星の詩11


「―――死を悟っていた?どういうこと?」
アマーリアはルーベルが何を言おうと聞くつもりは無かった。
どんな弁解も心には届かない。しかしその意外な言葉に思わず聞き返してしまった。

「ツェーザルは自分が不治の病にかかり命が短いのを知ったんだ。誰でも死ぬのが怖い・・・このままだと君に一緒に死んでくれと言ってしまいそうだし、アマーリアなら言わなくても一緒に死ぬと言うかもしれないとツェーザルは悩んでいた―――そんな時に君の親があの話を持って来たらしい。そして彼は決意してその話に乗った振りをした。ツェーザルはそのお金を全部僕にくれたんだ。建築の勉強を帝都でしたらいいと言って・・・その代わりこのことはアマーリアに絶対洩らさないように隠蔽の手伝いをしてくれと。君を自分の運命に引きずり込みたくなかったんだ・・・でもお腹の中に赤ちゃんがいたのを知っていたなら話は違っていたと思う!」
「・・・わたしの為にわざと身を引いた?―――わたしの為じゃなくて自分がつらくないようにしただけじゃない?わたしに一緒に死んで欲しい?死んで欲しくない?そんなの何もかも勝手よ!わたしは全てを失った!家も家族も故郷も女としての幸せも何もかもよ!でもその中で一番はツェーザル・・・一番失いたく無かったのはツェーザルだったのに!一緒に死んでくれと言ってくれる方が嬉しかったわ!」
アマーリアは突然聞いたツェーザルの死に平静な振りをしていたが、思ってもいなかった事実に心が揺れ動き本心を叫んでいた。

「僕は分かるな・・・その男の気持ち・・・愛する人の為に身を引く・・・」
イヴァンが同情するように、ぽつりと言った。アマーリアがイヴァンを嫌うもう一つの理由。
彼はツェーザルに何処と無く性格が似ていた。

「私には分からない。彼女の意見は最もだ。私は愛しているならその手は離さない。例えそれが冥の国だろうとな」
レギナルトはつまらなそうに言った。

「兄上はそうだろうね。僕は無理だな・・・好きな女の子は泣かせたく無いから。憎しみと哀しみはどちらが強いのか分からないけれど・・・一緒に死んでくれなんて思っても言えないと思うし、悲しんで一緒に死ぬなんて言われたら僕は嫌だな・・・好きな人には幸せになってもらいたい・・・例え自分が幸せに出来なくても」
「イヴァン・・・」
ティアナはごめんなさいと言う言葉を呑み込んだ。
お互い清算しあった関係だがイヴァンの未だに続く秘めた想いに気付かないふりをしていた。それに自分だけが幸せになるのが後ろめたい気分だった。こういう気持ちはレギナルトには分からないだろう。
しかし彼女の気持ちを察したのかレギナルトはティアナを更に自分に引き寄せながら言った。

「安心するがいい。ティアナは必ず幸せにする」
「兄上・・・」
ティアナの幸せがイヴァンの望みであり自分の愛の証のようなものだった。
アマーリアはそれを認めたく無かった。それにティアナを嫌うのは幸せだからと言う理由だけでは無
い。愛を信じていた頃の自分に似ているから嫌っていたのだ。
あの頃の愚かな自分を見ているようで嫌だった。自己嫌悪にも似たものだろう。
アマーリアは愛という存在自体を信じたくないのだ。ティアナの前世の幸せも、今の幸せも、その愛で成り立っていると認めたく無かった。幸せはただ条件が合致しただけの打算的なものだと証明したかったのだ。それなのに上手くいかない。

「幸せ?幸せって何?彼女の為?愛しているから?ひとりで勝手に決めて勝手に死んだツェーザルと同じ!そんなのは不幸でしか無いじゃない!そしてどうしてそんなに信じられるの?どうして愛しているといつまでも言えるの?」
「アマーリアさん・・・」
ティアナは彼女に何と言って声をかけていいのか言葉が見つからなかった。レギナルトの腕の中から数歩進み出ただけで足が止まってしまった。自分が同じ境遇だったらどうしていたかと思うと胸が詰まってしまったのだ。悲しくなってしまって、ぎゅっと唇を噛み締めて涙をこらえながら言葉を探した。

「アマーリアさんは今でも亡くなられたその方を愛しているのでしょう?」
「な、何を言っているの?わたしは愛してなんかいない!憎んでいるのよ!いいえ、呪っていると言う方が正しいぐらい!」
ティアナは涙をこぼしながら首を振った。

「アマーリアさんはわたしに何度も言いましたよね?信じているの?信じては駄目だと・・・それはご自分がつらい目に合われたから・・・今でもその想いを持っていてつらいから私に諭して下さった。そして愛すると言うことを試したのでしょう?違いますか?」
「違う・・・違うわ!わたしは幸せそうなあなたが嫌いだからそう言っただけよ!前世術もあなたが視た不幸の後の先があった。知らなかったでしょう?わたしはそれを黙っていたのよ!あなたが不幸になればいいと思って!」
アマーリアは涙を落としながら真っ直ぐ自分を見るティアナを見た。
あの前世の続きがあったと言っても動じてない・・・

(前世の記憶は途中までしか視ていないはず・・・)
アマーリアが術を行なわない限り魂に刻まれた記憶は視えない筈だった。しかしティアナはまるであの続きを知っているようだった。アマーリアはまさか?と思った。
しかしティアナは自分から記憶を蘇らせていたのだ。
皇子の瞳と優しく注がれた愛がその鍵のようだった。開けかけていた記憶だったのだからきっかけがあればアマーリアの力が無くても容易だったのだ。
そのティアナが声を張り上げた。

「いいえ、違います!あなたは確かめたかった。違いますか?そして・・・私が羨ましかった。今も昔も皇子を愛している私が・・・そして愛されている私が・・・そうでしょう?アマーリアさん」
ティアナの問いかけはアマーリアの胸に突き刺さった。

「羨ましがっている?わたしが?」
羨ましいとは自分もそうなりたいというものだ。アマーリアは違うと叫びたがったが声が出なかった。ただ目の前の自分の為に涙を流してくれている神の娘を凝視するしか出来なかった。

「アマーリアさん、私・・・本当は皇子の花嫁になるというのが不安でした。どうして皇子は普通の人では無いのだろう?何故、私は冥の花嫁なのだろう?という思いがありました・・・私が生まれ持った運命は定められたもの。前世術は初め、神々の世界が視られるかもという好奇心だけでしたが、アマーリアさんの自分の人生は自分で切り開くもの≠ニ言われたものに強く心惹かれて受けたのです。私は定まった運命の他に何かあるのか見定めたかった。皇子の手を取るという選択以外に何かあるのかと・・・」
ティアナのその言葉に一番驚いたのはレギナルトだった。まさか最愛の彼女の口から拒絶ともとれる思いを言われるとは思わなかった。

「ティアナ!」
レギナルトは数歩前にいるティアナを引き寄せて彼女の本心を確かめようとした。ティアナがどんな顔をして言っているのか不安だった。しかしティアナが振向くことなくレギナルトを止めた。

「皇子、聞いて下さい!私は昔の自分を視て決心がつきました。あの時、不幸にしか思えなかった過去でも私は皇子の手を離したく無かったのです。怖くて辛くても私は皇子が好き。そう思ったから皇子の花嫁になる覚悟も出来ました。だからアマーリアさん、お礼を言います。ありがとうございました」
今度はアマーリアが驚く番だった。信じられないと言う顔をして首を振った。

「・・・・・・あなた・・・なんてお人好しなの?わたしはお礼を言われる資格は無い酷い神官よ!貴女がどう解釈しようと人の不幸を願うなんて心が醜く穢れている!」
「アマーリア、君が酷い神官なら僕なんかどうしたらいいんだろうね?僕は何人もの罪の無い人達を殺したからね・・・」
「えっ?今・・・なんて?」
横から入って来たイヴァンの告白にアマーリアは驚き、目を見開いた。

「・・・・・何人も・・・何人も泣き叫ぶ女の子達の細い首を掻き切ってはその生気を貪り食らった・・・兄上やティアナさえもその手にかけようともしたんだ。妖魔に操られていたことだとしてもそれは鮮明に覚えている。この身は既に堕ちる所まで堕ちているんだよ」
それは一般には知られていない事だった。悲恋物語に隠されたもう一つの事実―――

「イヴァン、それはお前の罪では無い!お前が悔やむのは間違えだ!」
「ありがとう、兄上。でも僕はそう思うことがまだ出来ない。これは一生をかけて弔わなければと思っているんだよ。僕が神官の道を選んだのはティアナの為と、もう一つの理由はこれ・・・ねえ、アマーリア君は何を思って神官になったの?幸せを呪う為じゃないだろう?死んでしまった自分の子供を弔う為に神殿の門をくぐった。違う?かつて愛した人の子供・・・でも裏切りを受けたと思い憎んだ相手の子供・・・一瞬でもその子を憎んだかもしれない。それが自分でも許せなかった。違う?不幸な子に罪は無い。それを守れなかった自分を責め、その原因である恋人を呪った。でも・・・それでも君はティアナと出会って愛という答え見たかった・・・違わないだろう?」
アマーリアは声が出なかった。
恋に破れて簡単に愛を手放した男だと思っていたイヴァンが、これ程苦悩した心を隠しているとは思わなかったのだ。自分が人から受けた傷と自分が望まずに人を傷付けた罪・・・
どちらの心がより傷が深いだろうか?
アマーリアはイヴァンの見え難い深く強い愛を感じた。そして自分でも、はっきりしなかった心を見透かされ頑なに固めていた内側にも外側にもあった棘のような殻が抜け落ちるようだった。

(ツェーザル・・・あなたもそうだったのね・・・今ならあなたの深い愛を感じることが出来る・・・)
幸せを願って去って行ったツェーザルの愛。そして信じきれなかった自分の愚かな愛。
ティアナのように信じてツェーザルを追いかければまた違った人生になっていただろう。
自分の前世が視られたのならもっと違う方向になっていたのかもしれない。
これからも後悔し続けるだろう。アマーリアの瞳に涙が浮び、すっと頬をつたって流れた。
彼女の哀しみに凍った氷が融けたかのような温かい涙だった。
涙を落とすのはいつ以来だっただろうか?
見ることも無くこの世から去って行った子を想って泣いた夜以来だ。

「答えは見つかったようじゃの?アマーリア」
ゲーゼが少し微笑んで言った。

「はい、大神官。ルーベル、ごめんなさい。そしてありがとう。彼を最後まで看てくれたのでしょう?本当にありがとう・・・」
ルーベルは、ぼろぼろと泣いて首を振っていた。

「ツェーザルは・・・ツェーザルは本当に息を引き取る直前まで君を心配して・・・君を愛していたよ。だから僕は・・・それを伝えたくて・・・」
アマーリアは感謝を込めて幼馴染の肩を軽く抱擁して解くと、すっと顎をあげてレギナ
ルト達に向いあった。もうその顔に涙は無い。誰にでも横柄な彼女が皇子達の前に跪いた。
「この度の数々の無礼な振る舞い。申し訳ございませんでした。そして冥の花嫁の前世に纏わる真実を秘めた事。いかようにも罰して下さいませ」
「いかようにもと?」
レギナルトは頭を低く垂れるアマーリアを冷やかにに見下ろしている。
最愛のティアナを苦しませた罪は重いだろう。誰もが息を呑んだ。

「皇子!私が悪いのです!私が前世術を頼んだから、だから、お願いします!それに途中までしか視なかった私が悪いのです!罰なんて与えないで下さい!」
「いいえ。冥の花嫁、それは違います。貴女が途中で止めて無くてもわたしはあの続きを見せるつもりはございませんでした。それで貴女はとても悩まれ苦しまれた筈。わたしを庇う必要はございません」
頭を垂れたまま潔く言うアマーリアにティアナは首を振った。

「でも、術から戻って来られない私を助けてくれました!不幸になったらいいと思っていたのならそのままにしていたら良かったでしょう?皇子、お願いです、お願いですから罰しないで下さい!」
「・・・ティアナ、お前はいつも他人を庇ってばかりだな」
見上げたレギナルトは怒ってはいなかった。

「皇子?」
「アマーリア、顔を上げよ―――良い顔をしている。これからも精進して迷う民を導くように。この老いぼれだけでは心もと無いからな」
「皇子!老いぼれとは何ですかっ!」
「本当のことであろう、ゲーゼ。はははっ・・・」
「レギナルト皇子・・・」
アマーリアは信じられないと言う顔をした。

「アマーリアさん、良かった!」
ティアナがそう言いながら微笑んでアマーリアを立ち上がらせたが彼女はまだ呆然としていた。
極刑もしくは投獄は免れないと思っていた。良くて神官位の剥奪。

「アマーリア、兄上はティアナのお願いには弱いからね」
「イヴァン皇―」
「皇子は無しだよ、神官アマーリア。これからも宜しく。僕も君に負けないように早く正式な神官になるように頑張るからね」
アマーリアはイヴァンの陽気な笑顔につられて、くすりと笑った。

「あっ、それ!美人なんだからいつもそうやって笑っていた方が良いと思うよ。そうしたら煩い神官達も君にぼう〜とするよ」
「そう?じゃあ今度試してみるわ」
「これ!そなた達、何を俗っぽいことを言っておる!我々神官は世俗を絶ち―――」
レギナルトとイヴァンが目を合わせた。

「ゲーゼ、分かったから此処でこれ以上説教するな。謁見が始まってしまう。お前達はその前に拝礼があるだろう?」
「さようでした!これ急ぐぞ」
慌てふためいて去って行くゲーゼの後をイヴァンが付いて行き、アマーリアがレギナルト達に会釈をしてその後を追う。答えを見つけた彼女はとても輝いているようだった。颯爽と赤銅色の髪をなびかせて歩くその姿は誰もが足を止めて見ている。
そんな彼女は大神殿の神官達も驚き注目したものだった。


〜エピローグ〜

 アマーリアはふと足を止めた。
大神殿の礼拝堂―――いつも誰も利用しない時間帯にいる人物が熱心に祈りを捧げている。

「熱心ね、イヴァン。でも、もうそろそろ皆が来る時間よ」
跪いて熱心に祈っていたのはイヴァンだった。はっと顔を上げると目の前にはアマーリアが立っていた。ほんのりと朝日が差し込む祭壇の前に立つ彼女の表情は以前とは違って棘が無い。

「もう、そんな時間?まいったなぁ〜」
「・・・わたしいつも思っていたのよね・・・誰もいない早朝や夜中に長々といるのは何故だろうと・・・ようやく謎は解けたけど」
イヴァンは立ち上がりながら、くすりと笑った。

「それを見ていたと言うことは・・・君もそうしたくて此処に来ていたからだろう?」
「―――まぁ〜ね。貴方に今更誤魔化しても仕方が無いものね。今は二人分だけどね」
「じゃあ、僕が居たら帰っていたんだね。知らなかったな」
「貴方が鈍いのよ」
「はぁ?相変わらず容赦無い言い方だなぁ」
「あら?じゃあ、みんなみたいに恐れ多いって感じで接してあげましょうか?」
神官の中で浮いているのはアマーリアよりイヴァンの方がもっと浮いているのが現実だった。皇家直系の皇子が神職に就くなど余り例が無いからだろう。神殿では過去の身分での序列は無いのだが彼の場合そう思っている者は殆どいないに等しい。誰もが口にこそ出さないが皇子イヴァンとしか接していない感じだ。その点、アマーリアは違う。
「嫌だ。君にまであんな風に扱われると思うと、ぞっとする」
「なるほど・・・今度貴方に意地悪する時はそうすれば良いのね。了解したわ」
イヴァンは肩をすくめたがお互い顔を見合わせて、くすりと笑った。

「アマーリア様――っ!どちらですか――っ!」
見習い中の女神官がバタバタと声を上げながら走っている。

「わたしは此処よ!」
「あっ、アマーリア様!」
まだ歳若い見習い女神官はアマーリアの信望者のようだ。頬を染めて興奮していた。

「駄目よ、神殿内で大声を出したら」
「言っている本人も大声だしたけどね」
「何か言ったイヴァン?それで何かわたしに用なの?」
アマーリアと親しそうにしているイヴァンにビックリしていた見習いの少女だったが憧れの女神官の問いに用事を思い出した。

「お、おめでとうございます!今、発表がありまして第一級神官に昇格なさっています!ですから神官長がお呼びです!」
第一級になれば他神殿の長になれる資格を持つ。序列でいけばかなり高位の神官だ。

「・・・受かったのね」
「はい!史上最年少の合格者だそうです!私達、もうっ嬉しくって!」
伝言を終えた少女は仲間にも知らせようと急いで去って行った。

「おめでとうアマーリア、流石だね」
「ん・・・ありがとう。正直、今回は受かるとは思わなかったわ・・・色々あったし・・・何時ものように自暴自棄で無茶苦茶した訳じゃないし。それって意外と成績は良かったのよね。でも今回はね・・・」
「そこが良かったんじゃない?すっかり肩の力が抜けてさ」
「まぁ、そう言う言い方もあるわね。ところでイヴァン、貴方はどうだったのかしらね?見習いは脱したのかしら?」
「うぅ――っ、それを言うなよ。発表を見に行く前に胃が痛くなるだろう」
「貴方なら大丈夫よ」
あのアマーリアからそんな風に言われるとは思わなかったイヴァンは驚いた。

「アマーリア・・・」
いつも皮肉な顔をして微笑んでいた彼女はもういなかった。

「さあ、見に行きましょう」
その途中、神官グスタとぶつかり彼の手にしていた書物が散らばってしまった。

「気をつけろよ!」
アマーリアを良く思っていない彼は喧嘩ごしに言った。
しかし共に歩いていた神官がグスタの袖を引っ張った。

「グスタ、止めろよ。今や彼女は第一級・・・私達の上だよ」
「ぐっ・・・・」
悔しそうな顔をしたグスタにアマーリアが微笑んだ。しかもその手には散らばった書物を持っている。彼女が拾ったようだ。

「ごめんなさい。急いでいたものだから」
「えっ?あ・・・ああ」
何故か頬を染めて受け取ったグスタは過ぎ去って行く彼女を呆然と見るだけだった。

「効果抜群!」
「何か言った?イヴァン?」
「なんでもないさ。美人は笑顔が一番!」
「馬鹿!」
アマーリアの周りには自然と人々が集まる。そしてその輪の中から彼女が手を差し伸ばしてイヴァンを引っ張り込むのが常となった。初めは緊張していた仲間達も二人の様子にほだされて壁のようなものが無くなっている感じだ。時代は建物だけでなく人々にも新しい風が吹いているようだ。

 一方ルーベルの登用が決まって本格的な工事に入る前にレギナルトは、彼を皇子宮に呼んでティアナの意見を聞かせていた。
先に殆ど出来上がっている大神殿に話が及ぶとレギナルトが、ふと思い出したように呟いた。

「あのアマーリアとか言った女神官、かなり優秀らしいな・・・ゲーゼも良い後継者を見つけたものだ」
「え?皇子どういうことですか?」
ティアナはもちろんだが、お茶を用意していたドロテーと彼女の幼馴染もレギナルトの言葉に驚き耳を傾けた。

「奴は自分の次の大神官に彼女をと思っているようだ。そうほのめかしていたからな」
「じゃあ・・・アマーリアさんが次ぎの大神官に?」
「まだ、先の話だ。あのゲーゼが早々くたばりそうに無いだろう?しかし彼女が就任したら・・・ゲーゼより煩いかもな」
ドロテーが、ぷっと噴出した。

「皇子と良い勝負ですよね?」
「ドロテー、こんな時だけ口を挟むな!」
「アマーリアが・・・」
ルーベルは涙ぐんでいた。うれし泣きなのか遠い人になってしまうという寂しい気持ちなのか分からない。でもアマーリアが本当に立ち直ってくれたのだと感じた。過去に囚われていたのでは成長もなかっただろう。大神官がこのままでは残念だと言っていた意味がようやく分かったのだ。
大神官の法衣を着て祈りを捧げる彼女の姿が見えるようだった。

「ルーベルさん」
「あっ、は、はい」
想いに耽っていたルーベルを現実に引き戻したのはティアナだった。
「お仕事、頑張って下さいね。私、とっても楽しみです」
「あ、は、はい!」
真っ赤になって返事をするルーベルにレギナルトが不愉快そうな視線を送った。

「ティアナ、頻繁に築城現場に行くのは許さないからな。行く時は一緒だ、分かったな」
また嫉妬しているとドロテーは呆れた顔をした。ティアナにもそれは分かったようだ。

「はい、皇子、約束します。あの・・・それとは別にお願いしたいことがあるのですけど・・・」
ティアナの願いは珍しいことだ。レギナルトは即答した。

「分かった、叶えよう」
「皇子!私、まだ何も言ってませんよ!」
レギナルトは笑ってティアナを抱き寄せた。

「何だ?何が欲しい?何でも言うがいい」
「もうっ!ゲーゼ様もそうですけど皇子も私を甘やかし過ぎです!」
「ゲーゼと一緒にするな!私の方が何でも叶えられる」
ティアナは呆れて少し意地悪が言いたくなった。

「じゃあ、夜空の星を下さい!」
「それは・・・」
何でも叶えると言ったレギナルトだったが出来ないものは出来ない。
ティアナが、くすくす笑い出した。

「嘘ですよ。でも似たようなものを新しいお城に持って行きたいのです」
「似たもの?」
「はい。夜の花園です!」
「夜に光る宝石の道のことか?」
「はい、そうです。皇子が紫の石を埋めてくださったでしょう。あれは新しい場所にでも持って行きたいのです。駄目ですか?」
ささやかな可愛らしい願い事にレギナルトは微笑んだ。

「もちろん、持って行く。そうでないと夜の逢瀬が楽しめないだろう」
「お、皇子!」
真っ赤になってしまったティアナにレギナルトが口づけを落とす。
やれやれと見守るドロテーはいつ咳払いをするか思案中だ。そして先日から冷たくあしらっていた恋人を思い出した。

(今度会った時は優しくしてあげようかしらね・・・)
少し反省したドロテーは心の中でそう呟いたのだった。

 帝国の雪解けと共に発表された皇城の移転計画は民を驚かせ、新たなる幕開けの象徴となった。
そして婚礼の鐘が鳴り響くのを誰もが待ち望んだのだった。



あとがき

「星の詩」これで終了です。如何でしたでしょうか?前中後編ぐらいの短い話にする予定が意外と長くなりました。おもいっきり「女王と皇帝」の続編のようなものでした。その割に皇帝は出ませんでしたけど…エピローグも予定外でしたが、アマーリアとイヴァンのその後を入れたくて追加しました。その後はアマーリアが大神官に就任した時はイヴァンがその補佐官となる予定です。二人とも心には忘れられない人を持ちながらも何となく良い感じの関係かなぁ〜と。でもプラトニックですけど…神官ですので。しかしその微妙な関係に萌えてしまうのは私だけでしょうか?想像してニンマリです(笑)気に入って頂けたら嬉しいです。



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