天眼の王18


 イエランが時間をかけ美羽のいる場所に辿り着いた時は、かいた事も無い汗を額に滲ませ肩で息をしていた。一歩、一歩足を進めている間、不安が募る一方だった。
カルムらしくない態度に遠く離れた場所に居る美羽。彼女が今まで使っていた部屋はイエランの居室の隣だと言うのにそこまで運び込めなかったぐらい容態が悪いのか?不安は大きくなるばかりだ。

「・・・此処に・・・美羽がいるのか?」
「―――そうだよ。彼女は此処にいる」
カルムは天眼を開いていないが風魔鏡の気配を感じていた。その波動のせいで手に取るように見えていた美羽の心は視えない。だから中の様子がどうなっているのか分からない状態だ。

その部屋の扉にイエランが手をかけようとした時、中から扉が開いた。
すっと開いた隙間に見えたのは海翔だった。その存在をすっかり忘れていたイエランは一瞬驚いた。
風魔鏡に護られていた海翔だったが・・・その術が解け天晶眼の間に居たのを思い出した。

(あの時・・・風魔鏡を発動させていた?)
その力の作用で皆が王以外を拒絶するあの場所に居ることが出来たのだとイエランは気がついた。
それなら美羽も無事だった筈だ。なのに?何故こんな場所にいるのか?

海翔が無表情なまま更に開いた扉の向こうにはベッドの中ですすり泣く美羽の声が聞こ
えて来た。
(美羽・・・泣いているのか?)
そしてその近くの壁際に落ちている見覚えあるマント―――美羽に纏わせたものだ。
カルムらしく無い不自然な態度・・・
美羽に懸想する海翔が一糸纏わないと思われる美羽と二人だけで部屋に居た・・・
(何をしていた?)
美羽が泣く理由・・・想像出来るのは?

「・・・美羽に何をした・・・」
イエランは自分の声が震えていると思った。これは痛みの為だけでは無い。

美羽は潜り込んでいたシーツの中で、今ここに居る筈の無いイエランの声を聞き驚いて跳ね起きた。
そして振向いた瞬間、海翔を挟んでイエランと目があってしまった。
そのイエランの瞳が大きく見開いたのを美羽は見た―――

予想通り美羽は一糸纏わぬ姿だった。美羽は慌ててシーツを引き寄せたが間に合わなかった。
首筋に今まで無かった口づけの赤い跡がイエランの目に止まった。そして手首には指の跡・・・
カルムの偽りの性交の後には無かったもの・・・誰が付けたのか明白だ。
美羽の嘆きと裸体に浮ぶその跡は疑惑を証明しているものだった。
イエランは声も無く海翔に掴みかかろうとしたが動作は鈍く目的のものを捕らえる事は出来なかった。手が空を虚しく切り、身体がぐらりと傾き片膝をついてしまった。
歯を食いしばり再び立とうとしたイエランだったが海翔はその横を通り過ぎようとした。

「待て・・・逃げるのか・・・」
海翔は去り行く足を止めたがイエランを見ること無くカルムへ視線を移した。

「カルム殿、用は済みました。黒翔へ帰る手配をして下さい」
淡々とした口調に聞こえる海翔の心をカルムはやはり風魔鏡のせいで読めなかった。
用が済んだと言う事は例の件が祈り通りに早く終わったのだろう。カルムは事を穏便に進める為にも海翔は早く黒翔へ帰って貰いたかった。

「・・・開路を用意しています――」
「待てと言っている・・・カルム、勝手は許さない・・・くっ・・」
イエランは肩を揺らしながら立ち上がった。精神力だけで身体を動かしていると言っていいだろう。
例えて言うならば生きたまま炎に焼かれるか、滾る湯の中に身を投じているかのような痛みを全身に感じている筈だった。それでもイエランの額に天眼が開き始めた。

「イエラン!天眼を使ったら駄目だ!」
カルムは天眼の波動を感じ叫んだ。これ以上無理をすれば折角助かった命も削ってしまうだろう。
イエランに殺気を感じた美羽は身体に巻きつくシーツをそのまま引き摺ってベッドから飛び出した。

「兄様を殺さないで!」
海翔を背に庇う美羽の白い首筋に浮ぶ赤い跡を今度はハッキリ見えた。付けたばかりと思われるその鮮明な色がイエランの怒りを更に煽った。

「・・・そんな跡を付けさせて・・・」
美羽は、はっとして首筋を手で隠した。

「こ、これは・・・」
「誰に・・付けられた?お前が・・・兄と呼ぶその男だ・・ろう?」
美羽は違うと嘘は言えなかった。
返答に困った彼女を追い詰めるようにイエランが荒い息を吐きながら続けた。

「・・・そして身体を・・許したのか?無理矢理だった・・・のだろう?泣いていた・・・のは・・・」
「ち、違います!これは――」
「ミウちゃん、駄目だ!」
カルムは彼女が海翔と交わしたものを言うのではないかと慌てて止めた。イエランに知られる訳にはいかない。しかしそれが返ってイエランの不審を煽ってしまった。

「カルム・・・何があった?」
「別に何も」
カルムはその一言だけ言うと問い詰めるイエランから視線を外した。

「お前が言わな・・いと決めたもの・・・は例え殺されても言わないだろう・・・いい。美羽に聞く・・・」
「別に僕が答えれば美羽に聞かなくてもいいでしょう?」
海翔が庇う美羽を脇に押しのけながらそう言うとイエランと対峙した。

「貴方を助ける為に風魔鏡を使って協力をした。その代価が美羽の身体・・・前回と同じく公正な取引でしょう?」
「なっ!馬鹿な・・・カルム、お前が付いて・・いながらそんな馬・・・鹿げた条件に応じたのか!」
「ち、違うの!イエラン、待って!違うのよ!」
美羽が慌ててイエランの腕にすがって訴えようとした。
しかし彼女の手が触れた途端イエランが唸り声を上げた。

「ミウちゃん、駄目だよ!イエランは今身体中の神経が剥き出しになっているようなものだから触るだけでも痛む」
美羽は驚いて手を引っ込めた。こんな状態で自分を探しに来たのだと思うと美羽は涙ぐんでしまった。泣いている場合では無いが上手に伝えられない。

「・・・殺してやる・・・」
痛みに耐えながらイエランが唸るように言った。

「僕を?その状態で?残念ながら今は僕の方が勝つでしょう」
海翔から諭されなくても誰が見ても分かる勝敗だ。それでもイエランの天眼が開いて行
く―――
「駄目だ!イエラン!」
「駄目――っ!兄様!どうしてそんな風に言うの?違うでしょう?違うのよ!カルム様、私、上手に言えなくて・・・お願いします!」
美羽はカルムの胸にすがった。自分の心を読んで欲しかったのだ。

「ミウちゃん・・・」
カルムは天眼を開いた。彼女の心はもちろんだが記憶を読む。美羽が見たこと聞いた事がまるでその場で見ているかのように視えるのだ。そしてそこで視たものは・・・

「イエラン待つんだ!ミウちゃんは何もされていない!初めからそのつもりで?」
カルムは憤るイエランを止め、確認するように海翔に問いかけた。
しかし海翔はそれに直ぐ答えず苦笑いを浮かべたのだった。

「心眼の前では虚勢を張ることも叶わない・・・嫌な力だ・・・」
海翔が美羽に未練があったのは本当だった。しかしイエランから彼女を奪えるとは思ってなどいなかった。だから心の整理をつける為に美羽から徹底的に嫌われようと思ったのだ。
イエランは以前、美羽から愛されない代わりに彼女の憎悪でその想いを満たそうとした。愛と憎しみは表と裏のように意味は違っても同じだけの想いが心を支配するからだ。しかし海翔は美羽の憎しみを受けて彼女を諦めようとした。望みを打ち砕くだけのものが欲しかったのだ。
しかしそれはどうしても美羽から得られなかった―――


「いや―――っ!」
海翔の怒号と美羽の叫び声が重なって響き渡った。
嫌がる美羽を乱暴に抱き上げた海翔は彼女をベッドの上に放り投げた。そして美羽に馬乗りになり彼女の両手を押さえ込んで顔を近付けると憎め、嫌えと何度も繰り返した。
それでも美羽は涙をこぼしながら嫌だと言って首を振っていた。
すると恐ろしい形相をしていた海翔がそのまま崩れるように美羽の上に重なってきたのだった。
ずっしりとした重みが美羽の華奢な身体にかかる。その重みで美羽の胸のふくらみは潰れ海翔の肌蹴た胸と密着していた。イエランの冷たい肌とは違う温かな肌・・・
いつもならイエラン以外の男の躯に、ぞっとするが今は違っていた。
美羽はどうしても海翔をそういう対象に思えないからだろう。イエランとはまた違う安心出来る温もりが伝わって来るのだ。海翔の顔は美羽の顔の横に埋められ表情が見えないが泣いているようだった。

「・・・美羽・・・お願いだ。僕を酷い男だと罵ってくれ・・・兄でも何でも無い嫌いだと・・・大嫌いだと言ってくれ。そうじゃ無いとまた馬鹿な夢を見てしまう・・・」
美羽はその時やっと海翔が自分から嫌われようとしているだと気がついた。しかし美羽
は自分の気持ちに嘘は付けなかった。海翔は大切な家族であって嫌うことも憎むことも出来ないのだ。
どうすればこの気持ちが海翔に伝わるのだろうかと戸惑っている間に海翔が顔を上げて起き上がってしまった。そして美羽に背を向けてベッドの端に座ったのだ。

「美羽の幸せを壊したい訳じゃない。ただ僕を嫌って欲しかった・・・だがそれさえ思うように出来ない情けない奴だ・・・君に嫌われたいのなら言葉にしたように君を無理矢理このまま犯してしまえばいいのに・・・君がその後、悲しんで苦しむと思うとそれも出来ない・・・天眼の王は自分の心を殺してそれをしたと言うのに僕にはそれが出来ない意気地なしだ」
「兄様は弱くない・・・兄様は優しいだけ。私は兄様がいたから・・・兄様が私を何時も守ってくれたから生きて来られたのよ」
「可愛い美羽・・・僕は君を庇いながら奴らに向って心の中ではもっと傷付けろと言っていたんだよ・・・僕がもっと君から頼られるように・・・もっと僕から離れられなくなるようにと・・・醜い心が渦巻いていた卑劣な男なんだよ。だから優しい訳じゃない・・・」
美羽は幼い頃を思い出し涙が溢れて来た。

「それでも兄様は優しかったもの!美羽の大好きな兄様だもの!だから嫌いになんかなれない!何をされたってこの気持ちは変わらないわ!」
美羽はそう言いながら海翔の背中に抱きついた。海翔の肩が、びくりと大きく揺れ回された美羽の腕に、そっと自分の手を重ねたがそれを振り解くように立ち上がった。

「兄様?」
海翔は無言のまま衣服を整え始めた。

「兄様、私・・・」
美羽はどうしていいのか分からずベッドから降りて海翔の近くへ行こうとした。

「来るな!そこにいろ!」
美羽はその声に、びくっとして降りかかった足を引っ込めた。そしてシーツの中に潜り込み丸まった。止め処もなく涙が溢れて来る。美羽は大好きな兄がこんな事をしてまで望むことを叶えてやることが出来なくて悲しかった。

「・・・美羽・・・怒鳴って悪かった。これから君の兄になれるように努力はするよ。でも暫くは会いたく無い・・・ごめんね、美羽・・・」
海翔の思惑は失敗してしまった。
またこの行き場の無い想いを抱えたまま過ごさなければならないのだ。


「・・・その想いが両国の妨げにならないことを願います」
全てを悟ったカルムが念を押すように言った。

「―――美羽が幸せなら何もしない。しかし、天眼の王!もし彼女を泣かせるようなことがあれば遠慮なく奪う!」
海翔とイエランの間に見えない火花が散ったような感じがした。五大国の一つ黒翔国の王となる海翔はその危うい想いを抱いたまま権力を握るのだ。神の遺産を持つ国同士は敵対し合ってもお互いに馴れ合う事は無いが美羽の存在は敵にも味方にもなるだろう。
一人の女の為に世界が変わる感じだ。これが良いのか?悪いのか?
カルムには分からなかった。何でも視えてしまう彼でも未来だけは視えない。

「美羽を今、泣かせたのはお前だ!彼女を悲しませたお前にそれを言う資格など無い!ぐっっ・・・」
イエランは怒鳴った反動で痛みが走り、また片膝をついてしまった。その動作さえも激痛が走る。

「イエラン!」
美羽は叫んだが助け起こしたいのに触れることも出来ずイエランの側に、ぺたりと座り込んだ。
そして触れないように用心しながら顔を近づけた。

「ああ・・お願いです。もう無理をしないで下さい。貴方に何かあったら私も生きていられません・・・お願いですからもう止めて下さい・・・」
美羽の青い瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
何度泣かしただろうか?とイエランは思った。海翔に言われるまでも無く美羽を泣かせたく無い。

「美羽・・・もう泣くな。言う通りに大人しく寝ていてやる・・・カルム、後は任せ・・・・」
いつもの唇の端だけ上げる微笑を浮かべたイエランの声が消えるように小さくなって美羽の目の前で、ばたりと倒れ込んでしまった。

「きゃぁ――っ!イエラン!イエラン!」
「大丈夫だよ、ミウちゃん。気を失っただけだ」
カルムはイエランを助けお越しながら、がたがた震える美羽を安心させるように言った。

「まあ、今度こそ暫く目は覚まさないだろうけどね。全く本当にミウちゃんの為なら形振り構わず無茶をするんだからな・・・海翔殿、そういう訳ですからご安心下さい」
「―――そうですね。分かりました」
海翔はそれ以上の言葉は見つからなかった。そして燻り続けた想いを少し濃い諦めの色に染めて帰国の途に着いたのだった。



 小さな家の前で麗華は立ち止まった。

「麗華?」
「・・・・・・・・・」
無言で立ち尽くしている麗華を窺うように家に入りかけた宋が振り返った。
開路の天眼を脅して此処まで帰ってきたがその間、麗華はずっと無言だった。
その道中、宋は信じられない思いが渦巻いていた。いつも自信たっぷりな宋だったがこの数日自分でも情けないぐらい良いとこなしだった。
好きな女が正気に戻ったと言うのに気分は重くなる一方だ。こんな思いをするのなら虚しくても自分を慕ってくれていた子供のような麗華の方が良かったかも・・・とさえ思う。

家の戸に手をかけたまま複雑な気持ちでつっ立っている宋を押しのけて麗華が先に家の中へ入ってしまった。そして部屋の中で目的のものを見つけたようだった。子供の麗華が好きだった蜂蜜の瓶だ。

「・・・良かった。ちゃんと蓋は閉めていたようね」
本当にそれが心配だったのか?と宋は怪訝に思った。あの麗華がそんなことを気にする筈が無いのだ。しかし麗華はその蜂蜜の瓶の蓋を、さっさと開けて指を突っ込んでいた。
金色の蜜を器用に指ですくうと口元へ運ぶ―――

「麗華・・・お前・・・どうして?」
麗華がそのままゆっくりと振向いた。
彼女の紅い唇から舌が覗きペロペロと指を舐めている。その仕草を見るだけで宋の下半身に熱が集まって来るようだった。まるで自分のものを舐められているような感覚だ。

「・・・宋、何を想像しているの?嫌らしい顔をして」
「ば、馬鹿野郎!呆れていたんだよ!蜂蜜がそんなに好きなのかってな!」
「これを盗み食いしてよくお前に怒られたわよね?しかもお仕置きとか言って良いように扱われたわよね?」
「そ、それは―――麗華!そんなこと言っている場合じゃないだろう?どうしたんだって聞いているんだ!お前が憎む奴らを殺れる絶好の機会だっただろう?それをどうして?何をいったい考えているんだ!」
宋は堪りかねて部屋の中へ、ズカズカと入り込んで怒鳴った。
しかし麗華は涼しい顔をしたまま、また蜂蜜の瓶に指を突っ込み口元へと運んでいた。そして一本、一本、指を舐めながら答えた。

「お前って本当に仕事が出来る男だった訳?状況判断も心理動向も全く読めて無いなんて。呆れてしまうわ」
宋は、むっとした顔をした。
その不機嫌に引き結んだ唇に、麗華の蜂蜜で光る唇をいきなり重ねてきたのだ!
驚き目を見開いた宋を挑戦的な目で見返す麗華はそのまま口づけを
深め始めた。甘い蜜が急に口の中に広がったのは麗華の舌が宋の舌に絡んできたせいだ。正気の彼女から口づけされるとは思わなかった。麗華はその行為を嫌っている筈なのだ。宋はもう驚くしかなかった。
「・・・何、驚いているのよ!」
唇を重ねた時と同じくらい唐突にその唇を解いた麗華が怒ったように言った。
そして軽く溜息をつくと今度はもっと驚いたことを始めた。麗華は、ペタリと床に両膝をついてしゃがみ込み、熱を持ち始めた宋の肉棒を取り出し表面を撫でたのだ。宋のそれは、びくりと反応した。

「れ、麗華!くっ・・・なっ・・・なん?」
仰天した宋だったが麗華はお構いなしに蜂蜜の付いた指をそれに絡め、扱き始めたのだ。根元の膨らみを揉むようにしながら上下させ裏側を強く擦る。芯を持ち始めたそれを今度はいつの間にかさらけ出した麗華の豊満な胸で挟まれてしまった。
宋は小さく息を呑んだ。

「ふふん、気持ちいい?下手なんて言わせないわよ」
「なっ、な、くっ・・・っ」
麗華の柔らかな肉に擦られた宋の昂ぶりははち切れそうに大きくなって来た。その先端の窪みから染み出したものを麗華が、ぺロリと舐めて口に含む。それがドクドクと脈打っていた。

「れ、麗華・・・つっ・・・」
宋は堪らず果ててしまった。熱が爆ぜてドクドクと麗華の喉に流れ込み溢れたものが彼女の唇の端からこぼれおちた。宋はしまったと言う顔をした。これは子供の時でも嫌がったものだ。もちろん正気の彼女ならもっと嫌悪するだろう。
しかし麗華は少し顔をしかめたが、にやりと微笑んだ。

「どう?良かったのでしょう?ずいぶん早いものね?」
「麗華・・・お前、どこかまだ可笑しいのか?」
「いい加減にしなさいよ!本当に分からない訳?」
宋はまだ驚いたような顔をしていた。麗華の意図することが分からなかった。

「もういいわ!一生そうやって馬鹿面していたらいい!」
「・・・麗華・・・もしかして・・・?」
有り得ないことだと思いながら腹を立てている麗華を宋は見た。

「おれ?・・・おれで良いのか?」
麗華は答えず顎をツンと上げると部屋の奥へと進んだ。その奥の大きなベッドに腰掛けた麗華は挑戦的な目をしていた。

「この家に不釣合いな立派なベッドね。お前の下心が見え見え。さあ此処に来て証明したらどう?本当にお前で良いのか・・・どうか?そのべらべらと煩い口がいたいけな子供相手にしか喋れないなんて無いわよね」
宋は初め、ぽかんと口を開けて聞いていたが、はっと我に返り不敵に笑った。そして蜂蜜の甘さが残る自分の下唇を、ぺろりと舐めた。
「お前って本当に素直じゃないな。何度でも言ってやるし、何度でもイカせてやる。麗華好きだぜ。お前を愛している。今からたっぷりとそれを証明してやるぜ」
麗華は挑戦的な瞳をゆっくり伏せ、紅い唇に微笑みを刻んだ。胸に広がる熱いものを味わう。しかしまだ素直にはなれないのはこんな感情に慣れないせいだろう。

「良くなかったらお前なんかさっさと捨ててやるわ」
「ふん!そんな憎まれ口なんか直ぐに取り消しさせてやるさ!最後にはおれ無しで生きられないって泣いてすがるだろうよ」
「どうかしら?」
麗華は伏せていた瞳を上げれば、目の前にニヤニヤした宋の顔が迫っていた。
しかしそのニヤ気顔が、すっと真顔になって麗華の名を呼んだ。麗華はまた胸に熱いものが込み上げ言葉を無くしてしまった。
そして宋に倒されるままベッドへと沈む―――
麗華はその日から愛される喜びを知ることになるだろう。



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