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最終章 神国の扉6![]()
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明朝と共にその儀式は始まった。
引き出された美羽とイエランがその遺跡の水晶盤の前に立たされた。
イエランはその場所で視線だけ、ぐるりと巡らせた。国にある天晶眼の間に良く似ていると思った。
法国は神々の子孫だと云われる五大国に数えられていない。何故なら遺産が無かったからだ。
他の子孫と云われる国々にも似た特殊な人種にも関わらず、軽んじられていたのだ。
しかし李影が他国には無い遺跡を見つけ解読していくうちに、法国こそが最も素晴らしい遺産を持っていると発見したのだった。
「さあ、姫と天眼の王。その盤の上に乗って貰おう」
イエランは大体の内容を海翔から聞いていた。実際この場所を見て成る程とは思った。
李影は当然、天眼国の天晶眼の間を見た事が無いのだから分からないのだろう。
この遺跡は天眼の遺跡と二つで一つの内容だった。それこそ今からする実験は茶番でしかない。
天晶眼の間に刻まれた内容―――
天眼の王が白き両翼の天の使いと結ばれし世は、子々孫々数多の富と栄光が大地に満ちる―――
(この盤に乗せる白き翼は美羽では無く、天眼の王とその白い翼の持ち主との間に出来る子供の話だろう・・・)
それに確率は低いと思った。自分と美羽が結ばれるというのも可能性として低い。
(例え結ばれて子が生まれたとしても翼は持たない・・・奴らのように双子になる確率はかなり低いだろう・・・馬鹿らしい神託だ)
退屈な儀式にイエランは色々思っては心の中で笑っていた。そうしていないとどうかなりそうだったからだ。決別を決めた美羽がすぐ近くにいて、気分が滅入るのだ。
昨晩から風魔鏡の力は密かに解かれていた。カルムが手配をしているならもうそろそろだろう。
上の方からドーン、ドーンという音と地響きがしだした。ここは地下だった。
「何事だ!」
李影が異質な音に怪訝な顔をして天井を見た。
そして前を向いた時に水晶盤が真っ二つに割れるのを見たのだった。
「なっ!」
そしてその前に立つイエランの額に金の天眼が開いているのを見たのだった。
この場所には風魔鏡を持つ海翔がいて天眼の力は使えない筈だった。
「カイト――っ!貴様、裏切ったのか――っ」
李影が叫んだ時には遅く、イエランの天眼の庇護の下に海翔と美羽はいた。
海翔が裏切ったのならこの上での騒ぎは天眼の軍勢のせいだろう。
イエランの天眼で李影の野望が次々と破壊されていった。
「やめろ――っ、やめてくれぇ――っっ」
天井も剥がれ落ち始めた。李影は狂ったように壊れる遺跡を手に取りかき集めていた。
それに目を背けながら海翔は美羽の肩を抱き、イエランの作った脱出口へと向った。
その崩壊する中へ飛び込むものがいた。麗華だ!
「李影さまぁ――」
麗華は李影を連れ出そうと彼を引っ張った。その時初めて彼に触れたのだ。
「うるさい!汚らわしい!私に触るな!」
麗華は激しく突き飛ばされてしまった。
「李影さま!」
麗華の目の前で天井が崩れる。
水晶のような煙る石材が砕け散る中に白い影のような李影が立っていた。
「私こそが神だ!私にその扉を開くがいい!あははははっ・・・・」
「李影さまぁ――」
「行くな!麗華!」
宋が駆けつけて麗華を引き止めた。
「いや――っ、放しなさい!李影さまぁ――」
「もう間に合わない!お前まで死んでしまう!」
崩れる中に飛び込もうとする麗華に宋は無理矢理引きずり出した。そして眠る術をかけた。
手足の力を無くした麗華は宋の腕の中へぐったりと落ちてきたのだった。
「暫く寝てな。ここが静かになるまでな・・・」
唯一認めていた女。認めていたからこそ自分と並び称されるのが憎らしくて堪らなかった。
絶対に追い落として嗤ってやろうと思っていた。それなのに実際そうなればただ虚しかった。
嗤う気持ちが少しも湧かなかったのだ。宋はそうなって初めて気が付いてしまった。
憎んでいたのでは無く愛していたのだと―――
相手にしてもらえないからちょっかいをかけて振向かせようとしていたのだ。
「おれもいい加減馬鹿だよな?」
宋は彼女を肩に抱えたまま、掻き消えるように法国から姿をくらませたのだった。
この先、二人の関係がどうなるのかは分からない。それでも愛しい女を追いかけるのはこれから楽しいだろうと宋は思ったのだった。
イエランは白き塔≠フ真下にある広間にて法王の座にいた者の首に剣を突き付けていた。
そしてその場には整然と天眼の兵達が並んでいた。
「法王よ。この度の一件、どのように謝罪して貰おうか?」
金の天眼を開くイエランに名ばかりの法王は、目を白黒させるだけだった。
「返答無しか?それとも返答できぬのか?」
「あわわわ・・・・」
法王は腰を抜かして床にへたり込んでしまった。
「まあいい。後日たっぷりと賠償金を支払って貰おう。皆、帰るぞ!」
城中に響き渡るような勝ち鬨が上がった。
最強を誇る天眼国の大軍は昼を待たずに法国の城を制圧してしまったのだ。
イエランが全部壊すと言ったように李影の野望は本人諸共、地下深く埋没したのだった。
海翔は力の差を見せ付けられてしまった。妬心を持つことさえ恥ずかしいと思える程だった。
そして兵達が引き上げる準備をする中、海翔とイエラン、そして美羽が城の庭に立っていた。
そこは兵達が踏み込んでいない戦いの跡の無い静かな庭園だった。どちらかといえば殺風景な広々とした場所だ。
「礼を言う。風魔鏡を止めてくれなければ此処まで上手く運べなかっただろう」
海翔はイエランが礼を言うとは思わなかったから正直驚いた。
「さあ、どうでしょう?貴方ならどういう状況でも大丈夫だったのではないですか?僕はそれ程力になったとは思いません」
「いずれにしても約束は守る」
海翔は信じられないというように目を見開いた。
「本気だったのですか?」
「もちろん。そのつもりだ」
イエランは美羽と目を一度も合わせなかった。海翔とだけ会話をしていた。
美羽は二人の話している約束とは何なのか知らなかった。
「二人で何の話をしているの?」
「美羽、天眼の王が僕達に黒翔国を返してくれるそうだ」
「え?じゃあ・・・」
美羽はイエランを見上げたが彼は視線を合わせようとしなかった。昨日感じた隔たりのようなものが前にあるようだった。
「さあ・・兄の下に帰るがいい。その白い翼で私の籠から羽ばたいて・・・」
イエランは静かに言った。こういう時の彼は相変わらず無表情だ。
「・・・私がいなくなったら神託は?」
「別に信じていた訳でもない」
彼の返答は冷たく素っ気無い。美羽は怯みそうだった。それでも再度問いかけた。
「でも・・・みんなは?」
美羽は自分が天眼国に居なければならないという理由が欲しかった。
イエランと離れたく無かったからだ。
「神託など無くても私が国を栄えさせる。それでも煩く言うのなら適当な黒翔の女の羽でも白く染めて娶ればいいだろう・・・それだけの価値だ」
美羽はツキンと胸が痛んだ。彼は誰でも良いと・・・そして自分ではない女性を選ぶのだと思うとつらかった。まだ亡くなった許婚のことを想っているだけの彼の方が良かった。誰かを選ぶなら自分を選んで欲しかった。何故?どうして?と、何時も、何時も、疑問に思っていた事は優しさだけで無く、もしかしたら自分のことを?と、美羽は思い始めていたところだった。
(違ったの?私の都合のいい想像?やっぱりアルネさんを想っているの?)
でもカルムが言っていた。
イエランは不器用で嘘つきで、皮肉れ者だと。そして自分の想いは冷たい言葉に隠すと。
「美羽」
と、海翔がおいでというように呼んだ。
美羽はじっとイエランの顔を見て、次は振り返って兄を見た。そしてまたイエランを見る。
美羽がイエランに完全に背を向けると彼も踵を返した。二人の距離は段々離れて行った。
攫われて段々遠くに連れ去られる時よりも心細くなってきた。
美羽は立ち止まって振向くと、勇気が出るように彼がくれた花飾りに触れた。
頑張れと言うように鈴が鳴った。
「・・・・最後に・・最後に本当の事を教えて下さい・・・私のことどう思っていましたか?」
イエランは足を止めたが振向く事はなく答えた。
「・・・・初めてお前を見た時、心を奪われ・・・そして手にかけようとした時、恋に堕ちた・・・愛していた・・・ずっと・・・」
イエランはぽつりと呟くように言った後、小さく嗤った。
「迷惑な話だったな・・・・謝りはしない。私は謝り方を知らないから・・・」
彼はそう付け加えるとまた歩き出した。
「私の気持ちは聞かないのですか?」
イエランが美羽のその言葉を耳にした時には、羽ばたきが聞こえてきた。
白い羽毛が雪のように舞い降りてくる。
イエランが驚き目を見張る前に美羽がふわりと降り立った。
真っ白な翼が大きく横に開いていた。まるで行く手を遮るように?
「私、貴方のこと怖くて、怖くて、そして憎かった・・・死にたいと思うのに許してくれなくて、私のことを玩具みたいに扱うし・・・悪夢だった義父がそのまま貴方になっただけだった・・・」
イエランの顔が苦痛に歪んだ。
「・・・・分かっている・・・だが・・今日はもうこれ以上聞かせないでくれ・・・」
覚悟を決めた別離だが、傷付いた心に彼女の怨嗟の言葉まで聞くのは耐えられなかった。
「いいえ、私の気持ちを聞いて下さい。私は黒翔にいる時、自分の意見もこんな風に言うことも出来なかった。でも天眼に行ってから・・・メラやルルナ、それにロエヌ先生やカルム様にリネア様・・・みんなが優しく私の心を開いてくれました。そして・・・天眼の王・・イエラン様。私を一番守って下さったのは貴方ですよね?感謝しています。ありがとうございました」
そう言って頭を下げる美羽を見たイエランは、言葉もなく立ち尽くしてしまった。
美羽が自分に恨み言だけでは無く感謝していると言うのだ。しかも自分からイエランと名前を呼んでくれた。以前、そう呼んで欲しくて脅して無理矢理呼ばせたこともあった・・・信じられない思いだった。
「美羽・・・」
と、また海翔が呼んだ。いよいよ本当に別れの時だろう。
「兄様、私でも幸せを望んでもいいでしょう?」
美羽は海翔に明るく言った。もう迷いは無い。
「もちろんだよ。美羽・・・僕はいつでも君の幸せを望んでいたのだからね」
だから一緒にと海翔は言いたかったが、無理だろうと思って口をつぐんだ。
「ありがとう、兄様。私はこの方の側に居たいの。だから黒翔には帰らないわ。私は天眼に帰りたい。白い花のような雪が舞うとても綺麗な氷の国に―――」
海翔はそれを聞き寂しそうに微笑むと去って行った。
そして驚くイエランを見上げた美羽は、少し心配そうに微笑んだ。
「駄目ですか?イエラン様?」
「美羽・・・まさか・・・」
イエランは震える手で美羽の頬に触れた。
彼女は恥ずかしそうに頬を染めている。とても勇気を出して言ったのだろう。
「私、貴方が美羽と私の名前を呼ぶ度に胸が熱くなりました。そして微笑まれるでしょう?ちょっとだけ唇の端を上げて・・・それも大好きです。そして貴方の瞳・・・突き放すように冷たい言葉ばかり並べるのに、その瞳はいつも炎のように揺れていましたよね?見る度に怖くて・・・だけど目が離せなくて。それに――あっ」
イエランは堪らず美羽を抱き寄せた。チリンと鈴の音が鳴る。
「美羽、美羽、美羽・・・私を許して愛してくれると言うのか?」
美羽は一生懸命頑張って自分の気持ちを言ったが愛しています≠ニまでは恥ずかしくて言えなかった。だから、こくんと頷いた。
イエランの抱きしめる腕の力が強くなり、甘やかな口づけが降りてきた。
これも大好きな一つ―――
最初は啄ばむように・・・そして少しずつ深さが増していく。
「ん・・・んっ・・・」
イエランの差し込まれた舌が口腔をかき回し、舌を絡めては吸い上げられる。いつもと同じなのに気持ちが通じ合ってする口づけがこんなに気持ち良いものとは美羽は思わなかった。
「っん・・・んん・・・ぁん・・・」
こぼれる声も自分の声じゃないような甘い吐息のようだ。
路の準備が整ったと遠くで声がする。やっと帰れるのだ。
イエランが深く重ねていた唇を名残惜しむように解くと美羽の大好きな微笑を浮かべて言った。
「さあ、美羽、帰ろう。私達の天眼の国へ――」
晴れた空は淡く透きとおった天色――
白銀に輝く天眼国。幼い頃、聞かされた白い花が降る国。
そこで美羽は幸せを見つけたのだった―――
終![]()
| 皆様、長らくお付き合い頂きましてありがとうございました。無事完結です!趣味が爆発?暴走?して理想のイエランを誕生させてしまったのから始まった話でしたが終るのが惜しいぐらい大好きでした。でも幸せにしてあげないとですね。しかし私の他の小説を読んで頂いてる方はご存知のように私の大好きな外伝シリーズやります(笑)どうぞ、しつこいと言わないで下さいね。それではまた外伝でお会いしましょう。 |
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