| 「天空の恋」の続編になります。二人のやっと実った恋のその後は…という感じでお届けします。甘々な生活が待っていると思ったら…やはり恋には試練が待っていました(笑) それでもイエランの溺愛っぷりと美羽のまだまだぎこちない恋をお楽しみ下さいませ。 |
天眼の王1![]()
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天眼族―――その額に力を宿す眼を持つ者。
遥かなる昔、天地を支配した神々に最も近いと云われるその姿と力は他民族にとって憧れであり脅威でもあった。その一族の頂点に立つのが金の天眼を持つ王族だ。
そしてその中で最も力が強いものが王となって君臨する。
その天眼の王イエランが更なる繁栄をもたらすと神代から伝承された白き翼の乙女を手に入れた。
それは黒翔国を奇襲して一度は手に入れたものだが、それも束の間に奪われ彼女を奪還する為、法国と一戦交えたばかりだ。その快勝した法国から帰還したイエランと美羽は水晶宮を目の前にした真っ白な雪原の平野に降り立った。
「えっ?ここ?」
空間を捻じ曲げ遠い場所に短時間で行ける路を作るのも天眼族の力の一つだ。
それは力の違いで長さも移動させる量も異なる。だがそれらの力を驚異的に増幅出来る神の遺産天晶眼≠使って遠く離れた法国とこの地を繋いでいた。
美羽は初めて外から水晶宮を見た。重く圧し掛かるような灰色の雲の切れ目から幾筋もの光りが宮殿に注いで宮殿はまるで宝石のように輝いていた。その溜息の出るような美しさに美羽は目を奪われた。
しかし以前黒翔国への空間を曲げた路を渡る時は宮殿の中から出たので、今回はその逆で宮殿内に直接帰るのだろうと思っていた。
それなのに?美羽の疑問を悟ったイエランは直ぐに答えた。
「この大軍では流石に水晶宮の大広間でも収容は不可能だ。少し歩くがたまにはいいだろう」
なるほどと納得した美羽だったが歩くと聞いて嬉しくなった。足跡一つない雪の上に自分の足跡をつけるのはとても楽しいのだ。美羽が瞳を輝かせて行き先を見た時に、ふわりと暖かなものに包まれた。
「えっ?何?きゃっ!」
ぐいっと寄せられた場所はイエランのマントの中だった。
驚いて見上げるとイエランと目が合ってしまった。美羽の顔は一気に火が点いたように真っ赤になってしまう。大好きだと思っていた彼の唇の端を少し上げる微笑みよりもっと深い笑みを浮かべたイエランの表情は今まで見た事が無いものだったからだ。
「あ、あの・・・」
「その様な服では寒いだろう?私の傍にいろ・・・それにしても全く気に入らない。法国の服はお前には似合わないから今直ぐにでも剥ぎ取りたいものだ」
脱がせたいと言われた美羽は思わず身を守るように自分で自分を抱いた。
「そ、そ、そんなことされたら、わ、私、困ります!」
「困る?」
「そうです!困ります!」
「困ることは無いと思うが・・・試してみようか?」
イエランの声は愉快そうだった。
そして美羽の背中に手が伸びてきた。そこにこの服の留め具があるのだ。
「や、止めて下さい!」
美羽はそう言いながら目を瞑った。イエランに抗う術が見当たらないのだ。嫌だと言っても彼のすることは全部許してしまうだろう。しかし、ぎゅっと瞑った瞼にイエランの優しい口づけが降りてきた。
「冗談だ。私以外のものにお前の裸を見せる筈がなかろう?もし見た男がいたなら首を落としてやる―――とは言え・・・首を落とし損ねた者がいるな・・・」
「イ、イエラン様」
美羽は物騒なことを言うイエランの顔を見た。瞳を細め何かを狙う獣のような眼だ。
「あの猛牙の奴と・・・カルムだな」
「えっ!カ、カルム様!で、でも瞳は・・・」
猛牙国の王子サガンは分かるがカルムに裸を見られた覚えは無い。それに彼は目が不自由だ。
「奴には良く見える額の眼を持っているからな」
「天眼!」
天眼なら心当たりが有りすぎて何時?なんて美羽には分からない。その場に居なくても金の天眼の力なら見えるだろう。
「あっ、だからあの時、カルム様に眼を閉じろって、誰もいないのに言ったのですね」
イエランは少し不機嫌そうな顔をしている。美羽を宋から助け出した時、そんな言葉を吐いた。
その時は意味が分からなかったが・・・
「奴はあの雪山の小屋でも見ていた・・・思えば何度も何度も」
美羽は雪山の小屋と聞いて驚いた。
「ま、まさか!あ、あの時、見られていたのですか!そ、そんな・・・」
あの時――狼に襲われ雪崩から助け出された小屋で美羽から傷を移したイエランが高熱を出した。
美羽はその時、寒がる彼を温める為に裸になって抱いたのだ。誰もいないのに何故か誰かいる感じがして何度も辺りを見たのを覚えている。美羽にとってとても恥ずかしい行為だった。
しかし、美羽の裸を見た男を殺すと言った恋人の気持ちは嬉しいがカルムを殺させる訳にはいかない。
「イエラン様!カルム様は私達を助けようとなさったのですから不可抗力です!ですから――んっ・・・・・んん」
美羽がカルムを弁護しようと必死に見上げた途端、視界が暗くなった。
イエランからいきなり唇を塞がれたのだ。歯列を割って侵入してくるイエランの舌は美羽の思考を奪ってしまう。舌をからめ取られ吸い上げられると頭の芯が痺れ霞んでくるようなのだ。濃厚で容赦ないイエランの舌の動きに飲み込みきれない唾液が、くちゃくちゃといやらしい音を出し始めた。
「んく・・うっ・・・んん」
王のマントの中で隠れてしていると言っても後には全軍が整列している。恥ずかしいと思う美羽は、待って、と言いたかったがとても無理だった。こうなったら美羽の残っていた理性も崩れ自分から口づけを返し始めた。おずおずと差し出す自分の舌先をイエランが強く吸いからめる。
どんどん深くなっていく口づけに美羽はもう立っていられなかった。
唇が冷たい空気を感じた時、やっと口づけが解かれたようだった。
「美羽、カルムの肩を持つのは程々にしろ。そうでないと本当にカルムの首を落としたくなる」
「そ、そんな!駄目です!あっ・・・あの・・でも・・・」
庇ったら駄目だと言われて言葉に詰まる。どうしたらいいのか美羽は困ってしまった。
イエランはふざけている感じではない。昔の美羽なら相手の怒りが過ぎ去るのを待つように黙ってしまっただろう。でも今は違う。意を決すると嫉妬している恋人を見上げた。
するとイエランはいつもの微笑を浮かべていたのだ。
(えっ?)
そして視界がまた暗くなり美羽の薄く開いた唇は少し冷たい柔らかなもので塞がれたが軽く触れただけの口づけは直ぐに解かれた。
「カルムは問題外だから冗談だ。だが奴以外の男と親しくするのは許さないからな」
美羽はそれを聞いて安堵で胸を撫で下ろしたところイエランが再び不機嫌になってしまった。
今、カルムはいいと言ったようなものなのに美羽のカルム贔屓は気に入らないようだ。
「さあ、行くぞ。早く二人だけになってその気に入らない服を剥ぎ取りたい」
「そ、そんなこと・・・じ、自分で脱ぎます!」
「自分で?ずいぶん積極的になったものだな」
「イ、イエラン様っ!」
美羽はイエランの言葉に含まれる意味を察して真っ赤な顔をして怒った。
イエランはそれを見ると珍しく声を上げて笑った。温かく心に響き渡るような明るい笑い声に美羽はもう呆然とするばかりだ。自分が笑われているのにおかしな話だが楽しそうに笑うイエランに見惚れてしまった。
それからの道行きは短いものだったが水晶宮の大門をくぐった彼らを迎えたのは天眼国に残っていたカルムを筆頭とした重臣の面々だ。
「この度の勝利、誠におめでとうございます。ミウ姫もご無事でなによりでございました。臣下一同お慶びを申し上げます」
カルムが頭を垂れてイエランとその傍に寄り添って立つ美羽に挨拶をした。
カルムが頭を下げたその時、二人の姿が見えないが曇りの無い美羽の綺麗な心は手に取るように視えた。彼女の心の変化に少しばかり驚き、そして微笑を浮べながら顔を上げるとイエランの顔を見た。
見たと言っても見える訳では無いが自分の気持ちをイエランに見て貰いたかった。
(イエラン、ミウちゃんと心が通じあったんだね。良かったね・・・本当に良かった)
と、カルムは声には出さなかったが微笑にそれを現した。不器用な弟の気も狂わんばかりの恋が実ったのを知り安堵したのだった。しかしイエランから告げられた言葉に見えない瞳を見開いた。
「カルム・・・皆も大儀であった。法国の後処理については三日後に会議を行なう。それまで各自それぞれ休息をとるがいい。カルム、黒翔国は生きていた海翔にくれてやった。そのように手配してくれ」
重臣達は息を呑んだ。そしてざわめき始めたがカルムがそれを黙らせた。
彼が後に居並ぶ臣下達に向って肩越しに振向いたのだ。
その額には金の天眼が開いていた―――
全ての心を見通すと云われる金の心眼に誰もが恐怖する。
その昔―――この力を持った王が君臨した時代があった。素晴らしい時代だったと語るものもいれば暗黒時代だったと語るものもいた。嘘偽りを許さない王によって罰せられた者達が後を絶たなかったらしい。清廉潔白な王と云えば聞こえは良いが寛容さが無い非情な王とも云えた。探られたくない心は誰でも持っている。少しの不満を取り上げられて大事にされたくないものだ。
だから皆は一瞬で黙り込んでしまった。カルムはそれらを確認するとイエランの方を向いた。
「承知致しました。万事お任せ下さいませ」
イエランは頷き美羽を伴ったまま宮殿の奥へと去って行ったのだった。
美羽は出迎えた大勢の臣下達の表情が歓喜から怒りにも似た戸惑い、そして恐怖の後の落胆に変わっていくのを見た。イエランは平然としていても不安が胸に広がる―――
そして長い回廊を行く美羽は歩幅の大きなイエランに付いて行くのがやっとだ。肩を抱かれている分、足がもつれそうでもっと大変だった。雪の路では美羽が歩行に慣れていないからゆっくりとだったが今はいつも通りだ。あっ、と思った瞬間、美羽は足をもつれさせてつまずいてしまった。
急にガクっと下に沈む美羽をイエランが驚いて支えた。
「美羽、大丈夫か?」
「・・・・・あの・・もう少しゆっくり歩いてくれませんか?私、付いて行くのがやっとで・・・」
美羽は俯いたまま恐る恐る言った。今まで他人にこうして欲しいと要求するなど殆どしたことが無い。今のイエランに言っても大丈夫だとは思ってはいるが・・・返事が無いので心配になってきた。
立ち止まっているイエランを不安気に、そっと見上げると彼の顔は何故か嬉しそうだった。
「美羽、他にして欲しいことは?それに他に言いたいことはないのか?」
「え?他に??他にって・・・急に言われても・・・」
戸惑う美羽にイエランの微笑みが広がった。
「では思いついた時には今までみたいに黙っていないで言葉に出したらいい。お前の我が儘をもっと聞きたいからな」
少しゆっくり歩いて欲しいと言ったのが我が儘だと言われた美羽は、むっとした。
「ゆっくり歩いてと言ったのは我が儘じゃありません!」
「はははっ・・・分かった、分かった。我が儘では無いんだな。しかし私は歩き方を指図されたのは初めてだ。天眼の王に向ってゆっくり歩けと言えるのはお前ぐらいだろうな。ぷっっくくくくっ・・・・」
「さ、指図なんて・・・私・・・」
イエランの笑いが止まらない。しかし笑いながら美羽を抱き上げた。
「きゃっ!何をするんですか!」
「早く部屋に帰りたいと言っただろう?ゆっくり歩いていたら何時到着するか分からない。抱いて行くのが一番だ」
イエランはそう言いながら大股で歩き出していた。さっきよりも速い感じだ。だから瞬く間にイエランの部屋に到着したのだった。そして彼らを出迎えたのはリンド姉妹、メラとルルナだ。
「ミウ様!」「ミウ様!」
「メラ!ルルナ!」
美羽はイエランの腕の中から開放されると一目散に二人に向かって走り出した。
「ルルナ、ごめんなさい!私・・・私・・・変な術にかかってて・・・あなたに酷いことを・・・」
美羽が麗華の術で彼女から意識を乗っ取られていた時、ルルナの首を絞めて殺そうとしたのだ。
だから美羽はその後、彼女の事が心配で堪らなかった。
「ミウ様、大丈夫です!私、丈夫なのがとりえだからですね!」
「そうそう、ルルナはその分、よ〜く食べますしね」
「姉さん!酷い!」
美羽は、ポロポロと涙を落とした。
「良かった・・・本当に良かったわ・・・」
「ミウ様・・・」
「ミウ様も本当にご無事で・・・」
三人は感極まって抱き合って泣いた。
イエランは少しだけ嫉妬しながらも再会を喜ぶ三人を見守っているようだった。
そして暫くするとしっかり者のメラが顔を上げた。
「ミウ様、お疲れでしょう?湯浴みの準備が出来ておりますので直ぐまいりましょう。お湯に浸かると疲れも癒えますからね」
「あ、はい」
美羽は思わずイエランを、チラっと見た。早く二人だけになりたいと再三言っていたから止められるだろうと思ったのだ。しかしイエランは少し不機嫌そうだったが何も言わなかった。
だから美羽は部屋に一歩も入らずメラ達と湯殿へと向ったのだった。置いてきぼりにしてしまったイエランの事が気になったがメラとルルナの再会に喜ぶ美羽は彼女達とのお喋りに夢中になっていた。美羽は彼女達からいつものように頭の先から足の指先まで丁寧に洗い上げられて湯船に浸からされた。
「百数えるまで出たら駄目ですよ」
メラはそう言うとルルナと一緒に湯上り後の準備の為出て行った。美羽は律儀に数え始めていると誰かが入って来た気配を感じた。彼女達だろうか?と思った時には湯面が大きく揺れた。
湯煙でよく見えないが誰かが湯船に浸かったようだ。
「だ、誰!きゃっ――」