「メイサ、こちらにいらっしゃい」

「お、お許し・・・お許し下さい・・・」
「お前達、顔は似ているけれど性格は正反対のようね。何もしないわよ」
「え?」
メイサは驚いたがサガンは黙っていた。
「ラナは私をずいぶん楽しませてくれたわ。そして何かあげると言ってもこれと言って欲しがらなかった―――一番欲しかったのはあなた達と一緒に暮らすことだったのでしょうね。サガン、この子は貰うわよ」
サガンは不愉快な顔をしてリネアを見た。

「最初からそのつもりだっただろうが。それでどうするつもりだ?」
サガンはリネアがこの娘を殺す前に楽しませろと言ったが本心では無いと思っていた。
何か企んでいる・・・それに興味があったのだが・・・

「この子の囚われている家族を助けて頂戴」
サガンは獣のような目を剥いた。

「はっ!何で俺が?俺はこいつから命狙われたんだぞ。八つ裂きにしても助ける理由は無い!」
「じゃあ、いいわ。天眼軍を動かすから。ついでに諸悪の根源も絶ってあげるわ」
「なっ!」
メイサはもちろんだがサガンも驚いた。

「何言ってやがる!ここは猛牙国だ!天眼軍なんかにウロウロされて堪るか!」
「だって貴方がしてくれないから仕方が無いじゃない?」
「ふん!どうやって動かすつもりだ?こんな状態で!俺がほいほいお前の後ろに付いて行くと思っているんじゃないだろうな!」
サガンは二人が繋がっている呪の鎖を忌々しげに振りかざして言った。
確かに彼の同意が無ければ何処にも行けない・・・
だがリネアが愉快そうに笑い出した。

「私を誰だと思っているの?私が何処に居ようとも何処からでも軍は動かせるのよ」
リネアにはそこまで遠くに飛ばす心眼の力は無い。もちろん虚勢を張っているだけだ。
そうしなければ侮られると思ったのだ。此処では力で全てが決まるとリネアは感じた。
だから常にそれを誇示し続けるサガンが恐れられているのだろう。

「そんな事してみろ!戦だ!」
「そこまで過敏にならなくても良いじゃない?目的以外は何もしないわよ。だから貴方は黙って見て見ぬふりをすればいい」
「出来るか!」
「じゃあ、貴方がする?」
「ばっ!馬鹿か?」
リネアが哀れむような顔をして大仰に溜息をついた。

「意外と無いのね」
「な、何が無い!」
「もちろん度胸よ」
「な、ななっ!」
言葉にならないくらい憤慨しているサガンに向ってリネアは微笑んだ。
それは嫌味な感じでも馬鹿にした感じでも無かった。素直に怒るサガンが微笑ましかったのだ。
リネアの上機嫌な時に見られる微笑みは気高く高潔でそれを向けられるだけで恩賞を受けたような気分になると天眼の軍将達は言う。
だから将達は敬愛する金眼の姫からそれを得ようと競い合って励んでいる訳だが・・・

そのいきなり極上の笑みを受けたサガンは驚き唖然とリネアを見てしまった。
それに度胸が無いと言われ腹が立った。そんな事を言われたのは初めてだ。
サガンはだいたい最初から自分を怖がらないのが気に入らなかった。気に入らないと自分では思っているが気になると言うのが正解だろう。実の父親でもある王でさえもサガンを恐れている。
それなのに?リネアは全く動じてないのだ。

サガンはブンブンと頭を左右に激しく振って気を取り直すとその疑問に思っていた事を聞いた。

「お前、俺にそんな口を利いて恐ろしいと思わないのか?」
リネアはいきなり違う話題に初め、きょとんとした顔をしたが流れ伝わってくるサガンの心情に小さく吹き出した。

(何?いきなり?俺が怖くないかですって?可愛すぎ!)
「な、何、笑っていやがる!」
リネアは堪らず笑い出してしまった。相変わらず飾らない豪快な笑い方だ。

「あはっはは!だって・・あはっ!怖くないか?って可愛く聞くから・・・ぷっ、あはは」
「なっ!か、可愛いだと!」
「だって可愛いじゃない?怖がられているのが自慢?違うわね。本当は怖がられるのは嫌なのでしょう?でも軽んじられるのはもっと嫌」
リネアは暴虐の王子と恐れられるサガンの深層意識をあっさりと言い当てた。
強くなければこの国では生き残れない。そして荒くれる他部族を抑える事も出来ないのだ。
そして今は誰もがサガンを恐れその目から逃れるように視線は外される。それはサガンにとって正しく孤独だった。唯一、妹のユーシャだけが屈託なく接しているだけだ。
だからサガンはユーシャだけを特別扱いをしているのかもしれない。

「私は怖く無いわよ。もちろんこの呪いの鎖が無くてもね。私はね怖いものなんて何も無いの。例え自分が死ぬとしてもね」
リネアは嘘を言った。一つだけ怖いものがある―――
でもそれはサガンに言う必要も無いことだった。だが本当にそれ以外だったら何一つ怖くないのだ。
その唯一の怖さを忘れる為に危険に身をさらそうとしているのかもしれない。

サガンは自分が笑われていた腹立たしさを忘れて呆れてしまった。

「馬鹿野郎!自分が死ぬのぐらい怖がれ!身も守らずさっさと死にやがったら迷惑だ!」
「あっ、そうか!貴方も死んでしまうわよね?ん〜じゃあ気をつけるわ。話が随分逸れてしまったけれど勝手にさせて貰うから私に口出ししないで頂戴」
「許さんと言っただろう!」
「許しを乞う必要は無いわ」
「うるさい!黙れ!俺がするって言っているんだ!」
二人の言い合いをビクビクしながら聞いていたメイサはサガンの怒号に飛び上がった。
そしてリネアはその言葉に驚いた。サガンがこんなに早く承知するとは思っていなかったのだ。
そう仕向けるように煽ってはいたが成功率は低かった。サガンの思考は単純で素直だ。
心眼を持つリネアには手に取るように見えていた。
しかしその素直さが逆に白がいきなり黒になるように気まぐれで読みにくかった。まだ何を考えているのか分かり難い皮肉れた心根の方が先読みやすいかもしれない。いわゆる操り難い性格だ。

「本当に?」
「ああ」
サガンは気に入らなさそうに短く答えた。

「この子のことももちろん許してくれるのよね?」
サガンがメイサに、ギロリと視線を流した。
それだけでメイサは震え上がり床に平伏してしまった。普通はこんな感じだ。

「・・・こんなちっぽけな小娘をくびり殺しても何の得にもならん」
それはサガンの正直な気持ちだ。残虐に殺すのを趣味にしている訳では無い。必要だから殺すのだ。
それは主に見せしめ・・・反逆者達への抑止効果に過ぎない。
毒は毒を以って制する。毒とはもちろん残虐非道を絵に描いたようなサガンだ。

「私は毒だって飲むわ」
「何か言ったか?」
リネアは再び微笑んだ。

「何でも無いわ。ありがとう、サガン」
サガンが聞き間違えかと目を見開いたと同時にリネアが彼の首に抱きつき頬に口づけして、ぱっと離れた。

「なっ!」
サガンは思わずリネアの唇が触れた頬に手を当てた。どうしてなのか気持ちが昂ぶるようだった。
口づけを交わしたわけでも無いのに・・・頬に唇が触れただけなのに・・・何故か鼓動が高鳴る。

リネアは悪戯っ子のような顔をしてサガンの出方を窺っている感じだ。

(完全に面白がってやがる・・・)
馬鹿にされているようなものなのに何故か怒る気はしなかった。だから愉快そうに笑ってやった。
そして獲物を捕らえた獣のように瞳を光らせ口を開いた。

「おいっ、礼ならこんなところにせずにこっちにしな」
サガンの要求はもちろん唇へ――だった。

「ちゃんと、私の言うことを聞いてくれたら考えてあげてもいいわ」
「―――分かった。その娘と黒幕の件は直ぐに片付けてやる」
「その隠し扉にいる人に言うのかしら?」
「はっ!天眼と言うのは何でもお見通しか?水晶宮と呼ばれる王城はさぞかし鎮まり返っているんだろうな。誰も彼もが腹の探りあいをしているんだろう?」
リネアは答えなかった。そういう意味合いでは皆が皆、気を張っているのは確かだからだ。

「だんまりか?まあ、いい。タイト出て来い!」
音も無く壁の隠し扉が開いた。
何処に境目があるのか分からない精巧な作りのそれは閉じるとやはり只の壁にしか見えなかった。
気を完全に殺していてもリネアには通じなかったようだった。男はリネアが毒を飲んで騒いだ直後に潜んだようだ。そのタイトと呼ばれ
た男は年齢的にサガンと同じくらいだろう。
しかしサガンに比べて線は細く引き締まった体躯は黒髪も相まってしなやかな黒豹を思わせた。

「詳細は分かっているな。この娘を連れて即動け」
「承知致しました」
メイサを伴ったタイトはまた煙のように隠し扉の中に消えてしまった。

「ふ〜ん、結構いい配下を持っているのね。腕がたって忠実で・・・と言う感じ?安心したわ。彼なら任せて大丈夫そう」
リネアがタイトを褒めるような言葉を並べるのでサガンは気に入らなかった。
だから難癖をつけようとした時、リネアがいきなり大きな声をあげた。

「な、なんだ?」
「あ――っ、もうっ!この爪をやり直してもらって行かせればよかったのに!見て!ぐちゃぐちゃよ!」
サガンの目の前に突き出されたリネアの両手の指は無事な爪は二、三本だった。毒を吐く為に口の中へ突っ込んだり水を飲んだりと手を使ったせいだ。

天眼軍を動かすと脅しをかけていた口で、そんなどうでもいい癇癪を起こすリネアが可愛く見えたサガンは思わずその指を、ベロリと舐めた。

「ぎゃっ!何するのよ!」
引っ込めようとしたその手を素早く捉えたサガンはその指を銜えてしまった。

「ちょ、ちょっと!止めなさい!」
自由な足もあっさりとサガンの膝で押さえ込まれ壁に追い込まれてしまった。
それでも顔は動くからまた――と思ったがリネアの背中が、ビクリと震えた。サガンの舌が彼女の指と爪の間をチロチロと舐めたのだ。爪の間の柔らかい敏感な肉が刺激され、ゾクリとしてしまった。

「んっ・・・」
思わず鼻から抜けるような声が漏れてしまった。まるで喘ぐかのような声にリネアは自分でも驚いた。
そしてサガンの牙のような歯を爪に突きたてているのを感じた。指の腹は舌で舐められ爪には牙が表面を滑る・・・爪に塗られたものを剥ぎ取ろうとしているようだった。

「や、止めなさい・・・そんなので剥げないわよ・・・やっ、あっ・・・」
サガンの舌が指と指の間に蠢き始めた。一本、一本しゃぶられリネアは感じてしまった。
今まで余り感じたことの無い羞恥で頬が熱くなる。

(ゆ、指なのに?そんな・・・あっ・・・)
サガンがそれを感じたのか微かに笑い指から口を放すと今度は舌が手のひらを通り敏感
な腕の裏へと進みねっとりと舐め上げた。リネアの身体がまたビクリと震えた。
「指が感じるのか?」
吐息で囁くような声がした。
リネアが、はっと気が付けばサガンの顔が耳元にあった。そして熱い舌が差し入れられた。

「あっ・・・」
耳の中でびちゃびちゃと濡れた水音が鼓膜を震わせる。

「や・・・っ、め・・・んっ」
抵抗のない様子にサガンは更に調子に乗った。
大きく開く胸元に手を滑り込ませるとその突起をこね回してつまみ爪の先で軽くひっかいた。
リネアは思わずうめいてしまった。その刺激で乳首が勃ち上がるとサガンはそれを指先でつまみ上げ捏ねるように指先を擦り合わせた。

「い・・・っあ・・・」
リネアは下半身に走る痺れに腰を揺らめかせた。
そして、チクリと首筋に痛みが走る。
サガンが耳朶を軽く噛みそのまま舌を這わせながら首筋に下がり強く吸っていた。
流石にリネアの両手を押さえ込む手は放さなかったサガンは胸を弄っていた手を下へと滑らせた。
へその窪みを爪の先で刺激しなぞりながら真っ直ぐに下腹部へと降りてきた大きな手はそのまま下着のような衣に差し込まれた。汗ばんでいるのか?それとも蜜が溢れ出たものか・・・少し湿った恥毛を掻き分けて更に奥へと指を進める。
どれくらい感じているのか確かめたい・・・
しかし目的の場所に到達する前にリネアの身体が消えてしまった。
二人の繋がった鎖が一直線に浮んでいた。
リネアが鎖の長さだけ瞬間移動をしたようだった。
その鎖を短く持つのを忘れていたサガンは舌打ちした。

「私に触れるなって言ったでしょう!」
「ああ〜言ったなぁ〜俺は聞いちゃいないがなぁ〜嫌、嫌言うわりに感じていたじゃないか?お高くとまってないでさっさとさせろ!」
「なっ!」
隠すことのない劣情を直言されたリネアは、カッと身体が熱くなった。

(させろですって?なんて野蛮なの!)
鎖が、ジャラリと音をたてた。サガンが近付き始めたのだ。
しかし距離が縮まった分リネアも下がった。
サガンは足音一つさせない。部屋に響くのは鎖の音とリネアの軽い足音だけだ。
しかしそのサガンが、タッと軽い足音を立てたと思ったら跳躍していた。
そして音も無くリネアの前に降り立ち驚く彼女を肩に担いだのだ!



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