「盟約の花嫁」人気投票1位を獲得したレギナルトの短編です。応援頂きましてありがとうございました。これは「星の詩」の後に書きましたが、物語は懐かしい「星の刻印」と「星の記憶」の間を設定しています。イヴァンに嫉妬する皇子とティアナとの少しきわどいイチャイチャをお楽しみ下さい(笑)



 レギナルトの弟イヴァンに取り付いていた妖魔を滅ぼし、ティアナも神の奇跡で一命を取り留めた帝国ではその後の処理が極秘で進められていた。皇子イヴァンとその生母を巻き込んだ妖魔の謀は公表されなかった。取り付いた人の記憶まで読み取りその人物に成り代わることの出来る妖魔の存在は人々にとって脅威であると共に、要らぬ恐怖を煽るだろうと判断されたからだった。
「イヴァン、考えは変わらないのか?」
「はい、兄上。処刑されて当然の僕達に身に余る温情・・・申し訳なく思っております・・・」
「温情では無い。そなた達は被害者だと思っている。だから気に病むことは無い」
イヴァンが妖魔に操られていたとしても己の犯した罪を悔いて神官になるとレギナルトに伝えたのだった。

「いいえ・・・僕の弱さが招いたことです。実際、あの妖魔は兄上に取り付けなかった・・・僕が弱かったばかりにこんな事になってしまったのです。それに僕は・・・」
イヴァンは言葉を濁した。未だに心に想うティアナを諦めるためにもこの道を選んだとはとても言えなかった。婚姻の許されない神官となれば兄レギナルトへもその意思表示が出来ると思ったのだ。
レギナルトはイヴァンのその思惑に気が付いた。

(・・・ティアナを諦めきれないのだろう・・・当然だ。私が同じ立場ならそう思う・・・だが、私なら絶対にこの身は引かない・・・)
誰をも魅了する冥の花嫁―――その存在はレギナルト以外には罪な存在だろう。男が思い描く理想を象ったもの。誰もが彼女に恋をし・・・欲するだろう。
そのティアナを最初に手に入れていたのはこのイヴァンだった。
レギナルトは彼女の心を手に入れた今でも、その少し前の過去にこだわってしまう。

(ティアナの元恋人・・・)
それはずっと心の奥に潜み続けるだろう。弟でなければ・・・見知らぬ男ならまだここまで気になるものでは無かった。自分とは余りにも違いすぎるイヴァンだからこそ不安になるのだ。

(・・・イヴァンで無かったらこの世から消していたかもしれない・・・嫌・・イヴァンでも・・・)
心に浮ぶ・・・まるで愚かな権力者のような考えにレギナルトは嗤ってしまいそうになる。
自分が一人の人間にここまで固執し渇望するとは思ってもいなかった。

(本当に私がイヴァンの立場だとしたら大逆の罪を犯したとしてもティアナを手に入れようとするだろう・・・)
以前イヴァンに嫉妬しティアナに浴びせかけた言葉を思い出した。皇家の血筋の命を全て絶ってやる・・・まさしくそんな気分だ。レギナルトは段々気分が滅入ってきた。こういう
感情も今まで感じた事が無いものでどうしていいのか分からなくなってしまうのだ。ティアナと出逢ってから新しい感情に戸惑うことが多い。そうなった時の特効薬はその原因であるティアナに会うのが一番だ。
彼女の周りだけ違った空気が流れているかのように感じるから不思議だった。


「あの・・・皇子・・・」
「なんだ?」
「いえ・・・その・・・」
「なんだ?何かあるのか?」
何かと問われたティアナはどう答えていいか分からなかった。
庭の木陰で敷物を敷いて昼食を楽しんでいた時、突然皇子が現れたのだ。しかも横に座ったかと思ったら、ごろりと寝転がってその頭がティアナの膝の上だった。皇子の濃藍色の長い髪が膝から敷物の上に広がっている。それを見るだけでも胸が高鳴ってしまうのに膝の上からレギナルトに、じっと見上げられたティアナは心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしてしまった。
顔が赤く染まっていくのが自分でも分かる感じだ。

「食事中だろう?続けたらいい」
(つ、続けたらいいって・・・そんな・・・)
「あ、あの・・・皇子もご一緒にどうですか?」
「私?私はいい。昼はいつも殆ど食べないから」
「食べないのですか!」
「ああ、忙しいから時間が勿体無い」
その忙しい皇子がどうして?とティアナは言いたいが食事をしないと言うのが心配になった。

「駄目ですよ。食事をちゃんとしないと身体を壊します!」
「・・・じゃあ、食べさせてくれ」
「え?」
そう言った皇子は寝たままだ。ティアナはどうしたらいいのかとドロテーを見た。
給仕していたドロテーは呆れた顔をしたが追加の料理を取りに行ってくれた。
外での食事だから簡単に手でつまめるようなもので作っているから寝ている皇子に食べさせるのは可能だろう。それにしても皇子らしくない甘え方だ。

「・・・皇子、何かあったのですか?」
ティアナはついそう思って聞いてしまったが、それは当りのようだった。
レギナルトの楽しそうな顔が一転すると口元を引き結んだ厳しい顔になった。
答えを待つティアナは不
安になってきた。
「皇子?」
「―――イヴァンが・・・」
「イヴァン?イヴァンが何か?」
レギナルトは更に不機嫌な顔になった。
ティアナの口がイヴァンの名を呼ぶだけでも嫉妬してしまうのだ。
ティアナは事件後の彼の処遇がどうなったのか心配だった。レギナルトは何も言わなかったし聞ける雰囲気では無かったのだ。だから少しでも情報が知りたかった。

「・・・気に入らない・・・」
「えっ?」
レギナルトは寝たままの状態で手を伸ばしてティアナの(うなじ)を捉えると、ぐっと彼女の顔を下へと引き寄せた。そしてそれと同時に自分も顔を上げ、驚くティアナの唇を塞いだのだ。

「んん・・・・・・っ」
いきなり始まった口づけはまるで鬱憤を晴らすかのようなものだった。一方的なその行為にティアナは涙が込み上げてきた。涙を堪えるから唇も肩も小刻みに震えだしてしまった。
レギナルトはそれを感じ、はっと我に返ると唇を解いた。

「すまない。つい・・・」
嫉妬したとは言えない。些細なことを気にしているとティアナには知られたくないものだった。
気まずい雰囲気が二人の間に漂う。

「皇子・・・何が気に入らないのですか?」
ティアナは思い切って訊ねた。
それにレギナルトは答えたく無かったのだがティアナの瞳に浮ぶ涙を見るとそうもいかない。

「そんなにイヴァンのことが心配なのか?」
ティアナは、はっとした。

(私とイヴァンの関係をまだ?)
疑っているのだろうか?とティアナは思った。独占欲の強い皇子なら考えられることだった。
イヴァンは淡い初恋の相手だったがそれはまだ恋とも言えないようなもの・・・
正真正銘の胸を焦がすような恋の相手はレギナルトだったのだが・・・

「・・・嘘は言えませんから正直に言いますけれど・・・心配しています」
「何故?」
「何故?何故だとかそんな・・・イヴァンは今では友人だから心配するのは当たり前でしょう?」
この表現で通じるだろうかとティアナは不安だったがそう言う以外ないだろう。

「・・・友人・・・昔は口づけを交わすぐらいの親密な友人という訳か・・・」
「そ、それは!」
「あれとは・・・どんな感じにした?」
ティアナの頬に、かっと血がのぼってきた。
どんな感じ?とはイヴァンとの口づけのことを聞いているのだ。

「そ、それを言わなければいけませんか?」
レギナルトの紫の瞳が暗い影を宿して、じっとティアナを見上げている。言葉に出さないが言えと言っているようだった。
ティアナは、きゅっと唇を噛んだが諦めたように小さく息を吐いた。

「イヴァンは・・・」
「もういい!何も言うな!」
レギナルトは短く吐き捨てるように言うとティアナの膝の上から起き上がってしまった。
心地よい重みと温もりが急に無くなったティアナは不安が胸に広がり始めた。

「皇子、私は!」
ティアナは必死に何かを訴えようとしたが言葉が見つからない。
レギナルトは視線を、ちらりと動かしただけで黙っている。
ティアナは涙が込み上げてきたが此処で泣いてしまったら駄目だと思った。
だから、ぐっと我慢をして皇子を見上げた。

レギナルトはそのティアナを見られなかった。馬鹿なことを口にしてしまったと後悔していた。
嫉妬していると言ったようなものだ。しかもティアナは今にも泣きそうだった。
一生懸命堪えているのが手に取るように分かる・・・

(泣かせるつもりでは無いのに・・・)
レギナルトはどうしていいのか分からなかった。何もかもが初めてなのだ。本気で女性を愛することも、それをどう表現して伝えたらいいのかも・・・そして胸に湧きあがる嫉妬も。
何でも出来ると自負していたのにこれに関しては何も出来ない自分が情けなかった。

(触れれば儚い夢のように消えてしまうような彼女を力の限り抱きしめればこの気持ちが治まるのだろうか?)
それでもまだ足りないだろうと心の奥から囁く者がいる。

「うるさい!」
レギナルトは大きな声でその声に怒鳴った。
しかしティアナは自分に言われたと誤解してカタカタと震え出した。
ぽたぽたと我慢していた涙も落ちる。
レギナルトは、はっと我
に返った。
「ティアナ、お前に言ったのではない。だから泣くな」
「・・・っで、でも・・・怒ってますでしょう?私・・・私・・・」
「ティアナ・・・泣くな。頼むから・・・お願いだ・・・」
誰かが聞いたら驚くだろう。皇子の口から頼むとか願うとか言う言葉を聞いた者は居無い筈だ。

「怒っていない。怒っていないから、頼む・・・」
その皇子の願いもティアナには効き目は無いようだ。一度泣き出したらなかなか止まらないのだ。
もちろんレギナルトはこの涙に弱い。本格的に泣き出したティアナの涙を止めるにはもっと刺激を与えるしか方法が無いのだ。

レギナルトはティアナを強引に抱き寄せた。それに抵抗する素振りを見せる彼女の両手を片手で封じ込め、残った手でティアナの後ろ頭を押さえ込んだ。
そして無理やりに唇を重ねる―――
「嫌っ・・・まっ・・・て・・・」
反抗する言葉を呑み込んで口づける。言葉では伝わらない想いをこれに託した。

(愛している・・・愛している・・・ティアナ・・・ティアナ・・・愛している)
口づけの間、心の中で繰り返し呟く。
それが通じたのかティアナの強張った手が力を無くし拒むように閉じようとしていた唇がレギナルトを受け入れ始めたのだ。レギナルトはもう自分を止められなかった。
身体を預けるように力を抜いたティアナをそのまま抱き寄せた。
部屋の中とは違う草木と土の匂いが鼻腔をくすぐり、風が頬にそよぎ気分は開放的だった。
口づけは深さを増していく―――
ティアナの手を封じていた皇子の手が彼女の衣服の留め金を求め彷徨いそれを背中に見つけると器用に外しだした。ティアナは与えられる口づけに翻弄されて気が付かない。しかしそこからレギナルトの手が侵入してくると驚き、びくりと身体を震わせた。止まっていた筈の涙が溢れてきた。
皇子が嫌なのでは無い。こんな場所でしかも流されるままされるのが嫌だった。
大好きな人と結ばれるにしてもこんなのは嫌だった。しかし嫌だと言いたくても唇は塞がれている。

(誰か、助けて!)
ティアナは心の中で叫んだ。そして涙で霞む先に驚いて立っているドロテーが見えた。

「皇子!ティアナ様が嫌がっておられます!」
ドロテーの声にレギナルトの動きがピタリと止まった。
皇子のすることに意見するのは命がけだ。愛し合っているもの同士の行為にいちいち干渉するつもりも無い。黙ってその場を去るのが侍女として当たり前だろう。
しかしティアナが嫌がっているのが分かったか
ら決死の覚悟でドロテーは言ったのだった。
動きを止めたレギナルトは、自分の腕の中で震えて泣いているティアナにようやく気が付き唇を解いた。涙を止める行為の筈だったのに歯止めが利かなくなってしまったようだ。
自分でも無意識にティアナの背中から侵入させた手に驚いてしまった。
急いで彼女の衣服の中からその手を引き抜いた。背中の止め具が外されてしまったティアナは着衣が乱れて細い両肩が見えている。まるで暴漢にでも襲われたような有様だ。
合意もなく始めたこの行為をレギナルトは恥じた。

「すまない・・・」
顔を背けた皇子にティアナは、はっとした。

(皇子を傷つけた?)
嫌だったが、レギナルトを傷付けるつもりでは無かった。

「皇子、昼食・・・お食事しましょう?ドロテーが美味しそうなのを色々持って来てくれましたから・・・一緒に食べましょう。はい」
ティアナは精一杯、何も無かったかのように微笑んで、その一つを摘むとレギナルトに差し出した。

「ティアナ・・・」
「あの・・・私、嫌って言いましたけれど皇子が嫌いになった訳じゃないです。その・・・あれ以上はちゃんと結婚した後に・・・といつも母から言われていたので・・・ごめんなさい」
レギナルトは恥ずかしそうに言葉をつまらせながら言うティアナを見つめた。慎ましく育ててくれた彼女の親を恨みたいような感謝したいような気分だ。イヴァンの手もつかなかったが自分もお預け状態。
レギナルトの視線一つでその身を投げ出す女達は後を絶たなかった。それなのに今はこんなにも苦労している・・・本気で好きになった相手は勝手が違い情けなくなってしまう。

「ティアナ、私が悪かったのだからお前が謝る必要は無い。神聖な行為は当然、神々の許しを請い祝福を受けてからするものだと私も思っている」
「皇子も?皇子もそう思っているのですか?」
レギナルトが、そうだと頷くと、心配顔だったティアナが花開いたように微笑んだ。

「良かった!」
レギナルトも微笑む。

その側で一人呆れ顔なのはドロテーだ。

(神聖!自分も思ってる?冗談でしょう?皇子がそういう考えを持っているのなら今までお付き合いしていたご婦人方とは?)
噂で聞く皇子はそんな清らかな付き合い方など一人もしていない。
ドロテーは呆れ果ててしまった。しかしその後の皇子はドロテーが感心するぐらいティアナに対して強靭な自制心を発揮し続けたのだった。無自覚なティアナの天然攻撃に耐えながらレギナルトは婚礼の日を指折り数えて待つ。

(春が来たら・・・)
巡る春に思いを馳せるレギナルトはこの時幸せだったかもしれない。
まさかその待ち望んだ日が延びるとは夢にも思わなかっただろうから・・・


FIN



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