| 「冥の皇子」のスピンオフ、第2弾です。ジークの双子の姉シャルロッテと、帝国一の剣士、ライナーのカップリングでお届け致します。本編を書いている時には既に妄想が膨らみ、ある程度の裏話は出来ています。ですから当初はシャルロッテの相手は兄のクラウスでした。本当ならライナーの出番無かったのですが、クラウスで狂ってしまって…予定外のライナーでは話が進まず難航しました。内気なシャルロッテは良いとしても…腹黒い鬼畜な冷血タイプを好む私には爽やかタイプのライナーは苦手で…本当に難しかったです(T_T)でもどうにかまとまりましたので、ほっとしています。 |
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溜息の
貴人![]()
前編![]()
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帝国一の剣の腕を持つライナー・ベルツは代々元帥や将軍職を輩出する名門伯爵家だ。
生まれた時から歴代に習ってそうなるべきだと道は決まっていたようなものだった。しかもライナーの父親は彼が幼い頃、妖魔駆逐の戦闘で負傷し一線を退いてしまい、期待は幼い息子へと移ってしまった。
決められた道、決められた栄誉・・・
それが当たり前であり疑問に思う事さえ思わない人生・・・
ライナーはその期待通りに成長し、今は皇帝の信任厚く近衛隊の隊長を務め、最年少で元帥となるだろうと噂されるようになっている。
性格も容姿も良いライナーは非の打ち所の無い無敵の貴人′セわれていたが・・・
ライナーの母エルネスタは何故か溜息をつく毎日だった。
そしてとうとう溜息の源だった憂いを払う強硬手段に出ようと、息子を呼び付けた。
皇城の近くにはベルツ家の別邸があり、ライナーは皇城に通う時間が短縮出来るその屋敷を通常使用していたので帝都の外れにあるベルツ伯爵本家に来るのは久しぶりだった。
「母上、お久しぶりでございます。お加減が悪いと聞きましたが、起き上がられて大丈夫ですか?」
ライナーが急ぎ戻ったのはその知らせもあったからだった。
エルネスタは黒に近い紫に金の縫い取りのある近衛服に身を包んだ息子を、半身起き上がったベッド上から眺めると大きな溜息をついた。
「ライナー、今日は公休では無いのですか?」
「はい。母上のご用件が済み次第、皇城に戻ります」
エルネスタは再び大きな溜息をついた。
「お前はこの母が危篤になっても仕事優先なのでしょうね・・・」
ライナーは否とも諾とも言えず曖昧に微笑んだ。例え、親兄妹が瀕死の状態だろうとも簡単に放棄出来るような仕事では無いのだが・・・
(それを理解してくれないのは母に始まった事では無いし・・・ご婦人方は皆が皆、自分を一番に構ってくれないと駄目なのだから困ったものだな・・・)
ここは長居無用だと判断したライナーは早々に話を終わらせて帰ろうと、母の不満を聞き流して口を開いた。
「・・・それで、母上、ご用件は何でしょうか?」
「ライナー、もう帰りたい様子ですね」
「そんな事はございません。母上のお加減を気にしているだけです」
「・・・ま・・・何とでも言えるでしょうが・・・ライナー、私の病は気鬱なのよ。ずっと気が晴れず頭痛と眩暈に苛まれ食欲も無い状態なのですよ。これは全部、お前のせいです」
「え?俺が何で?」
「ライナー、母に向かってその言葉使いは不適切ではなくて?」
母は昔から言葉使いはもちろん、躾に厳しいと十分分かっているのに、いきなり責任転嫁されたライナーはつい友人達との会話のような物言いをしてしまった。
「申し訳ございません。母上、私が原因という理由をお聞かせ願います」
「お前はこの母が気に病む原因が分からぬと言うのですね?ああ・・・情けない・・・夫に先立たれ、お前達兄妹はこんな調子で・・・ああ・・本当に情けない。妹のエルナは出奔して女神官になり気狂いの伯爵令嬢と噂されたのは記憶に新しいものです。お前は何歳になるか自分で分かっているの?お前のお父様が同じ歳の頃にはエルナが生まれていました。それなのにお前は家督も継いで数年経っても結婚しようとしない。仕事が忙しいと言う理由は聞き飽きましたし、遊びでお付き合いしているご婦人方は何人もいると聞き及んでいます。ベルツ家の当主がフラフラと・・・本当に情けない限りです」
エルネスタの溜息の原因を、くどくど語り出した。
ライナーが家督を継いで直ぐの時も、この小言を受けたが当主と近衛隊の両立は忙しくそれどころでは無かった。しかし数年経てばそれらにも慣れ、ローラント皇子の力で妖魔も抑えられた今は以前よりは確かに楽だった。それをまるで狙ったかのような苦言だ。
「母上、それは――」
「言訳は結構です!これはお前だけの問題では無いのです。ベルツ家の・・・名門伯爵家の沽券に関わるのです!」
「私が結婚しないと言うだけでそれは大げさでしょう。しないとは言っておりません。まだ早々だと言――」
「もう結構です!言訳は聞き飽きたと言いました。お前の花嫁は既に決めています。婚礼の準備も全て整えました。もう否は言わせませんし、言えない状況です」
「なっ・・・」
ライナーは唖然として言葉を失った。
「良いですか、ライナー。これを拒否するとしたらこの母は生きていません。気鬱は悪化し生きる気力を失うことでしょう」
ライナーは自分の生死を引き合いに出す母の謀に抵抗する術が見つからなかった。
決められた人生の中には当然だろうが決められる花嫁もある筈だった。貴族では当たり前の事だがこれは何となく乗り気になれなかった。結婚したくないと思ってはいないが・・・決められた相手に好意を持てなかった場合、気を遣うのは目に見えていて面倒なだけだった。
それに今は気楽な恋の駆け引きが刺激的で面白く、結婚と言う枷をかけられたく無かった。
結婚しても自由な恋を楽しむ友人達はいるにはいるが・・・
(仕方が無いな・・・まぁ・・・俺は俺の好きにすればいいか・・・)
「・・・承知致しました。それで私の花嫁はどちらのご令嬢ですか?」
「シャルロッテです」
「え?」
「従妹のシャルロッテです」
「シャ・・・シャルロッテですか?」
ライナーは全く考えていなかった名前に驚いた。
「シャルロッテは皇子妃ジークリンデの双子の姉。そしてお前も知っている通り、表向きはクレール家の長女ですが実父はベッケラート公。私はその当時既にベルツ家に嫁いでおりましたが・・・論外だったクレール伯爵が妹に手を出したと父は激怒していたものです。権勢欲の強い父は娘など政略の道具にしか思っていませんでしたからね。でも妹はクレール家に嫁いで幸せだったと思います・・・」
ライナーは母の言葉の端々に今は隠居している祖父への怒りを感じた。
ライナーも祖父を好きになれなかった。もともと中流階級の貴族だった祖父は商才に恵まれ莫大な財を築き称号や階級を金で買い上流階級へとのし上がっていた。その祖父があの手この手を駆使して娘を名門ベルツ家の正妻へ送り込むのに成功したのだ。しかしその娘婿が負傷して表舞台から退いた後の祖父は幼いライナーに父親は期待外れだったと何時も悔やんでいた。そしてライナーが出世する度に喜ぶ祖父が醜悪だった。ベルツ家の祖父母は大貴族でも無欲で争い事を好まなかったから母方の祖父は増長する一方で隠居した今も権勢欲は衰えを知らずベルツ家の悩みの種だ。
「父がシャルロッテに目を付けたのよ・・・」
最悪だ・・・とライナーは思った。
「あれだけ面汚しだと罵った妹レナーテを今では良くやった、と手を叩いて喜んでいる・・・それはそうでしょう・・・父がどんなに頑張ったとしても三大公爵の筆頭ベッケラート家に娘を嫁がせる事は出来なかったでしょうし・・・今では皇家との縁続きになって・・・それでも父は満足しない。今度はシャルロッテを道具にしたがっています。それに父だけでは無く貴族中がシャルロッテを狙い出しました・・・」
未来の皇帝の寵妃ジークリンデの姉で非公式でもベッケラート公爵の娘となれば野心のある者ならシャルロッテは喉から手が出るくらいの存在だろう。
「騒動は加熱する一方だからシャルロッテの嫁ぎ先を決めたいとレナーテから相談されました。妹は社交界からしばらく離れていましたから私を頼ったのでしょうが・・・求婚者はどれもこれも良い噂の者はいませんでした。権勢欲に凝り固まった父のような者達ばかり。そこで出した結論がお前です。これこそ一挙両得と言うものでしょう?シャルロッテは愚かな男達に利用されず、ベルツ家には良い花嫁が来るのですからね」
「私に意見する権利は無いのですか?それにシャルロッテの気持ちは?」
エルネスタは冷やかな目で息子を見た。
「お前の意見など聞きません。今まで黙って自由にさせていたのにも関わらず結果を出さなかったのですからね。貴族の娘に結婚相手の有無を問う事はありませんが・・・シャルロッテは承諾しています」
「シャルロッテが承知・・・そんな馬鹿な・・・」
ライナーの中のシャルロッテは何時もジークの後ろに隠れている大人しい娘だった。姉妹共、表情乏しく口数も少ないがシャルロッテは殆ど声を聞いた事が無かった。しかも病的に神経過敏な感じだった。
それは兄のクラウスから彼女達が幼い頃経験した事に起因していると聞いていたが・・・
あの様子では結婚どころか普通の付き合いも出来ないだろうとライナーは何時も思っていた。
「もう準備は出来ていると言ったでしょう?今頃はその申請が神殿と皇城へ届けられています。母の話はこれで終わりです。お前は心置きなく婚礼の日に休めるように務めに励みなさい」
ライナーは母の強行に抵抗出来ずに追い払われてしまった。
いとこで親友のクラウスに自分は自由な恋愛がしたいし、決まった相手なんか興味無い、と豪語して相手が皇女グレーテでさえ気が進まないと言ったのはそんな昔では無かった。親友の皇女への想いを焚き付けるつもりもあったが嘘は言っていない。
「・・・結局・・・相手は決められた・・・と言う訳か・・・」
ライナーは大きな溜息と共に馬首を皇城に向けた。
一方、シャルロッテは両親の決めた結婚相手に驚き、痛いぐらい高鳴る胸を押さえながら承諾に頷いた。従兄のライナーはシャルロッテにとって幼い頃から憧れの存在だったからだ。
双子の妹ジークは剣術大会でライナーを見てから剣術の虜になったが、シャルロッテはその時、ライナーに心奪われた。ライナーの強く逞しい自由の象徴のような姿に憧れたのだ。
シャルロッテは心弱く臆病な自分が嫌だった。
強くなりたいと思っても・・・心に負った傷は深く拭えなかった。
もう恐怖の存在、乳母コスタはいないのに・・・
だから余計に強さの象徴のようなライナーへの憧れは強くなったのかもしれない。
シャルロッテはそれ以来、何時も密かにライナーを見ていた。でも・・・人と話すのが苦手だから滅多に会話する事は無かった。親戚で無かったら・・・剣術の稽古を見てやるジークがいなかったら・・・ライナーを見る機会は殆ど無かっただろう。
決められた相手と結婚するまでの儚い初恋だとシャルロッテは思っていた。
ライナーは母方の親戚だがベルツ家は名門中の名門で、シャルロッテが花嫁候補になることは無いと分かっていたからだ。それが今、母親がずっと隠していたシャルロッテとジークの出生の秘密が明かされ事情が変わってしまった。ジークとローラント皇子の結婚条件・・・血筋優先の為に明かされた本当の父親の存在。それこそベルツ家でさえ足元に及ばない大貴族、ベッケラート公爵家の現当主が父親だ。
シャルロッテはその本当の父親に会った事は無い。それは母親の強い希望だった。あくまでもジークの為に明かされた事で公爵も、シャルロッテとは親子の縁を持たないと約束したからだ。
それなのにシャルロッテの周りは母親が心配したような騒ぎが起こったのだ。
権力抗争・・・しかしシャルロッテは本当の父親に関心は無かったが今回は心の中で感謝した。
憧れのライナーと結婚出来るのはやはりベッケラート公爵家のおかげだからだ。
それから瞬く間に日にちは経ち、独身貴族で一番人気だったライナーの結婚は、嘆く娘達の声と、シャルロッテを狙っていた男達の悔しがる声が渦巻く中終わった。
婚礼前に何度かシャルロッテの様子を見に行ったライナーだったが彼女の気分が優れないと言う理由で会えずにいた。そして婚礼当日・・・ジークリンデと同じ顔のシャルロッテは当然美しい。しかし凛々しく剣を振るうジークと違ってシャルロッテはとても儚い感じだった。繊細な心がその雰囲気を作っているのだろう。同じ顔なのに全く似ていない感じだ。挙式の間もずっと小刻みに震えているのをライナーは見て見ぬふりをしていた。何か声をかければ卒倒しそうな感じだったからだ。挙式最後の誓いの口づけで触れた唇は血の気を失っているのか氷のように冷たく震えていた。
そして盛大な披露宴はシャルロッテの不調で花嫁不在の開催となってしまった。
(特別内気なシャルロッテには荷が重すぎたのだろう・・・)
新妻の心配をする間もなく悪友達に絡まれたライナーは宴席から抜け出せなかった。宴が進めば主役が居ようと居まいと関係無い盛り上がりになり、ようやくライナーは初夜の為に設えた部屋へと向かった。
「シャルロッテ、気分はどう?」
シャルロッテは湯浴みを済ませた様子で長い髪は束縛なく下ろされ、華奢な両肩が出る夜着を着ていた。
「披露宴に顔を出さなくてごめんなさい・・・」
何時もより、おどおどとした声で答えたシャルロッテは形の良い小さな頭を下げた。ジークと容姿はそっくりなのにこのおどおどいた様子だけで全く似ていない雰囲気を醸し出している・・・
「客は美味しい食事と酒で満足するから大丈夫だよ。でも君は大丈夫じゃないみたいだね?」
沈黙が重苦しく広がった。シャルロッテがとても緊張しているせいだ。ライナーから見れば自分の動き一つ一つを怖がっている感じに思えた。
(はぁ〜この状態で婚礼の締め括り夫の役目を行使しろと言うのか?無理だろう?)
ライナーは初心な女性を今まで相手したこと無かった。その手合いは思い入れが激しく変に手を出して責任を取らされても面倒だと思っていたからだ。ベッドを共にするのは経験豊富で将来の約束の無いお互いに快楽を楽しむだけの相手だった。
「シャルロッテ、怖がらなくて良いからね。君は私に任せて力を抜いているだけで良いから・・・良い?」
真っ青な顔をしたシャルロッテがぎこちなく小さく頷いた。
しかしライナーは大きな溜息をついて肩を竦めると苦笑いを浮かべた。
「無理みたいだね・・・さて、どうしたものか・・・」
「え?・・・」
何やら考え込むライナーは、ブツブツと独り言を呟いていた。
「シャルロッテ、本当ならこんな話はもっと早くするべきだったと思うけど・・・君の具合が悪く会えず仕舞いだった。具合が悪かったのはこの結婚、嫌だったのだろう?」
「・・・ち・・違いま・・す・・・」
聞き取れないような小さな声でシャルロッテは答えた。
「良家の子女は早々に結婚相手を決めて嫁ぐ。当然の話しだけど・・・山のように来る結婚の申し込みに困っていた・・・しかもどれもこれも私利私欲の亡者ばっかり・・・それを断るにも一苦労で早く良い縁談をまとめる必要があった。だから結婚した・・・そうだろう?」
「・・・・・・・・・」
本当の理由は違うとシャルロッテは言いたかったが言葉が出なかった。そう答えると次にその理由を聞かれる筈だ。まさかライナーが好きだと言う勇気は無い。
言葉につまっているとライナーが溜息をついた。
「君を困らせたい訳じゃない。その事情は叔母上から聞いているし、私も承知している事だから今さら問い質している訳じゃないんだよ。それがこちらの事情・・・私を早く結婚させたいと思う母の思惑と一致したからこの話が整った・・・全く本人達を無視したような成り行きのようなものだ。そう思わないか?」
「私は・・・見知らぬ人に嫁ぐより良かったので・・・」
シャルロッテは咄嗟に誤魔化した。
「ああ〜やっぱり。君の承諾はそんなものだろうと思っていたよ。本当にそれで良いと思う?」
シャルロッテはどう答えて良いのか戸惑ってしまった。自分の誤魔化しにドキドキしてライナーの考えが読めなかった。婚礼が終わった今、良いも悪いも無いのに?
「良し悪しを問われると私は・・・私自身は分かりません。でも両親が私に良かれと思った事ですから良いのだろうと思います・・・けど・・・」
「正直に言うと私は嫌だった」
シャルロッテは短剣で胸を突かれたかと思った。息が止まりそうだった。自分は浮かれていて相手の気持ちまで考えていなかった・・・嫌なのは当然だ。自分のような面白味の無いものなんて・・・
「・・・ご、ごめんなさい」
シャルロッテは真っ青になってどうにかその言葉を発した。
「あっ、違う!違う!君を責めている訳でも嫌って言っている訳でもない。私が嫌なのは勝手に決められたと言う事で、お互い迷惑な話だったなと聞いただけだ。でもこうなった以上従うしかないと思っている。それで提案と言うか協定を結ばないか?まぁ・・・君のその様子だと無理だろうし・・・嫌なのだろう?クラウスから聞いている・・・極度の過敏性で特に他人から触れられたりするのは苦手だと・・・」
母親はシャルロッテ達を産んだ後、肥立ちが悪く静養に出かけたまま暫く帰って来なかった。そこでシャルロッテとジークリンデの面倒は乳母のコスタが全権を握る形となったのだった。母が帰って来てもその状況は変わらなかった。コスタは二面性があり、両親からは頼りにされていた。しかし姉妹には厳し過ぎて恐怖でしかなかった。笑う事も泣く事も許されず、人形のように大人しくしろと躾られ、逆らえば見えない所に折檻を与えられた。それはコスタの機嫌が悪い時も鬱憤晴らしにされる事も多かった。
そんな乳母の仕打ちは兄達が気付いてくれるまで続いた。兄達から伝えられた乳母の実態に両親は激怒し即解雇したがもうその時は遅かった。二人の性格に大きな影を落としていた。
ジークリンデは表情も言葉も思うように表に出せなくなり、シャルロッテは極度な神経過敏性になってしまったとライナーの親友・・・二人の兄クラウスから事情は聞いていたせいか何時も、ハキハキと快活に喋るライナーが語尾を濁していた。
「・・・協定?とは何ですか?」
シャルロッテは嫌われていると意味では無いと聞き安堵したが、今度は聞き慣れない言葉に不安になり、消え入りそうな声で尋ねた。
「・・・要する表向きだけの夫婦にならないかと思って・・・その方が君も気が楽だろうし・・・どう?」
表向きだけの夫婦と言う意味がシャルロッテは分からなかった。だから返答出来ず困ったように眉をひそめるとライナーが察してくれた。
「意味が分からないようだね?こんな政略結婚に多い例だけど・・・好きで一緒になった訳では無いのだから自分達の好きにしようと言っているんだ。君も私も自分の好きな事をする。でもそれだと親達が心配するだろうから皆の前では夫婦のように振舞うと言う訳だ。もちろん恋愛も遊びも自由だけど離婚するようなものは禁止。どう?」
シャルロッテは嫌だと言いたかったが言えなかった。自分のことを何とも思っていない相手に告白する勇気は無いのだから・・・
「・・・その方が良いのなら・・・そうして下さい」
「良かった!とにかく宜しく、奥さん」
ライナーは爽やかに笑うと握手を求めてシャルロッテに手を差し出した。
シャルロッテはその手を、じっと見るだけで両手は固く膝の上で組んだままだった。
ライナーは出した手を仕方なく下ろすとベッドを指さした。
「じゃあ、取り敢えず寝ようか?少し日にちが経ったら寝室は別にするとしても今は無理だから一緒に寝よう。もちろん寝るだけだから心配しなくていい。じゃあ、お先に」
ライナーは明るくシャルロッテを気遣って言うと、さっさと寝てしまった。
残されたシャルロッテは躊躇したもののその後を追ってベッドに入るとライナーに背を向けて眠った。
目覚めれば新しい生活が待っている・・・
不安な気持ちは結婚が決まった時からずっと続いていた・・・
神経は昂ぶったままでまともに眠れていなかった。だからライナーが会いに来ても具合が悪く会えなかったのだ。しかしその夜は何故かとても熟睡出来た。
シャルロッテにはそれがどうしてなのか分からなかったが朝は明けた―――