天眼の王4


「駄目だよ、イエラン。それをしては駄目」
カルムの声にイエランは、はっと我に返った。
心眼を持つカルムにさえ心を見せることの無いイエランだったが・・・胸に沸き起こった嫉妬が隠す事無く心を暗い方向に傾きかけていたようだった。それを読んだカルムが注意を促したのだった。

「―――分かっている」
「本当に?でもまぁ〜本当ならそうした方が後腐れなく簡単に全てが丸く収まるんだけれどね。気持ちは分かるよ―――あっ、ミウちゃん、何のこと?って思ってる?」
カルムは美羽が声に出さなくても彼女が思っていることが分かる。

「余計なことを言わなくてもいい」
イエランは不愉快な顔をしながらお喋りなカルムを制した。

「ああ怖いなぁ〜でも言うけどね。ミウちゃんも知っていた方がいいだろうし」
「余計なことだ!必要ない!」
「あ、あの、私に関係あることなら知りたいです」
「ほらっ、ミウちゃんは知りたいってさ。彼女にも自分の立場を知ってもらっていた方がいいに決まってる」
「勝手にしろ!」
「話し的には何となく分かっているだろうけれど・・・君のお兄ちゃんに死んで貰った方が良かったんだよね。それを我らの王様は生かした挙句に国まで返してしまった。まぁ〜そこまでなら何だかんだと言ってもどうにかなる。それに君がこのままイエランの奥方になれば政略結婚の様相だし国同士としては都合はいい。でもね、君たち兄妹は血の繋がりが無いんだろう?」
美羽は、はっとしてカルムを見た。これは自分だけしか知らないと思っていたのだ。

「ど、どうしてそれを・・・まさか・・・」
イエランも知っていたのだろうか?と美羽は彼を見た。問われたカルムは困ったように微笑んだ。
美羽が言わなくても彼女の心が全て視えるから分かってしまうのは仕方が無い。

「ごめんね・・・私は視えてしまうから・・・でもイエランも知っているんだろう?」
「・・・海翔本人から聞いた」
面白くなさそうに言ったイエランに美羽は驚いた。あの時、知っていて自分と別れよう
としていたのだ。今のイエランからは想像出来なかった。他の男に美羽を委ねても良いと思っていたとは・・・・
「それでよくミウちゃんを連れて帰らなかったのかが不思議なんだよね。もちろんミウちゃんがそうしたかったのだろうけど・・・でもね・・・例えば黒翔国の新王となったお兄ちゃんが・・・やっぱりミウちゃんを手に入れようとしたら?」
「手に入れる?」
「ミウちゃん、自分がどんなに綺麗でどんなに男心をくすぐるのか自分の魅力を自覚した方がいいよ。まぁ〜そんなところがまた可愛いんだけどね」
今微妙な関係の国同士の小さな諍いは大きな災いとなるだろう・・・
一人の女を巡った争いが再び始まってしまったら?

「そ、そんなこと・・・」
美羽はそんなことは無いと言いたかったが海翔はそれらしい言葉も行動も示していた。
そして海翔から無理やりされた口づけを思い出した美羽は無意識に自分の唇に手を当てた。
―――美羽のその仕草をイエランは不審に感じた。

「・・・美羽?唇がどうかしたのか?まさか・・・」
「イエラン、口づけの一つや二つで怒らない、怒らない。君は彼女の全部を手に入れているんだから気持ちは広くね」
イエランはカルムを、ぎらりと睨んだ。
美羽は何も言っていないがカルムが彼女の心を読んだらしい。イエランが法国で美羽と再び出逢った時に不審に思った彼女の唇の傷は海翔が与えたものだったようだ。

「あ、あの・・・私、抵抗しました!」
美羽は慌てて言った。イエランの顔つきが段々と怖くなっている。

「ご、ごめんなさい」
「何故謝る?お前が悪く無いのなら謝る必要は無いだろう?」
「で、でも・・・怒ってるから・・・私・・」
美羽の謝り癖は今も残っている。高暁から受けた仕打ちに対する条件反射のようなものは早々消えるものでは無いようだ。自分がどう出るかとビクビクと肩を震わせている美羽を苦々しく見つめたイエランは大きく息を吐いた。

「・・・お前に何もしないからそんなに恐れるな・・・」
「ミウちゃんのお兄ちゃんにもだろう?ね、イエラン?」
イエランはカルムを睨んだが直ぐに視線を戻して答えた。

「―――そうだ」
「良かったね、ミウちゃん。イエランがそう約束したなら間違いは無いよ。まぁ〜ミウちゃんが悲しむようなことをする筈も無いけどね。殺したいほど邪魔な相手だろうとさ。だからミウちゃんも怖いこの王様をずっと好きでいるんだよ」
カルムには何でもお見通しのようだ。イエランが海翔を亡き者にしてしまおうかと言う思いを美羽の為に・・・というよりもイエランの為に遮り、尚、美羽には釘を刺した。

「・・・殺したいほど邪魔・・・兄様が・・・」
美羽の瞳に涙が滲んできた。大好きな二人がいがみ合うのはとてもつらいものだ。
イエランは舌打ちをするとカルムを睨んだ。そして美羽を優しく抱き寄せた。

「お前は何も心配しなくていい」
美羽はイエランの少しだけ優しくなった顔を見上げた。

「―――私は・・・この国をそして貴方を選びました。だから黒翔国に帰るつもりも兄様と一緒になるつもりもありません・・・もし両国で何かがあって裏切り者、売国奴と謗られても私は構いません・・・私は貴方と一緒にいたいから・・・」
美羽はイエランを好きだと自覚したあの時も覚悟をしていた。例え兄や黒翔の民が殺されても沢山泣いて・・・泣いて泣き続けたとしてもイエランに付いて行こうと決めたのだ。美羽はこの気持ちをもっと伝えたくてもどう表現していいのか分からない。心を読んでくれるカルムは分かってくれている感じだ。
イエランには自分の言葉で言った後に精一杯微笑んでみた。

「美羽・・・お前・・・」
(伝わったの?)
微笑んだ美羽の瞳からこぼれた涙にイエランが唇を寄せた。そして優しく口づけするようにその雫を拭うとイエランは美羽の大好きな微笑を浮かべた。口の端だけちょっと上がる微笑―――

美羽は見る間に頬を染めた。何度見ても胸がドキドキするのだ。

「美羽・・・」
お互いがどちらともなく唇を求めるように顔を寄せた時、カルムの咳払いがした。

「そこまでにして貰えるかな?まだ大事な話しが残ってるからさ」
イエランはそんな言葉に構うことは無かったが美羽が真っ赤になって俯いてしまった。すっかりカルムの前だというのを忘れていた美羽だったが本来の羞恥心が戻ってきたらしい。
イエランは再び舌打ちをするとカルムに向き直った。

「イエラン、舌打ちなんて行儀が悪いよ」
「煩い、早く用件を言え」
「はい、はい―――実はね。私の弟、そしてイエラン、君のもう一人のお兄ちゃんラーシュが生きていたんだよ」
「ラーシュ?」
イエランはその名さえも記憶に無かった。
怪訝な顔をしたイエランに少し顔を引き締めたカルムがその続きを話し出した。

「―――という訳で本人に間違えは無い。今日の会議に呼んでいるから紹介する」
新しい兄弟の話にイエランは些か驚いたがいきなり最高会議でもある場所に出席させるというのには同意出来なかった。

「カルム、その者と会うのは会議の前か後にする。大事な会議にまだ何も分からない者を入れるつもりはない」
「・・・私が同意した同行者だ。七家は当主と他一名の同行は認められているだろう?だから問題ない筈」
カルムらしくない不遜な言い方だった。その表情も親しい者に見せる陽気さも無ければ何時もの柔和な表の顔とも違う・・・何処と無くよそよそしく冷たい感じだ。
イエランは何も言わずそのカルムを見ただけだった。返答をしないのは了承したということだ。

美羽は今まで見た事が無いような二人の緊迫した雰囲気が心配になってしまった。
自然と眉根を寄せているとカルムから満面の笑みを受けた。
しかもその額にはいつの間にか開いた金の天眼が!

「ミウちゃん。愛されてうっとりするくらい綺麗になったね。イエランが見せたく無いのが分かるな」
「え?カ、カルム様!」
イエランが止めるよりも早くカルムが美羽を無理やり引き寄せると驚く彼女の唇を奪った。

「あっ!まっ・・・って・・・ん」
強引なイエランの口づけに似たそれに美羽は抵抗出来なかった。勝手に入り込んできた蠢く舌は美羽の舌を絡めとろうと口の中で動き出した。

「ん・・・・・・っ・・」
「カルム!」
形相を変えたイエランに後から肩を掴まれたカルムは美羽から引き離された。深く合わされていた唇にお互いの唾液が引いて落ちる。

「カルム、何を考えている!」
イエランはカルムをぐるりと自分の方へ向けて怒鳴った。
噛み付くようなイエランの様子にカルムは愉快そうに微笑むと、今度はイエランに口づけした。
美羽の唾液で濡れた唇がひやりと重ねられた。

「なっ・・・・・・や・・・め」
華奢に見えるカルムの腕がイエランの頭を押さえ込んで口づけを強要していた。

(動くな!口を開け!)
金の天眼が命令を下す。ふいをつかれたイエランはその金の輝きに逆らうことが出来なかった。
意思に反して開く口にカルムの舌がねじ込まれると口づけが続行されたのだ。
金の呪縛で身体の自由を奪われたイエランは朱金の瞳でカルムを睨むように見開いたままだが、抵抗しようとしているのか両手は拳を握ったまま震えていた。カルムはそのイエランから視線を外すことなく噛み付くように口づけしている。
美羽は驚いてその様子をただ呆然と見ているしか出来なかったが、まるで見てはいけないものを見ているような気がして胸がドキドキしてきた。
しかしそれから直ぐにカルムは口づけを解くと、にやりと笑った。

「ふふふっ・・・ごちそうさま。あっ、そうそうミウちゃん。イエランは口づけ上手でしょう?」
いきなり話題を振られた美羽は、かっと頬を赤らめた。

「可愛い〜それを教えたのはこの私だけどね・・・ふふふっ」
「戯言を言うな!」
金の呪縛から解けたイエランが声を張り上げた。

「あ〜怖い。じゃあ、先に行ってるからね」
慌てて去って行ったカルムはいつもの彼だった。

「まったく、奴は・・・」
美羽はカルムといるイエランが好きだった。陽気なカルムに振り回されているイエランがとても可愛く見えるのだ。今回はまさか目の前で口づけを見せられるとは思わなかったが・・・少し笑ってしまった。

「何を笑っているんだ?」
ふて腐れたような顔をしているイエランが可笑しくてまた小さく笑ってしまった。

「・・・・・・だいたい。私の前で他の男と口づけするなど許さん!」
「えっ?でも、あれは・・・それにイエラ・・・さ・・・だって・・・」
美羽は最後まで言葉が繋げなかった。イエランが唇を重ねてきたからだ。
ふいの柔らかな感触に美羽は、ぞくりと身を震わせた。
それに意識を奪われているとイエランが口づけを深くしてくる。
優しくて強引な口づけに美羽はいつも逆らえない。
薄い布地ごと胸の尖りをつまみあげられた。ぴくんと反応した美羽を確かめるようにイエランは指を器用に動かし始める。指先でそっと円を描くように撫でられたり強弱をつけて捏ねられたり・・・

「あ・・・・・んっ・・・もぅ・・・や」
「止めてか?お前はいつもそう言うな・・・止めて欲しくない癖に」
「そ、そんな・・・」
確かに美羽の身体の奥は熱を持ってきている。
イエランを誘うように蜜も直ぐに溢れだすだろう。布地ごしの愛撫はもどかしい。
だけど敏感になった肌に布が軽く触るだけでも声を出してしまいそうになる。

「・・・あ・・っあ、あ・・・ん」
この数日何度身体を重ねたか覚えていない。それなのにどうしてこんなにイエランを求めてしまうのか美羽は分からなかった。

イエランの手が夜着をたくしあげて侵入してくると、ぞくりとお腹に快感が走った。素肌にさらりと乾いた冷たい彼の手の平が触れるだけでもう足が震えてしまう。
「あっ・・・い、や・・・こんな場所で」
「私が今ここで欲しいのだから場所など関係ない。そうだろう美羽?お前も私が欲しい筈だ。それにこういう場所の方が興奮するのだろう?」
「あっ・・・そ、そんな・・・っ、ひゃん!」
蜜で濡れ始めた下着の上からイエランの指が触れた。そのまま割れ目をなぞるように指は動き、上の小さな突起に当たるとそれを掻き出すかのように蠢く。
ぞわぞわと痺れたような快感が身体中に伝わり始める。

「ひッ、あぁっ・・・ぁぁ・・・や・・んん・・」
下着はイエランの指の動きを制限するものでは無かった。そしてその脇から乱暴に侵入した指は更なる奥を求めるかのように花芯のひだを開き始めた。その指がねっとりと蜜を絡ませながらひだをなぞり、じらすように動いている。何とも言えない快感に美羽の腰が自然と浮き出した。

「もう蜜が溢れている・・・それともまだ乾いていなかったのか?」
「や・・・やめ・・・そ、そんなこと言葉にださないで・・・あ・・・っはっ・・・あぁ」
そして待ち望んでいるかのように花芯は、つぷりと指を呑み込んだ。

「い・・・やっ・・・はぁあ・・・んん・・」
その指がぴちゃぴちゃと、いやらしい音を立てながら抜き差しされる。脇に追いやられてしまった下着がその動きにあわせて肌に食い込み違う刺激をもたらすようだった。

「はぁや・・・あぁあ・・・や・・・っ」
「美羽・・・いやらしい音だ・・・聞こえるか?」
耳朶をぬるりと舐められ、低く囁かれた美羽はもう立っていられなくなった。

「立っていられない程感じているのか?美味しそうに呑み込んでいるが指だけでは足りぬだろう?」
この数日お互い言葉もなく只、夢中に身体を求め合ったが今日のイエランは違っていた。
落ち着いたのか余裕たっぷりに甘い言葉で美羽を翻弄する。
淫らな言葉は恥ずかしく嫌なのにイエランが言えば身体は裏腹に、かっと熱くなってしまう。

「そ、そんな・・こと・・・言わ・・ないで・・・」
イエランは指を抜くと、ふらつく美羽をそのまま側にあった机に背中を押し付けた。
それから膝裏に手を回して両足を持ち上げると、その足から粘液が糸を引く下着を抜き取った。
両足は左右に開かれ持ち上げられたままだ。ひんやりとした空気を感じるくらい花芯は濡れている。
太腿の内側の柔らかな部分にイエランの舌が這い出した。

「くっ・・・んっあ・・・」
びくびくと身体が震える。先ほどのように敏感な部分に直接触れられている訳では無いのに何故か震えるのだ。まるで今から与えられる快感を期待するかのようだ。そしてとうとうイエランの尖らせた舌が花芯をチロチロと舐めだすと悲鳴のような声を出してしまった。
生温かい舌は指とは違う動きで花びらを掻き分ける。

「や・・・あっ、あっ、あああ・・・だ・・め」
「ふっ、ヒクついている・・・美羽、自分で見た事があるか?綺麗な色だ・・・」
「そ、そんな・・・み、見るだなんて」
美羽は嫌、嫌と首を振って顔を両手で覆った。裸同然で寝室でもない部屋の机の上に押し倒された挙句、明るい場所で女の部分を見られるのが恥ずかしかった。

気が変になりそうだと美羽が思った時、時を告げる鐘が静かに響いてきた。カルムと美羽の口づけに、かっとしたイエランは流されるまま彼女を求めてしまったが時間切れのようだった。
イエランは大きな溜息をつくと美羽をすくい上げ床に下ろした。

「あ、あの・・・怒られたのですか・・・私・・・嫌じゃなくて・・・ただ恥ずかしかったから・・・」
途中で止めたうえ無言になってしまったイエランが怒ってしまったのかと美羽は心配になった。
そのイエランが大きく息を吐いた。

「・・・もうそれ以上喋るな・・・嫌じゃないとか言って私を誘うんじゃない」
「わ、私・・・誘ってなんか・・・」
「だから、もう喋るな。今、お前に襲い掛かりたいのを抑えているのだから・・・」
イエランが困ったような顔をしていた。こんな表情は見た事が無い。

(何だか可愛い・・・)
そう思った美羽が思わず微笑んでしまった。
それを見てしまったイエランは美羽に背を向けてしまった。

「駄目だ!微笑むのも駄目だ!此処から出て行きたくなくなるだろうが!」
そう言いながらもイエランは扉の外へ出て行った。しかし閉まったと思った扉がまた少し開くとイエランが不機嫌な顔を、ぬっと出した。

「行ってくる!」
「あっ、行ってらっしゃい」
美羽は条件反射のように直ぐに答えるとイエランは軽く頷いて扉を閉めた。

美羽は頬を両手で覆った。その顔は真っ赤だった。
行ってらっしゃい≠ニ言ったのは久し振りだった。幼い頃の優しい日々にはいつも使っていた言葉だ。大好きな人を送り出す言葉―――美羽は今、幸せだった。



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