「リネア様、お探し致しました」
サウルはリネアの姿を目にすると直ぐに駆け寄って目の前で跪きそう言った。
彼が通されたのは謁見の間のような公の場では無かった。サガンの私室へと直接通されていた。

「意外と遅かったわね」
「申し訳ございません、想定外の場所でございましたので・・・」
サウルは抑揚の無い声で答えた。

「・・・カルムにでも視て貰ったの?」
「いいえ。近くであれば私で視れますからカルム様にお手数をかけておりません」
「そう・・・それで何の用?」
二人の淡々とした会話を聞いていたサガンの方がリネアの問いに驚いてしまった。

(何の用だと?こういう状況で普通聞くか?)
「カルム様より猛牙国は危険だからご帰国させるようにと申し付かりましたのでお迎えに参りました」
リネアは小さく笑った。

「それはご苦労様。でも遅かったわね。もう十分巻き込まれてしまったから帰れないのよ」
頭を垂れていたサウルが顔を上げてリネアを見た。そして彼女の手首にぶら下がった鎖に視線を送ると眉をひそめた。その鎖の先は悪名高い暴虐の王子に繋がっているようだった。

「それは何のお戯れでございますか?」
「遊びだったら良いのだけれど生憎お遊びじゃないの。遊びだったならこんなのじゃなくて可愛い女の子と繋がっているわよ」
「おい!調子にのるんじゃないぞ!」
こんなのと指されて言われたサガンが、ムッとして怒鳴った。

「あ〜そう言えば・・・サガン!この呪の解き方は?まだ聞いて無かったわ」
命に関わる事なのにリネアはすっかり失念していた。どれだけ彼女が生に執着していないかそれで分かるようなものだ。サガンはそれが不満で堪らなかった。

「全く!今頃聞くな!これは一度発動してしまえば術者を殺しても意味は無い!効力はその術者の力にもよるから分からん。数日で効力が無くなるものもあれば、ひと月続くものもある。これだけしっかりした蛇連鎖は見た事が無いから長く続く可能性は大きいだろう」
「ふ〜んそうなの・・・サウルこれはね。繋がった二人は運命共同体らしいのよ。片方が傷付けば繋がれた相手も同じ痛みを感じる。だから片方が死ねば――」
「繋がれた相手も同じく命を落とすと言うことでしょうか?」
サウルは驚きもせずに答えた。

「そうらしいわね。効力は試してみたから間違いは無いわ」
試したと聞いたサガンは呆気にとられてしまった。
昨日、サガンが襲いかかった時、それから逃れる為に自分の腕を噛んだと思っていた。それが試す意図もあったのだ。高慢だが冷静に状況を判断し最も有効な手を打つ―――
味方にすれば頼もしいが敵ならかなり厄介なものだろう。

(しかもこいつは女だ!)
猛牙族の女達は地位的に低い。女は男達を悦ばせ子供を産んで育てていれば良いと言うぐらいの感覚だ。サガンも他の男達の考えとほぼ同じだろう。だからリネアの言葉の一つに行動の一つ、一つ、が新鮮で驚きの連続だった。

「ならば尚のことお戻り願います」
リネアは溜息をついた。

「帰れないと言ったのが聞こえなかったの?」
「お帰り願います。カルム様のご命令ですので」
リネアはまた大きな溜息をついた。
カルムは誤解している。リネアはサウルの言う事を聞くのでは無く、カルムの命を忠実に守る融通のきかない彼の頑固さに負けるのだ。それこそリネアが言うことを聞かないとなると自決してしまうような勢いだ。カルムを崇拝する忠実な僕であり、リネアの副官でもあり、それと・・・

「誰が何処に帰るだと!」
サガンは自分を無視してやり取りする内容に腹を立てて怒鳴った。

「ほら、サウル、分かったでしょう?今回は私だけの問題では無いのよ」
「分かっております。ですからお二人共ご一緒に天眼国へと申しているのです」
「なっ!俺が?天眼へ?ふざけるなっ!」
当然ながらサガンの怒号が響いた。

「ふざけてはおりません。その呪が時間と共に消え失せるというものであるならば危険なこの地に留まるより、貴方様の敵がいない天眼の地へと申し上げているだけでございます」
「この俺が逃げ出すなんて出来るかっ!俺は逃げも隠れもしない!」
リネアはサガンの性格なら当然だろうと思った。それこそ強者のみ生き残るような世界で逃げ出したとなれば立場的に不味いだろう。

(鉄のサウルと烈火のサガンと言うところね。でもどちらが勝つかしら?)
リネアは自分の例えに満悦しながらまるで人事のように彼らを見ていた。リネアでも閉口するサウルだからサガンはまるで鉄製の壁にでも吼えている感じにしか見えなかった。

でも愉快に見ているのはほんの少しだけだった。サガンが大剣を抜いてしまったのだ。
それに対抗するようにサウルの天眼が開き始めた―――当然と言えば当然の結果だろう。

「サウル、猛牙国と戦をするつもり?それに言ったでしょう?この人を傷付ければ私も傷付くのよ。貴方に勝ち目は無いわ。それとも私を先に傷付けて弱らせる?」
リネアを守る事がサウルの絶対優先事項だ。傷一つでも許されないと承知している。神々しいカルムの顔を曇らせる訳にはいかないのだ。

それよりもリネア自身が帰りたいという気持ちが希薄なのが問題だろう。彼女がその気なら形勢は逆転してサガンに言うことを聞かせるのも可能だ。
そもそもこの地にリネアが向かったと知ったのはカルムから呼び出された時だった。しかしカルムには承知していたと言うしか無かった。リネアの巧妙な嘘に騙されて側を離れていた自分が悪いのだ。
その失態の方がもっと立場的に悪いと判断したのだった。
カルムから落ち度を指摘された今、もう失態は許されない。

「カルムに伝えて頂戴。私は大丈夫だって・・・イエランは心配しないでしょうけれど一応報告宜しく」
「そういう訳には参りません生命の危険はもとより、それ以外にも危険はございます」
サウルの遠回しで言っている危険の意味は分かっている。

「それがどうしたって言うの?今まで何も言わなかったのに今更説教でもしたいの?」
「リネア、もちろんサウルの心配は正しいよ」
突然何もない空間から声がした。

「なっ、何だ!」
サガンは驚いたがリネアもサウルも平然としていた。
よくよく見ればサウルが少し青ざめているぐらいだ。
そして何も無かった空間が歪み、その中から銀細工のようなカルムが現れた。
それは天眼の力の一つでもある開路と呼ばれる空間を曲げて遠距離を繋ぐものから出て来たのだ。
サガンはこれを見るのは二回目だった。しかも現れた人物は前回と同じだった。
おぞましい心眼の持ち主―――天眼の王の兄だ。

「お邪魔させて頂くよ。猛牙の王子」
カルムは何でも無いような涼しい顔をしてサガンに断りを入れた。

「冗談じゃない!許可も無く勝手に路を繋いでどういうつもりだ!」
「それよりも何の関係も無いリネアを騒動に巻き込み、勝手に危険な場所に留めていること事態問題でしょう?彼女は天眼国の王族―――返答は如何に?」
いつもにこやかなカルムが淡々と冷やかに言った。
しかしその心眼が発する静かな言葉の威圧にサガンは気圧されない。

「それがどうした!この女がうろちょろして勝手に巻き込まれただけだろうが!こっちは大迷惑だ!こいつが余計者なだけで俺が自分の城に居て何が悪い!」
サガンの開き直りにリネアは思わず吹き出してしまった。

「あはははっ、サガンったら、言いたい放題ね!」
「うるさい!黙れ!だいたいお前が悪い!」
「あら?そう?ユーシャちゃんを助けたのは誰かしら?」
「うるさい!お前がいなくてもユーシャは俺が助けた!」
「はい、はい。でも私が居なかったら蛇連鎖はユーシャちゃんとなっていたわよ。視力の良い貴方なら見ていたわよね?私のおかげでしょう?」
「むっむむ・・・」
勝ったと言う顔をしたリネアを睨むサガンだったが、この二人の様子をカルムは驚いて見ていた。
一見、言い争っているようなのにじゃれあっているようにも見えるのだ。リネアが心から生き生きとしている・・・表面だけ調子の良い彼女ばかりを最近ずっと見ていたカルムは驚くばかりだった。

「リネア」
カルムから名を呼ばれたリネアは、はっとした。
楽しくなりつつあった気分が一瞬の間に緊張へと変わった。

「リネア、笑い事では無いよ。幾ら君が強くても危険に変わりはない。言う事を聞いて天眼へ戻りなさい」
黒翔国の任務を終えたリネアは天眼国に戻りたく無かった。だから休暇と言って遠い国へ向ったのだ。
だから当然、帰りたくない―――
心を視るカルムを前にして自分の心をどこまで隠せるか?リネアは自分の心眼をその防御に集中した。
カルムの眉が寄せられた。リネアの心が読めないのだろう。

カルムはサウルからリネアの所在の報告を受け彼の眼から様子を窺った。天晶眼を使えば遠方でも鮮明に遠見出来るが、誰かの天眼に同調して遠見することも出来るのだ。
そこで視た相手は猛牙国のサガン―――
流石にサウルに任せるには相手が悪すぎると判断し、今は従順な弟ラーシュに開路を繋がせたのだ。

リネアはカルムに気を張っていたがその分、繋がったサガンへは無防備だった。

(こいつ・・・)
流れ込むリネアの心を感じたサガンは思わず彼女を庇うように前に出た。

「帰れ!不法侵入で叩き斬るぞ!」
サガンは既に抜いていた大剣を構えた。
リネアは、はっと我に返ってサガンの広い背中
を見た。そして慌てて大剣を握る腕にしがみ付いた。
「ちょっと!止めなさい!」
「うるさい!だいたい危険だ、何だと言いやがって!俺が弱いとでも思っているのか!こいつも自分の身ぐらい守れるだろうが!小さな子じゃあるまいしお前達は馬鹿かっ!」
「―――リネア、帰るよ」
カルムはサガンを無視してリネアに手を差し出した。
リネアはまだサガンの腕にしがみ付いていたが、その手は更に、ぎゅっと力を増した。そしてリネアはカルムの視線から逃れるように俯いた。

「リネア」
再度、カルムは強く彼女の名を呼んだがリネアの返答は無かった。

「妹のケツを追っ駆けてないで、とっとと帰れ!この変態!」
「なっ!カルム様への暴言、猛牙の王子と言えど許さん!」
「おおっ!やるかっ!」
黙っていたサウルだったがとうとう切れた。

「止めなさい、サウル!」
カルムの静止に天眼を開いたサウルはピタリと動きを止めた。カルムの言葉は彼にとって絶対なのだ。

「ふん!腰抜けがっ!」
サガンの挑発にサウルは乗らなかった。天眼を閉じ剣にかけた手を下したままだ。

「私は大丈夫よ。この猛獣に誰も容易に手を出さないわ」
リネアは族長会の出来事には触れずに言った。それを知られたらどん手を使ってもカルムはリネアを連れ戻すに違いないのだ。今は平気な振りをしてやり過ごすしか無いだろう。

「誰が猛獣だ!」
真横で怒鳴られたリネアは肩を竦めると片目を瞑った。

「ほらっ、吼えた。猛獣じゃない」
「なっ!」
ギラリと黄色い眼がリネアを睨んだが彼女は笑うだけだ。

「リネア、君が大丈夫だと言うのは昔から信用出来ないけれど・・・」
「私が大丈夫じゃなかったらサガンがそれを許さないから大丈夫だと言っているのよ。ねぇ、サガン、私を守るでしょう?自分の為に」
サガンは不服そうに鼻を鳴らしただけだった。言われなくてもそういう運命だ。自分を守る為には当然リネアを守る形になるのだ。嫌でも仕方が無いのは確かだ。
当然だがサガンは天眼国に行く意思が無い。そうなれば・・・カルムの天眼が開き始めた。

「無駄よ、カルム。彼には効かないわ。表面は覗けても深淵の荒ぶる魂は心眼を近付けさせない」
サガンは背筋に悪寒が走ったが特別な変化は無かった・・・

「―――困ったものだ。イエラン並みだとはね・・・」
カルムは心眼でサガンを操ろうと試みたがリネアが言ったように無駄だった。金の天眼を開いたカルムでも侵入出来ない人物はいる。相性もあるようだが精神力が強い者程侵入するのは難しい。カルムは大きな溜息をついた。

(無理矢理にでも連れ帰るつもりだったが・・・今のところ特別に心配するようなことは無いかもしれない・・・今はリネアに心眼は使えないのだから穏便に済ませるしか無いだろう・・・しかし)
「・・・リネア、分かっているだろうけれどサウルを悲しませるような事態にならないように。女の子のお遊びとは違うのだからね」
「・・・分かっているわ。それが貴方の望みである限り従うだけよ」
避けていた視線をカルムに戻しそう言った。

「では、時々、様子を見に来ると言うことで今日は帰りましょう」
「二度と来るな!」
サガンは怒鳴ったがそれを微笑んで受けたカルムはサウルと共に開路の歪みに消えて行った。
その後ろ姿をリネアはまだサガンの腕にしがみ付いたまま見送っていた。

「おいっ!いい加減に離せ!おいっ!」
サガンはリネアを払いのけようとしたが様子の可笑しい事に気が付いた。しがみ付いている指は力を入れ過ぎているせいで白く、いつの間にかカタカタと震えていたのだ。顔は瞳を大きく見開いたまま焦点が合っていない。

「おいっ!どうしたんだ!おいっ!ちっ、何だってんだ!」
その上、リネアの深層意識がごちゃごちゃと入り混じって伝わって来た。耳元で大勢からガチャガチャ言われているような感じだ。

「ああっ!うるさい!黙れ!」
悪態をついたサガンはリネアが喋っている訳でも無いのに彼女へ噛み付くように唇を重ねた。
何の抵抗もないリネアの唇にサガンの強引な舌が割り込んだ。歯列を割り深く差し入れた舌が、ぐるりと口内を舐める。その濃厚な口づけにリネアは正気に戻ったが、サガンから後ろ頭を押さえつけられ顔を上げることが出来なかった。

「うっ・・・っ・・・んん」
サガンの胸とリネアの胸の間に折りたたまれている両腕を動かそうともがいたが無駄だった。もがけばもがくだけリネアの背中に回されたサガンの片腕に力が入るだけだった。それに両足はサガンの片足で踏みつけられ完全に動きを封じられた状態だ。

「んん・・・・・・っん・・・う」
サガンの舌を噛んでやろうと思っても深く口を合わせられて歯を閉じることも出来なかった。飲み込みきれない唾液が口の中に溢れるのを感じた。それさえも唇の隙間からこぼれない。蠢く舌は無理やりリネアの舌に絡んでは貪る。溢れる唾液を飲み込んでも間に合わない。

「・・・んっ・・・ううっ・・・ん」
サガンの背中の手が押さえながらも下へと移動し始めると、薄い衣越しに尻を撫で回し始めた。
リネアは思わずビクリと腰が浮いてしまった。
その反応を愉しむかのように強く撫で更にその手は薄い布を引き千切り直接肌に触れだした。
そしてその手が後ろの窄まりに触れその先に指を滑らせると濡れ始めた花芯へと挿し込まれた。

「くうっうう・・・くっっ・・・うん」
リネアは堪らない疼きを感じ、喘ぎにも似た声を発して身体を弓なりにそらせた。
口の中を舌で犯され指で秘部を犯され始めたリネアはどうすることも出来なかった。
ぬちゃぬちゃと粘着音が上からも下からも響く―――耳まで犯されているような気分だ。
密着されたサガンの下半身に段々硬くなる塊を感じ、リネア自身も胸の頂きが尖って硬くなって行くのを感じていた。足の力が抜け・・・もう立っていられない。
しかし不意に口づけが解かれた―――



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