第四章 密林の国5

 
 美羽はあれからあの何も無い石の部屋では無く、違う部屋へ閉じ込められた。
扉に鍵がかかり窓に格子がはめられているだけで、調度品や内装は普通の部屋と変わらなかった。
変わらないよりもどちらかと言うと豪華かもしれない。
この城は外も内側も黄金色をしていた。薄く延ばした金を貼っているようだった。
そしてこの部屋は更に宝石のようなものまで散りばめられて眩いばかりだ。
ユーシャを助けたので待遇が良くなったのだろうか?と美羽は思った。

 翌朝、美羽が目覚めてその格子窓から外を見ると、まだ暖まっていない風が美羽の頬をなでた。
高地に建つ城だから空が近い・・・同じく高い所にあった天翔城にいるようだった。
天眼国の遠い空とはずいぶん違っていた。
水晶宮の窓から見上げた空はいつも白銀の雲々――
晴れの空を見られるのは宝石のように貴重だった。それは淡く透きとおった天色(あまいろ)――
何故か美羽の心に思い浮かぶのは黒翔国でなく天眼国。懐かしい父と母、そして兄の遠い記憶よりも短い間のメラやルルナ・・・そして何故かイエランの姿ばかりが思い出された。
帰りたいと思う心は義務だけでは説明がつかない何かを感じていた。

「メラ、ルルナ・・・―――様?」
彼女達の名を呟き、その後にイエラン≠ニいう名は心の中で呟いた。
そして水晶宮が燃え、彼女達が切り捨てられる恐ろしい光景が頭に浮かんできた。
猛牙の王子サガンが言った。天眼から黒翔を取り戻す≠ニ――
それは天眼国と猛牙国の戦争を意味するものだった。天眼は黒翔を確かに攻めたが一般の民への被害は殆ど無かった。それが今、統治するうえで有利に働いている一因だ。しかしこの好戦的で有名な猛牙族は人民の被害などお構いなしだろう。
美羽はそれを考えると震えが止まらなかった。

「どうして私をそっとしておいてくれないの?・・・・何も望まないのに・・・」
美羽は虚しく真っ青な空を見上げて、今では癖のように雪の花飾りに手をやる。
チリンと鳴る音が心を和ませてくれるのだ。

「逃げ出す算段か?」
美羽ははっとして振向いた。いつの間にかサガンが入り口に立っていたのだ。

「部屋は気に入ったか?一応、後宮でも良い方の部屋だ。格子と鍵が付いているのはこの国の後宮なら一般的だからそれに文句は言うなよ」
(格子と鍵が付いているのが普通?)
「何故って顔をしているな・・・」
サガンが足音も無く近づいて来た。彼は本当に大きな体躯(からだ)をしているのに足音一つしないのだ。
そして美羽の真正面で止まった。

「ここの女達は奪った奴しかいないからさ!自分から腰を振るような女は面白くない。奪って犯して子供を産ませる。それが俺達、猛牙族だからな」
美羽はガタガタ震えだした。女はどの国に行ってもそういう対象にしかならないのだ。
そしてこの男も自分をその対象として見ているのだと思うと美羽は恐ろしかった。

「い、嫌・・・・寄らないで・・・」
「女、名は何と言う?」
「え?」
美羽は驚いた。今にも襲い掛かられると思っていたのに名を聞かれたからだ。

「・・・ユーシャが・・」
「ユーシャ?妹姫?」
「ああ、妹がお前の名を聞いて来いと煩いからな」
サガンはそう言いながら何処となく言い訳のような感じだった。

「み、美羽です」
「ミウ?ちょっと発音が違うか。美羽か?」
美羽は、どきりとした。その発音はイエランと一緒だった。

「止めて下さい!そんな言い方しないで下さい!」
美羽は思わず叫んで、あっと思い自分の口を手で塞いだ。

「何だと!」
サガンは怒っている。でも美羽は彼にイエランのような言い方で名を呼んで欲しく無かったのだ。
何故なのか分からない。でも嫌なのだ―――涙が溢れてきた。

「・・・帰りたい・・・帰らせて下さい・・・お願いします。どうか・・・」
美羽は涙を床にぽつりぽつりと落としながら深々と頭を下げた。
下を向いていても彼が怒っているのが美羽は分かった。この場から逃げ出したいような怒気がサガンから立ち昇っていた。そんな気配を感じるのだ。

「お願いします・・・どうか・・・」
「帰りたいだと?どこへだ?まさか天眼とか言うんじゃ無いだろうな?人質として戻らなければならないのなら分かるが・・・帰りたいだと?まるで自分の家にでも帰るようにか?親族を殺され、国を奪われた王女が、敵国の言いなりどころかすっかり飼い犬に成り下がっている訳か!ええ、そうだろう?」
「きゃっ――っ」
美羽は握り潰されるかと思うような力で腕を掴まれた。

「キチガイ王と乳繰り合っていたお前は、その相手を殺した新しいご主人様を舐めまくってご奉仕かい?すっかり味をしめたお前は天眼に帰りたいって訳だろう!」
「ち、違います・・・私・・・」
「節操がないお姫様だ・・・権力者の男なら誰でも良いのか?大層に冷徹なる王とか言われるような澄ました奴に何度抱かれた?そんなに忘れなくなるぐらい良かったのか?」
美羽は、かっと顔が赤くなった。その瞬間、サガンの顔も激昂して歪んだ。

「顔は正直だな!そうかい!そんなにあの男は良かったのか!だがな・・・もう関係ない!お前は俺のもんだ!その唇もその白い肌も全てこのサガン様のものだ!今からあの男を忘れさせてやる――っ!」
「いや――っ!」
サガンは華奢な美羽の身体をいきなり床に押し倒した。イエランよりも大きな体躯で押さえ込まれては身動き一つ出来なかった。それにイエランが言っていた。
逆らえば男は逆に征服欲を煽られるだけだと・・・・

(でも・・・い、いや・・・)
美羽は涙が止まらなかった。そして力の限り手足をバタつかせて抵抗した。
サガンはそれをものともせず大きな手が胸の布を掴んだ。端切れのような布でしか覆われていなかったそれは、瞬く間に剥ぎ取られ、その手が暴かれた胸のむくらみを荒々しく掴むように触ってきた。
それと同時にもう片方の手は下半身へ伸び、同じく小さな布は引き千切られた。
美羽は今から起こるであろう恐怖に身体がすくんだ。
サガンの顔が下がり、貪るように胸の尖りを噛んだり含んだり嘗め回したりと忙しく動き始めたのだ。

「やっ・・・い、痛い・・・・怖い!嫌っ・・・やめてっ・・・」
執拗に吸い上げられ(いたぶ)られた胸の先端は充血して赤くなってきた。そして指の腹で押し潰し捏ね上げたりされたもう片方も同じようになっている。
美羽は感じるよりもイエランと違う愛撫の仕方に恐怖を感じていた。
貪りつく男を自分から退けようと両手を必死にサガンの頭に手をかけて押した。しかしそれも虚しく片手で容赦なく払いのけられてしまう。叩かれた両手がじんとして痛んだ。そしてその唇が次第に白い肌に赤い跡をつけながら首筋を這い上ると唇を奪われてしまった。

「い、いや――うっっ・・・・ん」
でも美羽は入ってきたサガンの舌を噛んだ。

「つっ――」
サガンが一瞬顔を上げた。今度は許さないと言っていたから叩かれると思った美羽は目を瞑った。
しかし頬に触れたのは彼の大きな手では無く、冷たいものだった。
目を開けた美羽が見たものは鋭く尖った短剣だった。

「女!殺されたくなければ噛んだりするな!いいな!」
サガンはその短剣を美羽の首筋に当てたまま、口づけを強要した。冷やりとする切っ先が肌に当たり、ぞくりと背筋を凍らせる。再び唇を深く合わされ、ぬるりとした舌が差し込まれた瞬間、美羽は恐れも無くそれを噛んだ。

「つっ――お前!」
美羽は死ぬのは怖くないのだ。そんな脅しなど通用しない。
それに美羽の中でよぎるのはイエランの言葉だった。

―――ここに触れていいのは私だけだ―――
と、美羽の唇を自分のものだと言っていた。触れていいのはイエランだけ?
そんな言葉を何故か思い出していたのだ。

サガンは舌打ちをすると短剣を遠くへ投げ捨てた。美羽を見る目は激しい欲情に揺れている。

「い、いや・・・許して・・・」
美羽はもう駄目だと思った。
彼の唇は口づけを一応諦めたものの、これが終わる訳では無かった。荒々しく組み敷くサガンの浅黒く熱い肌が美羽の肌に密着していた。逞しく硬い体躯は柔らかい美羽の身体を押し潰しそうだった。
イエランの肌は同じく逞しかったが体温が低く冷やりとしていた。そして美羽と触れ合う度にその肌が段々と熱を持ってくるようだった。なめらかで気持ちのいい・・・
美羽は、はっとした。

(私ったらこんな時に何を考えているの?)
しかしそれを思い出してしまうと美羽は、この男の肌が触れているだけで鳥肌がたってきたのだった。熱く汗ばむ肌が気持ち悪かった。硬すぎる体躯も吐き気がした。何もかもイエランと違う男が嫌で堪らなくなって諦めかけていた心に勇気が湧いてきた。美羽は最後の力を振り絞って抗い始めたのだ。
再びサガンの顔めがけて思いっきりひっかいた。

「つっ――このやろう!」
今度こそ殴られると美羽は思ったが目は瞑らなかった。爪を剥がされても構わなかった。
絶対にこの男のものなどになりたくないと思う気持ちだけが彼女の支えだった。
サガンから再び怒気が溢れでていた。簡単に大人しくさせることが出来ると思った小娘がここまで抵抗するとは思わなかったのだ。抵抗する女は征服欲が満たされ好きだが美羽に抵抗されると高揚感よりも怒りを感じた。サガンは美羽を狂おしく見つめた。

しかし今度は美羽の両足首を掴んだサガンは、無理矢理左右に大きく開いた。

「き、きゃあ――っっ、やめてぇ――っ!」
美羽のささやかな抵抗など蚊に刺される程度だろう。下半身を吊り上げられるような状態になった美羽は激しく上半身をよじって抵抗したが開かれた脚はびくともしなかった。
そしてその中央の花芯に進もうとする、サガンの反り返った欲望の塊が見えたのだ。両足を引き寄せるに従って大きく脈打つそれが近づいてくる。

「いやぁ――っ!助けてぇ――っ!それは嫌――っ」
美羽は叫んで身体を弓なり反らした。髪飾りの鈴の音が一緒に泣いているように聞こえる。
涙に霞んだ瞳に格子窓から空が見えた―――
天眼の空は晴れているのだろうか・・・美羽は心の中でイエランの名を呼んだ。



「美羽?」
イエランは胸騒ぎがした。美羽が自分を呼んでいるような気がしたのだ。
美羽が行方不明になって既に六日目だった。イエランは窓から空を見た。
久し振りに見た晴れた空は淡く透きとおった天色―――この同じ空の下に美羽はいるのだ。
その彼女をこの数日、仮眠さえも取らず遠見をしているカルムももうそろそろ限界だろう。
しかしそのカルムの表情が突然変わった。

「見つけたのか!」
「まずい・・・」
「彼女がいるのか!」
イエランはカルムの天晶眼を持つ手に触れた。
彼自身遠見が出来なくても短時間ならカルムと共鳴して同じものが視えるのだ。

そこで視えたものは美羽が男に組み敷かれて泣き叫んでいる姿だった。今まさにその男の昂ぶりで美羽を貫こうと彼女に押し当てられているところだ。

「美羽――っ!」
届くはずも無い遠くの地に向ってイエランは叫んだ。
目の前に見えるのに手を伸ばせば届きそうなのにそれは叶わないのだ。

「あの男――っ!殺してやる!」

 美羽は広げられた両足の真ん中に硬く熱いものが触れた瞬間、舌を噛み切ろうと思った。
もう何もかも嫌だった。

(私・・・私が死んでもきっと黒翔は大丈夫・・・こんな・・こんな恥辱を受けるぐらいなら・・・)
胸の奥でイエランじゃないから嫌だと言っているような気もした。
でもそれは気のせい
だろう。酷い目にあって混乱しているのだ。美羽はそう思った。
両足を掴んでいた男の手に力が入った。押し当てられていたものが、ぐっと進められようとしているのだ。美羽は男から阻止されない今だと思ったその時、もっと確実に死ねる死の使いを見たのだった。
美羽は迷うこと無く、目の端に入ったそれを掴んだ。手の平から激痛が走り身体がショックで背中が反り返った。それはサガンが己の昂ぶりを美羽の中に挿しこもうとした時だった。
美羽に激しく動かれ狙いを外したサガンは尋常じゃない美羽の様子に気が付いた。
瞳が大きく見開き、口づけを拒んだ唇から泡をふいていた。

「なん!」
驚くサガンの目に美羽が握っているものが見えた。
そして彼女の指の間からもぞもぞと出て来たそれは毒蜘蛛だった!



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