「ナフテラ・・・・・・・信じられない・・・また・・陣痛?」
「以前の傷は開いておりませんゆえ、そのようにございます。」神妙な面持ちで答えたナフテラ。彼女も驚きをかくせなかった。
おそらく・・・・・・もう一人・・・・産まれてくる!
「ですが・・・・・・・・・・あなた様の体力はもう限界でございます。」
「あら・・・・・・・・大丈夫よ。私だって・・・・・・・剣を持って・・・・・・戦えるのよ?
多少の・・・・体力は・・・・・あるわ。」強がって見せるカナンだったが油汗が滲んだ額、真っ赤になった顔、力なくしなだれる両手・・・。誰が見ても二度目の出産をこなせないことはわかっていた。現にカナンはもう手が動かせていない。
最初の出産で出血が多すぎた。これ以上は・・・・危険だ。
「いい?みんな・・・。私の命よりも・・この子の命が優先よ!私の体調に構わず・・・・・・・・・・お産を・・・・・進めてちょうだい!」
決意を秘めたカナンの瞳・・・・・・。おそらく彼女は誰が何といおうとその決意を変えることは無いのだろう。
それならば・・・・・・・・残された道は一つしかない。
「お産を進めます・・・・・・・・。」ナフテラも覚悟を決めた。
「しかし!ナフテラ様・・・・・・・!!」傍に控えていた侍女たちがざわつき始める。カナンを心から心配しているのなら、当たり前の行動だ。己だって止められるものなら止めたい。カナンが苦しんでいる。・・・・・・・この世からカナンが消えてしまう可能性があるのだから怖い。止めてしまいたい。でもそれはできない。してはいけない。そうすることで、後に苦しむのは己ではなく・・・・・・・・・・カナンなのだから。
「静かになさい!手短に済ませましょう。大丈夫ですわ。カナン様。さあ、息を吸って・・・・・・・・・・・・・。」
姿を隠していたラー神が再び東の地に現れた・・・・・・・・。それなのに・・・・・・カナンは未だ・・・・・・戦いの最中にあり・・・・・・。
「お苦しいのでございまするか!?」呼吸が小さくなり、目には生気がなく、全身は多量の出血により青白くなり・・・・・・・手を握り返すこともできなくなったカナン・・・・・。そんなカナンを見てもどうすることもできないナフテラはひたすら神に祈った。
神よ・・・・・偉大なる神々の王・・ラー神よ!!カナン様をお助けくださいませ。
おお母なるナイルの女神・・・・ハピ神よ!御身の力持て・・・・どうぞカナン様をお救い下さいませ!どうか!・・・・・・・・・・・・・・・どうか!
「カナン様・・・・・・・・・・・・・・・もう一度・・頑張りましょうね。さあ・・・いきんで!」
こくり、と頷くとカナンは呼吸を整え最後の力を振り絞った。
ふやぁ!ふやぁ!ぁああああ!うぁあああぁん!
和子はやっとこの世に誕生した。力強い産声をあげて・・・・・・・。緊張が張り詰めていた産室に・・侍女たちの安堵の溜息が漏れた。
ある者はカナンを思い・・・涙を流した。
ある者は小さな命の誕生にに・・・・・・・・深い感動を覚えた。
ある者は戦いを終えた二人の姿に・・・・・・・・心からの祝福を捧げた。
そしてナフテラは・・・・・カナンが苦しく長い戦いの末に・・・やっと産み落とした・・・小さな命を・・・・丁寧に産湯で清めた後・・・カナンへ手渡した。
「おめでとうございまする。元気な・・・・・・・・・男の和子様です。」
カナンが産んだのは双子の女の子と男の子。
ナフテラは思った。
振り返ればこの子らはカナン様の中で様々な苦難を乗り越えてきた。きっと二人で手を取り合い、どちらも欠けることなく、一緒に母に会いに行くのだと約束していたのだろう。だからきっと、幾多の危険を乗り越えることができたのだ・・・と。
「さあ・・・・・・・どうぞお抱きくださいませ。」
カナンは男の子をナフテラから受け取り、ほとんど動かない手を気力でわずかに動かして・・・・・・・抱きしめた。
「あ・・・・りが・・・・と・・う。元・・・・・・気に・・うま・・・れてき・・てくれ・・・て。私・・・の・・・・・・赤・・・・・・ちゃ・・・ん。」
そして・・・・・・・・涙で潤んだ目を・・そっと・・閉じた。頬を一筋の粒がつたい・・・手がだらり、と垂れ下がった。
「カナン様!?どうしたのですかっ!カナン様!」
ナフテラの呼びかけに・・・・カナンは応じない。
彼女の耳に残るのは・・・・・・・・元気な・・・二人の和子の産声のみ。あとは引き込まれるように・・・・・・・夢の世界へ。
おおハピよ・・・・・・・緑なす悠久の流れよ・・・・・・・・・・幾多の命を育む流れよ・・・・・・・・・・・カナンを・・・・・目覚めさせ・・・・・・たまえ・・・・・・・・・
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