リリーの家には訪問の旨を先に連絡していたが両親達は半信半疑で待っていたようだった。
娘からの手紙にはいつも信じられない事ばかりが綴られ、故郷を離れた寂しさに頭がおかしくなったのかもしれないと疑っていたぐらいだ。しかも相手はオラール国王の従弟。
そんな生粋の王族でしかも役職は筆頭宰相だと言う・・・これが本当なら可愛い娘に目をつけた変態男に違いないと悪く、悪く考えていたのだが・・・
しかし、リリーと寄り添って現れたクロードを見た両親は腰を抜かして驚いてしまった。

「あわわわわ―――っ」
もう言葉にならない。正しく非の打ち所の無い完璧な貴公子にもう只驚くしか無かった。

「お、お父さん!お母さん!」
リリーが慌てて駆け寄って助け起こそうとしたが、それより先にクロードが父親を助け起こして家屋に入り椅子に座らせると、次に母親を助け起こしてくれた。

「ありがとうございます。クロード様・・・お手数おかけしまして申し訳ございません・・・」
リリーは恥ずかしくて消え入るような声で謝った。そして恨めしく両親を見るとまだ二人はあんぐりと口を開けてクロードを見ているだけだ。
クロードはある程度、両親の反応を予想していたが此処まで驚かれるとは流石に思わなかった。
自分がまるで珍獣にでもなった気分だ。そして余り経験のない平民への挨拶・・・もちろん結婚の挨拶は初めてのクロードは珍しく戸惑った。

「・・・驚かせてしまったようで申し訳ございません。クロード・セゼールと申します。この度、リリー嬢と結婚させて頂きますのでご両親様にご挨拶に伺いました。今後共、宜しくお願い申し上げます」
丁寧に挨拶をするクロードに先に正気を取り戻したのは母親だった。
慌てて立ち上がり深々と頭を下げた。

「こ、こちらこそ!このような場所にまでわざわざお越し頂いて!申し訳ございませんでした。本当に、本当に、申し訳ございません!」
何度も頭を下げる母親に困ったクロードはリリーに助けを求めた。和気あいあいの雰囲気になって来た所で、呆けていた父親が大きな音を立てて立ち上がった。
「だ、駄目だ!リリー、結婚は許さんぞ!」
「お父さん!」「あ、あなた・・・」
母親が夫の腕を引いて止めたが父親はそれを払いのけた。

「駄目だ、駄目だ!リリー!何を考えている!身分違いもいいところじゃないかっ!お前は何処に出しても恥ずかしくない娘だ。この家もそれなりに商売は繁盛していて裕福な方だと思う。だがそんな比較にならない別世界の人間と一緒になって幸せになれるわけない!頭を冷やせ、リリー!」
リリーはまさか反対されるとは思わず言葉を無くしてしまった。
父親は頑固者で言い出したら絶対に引かない。その頑固な父親は子を思う親の顔から有利な話しを取りつける商人の顔になっていた。

「セゼール様、申し訳ございません。貴方様に何の落ち度も・・・まして不足などございませんがこれは無かったものとしてお帰り下さいませ。貴方様でしたらもっと相応しいご令嬢が見付かることでしょう・・・」
リリーのこぼれそうな瞳に涙が浮んだ。それは父に言われるまでも無く自分が何時も思っていた事だ。それを改めて肉親から言われると心が痛んだ。だから嫌だと言う言葉が直ぐに出なかった。
クロードは昨日も関係無いと言って優しく抱いてくれた―――

『リリーはリリーなのだから身分なんて・・・関係ない・・・リリー・・・くっ・・・リ・・・リリー』
クロードはリリーの小さな身体に己の熱く脈打つ塊を深々と穿ちながら何度も言い聞かせるように囁いた。頬を寄せられ胸と胸がぴったりと合わるくらい抱きしめられているのにクロードの腰だけが激しく上下して動いている。
熱く硬く猛ったもので、グイグイと突き上げられながらリリーはその囁きを聞いていた。
しかし返事出きる状態では無かった。こぼれる言葉は喘ぎ声にしかならない。

『あ、あっああ・・・んっ・・・あ・・・』
『リリー・・・っ・・・大丈夫だから・・・く・・・』
何度も安心させるようにクロードは呟いてはそれを刻むように力強く突き入れる。
『ク、クロード・・・さ、まっ・・・んん、あッ、や・・・』
クロードの熱塊がリリーの中で更に膨らんだが激しい抽挿をピタリと止めた。
リリーは動きが無くなった分繋がった部分でクロードの脈打つ塊を感じ総身が震えた。

『ク・・・クロードさ・・・ま?』
快感に瞳を潤ませたリリーの目尻にクロードは口づけを落とした。

『リリー・・・可愛いリリー・・・』
『クロ・・・あ、ああぁ・・・ひっ・・・あ、あ・・・』
止まっていた動きが急に再開して激しい抽挿がリリーの身体を大きく揺さぶり始めた。
リリーはその強烈な快感に仰け反り、泣きじゃくるような声を上げると同時に自分の中で熱く滾るものがドクドクと余す事無く吐き出されるのを感じた・・・

『ああ・・・っあ・・・ん』
全身に広がる快感に震え幸福感に満たされる・・・


そんな風に不安でも抱かれていると心が軽くなり大丈夫だと思うのだが・・・現実は違っていた。
リリーは悲しくて胸が押し潰されそうだった。
クロードと父親は真っ直ぐに視線を絡ませたまま無言で立っていた。
そして先に動いたのはクロードだった。軽く微笑んだクロードは耳朶に揺れる金の耳飾りを外した。
それはオラール王国の王族の証だ。何をしているのかと怪訝に思う皆の前でクロードはまるで塵を捨てるように開いていた窓の外にそれを投げ捨ててしまった。

「クロード様!何をするのですか!」
リリーは思わず大きな声を上げたが、クロードは微笑んだ。

「お父上、私が王族だから駄目だと言われるのならそれは捨てます」
「で、出来るわけ、な、無い!」
驚いた父親は目を剥いて言った。

「いいえ、今、王族の証を投げ捨てたようにそれは簡単なものです」
父親は信じられないと首を振った。
しかしリリーは真っ青になり違う意味で首を振っていた。
クロードが本気になれば彼が言うように簡単に実行してしまうと知っているからだ。
クロードは出来ない事を口にしない。しかも口にすれば必ずやる・・・

「だ、駄目です!クロード様!」
「どうして?私は構いませんよ。リリーはこの店の跡取り娘だったのでしょう?私も一緒に手伝います。お茶は大好きですからね」
「だ、駄目です!キトリー様から怒られます!」
「それこそ大丈夫。手を叩いて喜ぶでしょう。ああ、申し訳ございません。キトリーとは私の母でして・・・それこそお茶が大好物ですし変わり者ですから反対は致しません。その母に父は逆らいませんからご安心ください」
クロードの爆弾発言に王族だと聞いている母親も反対しないと言う追い撃ちに両親は唖然としてしまった。

「駄目です!クロード様!絶対に駄目です!お父さん!反対しないで!お願い!お父さん!」
リリーは父親を揺さぶった。
此処で止めないと本当にクロードは何もかも捨ててしまうだろう。そんな事はさせられない!

「は・・・ははは・・・そう言えば認めると思っているんだろう?そんな脅しは効かない」
「違う!お父さん!クロード様は本気よ!言葉通りにされる人なのよ!」
リリーの真剣な様子に父親はまさか?と思いだした。
本気で何もかも捨ててリリーを取ると言っているのかと?

「・・・本気?まさか・・・しかし貴方は重職に就いている。周りがそれを許さない筈・・・」
「・・・陛下は此方の皇帝陛下と同じくらい優秀でいらっしゃいます。私が居なくても支障はございませんし、代わりの者など幾らでもおります。でもリリーの代わりは居ないのです。だから私の取るべき道は既に決まっています」
はっきりと言い切ったクロードと父親は再び無言で向き合った。

そして長い沈黙の後―――

父親が頭を下げた。

「リリーを宜しくお願いします。ぼやっとした所もありますが・・・人一倍優しい子ですのでどうぞ末長く可愛がって下さい」
「お父さん!」
リリーが父親に抱きついた。

「おい、抱き付く相手が違うだろう。さあ、お前は向こうだよ」
父親は娘を引き剥がして背中をトンと押した。
あっ、とよろめくリリーをクロードが慌てて抱き止めそのまま抱きしめた。
そんな二人を微笑ましく見つめていた母親は夫に近寄り耳打ちをした。

「それでどうしますの?」
「どうするって?」
「本当に婿養子にするのか聞いているのですよ」
「ば、馬鹿!出来る訳ないだろう!そんなにこの商売は甘くない!」
そう言って父親は誤魔化したが、大きな声を出したのでクロード達に聞こえたしまった。

「出来ますよ。商才はあると思いますのでこの店を帝国一の店にしてみせます。ねえリリー、私は出来る。そう思うでしょう?」
「そ、それは・・・ク、クロード様は何でもお出来になるから・・・でも!」
「ありがとう、リリー」
クロードがリリーの頬に口づけして先を言わせなかった。

「駄目だ!駄目だ!リリー、さっさと向こうに帰れ!いいか?リリー、大事なお役目をしている夫を支えて癒すのがお前の仕事だ!分かったか?」
リリーは笑顔で頷き、再び父親に抱き付いたのだった。
 ―――結局、クロードはお茶屋の主人になり損ねてしまった。意外と本気だったクロードは少し残念な気持ちだ。きっと母キトリーも事の顛末を聞けばどうして居座らなかったのかと言うだろうとクロードは思ってしまった。息子がお茶屋だと嬉しいらしい・・・

(母のお茶好きには困ったものですけどね・・・)
そういう自分もか・・・とクロードは思ってしまった。
お茶の縁でリリーと出会い結ばれたのだから一生この好きは変わらないだろうと思う。

(さて・・・いよいよ陛下達の婚礼ですね・・・)
オラールへの道を進みながらクロードはこれからの段取りを計算し始めたのだった。



 正妃を迎えるのはレミーの生母以来だ。その数年振りの国をあげての慶事に国中が沸き立っていた。
アランは臣下にも国民にも大人気だったが誰もがその話題になると重い空気が流れその場が白けるものがあった。それはアランの女狂いだ。もうあれは治らない病気だと言われていた。
次から次へと召し上げられる女達に毎夜続く馬鹿騒ぎ・・・
しかしそれに溺れてしまう愚王だったなら人気は地に堕ちているだろう。
ところがアランはそうで無かった。だから女癖が悪いだけで誰も困ってないから良いだろう・・・
と言う者もいたがこればかりは倫理的なもので度が過ぎれば意見は違って来る。
その王が後宮の女達を全部整理したと聞き皆驚いてしまった。
しかも正式な婚礼を挙げるというのにこれまた驚いた。
後宮の中には正妃にしても支障無い身分の妃も沢山いたが王がその気にならず空席状態のままだった。
そんなアランを動かしたイレーネは皆大歓迎で誰もが喜び彼女の過去をあれこれ言う者はいなかった。もちろん何か言う者がいればアランが黙らせるだけだろう。
いずれにしても帝国でもオラールでもイレーネの評判はアランの悪評が幸いしている感じだ。
そしていよいよ皆が待ち望んだ婚礼週間が始まった。王国中から人々が集まり王都は昼も夜も大賑わいだった。もちろん王城では婚礼前の祝賀会が昼夜問わず華やかに催されていた。
その中で一番の賓客はデュルラー帝国の皇帝夫妻だ―――



「陛下、デュルラー帝国の皇帝皇后両陛下が只今到着なさいました」
「おっ、やっと来たか!」
アランはナイジェル達の到着の知らせに手に持っていた数々の資料を、ポイッと投げ捨てた。
そしてさっさと会議室から出て行こうとした所を重臣の一人が慌てて立ち上がり止めようとした。

「へ、陛下!お待ち下さい!まだ会議の途中でございます!」
アランは入り口で立ち止まり肩越しに振り向いた。

「ん?ああ・・・クロード、お前、勝手にやってろ」
指名されたクロードは頬を引きつらせながら立ち上がった。

「陛下、ご勝手が過ぎます」
「へぇ〜じゃあ、あいつを待たせとけって言うのか?」
「そんな事を申し上げている訳ではございません。皆様方、今日はこれで終らせて頂きます。この続きは後日またと言うことで・・・」
「ふん!結局、お前が取り仕切っているじゃないか」
アランはブツブツ悪態をついたがその目の前に書類が差し出された。クロードがいつの間にか目の前にいてそれを持っていた。

「何だ?」
「接見の間に行かれる間の時間が勿体無いので此方をお目に通しながらお願いします」
「むっむむ・・・クロード!」
「はい、何か?もちろん、よ〜くお分かりですよね?今がどれだけ大変なのかは?」
ムッとしたアランは手荒くその書類をクロードの手から取ると大股で歩き出した。
その後をクロードと数人の重臣達が書類を持って付いて行く有様だ。
先に進むとフワリと良い香りが書類に顔をくっつけて歩くアランの鼻をくすぐった。

「まあ、陛下、前も見ずに危のうございます」
「おっ!イレーネ!ちょうど良い所に!」
「陛下、イレーネ殿に助けを求めても逃れられません」
クロードが、ピシャリとアランの後ろから口を挟んだ。
ムッとして振り返るアランと平然とそれを無視するクロードをイレーネは交互に見て微笑んだ。

「陛下は皆に頼りにされていらっしゃいますのね?」
「うっ・・・むむ・・・お前そんなことを言ってだな!」
「・・・何か気に障ることを申し上げましたか?」
アランの怒ったような声にイレーネは眉を寄せた。するとアランは慌てて首を振った。

「違う!違う!怒ったんじゃない!」
「そうでございます。陛下は貴女に褒められて照れていらっしゃるだけですからお気になさらないでください」
クロードが肩をすくめながら溜息混じりに言った。

「クロード!何でお前が答えるんだ!」
「おや?申し訳ございません。陛下がご自分で照れたとお答え難いかと思いましたので・・・」
「お前から言われると馬鹿にされた気分になる!」
「いえ、いえ、馬鹿にしておりません。お可愛らしいと思っただけです。そう思いませんか?イレーネ殿?」
「ガァ――っ!もういい!行くぞイレーネ!」
アランは鬱陶しいクロードとのやり取りを大きな声で跳ね除けるとイレーネの肩を乱暴に抱き寄せた。

「へ、陛下!皆の前でございます!」
「うるさい!行くぞ!」
アランは手に持っていた書類をクロードの胸に押しつけイレーネの肩を抱いたまま、ずんずん進み接見の間に隣接する控え室の前で止まった。

「陛下、接見の間での会見を用意しておりますのでまずはそちらへ」
後を追って来たクロードがそう促したが、

「ここは俺の城だ!どこで会おうと俺の勝手だろうが!」
それはそうだが・・・相手は帝国の皇帝だ。それなりの礼儀は必要だと言っても無駄なことだろうとクロードは思いそれ以上言わなかった。しかしイレーネが彼の味方をしてくれた。

「陛下、わたくしもお会いになられるには決められたかたちが宜しいかと思います」
「初めて会う訳でもないんだから儀礼的なものなんかいい!お前は早く会いたくないのか!」
「それはもちろんでございますが・・・」
アランは早く会いたいだろうと思って聞いたが・・・
そうだとイレーネが答えると何だか腹が立ってしまった。

「そんなにあいつに会いたいのかっ!」
「あいつ?ナイジェル様のことでございますか?もちろん陛下にもツェツィーにも暫くぶりですから・・・」
アランはイレーネの口からナイジェルの名前が出て尚更憤慨した。

「ナイジェル、ナイジェル、ナイジェル!お前は俺の名前は滅多に呼ばないのにあいつは名前で呼ぶんだな!」
イレーネがアランの名を呼ぶのは睦み合っている時ぐらいだった。
アランに抱かれる時に我を忘れてその名を呼ぶ。それは激しく貫かれれば貫かれる程・・・力強く突き上げられる程・・・アランにしがみ付いて無意識に呼んでいた。

「そ、それは・・・どちらも陛下ですので区別をと思いまして・・・」
「じゃ俺を名前で呼べ!いいな!命令だからな!」
「承知いたしました」
頭を下げて素直に承知したイレーネをアランは、ムッとしたまま見下ろした。
どうしてこんなに苛々するのかとアランは自分でも思うが理由は分からなかった。しかしクロードには分かっていた。たぶん本人よりクロードの方がアランの性格や思考を把握しているだろう。

(扉の向こうの皇帝の存在を感じて神経が逆立っているのでしょうね・・・)
クロードは帝国で初めてナイジェルと会った日を思い出した。あの圧倒的な存在感に戦慄を感じたものだ。その時の事を回想していたクロードは只、ふて腐れていただけのアランにそのナイジェルに勝るとも劣らない覇気が漲るのを感じた。

「来い!イレーネ!」
アランは再びイレーネの肩をがっしりと抱き寄せると大きな音をたてて扉を押し開いた。



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2話目のオマケのページ 「大人の事情」



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