードは非難の色を滲ませて言った。

「俺が?」
「そうです。昔の女達を引き合いに出されて・・・イレーネ様が気分を害されるのは当たり前でございます。少しはお考え下さい」
クロードの諫言にアランは何も言い返せ無かった。イレーネと比べたつもりは全く無く、クロードへの腹いせに言ったつもりだった。王族でもある彼の神殿が決めた花嫁候補を何人も横から寝取った経緯があった。それよりも何かとイレーネに敬意を払っては構うクロードの言い方に嫉妬したのだ。
絶対に無いことなのにまるで好きな女に言い寄る男のように思えて仕方が無かった。
それでも今回は自分が悪いと思ったアランはイレーネに向って直ぐに頭を下げた。

「イレーネ、すまん!そんなつもりは無い!あんな女達とお前を同じだなんて思った事なんか無い!本当だ!」
「・・・陛下がお謝りになる必要はございません・・・わたくしが贅沢なだけでございます・・・貴方様の昔まで気にするわたくしの醜い心が悪いのですから・・・」
イレーネが嫉妬したのだと聞いたアランはいつもなら大喜びだが今回は少し違っていた。イレーネの涙を見たからだろう。いつも自信に満ち溢れ揚々としているアランが顔を曇らせ何度も謝っていた。

「イレーネ様、気になさる必要はございませんよ。それこそ陛下が女性に頭を下げて詫びる事など一度もございませんでした。貴女様が陛下にとって特別な証拠でございます。そうでしょう?陛下?」
「おっ!クロード!たまには良いこと言うな。その通りだ!誰が泣こうが喚こうが全く気にしない!だが、イレーネは違う。俺がお前を守るんだからな!その俺がお前を泣かせるなんて・・・俺は大馬鹿ものだ!」

アランはそう言って声を張り上げると自分の頭をポカポカ叩き始めた。
驚いたイレーネは慌ててその手を掴んだ。

「陛下、お止め下さいませ!貴方様のお気持ち大変良く分かりました。わたくしはもう気に致しません」
「本当か?本当に本当か?お前は直ぐ我慢するだろう?」
アランは彼女の大丈夫と言うような言葉を直ぐに信じようとはしなかった。
知り合った頃のイレーネはよく平気な振りをしていたからだ。だからいつも彼女の心の中を探るように何度も何度も確かめるのだ。

「ありがとうございます。陛下のお気持ち・・・イレーネ、嬉しく思います」
イレーネはそんなアランの大げさな心遣いが嬉しくても中々慣れなかった。だから返答しながらも、はにかむように微笑んだ。

「うっ・・・だからそんな顔は反則だ!また押し倒したくなるだろうが!」
「そ、そう言われましても・・・」
イレーネの困ったような様子がまたアランには堪らなかった。

「うううっ・・・クロード!」
沸き起こる衝動を何とか抑えたアランは直ぐ目の前に居るクロードをわざわざ大声で呼んだ。
落ち着きの無い主君に呆れながらクロードは返事をした。そして続くアランの重大発言に一瞬言葉を失ってしまった。

「今・・・何と言われました?帝国・・・デュルラーに行くと聞こえたようですが?」
「ああ、言った。耳が遠くなる歳では無いだろう?婚礼の後に行くと言っていた蜜月旅行の行き先変更だと言っているんだ」
「み、蜜月旅行・・・勝手な名前を付けないで下さい。正妃をお迎えになった時の慣例でお披露目を兼ねて王都を囲む三都市を廻るご公務でしょう?只のご旅行とは違います」
クロードは半ば呆れながらも一応意見した。アランが言い出したら聞かない気性だと分かっていても言うのも仕事だ。

「慣例だが何だが知らないが王である俺様が出向いて、なぁ〜んで宜しく、と言わなければならないんだ!前も何だかんだと言って行かされて!今思えば腹立たしい!俺は絶対に行かん!」
「三都市訪問をしたくない理由は分かりました。しかしその代わり帝国に行くと言うのは別問題でございます」
「何の問題がある?」
クロードは大きな溜息をわざとらしくついて続けた。

「それをお聞きになられるとは・・・陛下が婚礼を早めろとのご命令で色々な日程の変更を余儀なくされ、そのしわ寄せが婚礼後に組み込まれています。ですから三都市の訪問の三倍日程を要する帝国へなど行ける訳ございません。陛下がご不在だと困るものも沢山あるのですから無理な話でございます」
「無理だろうが駄目だろうが俺は行く!お前は言われた通り調整しろ!」
「しかし――」
しかし無理だと食い下がろうとしたクロードをアランはひと睨みで黙らせた。
だが、アランの突飛な発言に驚いていたイレーネがようやく口を開いた。

「陛下・・・急にどうされたのですか?もし・・・わたくしの為だとか言われるのでしたらお止め下さい。ご無理をなさってお体を壊されたら大変です」
「ふん!俺が気に入らないんだ!あいつが来ないんじゃ話にならない!見せ付ける事も出来なければ自慢も出来ないなんて腹の虫が治まらないんだ!」
「まぁ・・・そんな」
「・・・もしかして帝国の皇帝陛下がご欠席でございますか?」
クロードは床に投げ出されているイレーネ宛の書簡に目を走らせて言った。
歳の変わらないナイジェルを昔から何かと気にしていたアランだったがイレーネが関わる事で尚更、敵愾心を燃しているようだ。

「ああ、だから乗り込んでやる!」
イレーネはアランを止めなければと思った。自分が気に入らないと言っていてもそれを鵜呑みに出来無かった。ツェツィーリアと会えないのはとても残念だった・・・それが顔に出ていたに違いない。
だからそんな自分の為だけに考えついた事だろうとイレーネは思ったのだ。
それに帝国には帰り難かった。イレーネが国を去り、ようやく噂話も中傷も下火になっているのに再び火をつけるようなものだからだ。今度は隣国の王妃になったと公になればどんな噂が蔓延するかと思うと気が重くなる。察しの良いクロードもそれを心配しているのだろう。イレーネを気遣うように言葉を選びながら反対してくれていた。
しかしアランの説得は難しく、とうとうイレーネは言いたくない胸の内をさらけ出してしまった。

「―――陛下、わたくしが帰りたくないのです。実は・・・実家にもわたくしの結婚は伝えておりません・・・」
アランは目を剥いた。

「なに――っ!親は出席すると言っていただろう!」
それはイレーネの嘘だった。近くなって都合が悪くなったと言って誤魔化そうと思っていたのだ。
ナイジェルとの離婚で散々実家には迷惑をかけていた。誹謗中傷は本人だけでは無く当然イレーネの家にも及んでいたのだ。この慶事も数年後にと言うのなら喜ばしいものだがこんな急にとなれば話は違って来る。

「親に言えないなんて・・・ま、まさか・・・本当は俺と結婚したくないのか?」
「ち、違います!そうではございません!」
イレーネは弾かれたように答えたがアランを真正面から見られなかった。
覚悟した言葉が出て来ないのだ―――

「陛下、イレーネ様のお気持ちをお考え下さいませ」
クロードの助け舟にイレーネは、ほっとして彼に視線を向けたが、アランは目を吊り上げた。

「俺が考えて無いと言うのか!」
「ええ、浅慮だとしか思えません。まあ・・・陛下から見ればどうでも良いことでしょうし今まで気にも留めることは無かったでしょうからですね・・・」
「ぐだぐだ言わずにハッキリ言え!」
クロードの回りくどい言い方に苛々したアランは怒鳴った。

「確か・・・イレーネ様は帝国に居場所が無かったと・・・陛下は仰っていましたよね?居場所が無いとは居心地が悪い。居心地が悪い原因とは?―――ここまで言えば陛下もお分かりでしょう?」
「っ・・・・・・」
「人と言うのは栄華を極めた者が転落した様を見るのは楽しく、何かと噂して騒ぎ立てるものです。その標的だったイレーネ様が再び・・・となれば・・・それは妬みとなるでしょう。しかもこんなに短期間での事ならもっと不名誉な言葉で飾られるものです」
アランの瞳が紫に燃え上がった。彼は怒ると青紫から鮮やかな紫に変色する。それはイレーネが昔憧れたナイジェルの瞳と同じ色だ。しかしそれが原因でアランが誤解したこともあった。
久しぶりに激高する恋人のその瞳にイレーネは思わず魅入ってしまった。

(ナイジェル様の瞳は冷たく凍るような色だった・・・)
アランのこの瞳は熱く滾る感じで同じ色でも全然違うとイレーネはいつも思う。それに最近ではこんなに怒る時は決まってイレーネの為だ。そう思うと怒っているのにイレーネは胸が熱くなり頬が染まってくるようだった。

「許さん!俺のイレーネにとやかく言う奴らは根こそぎ首を刎ねてやる!」
以前もイレーネを中傷している話を聞いて同じような事をクロードに言った。

「舌を抜いてですか?しかし他国でそのような事は出来ませんでしょう?婚礼が性急過ぎると何度も申し上げましたのは周囲のこのような感情を憂慮していたのです」
確かにイレーネをレミーの教育係として来て貰ったのに、周りは帝国から追い出された皇后がアランを狙っていると言うような噂が立っていた。今はもうそんな事を言う者は周りにはいないが・・・帝国では旬な話題となってイレーネを傷付けるとクロードは言っているのだ。だがアランは納得出来なかった。

「隠す必要なんか無い!こうなったら婚礼前に乗り込んで堂々と公にしてやる!俺がどれだけイレーネを愛しているのか!どれだけ苦労して口説き落としたのか!公言してやればいい!」
怒りを収めそうにないアランにクロードは諦めの溜息を小さくついた。そして彼の頭の中で日程のやり繰りが計算され始めた時だった。遠慮がちに扉を叩く音が聞こえた。

「申し上げます。イレーネ様宛ての書簡をお持ち致しました」
「はい、どうぞお入りなさい」
優しいイレーネの声に扉の外では安堵した様子だった。先ほどの係官だろう。おずおずと入ってイレーネに再び豪華な文箱を渡した。それはもちろん、ナイジェルからのものだと一目で分かるものだった。

「今度は何だ!」
アランは目を吊り上げて怒鳴った。そして今度はイレーネの横から覗き込んだ。
その内容とは―――



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