「天空の恋」「天眼の王」に引き続く内容となります。ただし今回の主役はリネア&サガンです。
天眼軍を束ねる男勝りのリネアと、獰猛な野蛮人サガンとの心温まる…おっと!口が勝手に…二人の心休まらないお話をお楽しみ下さいませ。オレ様な傍若無人の熱い男が好きな方は必見です(笑)
傲慢、クール系の好きな私ですがこのタイプも意外と好きです。「盟約〜」過去編のアランの様なタイプですね。彼より数段、破壊的な性格ですが…本編では美羽ちゃん苛めていましたけど…気に入って頂けると嬉しいです。


 気付いていないふり・・・そして気付かないふり・・・
もう何年それを繰り返したのだろう。それは言葉にしてはいけないもの・・・
私の本当の心は幾つも鍵をかけていた。ふと鍵を開ける音が聞こえてもその横で鍵をかける。
開けてはいけない・・・絶対に・・・


 此処はほぼ一年中雪に閉ざされ凍てついた国―――天眼国。
額に第三の瞳・・・天眼を持ち特殊な力を持つ彼らは遥かなる昔、全ての国を統べていた神と呼ばれたものに最も似ていると云われる種族。それが何故、この住み易いとは思えない土地で暮らすようになったのかは定かでは無い。能力に長けているから住めているようなもので温暖な地への憧れは強いだろう。色々な事情が絡み、手に入れた常春の国、黒翔国は天眼族の長年の夢だったかもしれない。しかし・・・

「リネア、ご苦労だった。細かなその他の手続きは此方で引き継ぐ」
そう淡々と言葉を発したのはリネアの母違いの弟イエランだ。
そしてイエランは天眼国の王―――
天眼国では生まれの順番に関係無く王の子の中で最も力が強いものが王となるのが決まりだ。
つまり姉であるリネアは弟には敵わなかったと言う訳だ。
でも悔しいとは思ったことは一度も無いかった。イエランは天眼の力だけで無くこの大国を束ねるに相応しい器量を持っていると認めているからだ。
そのイエランを支え国の発展に尽くすのが使命だとリネアは何時も思っている。
そしてつい先日まで支配下に置いていた黒翔国を任されていた。
天眼軍を束ねる彼女がその軍力で完全制圧したと言っても他民族の支配は大変だった。しかしそれなりに遣り甲斐のある仕事で一生を黒翔国で過ごすかもしれないとリネアは思ったぐらいだ。
しかしそれをイエランの独断で返還する事になり現地での引継ぎが終わって帰国したところだった。

「本当にご苦労様でした。貴女の働きはこの天眼国と黒翔国との関係を友好なまま保てるでしょう」
王の側に立って軽やかに流れるような口調で話しかけて来たのはリネアとイエランの兄カルムだ。
他の臣下達がいる手前今は表の顔のようだ。優しげで眩しいくらいに綺麗なカルムはその容姿を最大限に生かして表の顔で皆を魅了する。表の顔とは誠実で思慮深く頼りになる王兄らしい。
でも・・・皆が居なくなった途端、もう一つの顔が覗く。

「リネア、本当にお疲れさま。短い間だったけど濃度は濃かったからね。ミウちゃん攫われ、ミウちゃんのお兄ちゃん攫われで落ち着く暇も無かっただろう?」
重臣達が退室した中、残ったのはイエランとカルムだけだった。親しい者にだけ見せる
カルムは口調も表情も軽く陽気なものとなる。この豹変ぶりは見慣れたリネアでさえ毎回感心してしまうものだ。
「そうね。流石に私も疲れたわ。急な政策の変更にカルムの内緒ごと。全く相談無しにやりたい放題。貴方たち私を何だと思っているの?」
リネアは平然としている可愛く無い弟と肩をすくめる兄を指差して言った。

(本当にいい加減にして欲しい!あれこれ言いたく無いけどこの男達は勝手が良すぎる!)
「リネア、そんなに怒らないで欲しいな。私達にも色々事情があってね。君を仲間外れにした訳じゃないんだよ」
「カルム!私が仲間外れにされたと言って怒っている訳じゃ無いのよ!」
「まあ、まあ。怒らない、怒らない。リネアは頑張っているよ。なあ、イエラン?」
カルムは話しを煙に巻くようにイエランに話しを流した。
イエランは答えない。昔からそうだった。リネアとカルムが周りで騒いでも、しらっとして話しに入って来ないのだ。それどころか殆ど無視状態だ。本当に可愛げ無い。
そんなイエランも恋人に関われば人が変わったように豹変したから驚きだった。まさかこんな風になるとはリネアもカルムも思ってもみなかった。

「もういいわ。私は長期休暇を取らせてもらうわ。今は軍を動かすような事も無いでしょう。イエランが居れば問題無い筈。親愛なる陛下は十分休暇を楽しんだでしょうしね」
イエランとカルムが金の天晶眼の件で、ごたごたしていたとリネアが知ったのは全てが片付いた後だった。しかもイエランはその後、美羽と楽しい休暇を過ごしたとか・・・

(何も知らされず行方不明となった海翔をずっと探していた私はまるで馬鹿!)
薄情な兄弟をリネアは思いっきり睨んだ。しかしイエランは嫌味を聞き流し、どんなに睨んでも顔色一つ変えない。カルムはちょっと慌ててリネアの機嫌を取ろうとし出した。

「そうだね、それが良いよ。リネアは頑張ったんだからたっぷりと休暇を取ったらいいよ。後のことはイエランに任せてね。何処に行く?温泉?温泉だったら良い所知っているよ」
「結構よ。カルムの言う良い所って女?それとも男の方?何れにしても深い関係のお友達の居る場所になんか行かないわ。何かとうるさいもの」
浅く広く付き合うカルムの周りには友達以上、恋人未満の者達で溢れている。その中でも一番になりたいと思うのは当たり前で妹のリネアに取り入ろうとしていた。それが昔からうんざりするぐらい多いのだ。でもそれをカルムに告げ口すれば彼らは一瞬のうちに切られるだろう。

(それは少し可哀想だと思う・・・ほら、カルムの表情が変わった・・・)
「あの子達・・・リネアに何か言ったの?」
「別に何も無いわよ。眉間に皺が寄ってる。そんな顔しないの!暖かな場所にでも行くつもりよ。黒翔国に暫く居たから此処の寒さは堪えるしね」
カルムの眉間の皺がもっと深くなってしまいリネアは、しまったと思った。

「傷が痛むの?」
無関心のイエランまでも何か言いたそうにリネアを見た。
今もなお彼女を苛む傷が左肩に残っている。幼い頃、気が狂った実母に殺されかけたものだ。
それは日常茶飯事の事だったが、この肩の傷が一番深かった。腕はもちろん命さえ落としかねない傷だったが月日と共に今では寒さに少し難儀するぐらいだ。

「大丈夫。何でも無いわ。温暖な場所に居て身体が少し怠けているだけ。そんな事、一々言っていたら此処で暮らせないじゃない。でも休暇を楽しむのなら怠けついでと思っただけよ」
「リネア、私達の前で痩せ我慢しなくても良いんだよ。痛むのだろう?今年は特に寒さが厳しいから・・・」
「そんな顔をしないで。毎年のことじゃない。温かくしていれば何でも無いことだし、今では痛くて眠れないなんてことも無いのよ。長年付き合っている傷なんだから」
言い繕ってもカルムは険しい顔をしたままだった。

(きっと私の嘘が見えなくて腹を立てているのね。私も一応弱くても心眼の力があるし気を張っていれば嘘くらいつける・・・こんなに痛むのは欠けた刃が残っているかもしれないと医師が言っていた。それが小さなものでも異物を身体は受け入れようとしないから中で傷が塞がらないとか・・・だから寒いと筋肉が収縮して傷を刺激し、暖かいと緩んで痛みを和らげる感じ?)
カルムが大きな溜息をついた。

「リネア・・・君が望むなら暖かな国をあげるのに・・・」
「馬鹿!そんなことしたら絶交よ!」
カルムはいつもこんなことを言う。
それをイエランも止める素振りも無ければ無視する気配も無い。二人共、結構本気だ。
黒翔を攻めると聞いた時、はじめ、とうとうやるのかとリネアは思ったぐらいだった。
この二人が本気を出せば簡単に他国を奪うことは容易いだろう。神の遺産である風魔鏡が無かったとはいえ黒翔国をあっさりと制圧出来たのだから周りにひしめく小国などあっという間に支配してしまうに違いない。

(その理由が私の古傷の為――とかになるなんて冗談じゃないわ!)
リネアはこの二人の前だと非力さを感じて嫌いな自分になりそうだ。女だからと言って弱い者として見られたく無かった。母親のように絶対なりたく無いのだ。父親に・・・天眼の
王に望まれた時、夫を殺され無理矢理奪われた結果となったとしても自ら死ぬ勇気も無かった母親―――現実から逃げて悪夢の子を消し去ろうとした。自分より弱い者には剣を振り下ろす事が出来る卑怯者だった。
(私はそんなものになりたく無い・・・だから剣を取り雪原を駆けた。誰よりも強く誰にも頼らないように・・・でもこの二人には敵わない・・・悔しいけど)
リネアは、さっさと部屋を後にした。
このまま居ると口の上手いカルムに言い包められてしまうからだ。

「さてと・・・お気に入りの子でも連れて何処か遠くにでも行こうかしらね」
お気に入りとは恋人?愛人?つまりそんな感じのものだ。しかもリネアは女の子限定。保護欲を掻きたてる彼女達は可愛いらしい。

「ミウちゃんは好みなんだけど・・・イエランが相手じゃあ無理だし・・・残念」
「何か言った?リネア様?」
「可愛いラナ。何でも無いわよ」
ラナ――褐色の肌に獣のような黄色の瞳。
猛牙族の彼女は一年程前に奴隷市で売られていたのをリネアが助けた。
貧困で子供を売る親は幾らでもいる。しかし利益の為だけに違う土地から攫って売るとなれば流石に罪となる。それらを摘発し取り締まった時に彼女を助けたが恩を返したいと言ってそのまま居座ってしまった。帰国を何度促しても一向に聞きいれようとしなかった。しかも困った事に好戦的な猛牙族らしく気性が荒いから何人かいるリネアのお気に入り達と上手く行かず喧嘩ばかりしている。
リネアから見れば爪を立てる可愛い子猫のような感じだが・・・

「リネア様?」
「ラナ、休暇を貰ったから旅行しようかと思っているのよ。一緒に行きましょう」
「旅行!」
ラナの顔が輝いた。しかし行き先を聞いた途端、短い髪の毛を逆立ててしまった。

「リネア様!私を追い出すつもり!」
「違うわよ。猛牙国にまだ行った事が無いから行ってみようかと思っただけよ。案内がてら一緒に来てくれたら嬉しいけれど嫌なら留守番していて構わないわ」
「私が行かなかったら誰と行くの?マイヤ?ビーヤ?ペトラ?それとも全部?」
「さあ、どうしようかしらね?」
単純なラナの扱いは簡単だ。ちょっと突き放して他の女の子達の存在を匂わせれば敵愾心の強い彼女は絶対自分が行くという結論になる。

「私が行く!他の奴は一緒に連れて行かないで!」
「あら?行く?故郷は久し振りでしょうから家族や知人に土産を買って行ったら良いわ。何でも好きなものを買っていいわよ」
「・・・・・・・・・」
ラナは直ぐに返事しなかった。彼女にも色々と事情があるらしい。リネアは自分に支障が無ければそれは見て見ぬふりだ。

「でも・・・向こうは今、内紛状態でしょう?大丈夫?」
「あら?詳しいのね。感心、感心」
「・・・・・・・・・」
ラナの言う通り、猛牙国は一部の部族が王族に戦を仕掛けて内乱を起こしていた。同じ猛牙族と一括りで言っても生活様式の異なった多くの部族で成り立っている国家だ。好戦的な気質の彼らを力で抑えて国家としてまとめているのが王族と呼ばれる一族だ。

「大丈夫。最新情報ではもう終息しているらしいわ」
法国の謀が発端で始まった内乱は暴虐の王子≠ニ言う異名を持つ王子が跡形も無く根こそぎ始末したらしい。そんな情報を仕入れたとしても五大国はお互いに干渉せず馴れ合わず牽制し合っている間柄だからどうもこうも無い。しかし美羽を挟んでイエランと一悶着あったようだが・・・

(正直・・・今は気持ちを紛らわしたいと言うのが先行しているから敢えて少し危険だと思うような場所を無意識に選んでいるのかもしれないわね・・・)

「なっ、馬鹿な・・・リネア・・・急いでサウルを此処に呼びなさい!」
いつの間にか出発してしまったリネアの向かった先を確認したカルムはただちに手を打った。
リネアの副官サウルを至急呼び寄せたのだ。

「サウル、リネアが猛牙国に向ったのは知っていますか?」
「はい。承知しております」
「知っていて止めなかったのですか?」
憤りを抑えたカルムの追求に頭を垂れていたサウルが視線を上げた。

「リネアは時々、無茶をします。しかしサウル、貴方が付いているから私は安心していました。今回は失態でしたね。直ぐに連れ戻して来て下さい」
「―――御意」
サウルが再び頭を垂れて受けると退室して行った。
その二人のやり取りを無言で見ていたイエランが口を開いた。

「カルム、そんなに神経質にならなくてもいいだろう?リネアなら何処に行こうが大丈夫だ」
「イエラン!あの国は情勢が不安定で危険この上ないんだ!それに向こうとはミウちゃんの件で揉めたばかりだろう?もしリネアの正体が分かったら無事じゃ済まない。それなのに護衛も伴わず問題のある女の子一人連れて行くだけなんて!正気の沙汰じゃない!」
「過保護だな・・・」
「何だって?」
「過保護だと言った」
イエランの目の前で苛々と行ったり来たりしていたカルムが、ピタリと足を止めた。

「過保護にもなる!リネアは今――・・・嫌、何でもない・・・」
「言いかかって止めるな。リネアが今何だ?」
「・・・・・・・・・」
カルムは答えない。イエランは諦めたように息を吐いた。

「言いたく無いのならいい。それにしてもサウルが無事に連れ戻せたら良いが・・・」
「サウルなら大丈夫・・・我々の言うことは聞かなくても彼の言う事ならリネアは素直に聞くから・・・」
カルムはそう言いながら不安で堪らなかった。

(サウル・・・リネアを頼む・・・)



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