| 短編の1話完結です。内容は第二章「激情の檻」3話ぐらいで、美羽が口づけを覚え、純潔を奪われる前ですね(笑) なんだか文章にして書くと恥ずかしい説明ですね…イエランの夜の過ごし方の一例です(笑) |
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夜のひととき ![]()
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「美羽・・・」
イエランは自分の広いベッドで眠る美羽を見つめた。
彼女は何時もまるで外敵から身を守るかのように小さく丸まって眠る。
もちろんその外敵とは自分だと思うのだが・・・
彼女の弱まった心は脆 く崩れかかり、その微妙な調整が必要だ。
自分を憎ませる為、無慈悲な扱いをしてもひと時の安らぎは必要だった。だから夜は共に寝ても美羽が寝静まった頃に寝室には入り、目覚める前に出て行った。
なるべく彼女の精神に負担が無いようにと―――
「私も馬鹿だ・・・それなら寝室を別にすればいいのに・・・」
イエランはそう呟いて嗤う。
「くっくく・・・それは無理だな。私もこのひと時が一番安らげるのだから・・・」
眠っている美羽を幾ら見つめていても彼女は怯えないし、憎しみの瞳を向けられる事も無い。
心と裏腹の態度を取り続けるイエランにとって誰にはばかる事も無く、もちろん美羽に知られる事なく、彼女に愛を注げる時間なのだ。
そうして美羽を見つめるイエランは彼女を知ったのはいつ頃だっただろうか?と回想した―――
偉大だった先王が急逝した天眼国は混乱に陥ることなく、若き王となったイエランが治めていた。
幼い頃より兄カルムや姉リネアらを凌駕する神通力を持ち、老獪な重臣達を唸らせる決断力と行動力は近隣諸国にその名を早々に知らしめていたぐらいだ。
そして国家が安定すれば持ち上がったものは当然ながら世継ぎ問題だった。
天眼国の王位継承者はイエランの例でも分かるように、王の子の中で最も神通力に長けているものが選ばれる。だからより多くの子を必要とする考えがあった。
より強い子を儲ける為に沢山の女達と婚姻する。
先王には多くの妃がいたが子宝に恵まれなかった。運よく生まれた子供達三人が共に力が強く良かったものの、当時の重臣達は気をもんでいたとのことだった。
そういう経緯があるせいかイエランにもその話は再三、言上されていた。
特に七家でも一番年長であるオーベリが熱心だった。
「王よ。本日はしっかりとしたお返事を頂かないと、わたしは帰りませんぞ!家柄も心根も姿も何もかも良い、アルネ嬢に何がご不満ですか!この婚姻は我ら七家総意の推薦ですぞ!」
「最初はアルネと談合がまとまって、次はどの家の者か?どうせ次も決まっているのだろう?七家には何人娘がいたかな?」
イエランは辟易 しながら言った。最近この話ばかりでうんざりなのだ。
天眼国の王家にはその継承方法が特異なので正妃だとか側室だとかの観念は無い。だから子を授かれば妃となり、その他は愛妾という訳だ。
しかし身分のある女性の場合は最初から妃として待遇されるのだった。
「王よ、戯言ではございませんぞ!」
オーベリはいきり立ったが、一瞬で黙ってしまった。
適当にあしらっていた感じのイエランが、すっと瞳を細めたからだ。彼から立ち昇るものは有無を言わせないものがあった。
「オーベリ、私は結婚をしないとは言っていない。成すべき事も多く有り、まだ早いと言っているだけだ。私は若輩ゆえ女子供にかまけている余裕が無いのだ」
イエランは別に声を荒げている訳でもなく口調は静かだった。
しかしオーベリーは表情を変えないこの王の勘気に触れていると感じた。それだけの気が揺れていた。
「も、申し訳ございません。で、では、わたしはこれにて・・・」
口煩いオーベリーも流石に王の怒りは怖く、そそくさと出て行った。
「ああ、恐ろしい。くわばら、くわばら、じゃ・・・」
扉を閉めるとオーベリーは大きく首をすくめて言った。
「オーベリー殿?如何なさいましたか?」
突然声をかけられた老臣は飛び上がった。
「これは、カルム様。別に何もございません。失礼致します」
オーベリーはまた余計な人物に会ったとばかりに慌てて去って行った。
カルムはそれを静かに見送り、彼が出て来た扉の中へ入って行った。
「イエラン、いるんだろう?」
返事は無かったがカルムは、さっさと中へ入って行った。
「さっき外でオーベリーに会ったよ。彼、何だか怯えていたみたいだったけど?何かあったのかい?」
カルムは目が不自由でも、そういう事は心を読むので見えている者よりも鋭い。
しかし今、目の前いるイエランの心は読めず訊ねるしかないのだ。
「年寄りの何時もの繰言だ」
「繰言?ああ、もしかして結婚?」
返事が無いところをみると正解のようだった。
「ははっ、仕方ないよ。君が優秀過ぎるから難癖付けるとしたらそれ位しか無いからね。いいんじゃない?アルネでさ。どうせ次から次へと娶らないといけないんだろうしね。それともアルネが嫌い?」
「・・・・・別に嫌いじゃない。そんな対象に見ていなかっただけだ」
「まぁね。昔から知っているから妹みたいなもんだろうけど・・・向こうはそう思って無いと思うよ」
「・・・・・・・」
カルムは肩をすくめた。
(我が弟君は全く色恋に興味を示さないから仕方が無いかもね・・・)
「それにしても女嫌いかと思うくらい女っ気無しだけど・・・オーベリーじゃ無くても兄としては心配してしまうな。あっ!そう言えば、今、大人気の美姫がいるって知ってる?黒翔国の王女で求婚者が後を絶たないそうだよ。どう?興味無いかい?」
カルムはふと噂話を思い出してそう言った。
「黒翔の王女?黒翔なら黒髪に黒い瞳だろう?黒は好きでは無いし興味無い」
「あ〜そんな差別したらリネアが怒るよ。リネアは黒髪の黒い瞳だろう?それにその姫は違うらしいよ。何でも真っ白な肌に光りの雫のような髪と青い瞳らしい。溜息が出るくらい美しいって評判だ!まぁ〜黒翔でそんな姿からかもしれないけれど異端の姫≠ニか呼ばれているみたいだけどね」
「美しいのに異端?」
イエランは何故かその不釣合いな言葉に胸が騒いだ。そして想像してみた。白い肌と金の髪に青い瞳・・・・特に珍しい色では無いと思ったが何故か晴れた天眼の地を思い浮かべてしまった。
蒼穹に映える清らかな雪の大地―――
その話を聞いた後は何かに突き動かされるまま、黒翔国に求婚の使者を送っていたのだ。
それを聞きつけたオーベリーが慌てふためいてやって来た。
「王よ!黒翔の姫に求婚したとは誠でございますか!」
「流石に耳が早いな」
「何故、ご相談も無くそのようなこ―――」
またもやオーベリーは最後まで喋る事が出来なかった。
イエランが瞳を細めて彼を一瞥したのだ。
「オーベリー、そなた何か勘違いしていないか?もちろん皆の意見は聞くが決めるのは私だ。そなた達が決めるのでは無い。これは私が望んだ事なのだから相談する謂れは無いであろう?違うか?」
オーベリーは何も言えなかった。確かに王の決定は絶対だ。しかも進んで結婚をすると言っているのに何ら問題は無かった。自分達が推薦したアルネは次にまわすしか無いだろう。何れにしても王がその気になってくれたのは喜ぶべきものだった。
ところがその求婚は返事を散々待たされた挙句、あっさりと断られてしまったのだ。
数多くの求婚を断り続けているとの話しだったが、五大強国でしかも最強を誇る天眼国の王の求婚を断ってくるとは誰も予想しなかった。
当然待ち望んでいたオーベリーは激怒した。
「王よ!これは我が天眼国に対する挑戦としか思えませんぞ!貰ってやると言っておるのに馬鹿にしおって!」
「私はその断りの理由で思い当たるものがございます。私の縁者が黒翔の城におりまして、何やら黒い噂があるそうです。その王女を現王高暁が手を付けているとかいないとか・・・」
近くにいた重臣の一人が声をおとして言った。
王女の父は死去した先王と、亡くなった母は側室だった。
現王は軍人あがりで王族だった先王の正妃との婚姻によりその地位にある。だから王女とは名ばかりの義父と言う関係だった。
美しいと評判の王女を黒翔の王が自分のものにしても可笑しく無い話しだろう。
「・・・・・黒翔の王は目先のものしか見えない小者だと言う事だ。自分の欲の為に政略的にも有効に使える貴重な王女を使わないのだからな。もういい―――娶ったとしても生まれた子に黒い羽でも生えていたら良い笑いものだろう。この件はこれで終りだ」
イエランは淡々と言うと席を立った。
「王よ!お待ち下さい!それでは、アルネ嬢と」
去って行く王にオーベリーが呼び止めると、イエランは肩越しに振り返った。
「気が削がれた」
一言だけそう言ってオーベリーの口を閉じさせたのだった。
イエラン自身、その王女を取り囲む数々の求婚者達は問題にしていなかった。自惚れでも自分以上の求婚者はいないだろうと高を括っていたのだ。
自室に戻ったイエランはその時初めて冷厳な王の顔を崩した。何にも動じず人間的な感情を表に出さないイエランが、悔しさと苛立ちを抑えきれなかったのだ。
「黒翔の王女ミウ・・・」
まるで呪うかのように彼女の名前を呟いた。
まだ見ぬ隠された美姫―――何故こんなに心が騒ぐのか分からなかった。運命が二人を引き合わせるまでその答えは出なかったのだった。
その後、その時ほど心が騒ぐ存在に出逢う事無かったイエランは、王である責任を果たすべくアルネとの婚儀を決めた。
アルネを嫌いな訳では無かった。天眼の娘らしく気高く美しく申し分の無い相手だろう。
異性と言うよりも妹のような感情しか感じ無かったが、愛情と呼ばれるものが無くても義務となれば女は抱けるものだ。
「イエラン、とうとう結婚決めたって?」
その話しをいち早く聞きつけたカルムが自室にやってきた。
「ああ、春に予定している」
「春?また随分先だね。決めたのならさっさとすればいいのに。結婚なんて簡単なものだろう?重要なのは温かい寝床さえあればいいしさ」
イエランはカルムが見えないのをいい事に不機嫌そうに、じろりと睨んだ。
それでも感情は抑えている。昔からこの兄も姉リネアもイエランが感情を表すと何故か喜んで煩いぐらいはしゃぐのだ。
「春かぁ〜そうだなぁ〜一番暇な時期になるから君を寝床に縛り付けて置く魂胆かな?貴重な春の風にも当たらず、雪解けに咲く花も見ず、見るのは女性の肌ばかりとは・・・王様は大変だね。なんなら一度に十人くらい娶ったら?その方が効率いいと思うけどな」
「馬鹿なこと言うな」
「ふふふ、真面目な話しだったのだけどね?まあ、頑張って!」
こんな他愛無い会話が日常で平穏な日々がずっと続くと思っていた時に、イエランの人生を大きく変えたあの事件が起きたのだ。
アルネの無残な死―――
行方不明で捜索中だった彼女を見つけたのは国境警備兵だった。そしてその遺体は発見されたそのままの状態で水晶宮に運ばれた。
ドーラはその場で号泣し、イエランは流石に顔色を変えた。
天眼族の誇りである天眼は焼かれ、気高い彼女を散々蹂躙したと思われる無残な姿に声を無くしてしまった。
その心にあったのは自分に対する怒りだったかもしれない。彼女は本当にイエランを愛していてそれをいつも彼に示していた。自分が全く愛されていないと感じていたから一生懸命だったのだろう。同じ気持ちになれないイエランは、アルネに対して引け目を感じてしまうぐらい彼女は積極的だった。
だから彼女が失意のまま無残な最期を迎えたと思ったら許せなかった。
彼女を愛せなかった自分も許せなかったのだ―――
かくして不幸が呼んだ運命は二人の道を繋いでしまった。
イエランと美羽の出逢い―――イエランは心を揺り動かす運命の女と出逢ったのだ。
「今、思えば出逢う前から運命を感じていたのだろうか・・・美羽・・美羽・・・この名を呼ぶだけで胸が熱くなる。溢れる想いがこの名前に宿ってしまうからお前の名は呼ばない・・・・」
そう・・・この気持ちを悟られてしまうから呼べないのだ。
だからこの夜のひと時にだけ何度も彼女の名を呼ぶ。美羽と―――
そしてイエランは美羽に口づけした。眠りを妨げないように気付かれないようにと、そっと舌を侵入させる。舌先で唇の裏をそっと探るだけの軽い口づけ。流石に歯列を割って奥へまでは行けないだろう。
「うぅん・・・・・・・」
イエランは美羽の唇からこぼれた声に、はっとして唇を離した。
しかし眠りは深く目が覚めた訳では無いようだ。
口づけの後は彼女にもっと触れてみたくなってしまった。誘惑に負けたイエランは目覚めないようにと、それを確かめながら今度は夜着の胸紐をそっと解いて胸元を肌蹴 させた。
それから目の前に晒された柔らかな胸のふくらみに手を這わせてみる。温かな美羽の肌が心地良く何時までも触っていたい気分だ。そして指に引っかかる胸の先端はその指の間で挟んで捏ねてみた。
「ん・・・・はぁんん・・・」
敏感な美羽は眠っていても、びくりと反応したのだ。
イエランは、ぱっと彼女から手を離した。胸に湧きあがるのはどす黒い怒りだった。
上掛けを跳ね除け、起き上って寝床から出ると、寝酒を並々と注ぎ一気に飲み干した。
それでも怒りが収まらず嫉妬で胸が焼けそうだった。少し触れるだけでも無意識に反応する美羽の体は、あの狂った王が散々彼女を弄 んで躾けた証拠だ。
それを思うと殺した奴でも死の国から引きずり出して、何度も殺したい気分になる。
切ない表情でイエランは美羽を見た。上掛けがめくれている上に、肩まで夜着が脱げかかった状態で放置された彼女は寒そうだった。
「くしゅん」
美羽の小さなくしゃみにイエランは暗い想いから我に返った。
彼は溜息を一つつくと脱がしかけた夜着を直し始めたところに美羽が目覚めてしまった。
「きゃっ!な、何を!」
安らかな顔をしていた彼女は一瞬で恐怖に凍っていた。そして急いで夜着の胸元を掻き合わせ震えだした。その大きな瞳は何時ものように怯えていた。
「・・・・・・何をだと?お前の寝相が悪く肌蹴 たうえに、上掛けまで跳ね除けていたから直してやっていただけだ。風邪でもひかれて人質が死んだら困るからな」
「そ、そんなに私、寝相悪くありません!」
「眠っているのに自分で分からないだろう?時々、抱きついたりする時もある」
イエランは嘘を言ったが、美羽は真っ赤になった。
「そ、そんなこと・・・・」
そんな事は絶対無いと言い切れないから美羽は悔しかった。
イエランの言う通り寝ている間は自分がどうしているのかなんて記憶は無いのだ。
「まあ・・・いい。さっさと眠るぞ」
イエランは美羽に背中を向けて寝床に入った。
納得出来ない美羽だったが、今度は本当に寝相が悪くても解けないようにと、何度も何度も胸紐をぎゅっと引っ張って結び直した。それで安心した美羽は温かい寝床に潜り込みかけると、いつの間にか自分を見ていたイエランと目が合ってしまった。
(何を、じっと見てるの?)
美羽は何故かドキドキしながら慌てて寝床に潜り込み彼に背を向けた。
そして何時よりも小さくまるまった。
イエランは自分の馬鹿さ加減に呆れて心の中で溜息をついた。貴重なひと時を自分が欲に負けて手を出したばかりに、ふいにしてしまったのだ。
また数日、彼女は寝る時も緊張して気持ちを昂ぶらせる筈だ。
(仕方が無い・・・暫くは見つめるだけか・・・)
夜のひと時だけ自分のものだった美羽は暫くお預けだろう。
苦笑いをしつつイエランの夜は更けていった―――
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