翠の龍U 翡翠の想い3

 
 サードとの契約を延ばしている理由とは?

レンは自分の特別を作りたく無かったのだ。特別なものはアーシアだけで良かった・・・
叶うこともないこの神聖な想いを持ち続けたいと思っているだけ・・・
だから心に思う宝珠はアーシアだけであり、心に思う女性はアーシアだけなのだ。
しかし去ろうとしたサードを止めてしまったのもレン自身だった。
だからこの不可思議な気持ちに決着はつけていない―――

 ふと、サードが問いかけた二人を見る。
コラードは真っ直ぐな気性で実に気持ちの良い青年だ。そして彼が連れてきたクレア。
彼女の魅力は言葉では言い表せないものがあった。
傍にいるととても落ち着く感じ?癒されるという感じだろうか?
癒しが専門の地の龍の首座であるレンが癒されると思うのも変な話だがそう思ってしまうが・・・
邪魔でもなく、かと言って存在感が無い訳でもない。本当に不思議な感じ・・・・

(二人が恋人同士?)
クレアは両親が早世してしまい、親族であるコラードの家で幼い時から一緒に暮らしていたと聞いていた。だからお互い兄妹のように育ったのだろう。サードが言うようなものでは無いと思うのだが・・・

(そう思いたい・・・)
ふと、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。そしてそのことにレンは驚いてしまった。

(私は今、何と?)
レンが無意識の中から生まれる不可思議な気持ちに戸惑っていると、コラードがレン達に気がつき挨拶へと近寄って来た。レンは、はっとして全ての感情は柔和な微笑みに隠し彼を迎えたのだった。
 その二人が話している間にサードはクレアのもとへ。

「おいっ、あんたらやっぱり恋人同士なのか?」
「えっ?誰が?」
「お前とコラードのことだよ」
クレアは驚いた顔をして笑い出した。

「全然、違うわよ!ああ可笑しい!コラードはお兄ちゃんみたいなものよ」
「げっ、じゃあやっぱ、奴の一方通行な訳だ!哀れな奴」
クレアは瞳を大きく見開いてまた驚いた。一方通行?もしかして?

「もしかしてコラードが私の事が家族とかじゃなくて・・・好きだとか言うの?」
「ああ、そうだろう?見れば分かるさ!」
「まさか・・・・」
「ふん。じゃあ、やっぱりお前はレン狙いなんだな!」
サードは思い出したように不愉快そうに言った。
クレアは思ってもいなかった事を言われて動揺していた。
黙っているクレアを誤解したサードは更に不機嫌になった。

「言っておくけどな!レンはアーシアが好きなんだぜ!だからお前なんか相手になんかしないさ!」
レンはアーシアが好きと言う言葉にクレアは我に返った。

「えっ?でもアーシア様って紅の龍の・・・」
伝説の宝珠アーシアを先日、遠くからだったがクレアは初めて見た。
その容姿の美しさと珠力の輝きに目を奪われた。こんな人がこの世にいるんだと感激したぐらいだ。
月の光りのような髪と若草色の瞳に、春のような微笑は溜息が出るようだったのだ。
そしてその契約者でもあり、恋人でもある紅の龍ラシードが横に立っていた。
彼は城の女性達の間では何かと話題の人物だった。その噂通りの迫力の美形でその魅力は彼と目が合うだけで女達が倒れる、と言われたのも頷ける気がした。素晴らしくお似合いの二人だったのだ。

「ああ、そうさ。はっきり言ってレンが割り込む隙もない二人だけど、そんなのあいつは関係ないんだよ。盲目的にアーシアを愛しているからな」
どうだと言わんばかりにサードは言った。これを言えば大抵の女達は諦めるのだ。
美し
い悲恋に心が囚われたままのレンを慰めるにしても、アーシア以上の女はそうそういない。
流石に厚かましい女達も自分が分かっているようだった。アーシアは本当に良い虫除けだ。

「レン様の想いが叶わないのは悲しいけれどその気持ち分かるわ。叶わない恋ならアーシア様の幸せを見守るのが今のレン様にとっての幸せなのでしょうね。ずっと見つめるだけでも幸せなのよ」
クレアには分かる。自分もそうだからだ。叶わない恋―――
でも傍にいて見つめているだけで死という恐怖よりも勝る幸せがそこにあるのだ。

サードは驚いてしまった。彼女のその言葉には悔しさも嫉妬も無かったからだ。レンが好きならそんな感情があってもいい筈。

(やっぱり、違うのか??)
サードの勘も自分で当てにならなくなってきたようだ。
自信が無くなって黙り込んだサードにクレアが笑いかけた。

「サードさん、私はレン様とどうこうなりたいとか無いから安心して。約束する」
「本当か?女の武器は使わないか?」
クレアが吹き出した。

「女の武器?武器って・・・きゃーはははっ、可笑しい!私のこの貧弱な身体のどこが武器なの?それこそ綺麗な宝珠達がこの城にはゴロゴロいるのに」
「はっ、あんな澄ました高慢ちきな女達よりずっとクレアの方が可愛いぜ!貧弱じゃなくて華奢って言うだよ。お前、言い方が悪過ぎ!でも細すぎだよな?ちゃんと食べてるか?あんまり食べてないだろう?」
「大丈夫よ。もともと食が細いの。でも、ありがとう!褒めてくれて!」
「ま、まぁな・・・」
思わず褒めてしまったことに気が付いたサードはまあいいかと思ったのだった。クレアは女にしては良い奴だと認めていたのだ。


 
 平穏な日々が続く毎日だったがある日、クレアに新しい仕事仲間が増えたのだった。
名前はダーラ。サードいわく、お偉いさんのゴリ押しで来たと言うことだった。
彼女は兌龍州の州公の娘で地の龍。しかもレンの恩師の推薦状を持って来たのでレンも断れなかったらしい。また断る理由も無い。クレアだけでは足りないのが現状だった。
今までサードが追い出していたのだからそうなっていただけだ。心配なのはそのサードだった。

クレアのように上手くいけばいいのだが・・・・レンはその事だけが心配で大きな溜息をつくと、クレアを呼び出した。

「お呼びでしょうか?レン様」
「すみません、クレア。仕事の途中で呼び出してしまって。実は今度着任して来る看護婦の件は聞いていますでしょう?」
「はい、聞いております」
「その件なのですが、貴女は先輩として面倒をみてあげて欲しいのです。特にサードには気をつけてあげてください」
「レン様、サードさんは理不尽なことはしませんよ。気をつけるとか必要無いと思います」
クレアはそうきっぱりと言った。

「それはそうなのですが、とにかく貴女が異例なだけで今までが今まででしたから心配なのです」
「・・・・・・・・」
クレアもその件はコラードから聞いて着任したから分かっている。だけどサードはきつい言い方をする時もあるがそれだけで問題は無かった。彼は根本的には優しいし親切で世話好きだった。
だから周りの評判は良いぐらいだ。しかしこのレンに関する事だけは別なのだ。
でも問題は彼だけでなく相手の方にもあるのではないかとクレアは思っていた。
その事実をクレアは直ぐに知る事となった。

 着任して来たダーラは生粋のお嬢様で、容姿も整っていて龍としても優秀なようだった。
それなりの知識も豊富でその自信が漲っているような態度だった。

「宜しくダーラさん。私は今度からご一緒するクレアです」
にっこりと微笑んで手を差し出したクレアだったが完全に無視されてしまった。
出した手が馬鹿みたいに宙で止まっている。

「ダーラさん?」
「うるさいわね。私は下級の者と喋る口は無いの。黙っていて下さらない?用があるときは呼ぶわ」
ダーラはそう言うと、形の良い顎をつんと上げた。
しかしその場にレンが現れると態度が一変したのだった。

「レンさまぁ〜お久しぶりでございます。私の事、覚えておいでですか?私、貴方のお役に立ちたいと思いまして一生懸命に勉強しましたのぉ〜」
クレアはびっくりして目を丸くしてしまった。
さっきまでツンツンしていたのに物凄くニコニコしているからだ。

「私は貴女と以前会っていたのでしょうか?」
自分を、うっとりと見上げるダーラにレンは、さらりと聞き返した。こんな目で見られるのは日常茶飯事だった。女性達の反応は判を押したように一緒なのだ。レンは時々自分の容姿
が嫌になる。
サードから言わせると期待を持たすように優しく対応するから誤解されると言うのだ。
それに四大龍の中で恋人がいないのがレンだけで、今や独身の龍の中で一番人気らしい。

「ええ――っ、覚えていらっしゃいませんのぉ〜そんなぁ〜」
「申し訳ございません」
なるだけ素っ気無く答える。

「そんなぁ〜あの時でございますよぉ〜」
レンからくれぐれも大人しくと言われていたサードだったが我慢出来ず、ムカついて怒鳴ってしまった。

「うるさいんだよ!このブス!知らんって言ってるだろうが!」
「キャ――っ!」
「サード!」
「おい女、あんた、挨拶に来たんだろう?だったらさっさとしようや。オレはサード、これから宜しくな」
サードの火のような瞳がギラギラ光っていた。彼女を敵だと認定したようだった。

クレアもこれが彼のよく言っているレンを狙うと言うものだろうと認識した。
確かにあからさまな態度だと思った。でも自分にも未来があったらあんな風に一生懸命になるかもしれないとも思ったりもした。いずれにしても気が滅入りそうな予感がするのだった。

 そしてその予感通りにサードとダーラの対決が始まった。
クレアはレンからも頼まれた以上、彼女の面倒をみようと必死だった。普段の仕事より大変かもしれない。ダーラは気が強いのはもちろんだが、自分は権力者の父を持つという強みがあり、屈することがないのだ。サードはそんな事はお構いなしだし喧嘩は何時も平行線だった。

「くそっ、あの女!レンの前だけ可愛い振りしやがって!レンもレンだ!あんな女、さっさと追い出せばいいのに!」
「サードさん・・・気持ちは分かるけれど、別にレン様が相手にしていないのだからいいじゃない?」
「クレア、あの女を庇うのかよ!あんただってあいつから意地悪されているだろうが!」
「そんなこと無いわよ」
クレアはにっこり微笑んだ。

「はぁーまたそうやって笑っているんだな。オレ知っているんだぜ。こないだも用意していた道具が抜かれていただろうが」
「あれは私がもう一度点検すれば良かったのだけどしてなかったし、それに彼女が持っていたからレン様にも迷惑かからなかったわ」
「はぁ〜あんた人が良すぎ。あの女の作戦だろうが、あんたが忘れ物をしたとレンに見せて自分が役に立つと見せる為にな。せこい罠さ!はぁ〜何、笑ってんだよ」
「だって、サードさん。良く見てるなぁ〜と思って。でも大丈夫よ。その教訓を生かして出る直前に必ず確認するようになったから」

そしてクスクス笑うクレアにサードは呆れてしまった。
彼女は本当に怒る事が無いのだ。だからあのダーラもいい気になって、評判の良いクレアを追い落とそうとしている。しかしそれらをまるで相手にしていない彼女は逆に凄い奴だとサードはつくづく思ってしまった。まるで全てを優しく育む大地のようなイメージだ。

「所詮、あの女とクレアとでは出来が違う」
「なあに?何か言った?」
「はん、何でもないさ!あんたはとことん馬鹿だって思っただけさ!」
そうかもね、とクレアは言って笑った。

だけど怒らないクレアが怒った事件が起きたのだ。それはまたダーラの嫌がらせの一つだった―――


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